FSP:オギノの事例に関して記載します。
FSPとはCRMで用いられる手法の一つで、高頻度で自店へ来店される優良顧客に注目して、階層に応じてプロモーションを展開することを言います。この手法を上手に取り入れている企業に山梨県を地盤とする「オギノ」という食品スーパーがあります。
オギノでは、顧客データを分析し、顧客を年代や好み、ライフスタイルなどで分類する“顧客クラスター分析”とその活用をFSPの最重要課題に設定。顧客を「健康志向だがレトルト食品などをよく利用する簡単調理派」「素材にこだわる健康志向派」など約20種類に分類。その分類別に最も適したサービスや特典ポイントを付与し顧客の維持・拡大につなげたり、店舗ごとの販促や品揃えにも活用したりもしています。この顧客クラスターを活用したFSPでは、単純に前にレトルトカレーを買った顧客に、レトルトカレーの割引クーポンを発行するというものではなく、レトルトカレーに加え、レトルトカレーと同じ属性を持っている商品の提案も行っていくものとなります(レトルトカレーを買う人は簡単に料理をしたいという観点から、冷凍ハンバーガーを進める等)。
上記のように購買歴のない商品までDM等でお客様にお勧めしていくということは、顧客に魅力ある商品を幅広く提案できるだけでなく、PB商品のようにより収益性の高い商品を提案できるというメリットもあります。こういったことを効率よく実行するためにオギノでは全商品に対して、「この商品は手間を短縮したい顧客に向いている」「この商品は健康志向が強い顧客に向いている」など、顧客のライフスタイルを考慮したコードを付けています。これにより、それぞれのクラスターの顧客ニーズに対応する属性を持つ商品をDMに載せることが効率的に行え、FSPの活用のスピードを上げることができます。このような作業は顧客ニーズを分析する情報処理能力と時間・労力を伴う大変な作業となります。しかしFSPの実行をしっかりと行うことでオギノは競争基盤を作り上げているのです。
また、オギノはFSPを活用したDMの精度を高めると同時にコスト削減の目的から「ダイレクトレシート(DR)」という新しい販促手段を開発しました。DRはレシートにDMの内容を告知するものです。事前に分類されている顧客クラスターに基づき、顧客にレジで渡すレシートに同じ属性の商品をポイント付きで印刷するのです。
FSPを導入する小売企業の中には、他社が採用しているからという理由で、活用計画や情報分析能力強化、費用節減への対策が行われないままに、急いで採用し、結果としてFSPが時間の経過とともに経営を圧迫する要因になってしまうということがあるようです。オギノの例でみるようにFSPの活用には手間と時間と情報処理能力が必要になってきます。隣の芝生が青いという理由で導入するものではなく、覚悟を決めて導入する類の物のようです。新しいものは輝いて見えますが、結果的には泥臭い作業も行わなければならず、その作業一つ一つこそが企業を強くしていくものなのかもしれません。
(参考文献 1からのリテール・マネジメント)