衣料専門店の現状

本日は衣料専門店の現状に関して記載します。

【衣料専門店:市場の低迷と競争激化】

アパレル小売市場は2008年に市場規模が10兆円を割り込んだ後も低迷が続いています。好調のイメージの強いSPAに関しても、製販一体による機動的な商品企画・投入による回転率と粗利の高さはいまだ健在のようですが、競合との同質化や過当競争に悩むブランドが増えていると言います。またH&MやZARAなどの海外ファッション勢が日本での出店エリアの拡大や別業態での上陸を着実に進めてきていることにより(H&M 2013年に関西初出店、ZARA インテリア業態でZARAHOMEを出店)、国内外企業間での競争も激化してきています。

【円安に伴う影響】

2012年末からの円安も衣料専門店に大きな影響を与えています。1年足らずで1ドルが80円から100円台になったことによって、中国など海外からの調達に依存する専門店にとって、そのことが大きな利幅圧縮要因となったのです。しまむらは2014年2月期の決算で、営業利益が前年同期比▲8.1%の418億円と5期ぶりの減益に転落してしまいました。

更にこの円安に加え中国での労務費高騰も海外からの商品調達コストを引き上げています。

この状況に対応すべく、各社はASEANやバングラデシュなど、より賃金の低い地域に生産移転を進めています。

【ワンランク上の商品展開へ】

より賃金の低い地域に生産移転を進める一方で、各社は相次いでワンランク上の商品の拡充を図っています。

しまむらは2014年2月から新疆綿やプラチナコットンなど肌触りのよい上質な素材を使用したPB「クロッシー」を展開。480円や980円の価格が定番だったTシャツで、1480円と1000円以上の価格帯での展開に踏み切りました。

ユニクロでは2013年秋冬商戦で高級素材のシルクやカシミヤを使用した高単価商品の展開をスタートさせました。主力商品のヒートテックでは通常より1.5倍暖かく単価も1.5倍する「エクストラウォーム」を新たに開発。2014年春からはフランスのファッションアイコンとして知られるイネス・ド・ラ・フレサンジュとのコラボレーションコレクションを展開。商品単価の引き上げを始めています。

商品単価の引き上げにはリスクも伴っています。レディスカジュアルのSPAハニーズは2013年秋にジャケットなどの単価を500円引き上げました。その結果、客数は10%以上減。値引き処分を余儀なくされてしまいました。消費者が商品の価値をしっかりと見極めるようになってきていますので、素材やデザイン、機能性などの付加価値を向上させることによって、粗利を確保できるようにしていかなければならないということです。

このことは衣料専門店に限らないようにも感じられます。

【参考:世界の衣料専門店チェーンランキング(2012年度)】

1位 インデックス(スペイン) 売上高2兆729億円 主要ブランド「ZARA」

2位 へネス&マウリッツ(スウェーデン) 売上高1兆8,119億円 主要ブランド「H&M」

3位 ギャップ(アメリカ) 売上高1兆4,868億円 主要ブランド「GAP」

4位 リミテッドブランズ(アメリカ) 売上高9,936億円 主要ブランド「Victoria’s Secret」

5位 ファーストリテイリング(日本) 売上高9,286億円 主要ブランド「ユニクロ」

6位 ネクスト(イギリス) 売上高5,322億円 主要ブランド「next」

7位 プライマーク(イギリス) 売上高5,254億円 主要ブランド「Primark」

8位 しまむら(日本) 売上高4,920億円 主要ブランド「ファッションセンターしまむら」

9位 アバクロンビー&フィッチ(アメリカ) 売上高4,285億円 主要ブランド「Abercrombie & Fitch」

10位 アルカディアグループ(イギリス) 売上高4,018億円 主要ブランド「TOPSHOP」

インデックスが2兆円、へネス&マウリッツ、ギャップが1兆円を超える売上高を誇っています。日本のカジュアルSPA、No1のファーストリテイリングの売上高は9,286億円とインデックスと比較すると1/4ほどとなっており、グローバル競争の激しさが伺えます。

【参考:衣料専門店各社の売上高・営業利益に関して】

■カジュアルSPAの会社

・ファーストリテイリング(ユニクロ、GU) 売上高9,286億円 営業利益1,264億円

・ポイント(LOWRYS FARM、GLOBAL WORK) 売上高1,216億円 営業利益97億円

・パル(Ciaopanic、GALLARDA GALANTE) 売上高924億円 営業利益75億円

・クロスカンパニー(earth music&ecology) 売上高639億円

・ハニーズ(Honeys) 売上高619億円 営業利益47億円

■紳士服チェーン

・青山商事(洋服の青山、THE SUIT COMPANY) 売上高2,124億円 営業利益212億円

・AOKIホールディングス(AOKI、ORIHICA) 売上高1,605億円 営業利益170億円

・コナカ(コナカ、SUIT SELECT) 売上高659億円 営業利益42億円

・はるやま商事(はるやま、P.S.FA、フォーエル) 売上高523億円 営業利益28億円

■セレクトショップ

・ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS、green label relaxing) 売上高1,150億円 営業利益125億円

