オムニチャネル戦略に取り組む企業

本日はオムニチャネル戦略に取り組む企業に関して記載します。

【オムニチャネルとは】

オムニとはラテン語を語源とした「すべて」の意味を指し、オムニチャネルとは顧客が買い物をする上で、テレビ、通販サイト、ウェブサイト、DM、ソーシャルメディア、携帯・モバイルデバイスなど無数の販売チャネルによる区別をなくすことです。オムニチャネルを実践していく上で、ネット通販やリアル店舗などあらゆる販路を組み合わせ、いつでもどこでも買い物ができる体制を整える、つまりネットとリアルを融合していきます。例えばECサイトで顧客の注文を受けた場合に、リアル店舗の在庫と同じ在庫を確認し、ECサイトの在庫ではなく、グループ全体としての在庫が1つ減るような形になります。

マルチチャネルが単に販売チャネルを増やした「多角展開」であるのに対し、オムニチャネルはすべてを「統合していくもの」で、複数のチャネルから得られた顧客データを統合して、顧客とのコミュニケーションに活用していきます。

【オムニチャネルを最初に使い始めた企業:メイシーズ】

このオムニチャネルという言葉を最初に使い始めたのが、アメリカの百貨店「メイシーズ」です。メイシーズは2007年ごろから徐々に経営革新に取り組み、膨大なシステム投資によって、リアル店舗と自社ECサイトの区別をなくし、在庫や顧客情報を一元化させ、顧客ニーズの取りこぼしをなくすことに注力しました。

また、会社として統一的な戦略を実行できる組織を作るべく、すべてのチャネルをマーケティング部門の参加に置き、マーケティング部門が全体最適を考えた上で、キャンペーンやプロモーションのすべてを取り仕切るようにしました。

店員にはモバイル機器を配布。顧客のために商品詳細やレビューを調べたり、ライバル店の価格と比較できたりできるようにしました。また、モバイル機器は在庫情報とリンクしているので、その場で在庫の有無を確認できますし、店舗に商品がない場合は、ネット在庫あるいは多店舗在庫から、その場で自宅に配送することができるようにしました。

このような取り組みにより、メイシーズのオンラインの売上金額が、2010年から2011年で40%増加するという結果を残しています。

【オムニチャネル戦略:セブン&アイホールディングス】

セブン&アイホールディングスは2013年11月に「第2の創業」を掲げ、オムニチャネルの実現を戦略の中核として明確に位置づけて、グループ各社が顧客に最適な商品・買い物環境を提供できるように取り組みを進めています。

これから開業するセブン‐イレブンの店舗では、通販商品の保管スペースを設けると言います。今後、書籍卸・トーハンが持つセブン‐イレブン向けの物流を軸に、ネットで販売した商品も毎日セブン‐イレブンの店頭に届くシステムを構築していきます。そして、帰りの便を活用し、ネットで購入した商品の返品にも対応できるようにしていきます。また、イトーヨーカ堂ではネット商品の店頭受け渡しサービスを開始し、デニーズでは一部店舗で座席のネット予約を開始しています。

オムニチャネルを実施する上でのポイントとなる物流においては、2014年3月にグループの赤ちゃん本舗が、ネット経由で販売する商品の保管・出荷を2013年6月に竣工した埼玉県久喜市にあるネット通販専用の物流センターに集約します。このように、今後、グループ各企業でバラバラだった物流機能を集約していくと言います。

データに関しても、各社の既存システムを活用しながら、ネット上でデータを統合。今後、顧客の持つ電子マネー「ナナコ」や各社が発行するカードの切り替えをすることなく、共通IDを導入するそうです。これまで事業会社ごとにバラバラだった商品管理コードも、同じ仕組みですべてそろえていきます。

このように、セブン&アイは複数の業態をシームレスにしながらオムニチャネルを進めています。

【H2Oとイズミヤ 統合によるオムニチャネル】

2014年1月末にH2Oとイズミヤの異業種統合が発表されましたが、この統合の狙いとして「エリアに特化したオムニチャネルの構築」ということがあったようです。両社が地盤とする関西エリアでも人口減少が進んでいますが、その中で1人当たりのシェアを高めるべく、「いつでも、どこでも」グループで買い物ができる環境を整えることにより、競合に打ち勝とうとしているようです。

