湖南平和堂

本日は海外進出の際、現地市場への適応化を図った“湖南平和堂”に関して記載します。

小売業各社が海外進出を図る中で、失敗する企業もあれば、数は少ないものの進出先市場でマーケットリーダーとなっている企業もあります。例えば、イオンのアジア事業を牽引する『イオンマレーシア』、中国内陸部の成都で総合量販店として高収益を上げている『成都イトーヨーカ堂』、中国内陸部の湖南省長沙市で地域一番店を作り上げた『湖南平和堂』が挙げられます。

【総合スーパー 平和堂】

平和堂は1957年に滋賀県彦根市の中心街・銀座街の一角に「靴とカバンの店 平和堂」として創業した店で、その後、総合スーパーとして成長してきました。2011年でみると同社は小売業売上高ランキング25位。総合スーパー売上高ランキングで見ると7位。有力地域チェーンです。中国事業に関しては、収益力はイオンのアセアン事業と並んで、売上高営業利益率7%台と極めて高い水準にあり、とりわけ1号店の本店は圧倒的な地域一番店の座を確保。3店舗の展開になりますが、その3店舗で平和堂グループ全体の15.9%もの営業利益をはじき出しているといいます。

【湖南平和堂 総合スーパーの予定が高級百貨店へ方向転換】

平和堂が最初に進出した長沙市から少し離れた再開発物件である五一広場店は、当初総合スーパーとして構想されていました。ところが、この総合スーパーの計画は当初から挫折します。売場の基本的なゾーニングやレイアウト、店舗運営や販売面においては問題なかったのですが、商品調達面で難題が生じたのです。事前の調査で、地元消費者が平和堂を外資系小売業とみなしており、上海などの百貨店や商業施設で販売されているブランド商品に対するニーズが大きいことが判明します。中国では偽物商品が多いため、消費者のブランド信仰が予想以上に強かったのです。当初、日本での経験を踏まえ、ワンストップ・ショッピングと比較購買機能を充足するために、直営売場70%、テナント30%という売場構成を想定していました。しかし、中国には問屋機能がなく、直営売場の商品仕入れは自社で行わなければなりませんでした。そのため、外国の初めての土地で信用や人間関係もなく、仕入れ規模も小さかったため、有名アパレルメーカーと商談しても相手をしてもらえない。日本製品を中心に品揃えしたのでは、デザインや価格の面で現地市場に適合しない。そのようなことから自社で直営売場の商品を仕入れることが非常に厳しかったのです。その状況を打破するため、衣料品を中心に専門小売店や製造小売業のテナント比率を引き上げ、売場を構成する方針に切り替え、テナント売場の比率を50~55%まで拡大していきました。それにより、初年度の売上は約46億円と順調な滑り出しとなり、期間営業損益は、開業費負担を除いて、黒字化を果たします。その結果を受け、五一広場店は開店後、数年かけて直営方式からテナント方式へと売場を徐々に切り替えていきました。

同時に、接客サービスが予想以上に強力な顧客吸引力を持つこともわかりました。長沙の人々は平和堂を百貨店とみなし、上質な接客サービスを期待しました。実際、来店する顧客は店員に相談し、勧められる商品の中から選択し、購入をしていました。それを受け、現場での接客サービスの重視が徹底されていきます。

平和堂は日本では総合スーパーであり、百貨店として海外進出をしようとしたわけではありませんでした。自社仕入れの難しさや現地市場への適応の結果として、事後的に有名ブランド商品の強化や対面販売の徹底が図られたのです。小売業には現地に合わせた湖南平和堂のような柔軟な対応が求められると言えそうです。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

コメリの船団方式出店戦略

本日は、コメリの船団方式出店戦略に関して記載します。

【コメリの小型店出店 独自の専門性を持ったハード&グリーン】

コメリは1974年に実施された大店法による出店規制や79年の規制強化(規制対象が売場面積1500平方メートル以上から同500平方メートル超に引き下げ)といった流れを受け、「ハード&グリーン」という売場面積150坪スタイルの小型店を出店していくようになります。このハード&グリーンの特徴は、金物と工具(ハード)、園芸用品と農業資材(グリーン)の2つの商品カテゴリーに絞り込んだ、専門店指向の徹底を図ったことと、店舗バッグヤードに在庫を置くスペースを持たず、納品された商品をそのまま通路に置き、速やかに売場に陳列する作業システムを採用したことです。このコメリの戦略が同社の成長につながっています。