・ベイクルーズグループ(JOURNAL SANDARD) 売上高643億円

・ビームス(BEAMS) 売上高551億円

・トゥモローランド(TOMORROWLAND) 売上高413億円

■ジーンズカジュアル

・ライトオン(Right-on、FLASH REPORT) 売上高853億円 営業利益39億円

・マックハウス(Mac-House、Blueberry) 売上高386億円 営業利益27億円

・ジーンズメイト(JEANS MATE、ワケあり本舗) 売上高109億円 営業利益▲1.5億円

ファーストリテイリングの売上高・営業利益の大きさが国内の衣料専門店他社と比較するとわかります。

(参考文献 会社四季報業界地図2014年版 週刊東洋経済2014 4/26)

コンビニエンスストア業界の現状

本日はコンビニエンスストア業界の現状に関して記載します。

【コンビニ業界の状況】

国内コンビニエンスストアの店舗数の限界と言われた4万店を2012年に突破した後も、セブン-イレブンやファミリーマートを中心に出店競争が続いています。その中で既存店の売上高は厳しい状況にあります。そして、新規出店や商品開発を進める上位チェーンと体力のない中堅以下の格差が鮮明になってきています。

【セブン-イレブンに関して】

セブン-イレブンはパウチ惣菜など使い切りサイズの品揃えを厚くして、高齢者や単身者の支持を得ています。また、2013年に淹れたてコーヒーを導入し、一部ファストフード店の顧客を奪って業態を超えた顧客の争奪戦となりました。出店数を加速させており、2012年度に1350店、2013年度に1500店と出店しています。

【ローソンに関して】

2013年10月にローソンはキャッチコピーを「マチの健康ステーション」へ変更し、高齢化による顧客の健康志向が今後増すことを想定し、「健康に配慮した商品ならローソン」を連想させるような店づくりを進めています。2013年にローソン初の直営調剤薬局併設店、ローソンホーム薬局蒲田店がオープン。在宅介護を受けている人に薬の出張調剤を行っています。その中で宅配する薬と一緒にコンビニのお菓子を持っていくこともあるそうです。東京都大田区にある久が原一丁目店では、無料で使えるタニタの業務用体組成計を設置し、顧客の定期的な来店を促しています。その他、野菜販売の拡大、医薬品の販売に取り組み、健康をテーマとした店づくりを試験的に行っています。

【ファミリーマートに関して】

ファミリーマートは2012年10月に新PBの「FamilyMart collection」を立ち上げ、品揃えの幅を拡大。高質な商品を開発し、価格よりも質を重視した戦略を採っています。また国内の新規出店においては地方都市や駅ナカを中心に展開。2012年に大阪市営地下鉄の駅構内に2012年開店したり、2013年に近畿日本鉄道と駅ナカ売店・コンビニ事業について業務提携し、近鉄の駅ナカ売店等をファミリーマート店舗に順次転換していくことに基本合意したりしています。

【コンビニの大量出店に伴って】

コンビニが大量出店するのに伴って、加盟店オーナーが不足するという問題が発生しているようです。各チェーンとも一人のオーナーが複数の店舗を経営する「複数店経営」を推進しているようです。店舗の質を維持しつつ、大量出店を続けられるかは、各チェーンの対策にかかっています。

【参考:現在のコンビニエンスストア各社の状況】

コンビニ売上高1位はセブン-イレブン・ジャパン。チェーン全店売上高3兆5,084億円で、営業利益1,867億円とコンビニ業界では群を抜く利益水準となっています。全店平均日販は66.8万円とこちらも高水準。国内店舗数は1万5,072店です。

続く売上高2位はローソン。チェーン全店売上高は1兆9,065億円、営業利益662億円。全店平均日販54.7万円、国内店舗数は1万1,130店となっています。

3位は伊藤忠系のファミリーマート。チェーン全店売上高は1兆5,845億円、営業利益431億円、全店平均日販52.3万円、国内店舗数は9,481店となっています。前述のように鉄道10社(西武・東武・京成などとも提携)と駅売店で提携し駅ナカでも強みを見せています。