例えば、イズミヤの店舗で百貨店のお中元や正月用品などのカタログ販売を実施し、競合するスーパーとの差別化を図ると同時に百貨店の商品を関西全域で展開していきます。将来的にはH2Oの個宅配送とイズミヤのネット通販も共有化を進めていく散弾のようです。

ネット環境が急速に整う中で、ネットとリアルの区別がなくなってきています。その中でオムニチャネルは単純なネット事業の一つではなく、経営戦略として各社が取り組みを進めています。今後もオムニチャネルの取り組みは各社で進んでいくことが想定されます。

(参考文献 週刊東洋経済 2014 4/26)

プロセスのマニュアル化による安価なサービスの提供

本日はプロセスのマニュアル化による安価なサービスの提供に関して記載します。

【高級品も安価で提供するビジネスモデル】

学生時代、てんやの天丼を週に何回も食べていました。天ぷら料理を食べようと思えば、それ相応の値段がするでしょうけれど、てんやの天丼は安くてしっかり食べられます。さて上記のてんやの天丼以外にも、イタリア料理、焼き肉、すしなど数々のファストフードが、もともとは高級品だった料理の提供を安価で行って成功しています。

これは、提供価値の種類を絞り込み均質化した上で、価値提供プロセスをマニュアル化し、価値提供過程にプロフェッショナルを不用とすることによって要員単価を下げ、かつ提供価値のばらつきをなくして、従来のプロフェッショナルによるものと同等なサービスを安価かつ大量に販売して利益を上げるビジネスモデルをとっているためです。

このビジネスモデルは、プロ意識の高い風土を持っている企業は採用することが難しいものとなっています。中古買取サービスのガリバーインターナショナルやブックオフなどは、従来プロフェッショナルのみが目利きとして行ってきた査定を、すべてITを使ってプロセス化し、素人でもできるようにする一方で、同業種で働いてきた人の雇用を拒否しているそうです。本来であれば同業種で働いていた人は即戦力になりそうなものですが、ブックオフやガリバーインターナショナルはプロを雇ってしまうとプロ意識からマニュアルに従わず、ビジネスを攪乱するというリスクを回避するために、同業種で働いてきた人の雇用を拒否しているようです。

【業務プロセスのマニュアル化による価値創造】

このビジネスモデルのメリットとしてコストの削減と要員管理の容易さが挙げられます。コスト削減の観点では、サービスの提供過程をプロセスで定義しマニュアル化することによりプロフェッショナルが必要なくなり、要員単価を下げることが可能となるということが言えます。さらに従来は人が行っていたプロセスを機械化して、省力化。更なるコストダウンを図ります。マネジメントする立場の者としてはマニュアル化や機械化により要員の個性を気にする必要がなくなるため、要員管理が比較的容易になります。また、マニュアル化によってサービスの提供内容が店舗によってズレが発生しにくくなり、顧客はどの店でも同じようなサービスを受けられるようになります。

要員単価を下げることにより、サービスを安価で販売できるようになることにより、商品を低価格で販売することができるようになります。市場は下方に向かって加速度的に大きくなりますので、低価格販売の実施は販売量の増加が見込め、低粗利でも大きな利益を上げることが可能となります。インフレが進みつつありますが、中間層の崩壊によって顧客の二極化が進んでもいますので、このビジネスモデルは今後も有効に働くことが想定されます。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

周辺産業の統合

本日は周辺産業の統合に関して記載します。

【周辺産業の統合とコングロマリット】

周辺産業の統合とは、顧客に対して同時に提供される製品やサービスを扱う周辺産業の事業を統合することによって価値を作り出すビジネスモデルのことを言います。周辺産業を統合することによって、自社製品と周辺の産業が提供する製品との融合を図ります。そして融合したことにより生み出された付加価値を加えた製品を提供したり、製品のチューニングを行って顧客に問題解決方法を提案できるような製品を提供したりします。