【コメリの集中出店戦略 船団方式】

そして、コメリは小型店を中心としながら、中・大型のホームセンターの出店も行っています。これは競争相手の大型店が近隣に出店した場合、同社の小型店の売上に影響するので、その対策として中・大型店の出店を行い競合相手に対する防御装置としています。コメリは上記のような、大きな戦艦の周辺に小さな駆逐艦を配置するように、小型店と中・大型店を組み合わせて地域市場を制覇していく独特の集中出店戦略を船団方式と呼んでいるそうです(2010年8月時点ではホームセンター1店に対して小型店6店の割合で出店)。

全体の店舗数の推移を見ると、最初に総店舗数が100店舗に達成するのに15年かかっていますが、その後、店舗数の増加度は加速。200号店は100号店達成から3年数か月、そして300号店はそれからちょうど3年。400号店以降は、ほぼ2年以内の期間に100店舗ずつ上乗せしています。チェーンストア経営のパワーとして、一度、業態を支える事業の仕組みを確立すると、全体店舗数の増大と出店数が加速化していくといいます。コメリは事業システムを確立し店舗数を拡大することに成功したと言えます。

【コメリの新店舗出店を支える配送センターの開設】

新規出店の加速度と密接に関連していることに、配送センターの配置戦略もあります。小型店の経営効率化は店舗では極力在庫を持たず、店舗作業の単純化・省力化と店舗面積の有効活用を徹底することにあります。そのための要として配送センターがあり、配送センターから1日で往復できる距離に店舗を集中出店するドミナント地域の形成が必須となってきます。コメリも各地に配送センターを開設し、その周辺地域で出店攻勢をかける戦略を繰り返し実行しています。例えば、1995年郡山流通センターを開設し、その後98年に高崎流通センターを開設。その時期に、群馬・埼玉・千葉・神奈川・東京といった関東圏への出店攻勢が始まっています。また、97年福井流通センターを開設し、2000年には三重流通センターを開設。この時期には福井・滋賀・岐阜・京都・三重など、中部から関西地区へと出店エリアが一段と拡大しています。

大量出店の戦略として、この立地条件でこの規模の店舗を出店すれば「間違いなく」これだけの売上が上がるという店舗投資予測の精度を上げることが、投資リスクの回避につながります。出店経験を積み、店舗投資予測の精度が安定すると、標準化された店舗の反復複製は迅速かつ容易に進めることができるそうです。過去の成功パターンにとらわれないということは成熟産業の視点であり、方向性を模索し成功パターンを構築し繰り返すことは、成長過程にある企業にとっては重要な戦略であるということを感じます。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

イズミの地域密着経営

本日はイズミの地域密着型経営の徹底による成功に関して記載します。

イズミは広島に本拠地を置く総合スーパーで、その成長性は非常に高く、日経MJ調査の小売業売上高ランキングでは、1989年度47位(1172億6600万円)→99年度26位(2839億8700万円)→10年度14位(5023億7900万円)という結果です。この数値は地域チェーン・ナンバーワンです。また収益力も総合スーパー業界で最高水準となっており、2011年2月期、売上高営業利益率は3.7%、総資産経常利益率は5.2%です(イオンリテール、イトーヨーカ堂の売上高営業利益率は同期それぞれ1.9%と0.2%、総資産経常利益率は3.0%、0.5%)。

このような結果を出している要因として、イズミが地域密着型の経営を徹底しているためであり、それを実現させているのが『ドミナント戦略の拡張』と『店舗主導型組織運営』の2つの組織能力の発揮によるものです。

【ドミナント戦略の拡張】

もともとイズミは広島を中心に隣接する岡山・山口・愛媛の4県に出店を限定した、瀬戸内ドミナント戦略をとっていました。しかし、1990年代に入り、“バブル経済の崩壊”“大規模小売店舗法による出店規制の緩和”“小売外資の参入機運の高まり”“経営低迷に直面した有力地域チェーンが相次いで大手全国チェーンの傘下に入る”といった厳しい経営環境となり、イズミは生き残りをかけて、中国地方から山陰・四国・九州へと大量出店を断行します。またその際、九州地方の郊外型大型ショッピングセンターは足下商圏が総じて薄かったことから、それまで中国地方で展開していた狭域商圏に対応した店舗から、広域商圏に対応した大規模ショッピングセンターの出店へと転換していきます。この結果、90年代末にかけて3期連続減益という厳しい状況に陥りますが、経営の立て直しを行い、九州という大きな市場を開拓することに成功します。全国的に広域商圏対応のショッピングセンターの開発で先行する企業はありましたが、九州・四国に的を絞って、集中的に展開した企業としてイズミは先駆者でした。