4位はユニーグループ・ホールディングスの完全子会社、サークルKサンクス。チェーン全店売上高8,788億円、営業利益182億円、全店平均日販46.7万円、国内店舗数6,242店となっています。

5位はイオンが54%出資する、ファストフードに特色のあるミニストップ。チェーン全店売上高、3,526億円、営業利益50億円、全店平均日販46.5万円、国内店舗数2,192店となっています。イオンとの連携を強化し、惣菜や日配品を拡大しています。

その他のコンビニとして、神奈川など首都圏を中心に展開するスリーエフ(チェーン全店売上高977億円、営業利益0.5億円)、北海道を中心に展開するセイコーマート(チェーン全店売上高1,846億円、営業利益17億円)、広島が地盤のポプラ(チェーン全店売上高868億円、営業利益2.1億円)、2013年7月に山崎製パンが吸収合併したデイリーヤマザキ(チェーン全店売上高2,256億円、営業利益▲6.9億円)、中部・近畿を中心に展開するココストア(チェーン全店売上高1,089億円)などあります。

コンビニ業界においても他業態との競争が激化しています。例えば2014年からアマゾンが自社で酒販売を開始するなど、ネット企業が食品・飲料分野での販売を拡大しています。今後、ネット企業を含め、縮小する国内市場のパイの奪い合いが激化してくることが想定されます。

(参考文献 会社四季報2014年版業界地図 週刊東洋経済2014 4/26)

スーパーマーケット業界の現状

本日はスーパーマーケット業界の現状に関して記載します。

【厳しい状況の続くスーパーマーケット業界】

アベノミクスによる売上の嵩上げ効果があった中においても、スーパーマーケット業界は他業態からの攻勢を受けて厳しい状況に置かれていました。震災後、買いだめの特需があり、2011年に売上が上昇に転じたものの、特需が一巡した後は再び減少基調になりました。既存店の売上高は16年連続で減少しています。

上記の要因として、ユニクロのようなファストファッションの台頭が挙げられます。スーパーの稼ぎ頭は粗利益率30%内外の衣料品ですが、この分野の売上がファストファッションという低価格の衣料専門店に浸食されたのです。このことに対応すべく各社は衣料品売場を縮小し、利益率の低い食品売場を拡張し、売上・利益の確保を図ろうとしました。ところが、医薬品の高い利益率を背景とした採算を度外視したドラッグストアの食品販売の拡大やコンビニの大量出店により、食品事業自体が圧迫されてしまいました。

そして、この状況に対応すべくスーパー各社は、出店強化、PBの拡大、合従連衡によるスケールメリットの追求で対抗してきているのです。

【スーパー再編の波】

上記のような厳しい状況の中、生き残りをかけてスーパー再編が行われています。2013年4月には原信ナルスHDとフレッセイHDが経営統合。この統合により、両社の資産とノウハウの共有や人材・組織能力の強化、事業基盤の拡大を図っています。また、同年同月イオンはJフロントリテイリングからピーコックストアを買収。ダイエーも子会社化しています。そしてイトーヨーカ堂も2013年8月に北海道の食品スーパー、ダイイチへ出資をしています。このようにスーパーマーケット業界は続々と合従連衡によるスケールメリットの拡大を図ってきています。

【新業態:都市型ミニスーパー】

コンビニやドラッグストアなどの攻勢に防戦一方だったスーパーマーケット業界ですが、都市型スーパーの新業態「都市型ミニスーパー」で反攻策に打って出ています。東京都心部で出店を続けるイオンの「まいばすけっと」は2013年2月に店舗数が500を超え、2013年度は運営会社が黒字転換しました。都市型ミニスーパーの先駆けであるマルエツが手掛ける「マルエツプチ」は現在56店舗を出店しており、同社の基幹業態の一つとなっています。特徴は豊富な品揃えで、品目数4000~1万。2000~3000のコンビニや他ミニスーパーをしのぎます。棚の高さを通常のスーパーが1.6メートル(5~6段)のところ、マルエツプチでは1.9メートルで最大9段にし、商品の絞り込みよりも品揃えを優先し、売上の嵩上げを狙っています。「都市型ミニスーパー」の都心部での展開が加速しており、まいばすけっとやマルエツプチ以外にも、ユニーのミニピアゴやイトーヨーカ堂の食品館などが都市型の小型スーパーを展開しています。

少子高齢化が進む中、首都圏においては人口の増加が見込まれています。そのために今まで他エリアで展開していたスーパーも首都圏進出を進めているようです。

【参考:現状のスーパー各社の状況】

売上高1位はイオンで、売上高5兆6,853億円、営業利益1,909億円。それにセブン&アイホールディングスが、売上高4兆9,916億円、営業利益2,956億円で続きます。