例えばメディパルホールディングスという、医療用医薬品、一般用医薬品、医療機器、日用品、化粧品、トイレタリーを主力取扱品目とする流通グループがあるのですが、この企業は医薬品卸と日雑卸という従来別々に存在していた業界を統合して、卸機能の規模拡大や効率化を図りました。そしてそれに合わせてドラッグストアなどへの商品の一括供給を目指しています。

周辺産業の統合に関連して、コングロマリットについても触れておきます。コングロマリットは、技術的にも市場的にも互いに関連性のない事業の集合から形成される複合企業のことを言います。例えばソニーがソニー生命、ソニー銀行、ソニー損保などに進出しているということがこのコングロマリットの事例として挙げられます。リテール関係でいえば、セブン&アイホールディングスが流通業のコングロマリットと言えるでしょう。コングロマリットはある程度隣接する産業の事業で構成されていることが多いことから、周辺産業の統合とも言える部分があります。1990年代後半から2000年代前半に欧米においてコングロマリット解体の流れがありましたが、日本においてはこの流れは起きませんでした。現在では、周辺産業での諸事業が1つの企業の下にあるということが、総合性を発揮できるという意味を持ってきているとも言います。

【周辺産業の統合が起こるタイミング】

周辺産業の統合は事業ライフサイクルの後半に多く起こるそうです。その理由としては以下のようなことが理由として挙げられます。まず、事業ライフサイクルの後半では、イノベーションが尽きてしまい、各社での模倣が進みます。そのことにより事業単体での競争力向上が尽きてきます。また市場が飽和し事業単体では成長をしにくくなってきます。企業が成長をしていくために周辺産業を統合していくのです。また、資本の蓄積が進み財務的にも統合の素地が形成されることもその背景として挙げられます。

【周辺産業の統合が効果を発揮するには】

周辺産業の統合では、同業との統合のように生産設備の統合や仕入規模の拡大が行えるわけではなく、物流統合やチャネルへの交渉力の向上、IT基盤の統合、サプライチェーンの統合などに留まるため、規模の経済も限定的なものにとどまります。そのため、顧客にとって意味のある価値を提供するためには、複数の種類の異なる商品の組み合わせから新たな価値を生み出したり、顧客に大幅なコストダウンをもたらしたりすることが必要となってきます。そのためには商品を並列的に供給するだけでは不十分となり、それら商品を統合できる手法を持ち合わせていることが求められてくると言います。

周辺産業の統合はコスト削減などの効果よりも、統合した後に顧客に何を提供できるようになるのか、ということが重要となりそうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

強者連合

本日は提携による強者連合に関して記載します。

【強者連合とは】

強者連合とは、業界順位が上位にある他の企業と提携し“製品の共通化や販売”“技術提供”“コストダウン”などで共同歩調を採ることです。それにより、業界下位の企業との差を広げたり、連合に加わらない上位企業に打撃を与えてそのシェアを奪ったりすることを狙うビジネスモデルです。強者連合は同じ業界内の上位企業間で行われる場合も、周辺産業の上位企業で行われる場合もあります。同じ業界内の強者連合の例として、日本生命保険、アメリカのプルデンシャル生命、イギリスのシュローダーなどの提携で、この提携は世界各地の金融トップ企業との間で強者連合を形成することを基本とする戦略だと言います。周辺産業の強者連合の例として、コンビニ2位のローソンとドラッグストア1位のマツモトキヨシとの提携があります。ユニクロとビックカメラのビックロもその例と言えると思います。また周辺産業の強者連合でコストダウンを目指した提携の例に、カゴメ、ミツカン、日清オイリオが全国で共同配送を行っているというものがあります。

提携よりも強者同士で合併した方が競合に対して優位に立てるのでしょうけれど、合併には意思決定・実行をする際の障害が多くなります。そこで提携という合併よりも緩いスキームの下に、合併同様の効果を部分的、あるいは限定的に達成することを狙うのです。