【店舗主導型組織運営】

1993年に就任した山西社長が、本部主導型から店舗主導型への転換を提唱し、店舗が部門別損益管理を軸に利益管理を行う体制に移行しました。売場主任が本部と上司の次長と相談しながら、売上高、販売効率、粗利益率、商品ロス率、経費率の目標数字を立て、品揃え形式や価格の最終決定を行っていき、そのうえで、フィードバックされる日々の業務実績データを分析し、目標数値の管理を行いながら、売場担当者のパートタイマーらと協力し、業務改善を進め、目標達成を目指していきます。これにより売場を支えるパートタイマーも利益のことを考えて業務を行うような体制になっているといいます。なお、パートタイマーが売場主任になれる制度もあり、主任の5人に1人がパートタイマーから昇格した主任だそうです。各店が売場部門をベースに店舗間ベンチマーク活動にも取り組んでいます。各売場部門はベンチマークする店舗の数値を見ながら、今月、自店はどうだったか、なぜ自店は他店と比べて劣っているのか等々、店舗幹部が分析し、業務改善案を検討しています。その結果、社内での店舗間・部門間競争が発生し、本社が黙っていても業務改善案が出てくるようになったといいます。このように店舗による部門別損益管理体制は組織の活性化に大きく貢献しているそうです。

大型ショッピングセンターをある一定のエリア内に限定し出店を行うドミナント戦略と各店舗への権限移譲による活性化は、店舗経営の戦略の一つの成功例として非常に注目できると思われます。また、積極的出店による経営の危機があったからこそ、社内の組織運営を見直し、変革を行っていったという部分は興味深いものがあります。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

総合スーパーと食品スーパーの消費者の購買特性

本日は総合スーパー・食品スーパーの消費者の購買特性に関して記載します。

 総合スーパー・食品スーパーの消費者の購買特性を、流通経済研究所が東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県在住の女性消費者を対象として2006年に実施したアンケート結果から見てみます。まず、総合スーパーの利用頻度は「週に2~3日(29.5%)」「週に1日程度(21.9%)」「月に2~3日(14.5%)」、食品スーパーの利用頻度は「週に4~5日(15.5%)」「週に2~3日(40.2%)」「週に1日程度(18.9%)」という回答が多くなっています。続いて来店手段ですが、総合スーパー・食品スーパーともに「徒歩」「自転車」「自動車」での来店をされる方の割合が多くなっています。それぞれの特徴として、総合スーパーでは「自動車(43.7%)」を利用される方が特に多いということ、食品スーパーでは「徒歩(33.8%)」「自転車(32.6%)」で来店される方が多いということが挙げられます。このことから総合スーパーの方が食品スーパーより商圏が広いであろうことが伺えます。商圏の広さについては店舗までの所要時間の結果からも上記と同様のことが伺えます。各々の所要時間は、総合スーパーが「5~10分未満(30.9%)」「10~15分未満(27.7%)」「15~20分未満(17.9%)」、食品スーパーが「5分未満(28.4%)」「5~10分未満(40.1%)」「10~15分未満(20.2%)」となっており、総合スーパーまでの所要時間より食品スーパーの所要時間の方が短いという結果になっています。

 次に、消費者が総合スーパー・食品スーパーを選ぶ際に重視している内容について記載します。総合スーパー・食品スーパーに共通して店舗選択時に重視する事柄として上位にランクされているのは「自宅や勤務先から近い」「駐車場が便利」「全般的に価格が安い」「特売をしている」という項目となっていました。総合スーパー・食品スーパーともに消費者は、店舗へアクセスしやすいこと、価格が安いことを求めているという結果になります。各々での結果を見てみますと、総合スーパーに特徴的なこととして「他の買物と合わせて一度に済ますことが出来る」という項目が2番目に消費者から求められている項目となります。総合スーパーには食品、衣料品、住関連用品のまとめ買い、ワンストップショッピングが強く求められているということになります。またこの点に関連して「通路が広く、買物がしやすい」「店舗のレイアウトが分かりやすく、買物がしやすい」ということも重視項目として挙げられています。通路幅の確保やレイアウトの工夫を行い、消費者がストレスなく買物しやすい売場を作ることが必要だということになります。続いて食品スーパーに特徴的なことは「生鮮食品の味、鮮度、品質がよい」「安全で安心に配慮した商品が多い」といった項目が挙げられており、生鮮食品の品質・品揃えも店舗選択に当たって重要視されているという結果となっています。