ユニーグループ・ホールディングス、イズミヤ、フジが3社で共同商品開発をしています。

共同仕入れ機構としては、CGC(Olympic、原信、ナルス、フレッセイ、マミーマートなど)、ニチリウ(オークワ、サンエーなど)、八社会(相鉄ローゼン、東武ストアなど)、オール日本スーパーマーケット協会(天満屋ストア、マルヨシセンター、ヤマナカなど)があります。外資系は、ウォルマート・ジャパン・ホールディングス(西友:売上高7,387億円)やコストコがあり、カルフール(仏)やテスコ(英)は日本から撤退しています。

(参考文献 会社四季報2014年版業界地図 週刊東洋経済2014 4/26)

ダイレクトモデル

本日はダイレクトモデルに関して記載します。

【ダイレクトモデルとは】

ダイレクトモデルとは、従来産業バリューチェーンに存在していた間にあるチャネルをスキップして、直接最終顧客へ自社の商品やサービスを販売するビジネスモデルのことを言います。このビジネスモデルを採用している具体例とするとアスクルが挙げられます。

従来チャネルを通じて販売されていた商品・サービスを直接販売しますので、中間マージンやリベートが不要となります。それに伴って粗利が深くなることで低価格販売が可能になり、チャネルを通じて販売している競合と比較して価格的に優位に立つことができます。

このダイレクトモデルが採用されるようになってきた背景には、近年、インターネットの登場、ウェブEC技術の発達、CRM技術、コールセンター技術やその受託ビジネス、決済サービス、宅配サービスといった社会的な環境が整ってきたことにより、チャネルを介することなく最終顧客に販売することのハードルが低くなったことにあります。

【チャネルを介しての販売にないダイレクトモデルのメリット】

ダイレクトモデルではチャネル販売にはない利点が生まれます。

まず、個々の購買者の情報を直接収集することができるということです。この収集した情報を分析やプロモーションに活用することができます。また、顧客の声を収集して製品改良や新製品の開発に反映させたりすることもできるようになります。

ダイレクト販売ではリアル店舗のような空間的な制約もありません。よって、品揃えに制約を持たないことからロングテールでの売上確保も期待できます。

【アスクルとカウネット:過去の関係に縛られないメリット】

チャネルを支配している既存の事業者は、既存の売上をチャネルに依存していればいるほど、そのチャネルに対しての配慮をすることとなり、ダイレクトモデルを容易に採用することができません。コクヨはカウネットという名前でダイレクトモデルに参入していますが、それはアスクルから大きく遅れてのスタートでした。しかもチャネルへの配慮から卸と小売を二重に商流(商流:商品の流通において、物的な流れである物流に対し、受注・発注・出荷・在庫保管・販売管理など取引関係の流れ)に介在させるモデルとなっていて、中間マージンの排除という意味では不利なモデルを採用せざるを得ない状況となっているそうです。それに対して、アスクルは大きく頼る既存業者がなかったためにダイレクトモデルを採用することができました。このようにダイレクトモデルは新規参入に適したビジネスモデルと言えます。

〈参考〉

アスクル:商品点数、107,000点 1,000円以上で送料無料。

カウネット:商品点数、64,900点 1,500円以上で送料無料。

両社ともに、登録料・年会費無料。365日以内返品可。

(2011年データ)

【ダイレクトモデルのデメリット】

ダイレクトモデルではネットで他社との条件比較が容易になることや、ダイレクトモデルを好む顧客セグメントは価格感応度が高い傾向にあるので、価格と性能だけの勝負になる傾向にあると言います。ダイレクトモデルを採用すると既存のチャネルを介するモデルに対しては優位に立てますが、ダイレクトモデル同士の戦いになると価格競争に陥る危険性があります。

また、ECサーバーや出荷センター、コールセンターなどダイレクト独特の新たな業務が加わりますので、単純に中間のチャネルがなくなる代わりにリスクが発生する可能性が出てきます。例えば、ECによる取引は返品率が意外と高いようですので、そういった点は事前に織り込んでおく必要がありそうです。

既存企業の立場からすると、古くからあるチャネルとの関係性をどのように位置づけて、新規参入企業から市場シェアを奪われないようにしていくか、十分に検討することが必要そうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