【強者連合により生み出される価値】

強者連合はもともと業界順位の上位にいる企業が、その優位性を更に補強するために行う戦略となります。そのために規模の経済を発揮していくことによるメリットが出てきます。例えば“共通のポイントプログラム”“製品互換性の確保”“同等製品の地域バーター”“相互技術供与”“物流などの機能共通化”といったコストダウンにつなげていきます。これら施策によって、顧客に強者連合からの購入を促したり、経営資源を蓄積して将来の投資を容易にしたりします。

強者連合によるメリットは規模の経済が働くということ以外に、強者間で連合してしまえば、競合から提携する相手候補を奪い、自社の参加する連合を上回るような提携関係を組むことを防ぐことができる、ということも挙げられます。強者同士が連携してしまうと、弱者としては強者に太刀打ちできなくなってしまうのです。

【強者連合の落とし穴】

強者連合はその意図に関わらず、実際にその効果が限定的であることが多いそうです。強者連合といっても、結局は競合や他業界の企業です。そのため相手が自社の意図通りに行動せず、次第に相互に不信が生まれてしまうことが要因だと言います。

先ほど例として挙げたローソンとマツキヨの業務提携は2009年に行われ、当時は大きな話題になったようです。そして、提携によりコンビニとドラッグストアのノウハウを結集した新業態を開発し、5年で1000店舗体制を目指し、2010年10月に共同店舗(マツキヨの一角にローソン100が入居したもの)を浦安に出店しました。しかしながら、現在ではローソン100は撤退しているようです。

業界の上位にある企業同士の提携は、基本的には競合関係という背景もある微妙な位置関係もあるようです。しかしながら、コストの削減による将来への投資は企業が成長する上で重要なポイントとなります。業界の上位にいる企業はこの強者連合を上手に活用することも、他社に対して優位に立つためのポイントなのだと思われます。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

垂直統合:川上統合によるブラックボックス化

本日は垂直統合:川上統合によるブラックボックス化に関して記載します。

【川上統合の実施によるブラックボックス化とそのメリット】

垂直統合の一種である川上統合(自社の事業領域の仕入れ側へ展開すること)を実施することによって、内製化率を上げて粗利を大きくすることができます。また、自社が使用する部品や製造装置・工具などが競合他社に供給されることを防ぎ(製造工程をブラックボックス化する)、競合による模倣を防止し、自社の競争優位を維持・強化することができます。つまり、社内でのバリューチェーンを長くして、川上側で製造する部品や製造装置を社外に販売しないことによって、競合は部品や製造装置を手に入れることができなくなりますし、それらに関した情報が社外に流出することがなくなります。その結果、競合が自社と同等の製品を製造することができなくなるわけです。

ファスナーの製造で世界の45%のシェアを占めるYKKは、ファスナーだけでなくファスナーの製造装置を内製しています。YKKがファスナーの製造装置を外販しないことによって、YKKのファスナー製造工程がブラックボックス化して、競合は同じ品質のファスナーを製造することができなくなってしまいます。

【川上統合のデメリット】

日本の家電業界は部品も自社で生産する川上統合モデルを長年採ってきました。そして、韓国の家電メーカーが追い上げてきたことを見て、川上統合を強化。キーデバイスを内製して外販しないことでブラックボックス化して差別化を徹底しようとしました。その代表がシャープの「亀山モデル」です。亀山モデルはパネルを内製して工程をブラックボックス化してしまうことによりテレビの差別化を行おうとしました。ところが家電のような極めて細分化された市場で垂直統合を行うと、川上側への投資を十分に回収できずに、かえってコスト高となってしまい、競争力が落ちるという結果を招いてしまいました。シャープの亀山工場は、2011年に亀山第1工場がアップル社のiPhoneやiPad用ディスプレイの専用工場となっているようですし、第2工場も2012年に一時操業を休止するといった厳しい状況に置かれているようです。また、亀山工場の拡大版である境工場への投資で苦境に陥っているようです。