 同じスーパーとはいえ、消費者から求められていることは異なる点があるということが伺えます。

 (参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

ドラックストアの現状と動線計画

本日はドラッグストアの現状と動線計画の基本に関して記載します。

まず、ドラッグストアが消費者からどのような位置づけで見られているのか、流通経済研究所が東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県在住の女性消費者を対象として2006年に実施したアンケート結果から、考察してみます。まずドラッグストアの利用頻度ですが「週に1日程度(31.2%)」「月に2~3日(34.6%)」という回答が多く、スーパーやコンビニと比較するとその利用頻度は低くなっているということです。これは購買頻度の比較的少ない日用品・化粧品・医薬品などを中心にしているためです。続いてドラッグストアの主利用店までの所要時間に関して。この結果は「5~10分未満(43.4%)」「5分未満(25.1%)」と比較的近場のドラッグストアが選ばれているということがわかります。消費者がドラッグストアを利用するに当たり最も重視する項目としても「自宅や勤務先が近いこと」がトップとなっています。この消費者の重視項目で「自宅や勤務先が近い」ということに次いでランクされているのが「特売をよくしている」「全般に価格が安い」「ポイントカードの特典を受けられる」といった項目となり、消費者が低価格販売を期待しているという結果も表れています。

そもそも、ドラッグストアは医薬品販売で競争が穏やかで値下げの圧力が少なく、高い利益を上げられます。それを原資に食品や日用品を安売りして集客を図ることが出来ます。2001年度に約3兆円だったドラッグストアの業界売上高は2012年度に約6兆円にまで成長しています。2012年度の売上高も増加しているようですが、これは大手チェーンを中心に新規出店が過去最大規模になったこともありますが、それに加え、各社が集客に役立つ食品カテゴリーを充実させたことで、スーパーなどから消費者を奪ったことが要因としてあるようです。

さて、ドラッグストアにおいて買上点数が増えるような動線計画に関して記載します。来店前にその商品を買うことを決めていた者が商品購入者のうちどの程度あるか(計画率)と、その商品を買う者が来店客のうちどの程度あるか(購入率)という視点で見ます。ドラッグストアにおいて、計画率が高く購入率も高い商品には“トイレットペーパー”“シャンプー”“基礎化粧品”“ベビー用おむつ”“生理用品”があります。まずこれらの商品を分散して配置し客動線を伸ばします。そして計画率は低いが購入率が高い、ついで買いを誘えるような商品である“スナック菓子”や“歯ブラシ”を、先ほどの計画率が高く購入率も高い商品と商品の間をつなぐ動線上に配置し、ついで買いを誘発していきます。以上、基本的なドラッグストアにおける動線計画になります。

 成長を遂げているドラッグストアですが、来春からは薬事法改正によって大衆薬の99.8%がインターネットでの販売が可能となります。販売規制に守られて高い利益率を誇ってきた大衆薬にも、今後価格競争の波が襲いかかります。これにより、業界での競争の激化・淘汰が起こってくることも想定できます。今後、生き残りをかけて各社が様々な施策を打ち出してくるだろうと思われます。

 (参考文献 インストアマーチャンダイジング)

コンビニの位置づけと買上点数増加策

本日は消費者から見たコンビニエンスストアの位置づけと買上点数を増やす施策に関して記載します。

 流通経済研究所が東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県在住の女性消費者を対象として2006年に実施したアンケート結果によると、コンビニの利用頻度は最も多いのが「週に1日程度(27.5%)」、次いで「週に2~3日(25.7%)」、「月に2~3日(18.2%)」という回答になっていました。店舗までの来店手段は「徒歩」が約6割。店舗までの所要時間は「5分未満(51.4%)」「5~10分未満(35.7%)」と10分未満がほぼ9割に達しています。普段の生活を思い起こせば当たり前のことではありますが、アンケート結果からコンビニは消費者にとって基本的に自宅や勤務先から歩いていく店だと位置付けられているということがわかります。また、店舗選択時の重視項目の結果を見ると、消費者が最も重視していることが「自宅や勤務先から近い」ということになっており、店舗へのアクセス面を重要視しているということが伺えます。