オムニチャネル戦略に取り組む企業

本日はオムニチャネル戦略に取り組む企業に関して記載します。

【オムニチャネルとは】

オムニとはラテン語を語源とした「すべて」の意味を指し、オムニチャネルとは顧客が買い物をする上で、テレビ、通販サイト、ウェブサイト、DM、ソーシャルメディア、携帯・モバイルデバイスなど無数の販売チャネルによる区別をなくすことです。オムニチャネルを実践していく上で、ネット通販やリアル店舗などあらゆる販路を組み合わせ、いつでもどこでも買い物ができる体制を整える、つまりネットとリアルを融合していきます。例えばECサイトで顧客の注文を受けた場合に、リアル店舗の在庫と同じ在庫を確認し、ECサイトの在庫ではなく、グループ全体としての在庫が1つ減るような形になります。

マルチチャネルが単に販売チャネルを増やした「多角展開」であるのに対し、オムニチャネルはすべてを「統合していくもの」で、複数のチャネルから得られた顧客データを統合して、顧客とのコミュニケーションに活用していきます。

【オムニチャネルを最初に使い始めた企業:メイシーズ】

このオムニチャネルという言葉を最初に使い始めたのが、アメリカの百貨店「メイシーズ」です。メイシーズは2007年ごろから徐々に経営革新に取り組み、膨大なシステム投資によって、リアル店舗と自社ECサイトの区別をなくし、在庫や顧客情報を一元化させ、顧客ニーズの取りこぼしをなくすことに注力しました。

また、会社として統一的な戦略を実行できる組織を作るべく、すべてのチャネルをマーケティング部門の参加に置き、マーケティング部門が全体最適を考えた上で、キャンペーンやプロモーションのすべてを取り仕切るようにしました。

店員にはモバイル機器を配布。顧客のために商品詳細やレビューを調べたり、ライバル店の価格と比較できたりできるようにしました。また、モバイル機器は在庫情報とリンクしているので、その場で在庫の有無を確認できますし、店舗に商品がない場合は、ネット在庫あるいは多店舗在庫から、その場で自宅に配送することができるようにしました。

このような取り組みにより、メイシーズのオンラインの売上金額が、2010年から2011年で40%増加するという結果を残しています。

【オムニチャネル戦略:セブン&アイホールディングス】

セブン&アイホールディングスは2013年11月に「第2の創業」を掲げ、オムニチャネルの実現を戦略の中核として明確に位置づけて、グループ各社が顧客に最適な商品・買い物環境を提供できるように取り組みを進めています。

これから開業するセブン‐イレブンの店舗では、通販商品の保管スペースを設けると言います。今後、書籍卸・トーハンが持つセブン‐イレブン向けの物流を軸に、ネットで販売した商品も毎日セブン‐イレブンの店頭に届くシステムを構築していきます。そして、帰りの便を活用し、ネットで購入した商品の返品にも対応できるようにしていきます。また、イトーヨーカ堂ではネット商品の店頭受け渡しサービスを開始し、デニーズでは一部店舗で座席のネット予約を開始しています。

オムニチャネルを実施する上でのポイントとなる物流においては、2014年3月にグループの赤ちゃん本舗が、ネット経由で販売する商品の保管・出荷を2013年6月に竣工した埼玉県久喜市にあるネット通販専用の物流センターに集約します。このように、今後、グループ各企業でバラバラだった物流機能を集約していくと言います。

データに関しても、各社の既存システムを活用しながら、ネット上でデータを統合。今後、顧客の持つ電子マネー「ナナコ」や各社が発行するカードの切り替えをすることなく、共通IDを導入するそうです。これまで事業会社ごとにバラバラだった商品管理コードも、同じ仕組みですべてそろえていきます。

このように、セブン&アイは複数の業態をシームレスにしながらオムニチャネルを進めています。

【H2Oとイズミヤ 統合によるオムニチャネル】

2014年1月末にH2Oとイズミヤの異業種統合が発表されましたが、この統合の狙いとして「エリアに特化したオムニチャネルの構築」ということがあったようです。両社が地盤とする関西エリアでも人口減少が進んでいますが、その中で1人当たりのシェアを高めるべく、「いつでも、どこでも」グループで買い物ができる環境を整えることにより、競合に打ち勝とうとしているようです。

例えば、イズミヤの店舗で百貨店のお中元や正月用品などのカタログ販売を実施し、競合するスーパーとの差別化を図ると同時に百貨店の商品を関西全域で展開していきます。将来的にはH2Oの個宅配送とイズミヤのネット通販も共有化を進めていく散弾のようです。

ネット環境が急速に整う中で、ネットとリアルの区別がなくなってきています。その中でオムニチャネルは単純なネット事業の一つではなく、経営戦略として各社が取り組みを進めています。今後もオムニチャネルの取り組みは各社で進んでいくことが想定されます。

(参考文献 週刊東洋経済 2014 4/26)