垂直統合戦略の一種である川上統合の実施に当たっては、その統合を行うことによって十分に効果が発揮できるかどうかを検証したうえで実施する必要があります。統合すれば価値を作り出せるというわけではなく、統合によって得られる技術面での囲い込みによる優位性と、統合によってかかるコスト高といったリスクを比較した上で実施に移していくことが必要なようです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

垂直統合

本日は垂直統合:川下への進出に関して記載します。

【垂直統合、川下への進出とは】

まず、垂直統合とは、自社の仕入先、または販売先とのM&Aやアライアンスを行うことで、事業領域の拡張を図ることを言います。そして、この垂直統合には川上統合と川下統合があります。まず、自社事業領域の川上側へ進出していくことを川上統合と言い、これは原材料の調達強化などを狙ったものです。そして、自社事業領域の川下側へ進出していくことを川下統合と言い、販売機能・市場管理の強化などを狙ったものとなります。

川下への進出している例として食品・雑貨を扱う住友商事が挙げられます。調剤機能を持った地域密着型の「トモズ」というドラッグストアがあるのですが、同店舗は住友商事の100%子会社である住商ドラッグストアーズの店舗ブランドの一つとなります。また、住友商事はスーパーマーケットチェーンのサミットも所有しており、川下への進出を果たしています。

このように川下へ進出する川下統合は、産業バリューチェーンの川下側を買収統合するものとなり、これにより川下側での売上拡大が図れ、粗利を深くすることができるビジネスモデルとなります。

【川下へ進出することのメリット・デメリット】

まず、垂直統合を行うことによるメリット・デメリットは以下のようになります。まず、メリットとしては、上流・下流の関係にある事業間の交渉コストや営業コスト、購買コストを下げることができるとともに、サプライチェーンを適正化することによって物流費を削減することができます。その一方でデメリットとして、最良の取引相手を選択する機会がなくなる、もしくは減少してしまいます。また、水平統合と違い、扱う製品の量を増やせるわけではないため、生産面などで規模の経済が利きにくいということが挙げられます。そのため、水平統合と異なり、一般的に、単純に垂直統合を行うだけでは価値が出せないと言います。

その中にあって、川下へ進出していく際に、競合他社からも仕入れている川下企業を買収することは、川上側の競合相手を駆逐し、自社で川下企業の需要を独占することにつながり、川上側の売上増という結果につながります。このことは企業の買収価格の一部を川上側の売上増加の粗利で賄え、実質的に買収価格を小さくすることにつながります。

産業バリューチェーンの上流と下流では、企業文化が異なっていることが多く、これが川下進出の障害となる可能性があります。一方が他方を支配するような買収を行ってしまうと、退職などによる組織効率の低下を招いてしまう可能性が出てきてしまいます。

川下側への統合は競合を排除できるという点で、市場が成熟している場合、有効なビジネスモデルだと言えそうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

中小企業の新事業展開

本日は中小企業の新事業展開に関して記載します。

【中小企業が新事業展開の検討を始めた時の業績傾向】

中小企業が既存事業と異なる事業分野・業種へと進出を図る“新事業展開”の検討を始める時は、必ずしも業績が良いことを背景に新たな収益源確保のためというわけではなく、業績が悪化している中で現状を打破するために実施するというパターンもあります。過去10年の間に新事業を実施し、10年前と比較して主力事業が変わった“業態転換した企業”と、過去10年の間に新事業展開を実施した場合で事業転換以外の“多角化した企業”それぞれで見てみると、事業転換をした企業では、新規事業展開の検討当時に業績が好転していたと答える企業は35.5%、それに対して、悪化していたと答える企業は30.5%、多角化した事業では、好転していたと答える企業が21.1%、悪化していたと答える企業が20.4%、という数値となっています。新事業展開を検討していた際の企業の業績は好転と悪化がほぼ拮抗している状態です。苦しい状況にある中で新たな成長を図ろうとして新事業展開を行うということもあるということです。