さて、コンビニにおいて、総買上点数が動線長に比例して増加する傾向があります。来店前にその商品を買うことを決めていた者が商品購入者のうちどの程度あるのかを“計画率”、その商品を買う者が来店客のうちどの程度あるのかを“購入率”とすると、動線長を長くし買上点数を増やすためには、計画率が高く購入率も高い商品を分散配置することが有効的になります。コンビニで計画率が高く購入率も高い商品は日本茶、おにぎり、タバコなどになります。これらはコンビニの来店目的となる商品群となりますので、集客のカギとなるものです。さらに買上点数を増加させるには、計画率が高く購入率も高い商品を陳列している売場の間に、計画率は低いが購入率が高い、ついで買いされるような商品を配置することが重要です。計画率が低く購入率が高い商品としてはファストフードのようなものがあります。米飯類→飲料→レジ、もしくは飲料→レジの動線上にチョコレートなどの菓子、またレジ台にファストフードを配置することによって、総買上点数の増加が見込めます。

 東日本大震災後、コンビニはそれまで以上に身近な存在になりました。そして、今現在もコンビニ各社は出店攻勢をかけています。競争が激しくなる中で、様々な手法を用いて各社が他社との競争に打ち勝とうとしていきますので、いろいろな観点からどのような対策をとっていくのか興味深いものがあります。

 (参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

大型店と商店街の施策

本日は大型店と商店街の施策の変遷に関して記載します。

 日本において明治の末から大正にかけて、呉服商が転換した百貨店が次々と誕生していきました。誕生時、百貨店は「今日は帝劇、明日は三越」と言うように高所得者層をターゲットに商売を行っていました。ところが、第一次世界大戦後の不況や私鉄ターミナルに立地する鉄道系企業等の新規参入による競争の激化などの影響により、比較的低価格の品目も扱う大衆化路線をとるようになっていきます。このことは小売業界で圧倒的多数を占めていた中小小売業者の利益を侵すことに繋がります。その流れの中で、顧客を奪われるという危機感を持った商店主から規制を求める声が上がるようになりました。「わが国の小売業問題は、その殆どが百貨店と中小商業者の対立の問題であると言っても過言ではない」という状況の中1937年に百貨店法が国によって制定されました。この法律において百貨店開業の許可制や閉店時間・休業日の規制が設けられたのですが、目的は百貨店の進出に歯止めをかけて中小商店を救済しようとしたものでした。この百貨店法は第二次世界大戦後に廃止されましたが、中小商店の救済という目的は1956年の第二次百貨店法へと引き継がれていきます。

 昭和30年ごろにスーパーの販売方式を導入した店が現れ、その後スーパーが全国に広がっていきました。1968年には百貨店243店舗に対し、スーパーは2632店舗という状況になり、スーパーは大量消費社会の日常的な生活者の欲求を満たす場となっていきます。しかしながら当然、スーパーは最寄品を安価で販売しますので、店舗周辺の小売店・商店街にとって衝撃が大きく、中小小売業者の反発は百貨店の時以上のものでした。その流れの中、1973年に大規模小売店舗法(大店法)が成立します。

1980年代後半、アメリカからの外圧により、大型店への制限は一転し緩和へ向かい、2000年には法律そのものがなくなることになります。現在は1998年に制定された大規模小売店舗立地法が大規模小売店の出店を制限する法律という地位にあります。

 上記のような大型店を規制することによって中小小売業を守る施策があった一方で、中小小売店の近代化、成長を促すような振興政策があります。1964年にスタートした商店街近代化事業というものがあり、それによりアーケード、カラー舗装、駐車場など、商店街の設備が充実していきます。その後、中小小売商業振興法(1973年)、特定商業集積整備法(1991年)、中心市街地活性化法(1998年)、改正中心市街地活性化法(2006年)、地域商店街活性化法(2009年)と振興政策に基づく法律が制定され、それに基づく事業が実施されていきます。

 過去から大型店と中小小売業のせめぎ合いがあり、それに対して国が政策の決定を行い、政策が日本の小売業の形に影響を与えるということがあると言えます。最近でも、薬のネット販売の話もありました。国の政策が小売業に与える影響があることを押さえ、政策の変更を注視していくことが必要だと思われます。