プロセスのマニュアル化による安価なサービスの提供

本日はプロセスのマニュアル化による安価なサービスの提供に関して記載します。

【高級品も安価で提供するビジネスモデル】

学生時代、てんやの天丼を週に何回も食べていました。天ぷら料理を食べようと思えば、それ相応の値段がするでしょうけれど、てんやの天丼は安くてしっかり食べられます。さて上記のてんやの天丼以外にも、イタリア料理、焼き肉、すしなど数々のファストフードが、もともとは高級品だった料理の提供を安価で行って成功しています。

これは、提供価値の種類を絞り込み均質化した上で、価値提供プロセスをマニュアル化し、価値提供過程にプロフェッショナルを不用とすることによって要員単価を下げ、かつ提供価値のばらつきをなくして、従来のプロフェッショナルによるものと同等なサービスを安価かつ大量に販売して利益を上げるビジネスモデルをとっているためです。

このビジネスモデルは、プロ意識の高い風土を持っている企業は採用することが難しいものとなっています。中古買取サービスのガリバーインターナショナルやブックオフなどは、従来プロフェッショナルのみが目利きとして行ってきた査定を、すべてITを使ってプロセス化し、素人でもできるようにする一方で、同業種で働いてきた人の雇用を拒否しているそうです。本来であれば同業種で働いていた人は即戦力になりそうなものですが、ブックオフやガリバーインターナショナルはプロを雇ってしまうとプロ意識からマニュアルに従わず、ビジネスを攪乱するというリスクを回避するために、同業種で働いてきた人の雇用を拒否しているようです。

【業務プロセスのマニュアル化による価値創造】

このビジネスモデルのメリットとしてコストの削減と要員管理の容易さが挙げられます。コスト削減の観点では、サービスの提供過程をプロセスで定義しマニュアル化することによりプロフェッショナルが必要なくなり、要員単価を下げることが可能となるということが言えます。さらに従来は人が行っていたプロセスを機械化して、省力化。更なるコストダウンを図ります。マネジメントする立場の者としてはマニュアル化や機械化により要員の個性を気にする必要がなくなるため、要員管理が比較的容易になります。また、マニュアル化によってサービスの提供内容が店舗によってズレが発生しにくくなり、顧客はどの店でも同じようなサービスを受けられるようになります。

要員単価を下げることにより、サービスを安価で販売できるようになることにより、商品を低価格で販売することができるようになります。市場は下方に向かって加速度的に大きくなりますので、低価格販売の実施は販売量の増加が見込め、低粗利でも大きな利益を上げることが可能となります。インフレが進みつつありますが、中間層の崩壊によって顧客の二極化が進んでもいますので、このビジネスモデルは今後も有効に働くことが想定されます。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

周辺産業の統合

本日は周辺産業の統合に関して記載します。

【周辺産業の統合とコングロマリット】

周辺産業の統合とは、顧客に対して同時に提供される製品やサービスを扱う周辺産業の事業を統合することによって価値を作り出すビジネスモデルのことを言います。周辺産業を統合することによって、自社製品と周辺の産業が提供する製品との融合を図ります。そして融合したことにより生み出された付加価値を加えた製品を提供したり、製品のチューニングを行って顧客に問題解決方法を提案できるような製品を提供したりします。

例えばメディパルホールディングスという、医療用医薬品、一般用医薬品、医療機器、日用品、化粧品、トイレタリーを主力取扱品目とする流通グループがあるのですが、この企業は医薬品卸と日雑卸という従来別々に存在していた業界を統合して、卸機能の規模拡大や効率化を図りました。そしてそれに合わせてドラッグストアなどへの商品の一括供給を目指しています。

周辺産業の統合に関連して、コングロマリットについても触れておきます。コングロマリットは、技術的にも市場的にも互いに関連性のない事業の集合から形成される複合企業のことを言います。例えばソニーがソニー生命、ソニー銀行、ソニー損保などに進出しているということがこのコングロマリットの事例として挙げられます。リテール関係でいえば、セブン&アイホールディングスが流通業のコングロマリットと言えるでしょう。コングロマリットはある程度隣接する産業の事業で構成されていることが多いことから、周辺産業の統合とも言える部分があります。1990年代後半から2000年代前半に欧米においてコングロマリット解体の流れがありましたが、日本においてはこの流れは起きませんでした。現在では、周辺産業での諸事業が1つの企業の下にあるということが、総合性を発揮できるという意味を持ってきているとも言います。

【周辺産業の統合が起こるタイミング】

周辺産業の統合は事業ライフサイクルの後半に多く起こるそうです。その理由としては以下のようなことが理由として挙げられます。まず、事業ライフサイクルの後半では、イノベーションが尽きてしまい、各社での模倣が進みます。そのことにより事業単体での競争力向上が尽きてきます。また市場が飽和し事業単体では成長をしにくくなってきます。企業が成長をしていくために周辺産業を統合していくのです。また、資本の蓄積が進み財務的にも統合の素地が形成されることもその背景として挙げられます。