【新たな挑戦をしたことによる成長】

さて、新事業展開を実施した企業と実施・検討したことのない企業の業績見通しを見てみると興味深い数値が出てきます。それは売上見通し、利益見通しともに「増加傾向」の割合が最も高いのが事業展開した企業、そしてそれに続いて多角化した企業となっています。事業転換した企業や多角化した企業の方が、新事業展開を実施・検討したことがない企業よりも業績が良くなると見ています。雇用に関しても同様の結果となっています。

■売上高の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業転換した企業48.8%、多角化した企業35.2%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業20.2%

■経常利益の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業転換した企業42.6%、多角化した企業32.4%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業18.3%

■常用雇用者の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業展開した企業40.1%、多角化した企業25.6%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業15.1%

また、新事業展開を実施した後の主力事業の後の見通しを見ると、事業転換した企業、多角化した企業ともに、新事業展開を実施・検討したことがない企業と比較して、主力事業の成長が期待できると回答するとともに、国内市場全体に対しても成長が期待できると見込んでいます。

そして、新事業展開を実施した企業は「企業のPR・知名度の向上(良い影響があった64.7%)」「企業の信用力向上(同60.7%)」「企業の将来性・成長性(同60.7%)」と回答しており、新事業展開は短期的な企業収益の改善というよりも、企業の知名度や信用力の向上や信用力の向上を通じて、経営基盤全般に好影響を与えているということが見て取れます。

なお、新事業展開を実施し、成果を上げた企業が、事前に取り組んだことを見ると、「自社の強みの分析・他社研修」や「既存の市場調査結果の収集・分析」の割合が高くなっています。しっかりとした分析を行った上で、新たな挑戦を行うことにより、新たな成長が成し遂げられる可能性が高いということがわかります。

※中小企業庁委託「中小企業の新事業展開に関する調査」(2012年11月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)より

クール・ジャパン

本日はクール・ジャパンに関して記載します。

【クール・ジャパンとその戦略の背景】

クール・ジャパンとは、日本の文化的なソフトの面が国際的に評価されている現象のことを言います。また文化的なソフトの面でのコンテンツ自体や、日本政府が対外文化宣伝・輸出政策で使用している用語でもあります。ここでは日本政府が行っている対外文化宣伝・輸出政策に関して記載していきます。

このクール・ジャパンが行われる背景として経済的な事情があります。日本の名目GDPは2008年から2011年の3年間で55兆円減少しており、今後も少子高齢化により生産年齢人口が減少することが予測されますので、それに伴い潜在成長力も低下していくことが想定されます。また、昨今の海外生産による貿易収支の赤字に見られるように、過去急速に円高が進んだことにより、海外生産シフトが進んでいます。この海外生産へのシフトは国内の雇用に影響します。例えば国内の自動車産業が空洞化した場合、60万人程度の雇用が減少する恐れがあると言います。

日本には欧米やアジアで人気な、アニメや漫画、食文化、宅配便、旅館、伝統工芸品など、人気の高い商品・サービスが数多くあります。こうしたクール・ジャパンの人気を活かして「内需掘り起し」「外需取り込み」「産業構造転換」を行い、新たな収入源、中小企業の活路、若者の雇用の確保、地域経済の活性化につなげていこうとしているわけです。

【クール・ジャパンによる成長戦略】

クール・ジャパンを支えているのは、クリエイティブ産業です。

(クリエイティブ産業の例示業種:広告、建築、美術・骨董品、工芸、デザイン、ファッション、映画・ビデオ、TV・ゲーム、音楽、舞台芸術、出版、コンピュータソフトウェア・サービス、テレビ・ラジオ、家具、食器、ジュエリー、文具、食品、観光)

日本のファッションや食、コンテンツは海外で高い人気を誇っていますが、それによって儲かっているかというとそうでもないようです。中国ではVIVIなどの日本発のファッション雑誌が人気ですが、繊維産業の輸出量は485百万ドル(韓国2,183百万ドル、フランス9,166百万ドル、イタリア20,049百万ドル)(出典:繊維ハンドブック2009)と低い数字となっていますし、全米には日本食と称するレストランは約9000店あるけれども日系オーナー店舗は10%以下だと言います。