 (参考文献 「なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか」「わが国大規模店舗政策の変遷と現状」)

ロッテの「ブランドと歳時」

本日はロッテの「ブランドと歳時」の戦略に関して記載します。

 従来、買物の目的はモノの購入にありました。しかし、現在のような成熟期(博報堂生活総合研究所の分析によると1992年以降)に入り、消費財の価値は「所有」から「経験」に変わったことにより、買物の目的はモノだけではなく、買うまでの気分や情報収集などのプロセスも目的となってきていると言います。

その様なことを踏まえ、ロッテは「ブランドと歳時の親和性」をキーワードとした商品開発を行っています。これは日本初のキャッチコピーといわれている平賀源内の「土用の丑の日にはうなぎを食べよう」と同じ考え方だと言います。このキャッチコピーにより、暑い土用の丑の日に“う”のつくうなぎを食べて夏バテを防止しようという習慣が定着し、250年ほど経った今でも受け継がれています。このように、生活歳時に絡めた商品提案をすることにより、顧客の購買行動を刺激していこうという考えです。

この考え方を持って売場展開しているものに「ガーナミルクチョコレート」の「母の日ガーナ」があります。このプロモーションは2001年からスタートしており、CM、雑誌・新聞などの媒体、ホームページやモバイルのパブリシティとも連動しながら、「母の日は、真っ赤なガーナでありがとう」という共通のメッセージを持って展開しています。また、母の日には1万か所を超えるスーパーで「母の日ガーナ」の売場展開がなされているそうです。このような取り組みにより4・5月2か月間の「ガーナミルクチョコレート」の売上は2001年を基準にすると2008年には約6倍になっているそうです。

 「コアラのマーチ」に関しても同様に歳時に絡めた展開を行っています。その歳時記は年4回で「受験生応援」「おひなさま」「七夕」「ハロウィン」で、この時期に製品は同じでパッケージだけ変えた販売を行っています。どの時期もキャンペーンを打ち出しているときには売上が上がっているそうですが、特にこの中で「受験生応援」と「七夕」に関しては他の時期よりも売上が上がっているそうです。例えば受験生応援に関しては「コアラは寝ても落ちない」というメッセージを持って販売を行っていますが、メッセージの内容がコアラのマーチの“コアラ”というブランド資産と合致しています。ブランド資産と歳時に関連性がある商品を展開することが成功につながるポイントのようです。

このようにロッテは、ブランド資産と親和性の高い歳時を選び、歳時専用商品を企画・販売することで、新規需要の創造とブランド・イメージの拡張・深耕に成功しています。ブランド価値と合致した内容での歳時での商品展開は、顧客への有効な商品提案の切り口の一つと言えそうです。

 (参考文献 ショッパー・マーケティング)

「レモンを搾りつくすようにデータ分析する」  イギリスのテスコ

本日は「レモンを搾りつくすようにデータ分析する」イギリスのテスコに関して記載します。

 現在では、世界の小売業の中でウォルマート、カルフールに次いで売上高第3位のテスコですが、以前はイギリスで首位のセインズベリーを追いかける万年2位の企業でした。そして当時、安売りチェーンのイメージが浸透していたテスコは、他チェーンとの価格競争にさらされていました。そのため店舗の合理化を重ねて利益を創り出していたわけですが、一方でローコストオペレーションによる反動で店舗の魅力が後退し、利用者からのイメージが低下してきていました。そこで顧客との関係性を回復する打開策として「クラブカード」と呼ぶ、カード会員サービスを1995年に導入します。これは現在ではよく見かける、購入金額に応じて所定のポイントを付与し、一定ポイントに達すると買物券を還元するサービスプログラムです。しかしながら当時、テスコの試みはイギリスのスーパーでは初で、カード会員は半年間で850万人と急速に伸び、それに伴って売上高も急速に伸びていきます。クラブカードの導入がターニングポイントとなり、テスコはセインズベリーを抜き躍進していきます。この成長のきっかけは、クラブカード会員から得られる情報の有用性に着目し、その分析に力を注いだことにありました。その徹底ぶりは社内で「レモンを搾りつくすようにデータ分析する」と言われるほどのようです。