【周辺産業の統合が効果を発揮するには】

周辺産業の統合では、同業との統合のように生産設備の統合や仕入規模の拡大が行えるわけではなく、物流統合やチャネルへの交渉力の向上、IT基盤の統合、サプライチェーンの統合などに留まるため、規模の経済も限定的なものにとどまります。そのため、顧客にとって意味のある価値を提供するためには、複数の種類の異なる商品の組み合わせから新たな価値を生み出したり、顧客に大幅なコストダウンをもたらしたりすることが必要となってきます。そのためには商品を並列的に供給するだけでは不十分となり、それら商品を統合できる手法を持ち合わせていることが求められてくると言います。

周辺産業の統合はコスト削減などの効果よりも、統合した後に顧客に何を提供できるようになるのか、ということが重要となりそうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

強者連合

本日は提携による強者連合に関して記載します。

【強者連合とは】

強者連合とは、業界順位が上位にある他の企業と提携し“製品の共通化や販売”“技術提供”“コストダウン”などで共同歩調を採ることです。それにより、業界下位の企業との差を広げたり、連合に加わらない上位企業に打撃を与えてそのシェアを奪ったりすることを狙うビジネスモデルです。強者連合は同じ業界内の上位企業間で行われる場合も、周辺産業の上位企業で行われる場合もあります。同じ業界内の強者連合の例として、日本生命保険、アメリカのプルデンシャル生命、イギリスのシュローダーなどの提携で、この提携は世界各地の金融トップ企業との間で強者連合を形成することを基本とする戦略だと言います。周辺産業の強者連合の例として、コンビニ2位のローソンとドラッグストア1位のマツモトキヨシとの提携があります。ユニクロとビックカメラのビックロもその例と言えると思います。また周辺産業の強者連合でコストダウンを目指した提携の例に、カゴメ、ミツカン、日清オイリオが全国で共同配送を行っているというものがあります。

提携よりも強者同士で合併した方が競合に対して優位に立てるのでしょうけれど、合併には意思決定・実行をする際の障害が多くなります。そこで提携という合併よりも緩いスキームの下に、合併同様の効果を部分的、あるいは限定的に達成することを狙うのです。

【強者連合により生み出される価値】

強者連合はもともと業界順位の上位にいる企業が、その優位性を更に補強するために行う戦略となります。そのために規模の経済を発揮していくことによるメリットが出てきます。例えば“共通のポイントプログラム”“製品互換性の確保”“同等製品の地域バーター”“相互技術供与”“物流などの機能共通化”といったコストダウンにつなげていきます。これら施策によって、顧客に強者連合からの購入を促したり、経営資源を蓄積して将来の投資を容易にしたりします。

強者連合によるメリットは規模の経済が働くということ以外に、強者間で連合してしまえば、競合から提携する相手候補を奪い、自社の参加する連合を上回るような提携関係を組むことを防ぐことができる、ということも挙げられます。強者同士が連携してしまうと、弱者としては強者に太刀打ちできなくなってしまうのです。

【強者連合の落とし穴】

強者連合はその意図に関わらず、実際にその効果が限定的であることが多いそうです。強者連合といっても、結局は競合や他業界の企業です。そのため相手が自社の意図通りに行動せず、次第に相互に不信が生まれてしまうことが要因だと言います。

先ほど例として挙げたローソンとマツキヨの業務提携は2009年に行われ、当時は大きな話題になったようです。そして、提携によりコンビニとドラッグストアのノウハウを結集した新業態を開発し、5年で1000店舗体制を目指し、2010年10月に共同店舗(マツキヨの一角にローソン100が入居したもの)を浦安に出店しました。しかしながら、現在ではローソン100は撤退しているようです。

業界の上位にある企業同士の提携は、基本的には競合関係という背景もある微妙な位置関係もあるようです。しかしながら、コストの削減による将来への投資は企業が成長する上で重要なポイントとなります。業界の上位にいる企業はこの強者連合を上手に活用することも、他社に対して優位に立つためのポイントなのだと思われます。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