このような状況において、世界の文化産業全体の市場規模は2020年時点推計値で900兆円以上になることが見込まれていますが、そのうち日本は8~11兆円の獲得を目指していきます。

【クリエイティブ産業の活性化による海外での成功事例】

クリエイティブ産業を活性化することにより先んじて成功している国があります。

イギリスは1997年にトニー・ブレア元首相が「クール・ブリタニア」を掲げ、クリエイティブ産業を成長させています(クリエイティブ産業の粗付加価値額1.8倍 1997年6300億円、2006年1兆1460億円。クリエイティブ産業の輸出額1.7倍 2000年1900億円、2006年3200億円。クリエイティブ産業の事業所数1.4倍 1997年112,900所、2008年157,400所。)

韓国では1997年、キム・デジュン大統領の「文化大統領宣言」以後、官民一体となったCool Korea戦略を採っています。韓流などの動きを思い出すとこの戦略も一定の成果を上げていると言えます。

【クール・ジャパン戦略 アウトバウンドとインバウンドのスパイラル】

クール・ジャパン戦略によって、ファッション、アニメ、食文化、地域産品・匠の技といった担い手である職人、クリエイター、中小企業を世界市場へ結びつけ、新たな輸出商品としていきます(アウトバウンド)。この際、当初からコンテンツ(映画、音楽などのCD/DVDの収入、テレビ番組の放映料、ライブ/興行収入)の輸出で収益を上げるだけでなく、二次利用(キャラクター商品のライセンス料、ファッション、美容、食などの文化派生商品の売上増)やスポンサー企業のプロモーション(CM出演などのプロモーション料、消費財など「Made in Japan」製品の売上増)によっても収益を上げていくことを目論んでいます。また、インフラ整備として、現地で日本のコンテンツが常に視聴され、「Made in Japan」ブランドの人気が維持されるよう、コンテンツの継続的な放送・配信等の場(プラットフォーム)を確保するように取り組みを行っています。これらにより「本物」「本場」を求め観光客やクリエイターが日本へ来訪することとなります(インバウンド:外国人旅行者を自国へ誘致する)。

アウトバウンドによって日本に憧れを持った人々が日本を聖地とし日本でしか体験できないコトを求めて訪れてきます。クール・ジャパンはインバウンド戦略として海外需要を日本国内へ呼び込む効果をもたらします。

日本の国内市場がこのままの流れでは縮小されることが想定される中、クール・ジャパンの動きは日本の経済力を保つための重要な施策の一つと言えそうです。一方で、クール・ジャパンを継続的に成功させ続けるためには、日本国内における「モノづくり」や「商品・サービスの提案力」を強化し続けることが重要なように感じます。

中小企業の事業承継

本日は中小企業の事業承継に関して記載します。

【高齢化する経営者】

中小企業の経営者の引退年齢は徐々に高齢化する傾向にあります。30年以上前には小規模事業者の平均引退年齢62.6歳、中規模企業は61.3歳だったのに対し、0~4年前には小規模事業者70.5歳、中規模企業67.7歳という状況になってきています。

また、経営者が高齢である企業ほど、経常利益の状況について減少傾向にあり、経営者の年齢が70歳以上になると、中規模企業が5割、小規模事業者の約7割が減益傾向という結果になっています。そのような状況の中で、経営者の年齢が高い企業ほど事業を縮小・廃業したいと考えているようです。

このことは少子高齢化が進む中で経営者自身の高齢化も進んでいる一方で、経営者が高齢になると事業を縮小・廃業したいと考えていることから、その事業の利益が縮小していっているということが言えると思われます。

【経営者の後継者】

中小企業の経営者の高齢化が進む中で、その経営者の後継者として、過去においては息子や娘といった親族へと引き継がれることが多かったのですが、最近では親族以外の役員や従業員・社外の第三者に引き継がれることが増えてきています。帝国データバンクのデータベースで2008年から2012年までの現経営者の承継形態を規模別にみると、小規模事業者は、親族の事業承継が6割強、中規模企業では4割強となっています。中規模企業では社外の第三者を含めた親族以外による承継が、親族による承継を上回っています。ちなみに、後継者を親族に継がせたいと考えている経営者はその理由を自社株式等や個人保証の問題があるようです。経営者の中には自らの資産を担保に借入を行っている場合があり、その場合、親族以外に承継しづらいということがでてくるようです。