まず、消費者を大きな一塊で捉えるのではなく、購買者のタイプや特徴を踏まえ、できるだけ個別具体的にアプローチしていきます。1990年代後半、カード会員向けに送付する「クラブカード・マガジン」という情報誌を創刊したのですが、学生や成人、シニアなど年代層に応じて顧客をセグメント化し、対象層ごとに編集内容をアレンジしていました。

また、顧客の嗜好や関心を把握することが重要と考え、テスコが扱う1万点近くの主要商品を対象に「商品DNA」と呼ぶ、属性コードを付与します。商品DNAとは、例えば「健康に良い」「鮮度がある」「調理が簡単」「お買い得」「高級品」「ベジタリアン向け」など、商品の性格を表す構成要素のことを指します。野菜飲料であれば「健康に良い」「ベジタリアン向け」という商品DNAがつけられます。

 各種商品の購買傾向から、顧客のタイプを「価格重視派(経済的に豊かではない)」「主流派(平均的顧客)」「保守派(保守的で高齢者)」「利便性追求派(惣菜好きで若いカップル)」などといったセグメント群に分類も行っています。そして、顧客がどのセグメントに属しているのかが判明できる仕組みを整え、それぞれのセグメント別にプロモーションを展開。各店舗でどのようなタイプの顧客が良く利用しているのかも調査し、店舗ごとに顧客タイプの構成比を把握し、それにそった商品アイテムの物量を展開しています。

クラブカードから得られる情報を基にPBの企画・開発も行っています。テスコは顧客のタイプに応じて「Finest(ファイネスト)」「テスコ」「Value(バリュー)」と呼ばれる3つのPBを取り扱っています。「ファイネスト」は高品質・高価格な製品で富裕層を意識したもの。「テスコ」は、一般メーカーが扱うNBに相当するスタンダードクラスの製品でNBよりも安めの価格設定。「バリュー」は低価格品を好む層に対応する廉価な製品です。日本でも最近は高価格PBが出てきていますが、テスコのPBを見てみるとデータ分析を基にしたきめ細かい企画・開発が行われていることがわかります。

カード導入によるデータ分析は様々な店舗で実施されていると思いますが、徹底した活用が顧客との結びつきを強め、企業としての強みになっていくことがテスコの例から伺えます。

 (参考文献 ショッパー・マーケティング)

行動経済学 ヒューリスティックス

本日は消費者が購買の意思決定をする際に影響を与える行動経済学のヒューリスティックスに関して記載します。

 行動経済学の中に利用可能性ヒューリスティックスという言葉があり、頭に思い浮かびやすい情報を基に判断する傾向のことを言います。普段行動する際に“親近性のあるもの”“重要だと判断しているもの”“個人的な関連を持つもの”“最近起こったもの”“検索しやすいもの”など利用しやすい情報を基に判断しがちです。例えば7文字の英単語でingで終了する英単語と6番目にnがくる英単語ではどちらが多いでしょうか?と聞くと、多くの人がingの方という回答をします。確かにingで終わる英単語の方が多そうな気がします。ところが実際はどうやら6番目がnの英単語の方が多いそうです。他の例としては「受動喫煙で年間6800人の人が死亡すると言われていますが、交通事故の年間死者(24時間以内に死亡)はこの数よりも多いか、少ないか?」という設問があります。イメージ的には交通事故の死者数の方が多そうな気がします。ところが解答は、受動喫煙よりも交通事故の年間死者の方が少ない、というものになります。2012年の交通事故死者数は4411人だそうで、受動喫煙の死亡者数を下回ります。交通事故のニュースをテレビなどで目にするため、僕たちの記憶にその情報が深く刻み込まれていて、その数を実際より多く見積もってしまっているために起こる判断です。

 購買する際には上記のような頭に思い浮かびやすい情報を基にした判断が影響を与えます。特に最寄品に関しては商品単価が低く、たとえ購買した商品に不満な点があっても、それほど大きな損失にはつながらないことから、購買を実施するに当たり、事前に情報収集を行って合理的に意思決定をしているというよりも、手近な情報と自分の記憶の情報を基に判断する傾向があります。また、予算や時間といった制約もありますので、限定された情報の中で購買の意思決定を行う傾向となります。

マーケティングを実施する側は消費者に自らが望むような意思決定をしてもらうために、情報の提供の仕方をどのようにするのかが重要となるようです。

 (参考文献 インストアマーチャンダイジング 行動経済学の基本がわかる本)