垂直統合:川上統合によるブラックボックス化

本日は垂直統合:川上統合によるブラックボックス化に関して記載します。

【川上統合の実施によるブラックボックス化とそのメリット】

垂直統合の一種である川上統合(自社の事業領域の仕入れ側へ展開すること)を実施することによって、内製化率を上げて粗利を大きくすることができます。また、自社が使用する部品や製造装置・工具などが競合他社に供給されることを防ぎ(製造工程をブラックボックス化する)、競合による模倣を防止し、自社の競争優位を維持・強化することができます。つまり、社内でのバリューチェーンを長くして、川上側で製造する部品や製造装置を社外に販売しないことによって、競合は部品や製造装置を手に入れることができなくなりますし、それらに関した情報が社外に流出することがなくなります。その結果、競合が自社と同等の製品を製造することができなくなるわけです。

ファスナーの製造で世界の45%のシェアを占めるYKKは、ファスナーだけでなくファスナーの製造装置を内製しています。YKKがファスナーの製造装置を外販しないことによって、YKKのファスナー製造工程がブラックボックス化して、競合は同じ品質のファスナーを製造することができなくなってしまいます。

【川上統合のデメリット】

日本の家電業界は部品も自社で生産する川上統合モデルを長年採ってきました。そして、韓国の家電メーカーが追い上げてきたことを見て、川上統合を強化。キーデバイスを内製して外販しないことでブラックボックス化して差別化を徹底しようとしました。その代表がシャープの「亀山モデル」です。亀山モデルはパネルを内製して工程をブラックボックス化してしまうことによりテレビの差別化を行おうとしました。ところが家電のような極めて細分化された市場で垂直統合を行うと、川上側への投資を十分に回収できずに、かえってコスト高となってしまい、競争力が落ちるという結果を招いてしまいました。シャープの亀山工場は、2011年に亀山第1工場がアップル社のiPhoneやiPad用ディスプレイの専用工場となっているようですし、第2工場も2012年に一時操業を休止するといった厳しい状況に置かれているようです。また、亀山工場の拡大版である境工場への投資で苦境に陥っているようです。

垂直統合戦略の一種である川上統合の実施に当たっては、その統合を行うことによって十分に効果が発揮できるかどうかを検証したうえで実施する必要があります。統合すれば価値を作り出せるというわけではなく、統合によって得られる技術面での囲い込みによる優位性と、統合によってかかるコスト高といったリスクを比較した上で実施に移していくことが必要なようです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

垂直統合

本日は垂直統合:川下への進出に関して記載します。

【垂直統合、川下への進出とは】

まず、垂直統合とは、自社の仕入先、または販売先とのM&Aやアライアンスを行うことで、事業領域の拡張を図ることを言います。そして、この垂直統合には川上統合と川下統合があります。まず、自社事業領域の川上側へ進出していくことを川上統合と言い、これは原材料の調達強化などを狙ったものです。そして、自社事業領域の川下側へ進出していくことを川下統合と言い、販売機能・市場管理の強化などを狙ったものとなります。

川下への進出している例として食品・雑貨を扱う住友商事が挙げられます。調剤機能を持った地域密着型の「トモズ」というドラッグストアがあるのですが、同店舗は住友商事の100%子会社である住商ドラッグストアーズの店舗ブランドの一つとなります。また、住友商事はスーパーマーケットチェーンのサミットも所有しており、川下への進出を果たしています。

このように川下へ進出する川下統合は、産業バリューチェーンの川下側を買収統合するものとなり、これにより川下側での売上拡大が図れ、粗利を深くすることができるビジネスモデルとなります。

【川下へ進出することのメリット・デメリット】

まず、垂直統合を行うことによるメリット・デメリットは以下のようになります。まず、メリットとしては、上流・下流の関係にある事業間の交渉コストや営業コスト、購買コストを下げることができるとともに、サプライチェーンを適正化することによって物流費を削減することができます。その一方でデメリットとして、最良の取引相手を選択する機会がなくなる、もしくは減少してしまいます。また、水平統合と違い、扱う製品の量を増やせるわけではないため、生産面などで規模の経済が利きにくいということが挙げられます。そのため、水平統合と異なり、一般的に、単純に垂直統合を行うだけでは価値が出せないと言います。

その中にあって、川下へ進出していく際に、競合他社からも仕入れている川下企業を買収することは、川上側の競合相手を駆逐し、自社で川下企業の需要を独占することにつながり、川上側の売上増という結果につながります。このことは企業の買収価格の一部を川上側の売上増加の粗利で賄え、実質的に買収価格を小さくすることにつながります。

産業バリューチェーンの上流と下流では、企業文化が異なっていることが多く、これが川下進出の障害となる可能性があります。一方が他方を支配するような買収を行ってしまうと、退職などによる組織効率の低下を招いてしまう可能性が出てきてしまいます。

川下側への統合は競合を排除できるという点で、市場が成熟している場合、有効なビジネスモデルだと言えそうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)