【事業売却】

経営者の引退後にも事業を継続したいと考えているけれども、後継者がいない場合は事業を売却し、事業継承を行うということも考えられます。未上場企業間のM&A件数は2006年に752件から徐々に現業傾向にありましたが、2011年を底に回復の兆しを見せており、後継者がいない企業の約3割がM&Aに「大いに関心がある」「関心がある」という話をしているとのことです。また、総資産額3億円超の起業の3割強、5000万~3億円の起業の約3割が、事業買収への関心が「大いに関心がある」「関心がある」という話をしているとのことです。

この流れから中小企業間のM&Aが今後増えるのかもしれません。

中小企業の経営者の高齢化が進む一方で、その企業を継ぐ後継者の承継形態も過去と変わりつつあります。日本の企業の99.7%を占める中小企業も、時代の変化とともに変わっていくのでしょう。

LBO(レバレッジドバイアウト)

本日はLBO(レバレッジドバイアウト)に関して記載します。

【LBOによる企業の成長】

LBOとは、企業買収にあたっての資金調達方法の一つで、借り入れによって自己資金を大幅に上回る価値を有する企業を買収して、その買収した企業の利益によって借入金を返済し、価値を作り出していく手法のことを言います。LBOは安定した利益を上げている事業を正当な価格と借入金利で買収すれば事業を所有するだけで、確実に価値を作り出していくことができます。

借入金でレバレッジをかけて価値の創造を高めていく手法ですので、不動産投資によるアパート経営に近いにも思われます(不動産投資の場合、初期投資額を低く抑え金融機関からの借入金を増やすことで、キャッシュフローを高めることができる)。

LBOによる価値創造に成功した好例としてJTが挙げられます。1999年JTはRJRナビスコの海外タバコ部門を9700億円で買収しJTIとして子会社化しました。当時、日本企業によるM&Aとしては史上最高の買収額だったようです。この買収によってJTは世界第3位のタバコメーカーに躍進。それまで200億本という規模だった海外の売上は一気に2000億本以上へ急成長しました。それだけでなくJTは「Winston」「CAMEL」といったグローバル・ブランドも獲得することができました。そして、この買収に当たって借り入れた6000億円の借入金をJTIの利益から順調に完済しました。JTはRJRに続いてギャラハーも同じ手法で買収を行っています。

LBOの他の好例として、ソフトバンクもボーダフォンをLBOの手法を使って買収金額1兆7000億円以上で買収したのですが、そのうち1兆2000億円を借入金で調達し、順調に返済。ボーダフォンに続いてスプリントの買収も同じ手法で行っています。

このように、LBOの手法により買収を繰り返すことにより、急激な成長を遂げることが可能となります。

【LBOのデメリット】

LBOには上記のように企業が急成長を遂げることができるというメリット以外に、税制上のメリットもあり、借入金の利子を買収した事業の費用として認識してくれます。

そしてLBOの弱点として、LBOは大きな借り入れを行い、それを子会社の負担としてしまうため、子会社の破綻リスクが上がり、それに応じて金利が高くなるということがあります。LBOでは買収会社を子会社として、子会社が破綻した場合のリスクを切断し、買収者が返済義務を負わないように仕込むことは貸し手が受け入れる限り可能です。しかしながらそうした場合、買い手本体が借り入れする場合や保障する場合に比べて金利が高くなることは覚悟しなければならなくなります。

LBOをする際には買収する企業を見極める必要があります。破綻企業の買収など、企業が安定的に利益を上げていない状況でLBOを行うと、金利が高い上に十分な利益を上げられないため返済に支障をきたし、再度の破綻を招いてしまうからです。

他者の資源を活用することで自社の急成長を遂げることが可能ですが、他社の資源をどこに投資するのかは十分に検討が必要です。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)