行動経済学〈ヒューリスティックス バナーブラインドネス〉

本日は行動経済学〈ヒューリスティックス バナーブラインドネス〉に関して記載します。

【ヒューリスティックスとは】

ヒューリスティックスとは、正確な情報が得られないと、直感もしくは限られた情報だけを頼りに判断する傾向があるという心理的なバイアスのことを言います。例えば、自動車事故で亡くなる確率と胃がんで亡くなる確率は後者の方が多いのですが、多くの人は交通事故の確率の方が高いと思っています。これは日ごろの報道で交通事故の方を多く目にしているため、交通事故の発生率を高く見積もってしまうためです。人はヒューリスティックスによって判断を誤ってしまうことが度々あるようです。

人間は大きな破局や災害が起こる可能性によって「恐怖」を感じる場合、そのリスクの起きる確率を高く見積もる傾向にあります。これもヒューリスティックスによる判断の誤りです。この心理をうまく利用している例として、“血圧を下げる”“肌を美しくする”といった健康を維持するための商品や、老化に伴うリスクに関する商品が挙げられます。自分に降りかかるリスク(健康が害される等)を人は高く見積もりますので、その結果、そのリスクを解消するかもしれない商品に関しては、検討したい、購入したいと考える傾向があります。

【バナー広告のようなものは見ない バナーブラインドネス】

バナーブラインドネスは2000年代後半からインターネット業界で話題になった言葉です。過去、インターネットのバナー広告は、カラフルで動きのあるものほど閲覧されやすいという常識がありました。インターネットの利用者が増加し、バナー広告を利用する企業が増える中で、バナー広告の効果が浸透していったのです。しかしながら、実際には訪問者にとって興味のないバナー広告もあります。関心のない情報は見ることを避け、そして結果的に、Webサイトの訪問者がバナー広告やそれに似たように見える部分を本能的に無視するようになったのです。この現象のことをバナーブラインドネスと言います。

バナー広告の商品は自分の欲しいモノとは限りません。Web訪問者にヒューリスティックスが働き、自分に関係のない情報は視線からカットするようになったのです。このことは多くの情報がある中で、自分の必要な情報を素早く拾い上げるという意味では良いことなのですが、一方で必要な情報を見落とすという可能性も生み出しました。

このバナーブラインドネスという現象を受け、企業は徐々にカラフルで動きのあるバナー広告を減らしていきました。綺麗にレイアウトしすぎない工夫をしたり、問題提起や情報提供で面白さを匂わせ、『詳しくはこちらで』と誘導したりするデザインとなっていったのです。

ヒューリスティックスによる行動があるということを知っておくことは、自身の行動を客観的にみる上で重要な要素の一つと言えます。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

行動経済学の時間選好

本日は行動経済学の時間選好〈アメリカの牛乳の売上を回復させた「GOT MILK?」キャンペーン〉に関して記載します。

【「GOT MILK?」キャンペーン】

1993年に始まったアメリカのカリフォルニア牛乳協会による「GOT MILK?」キャンペーンという牛乳の愛飲促進キャンペーンがあります。このキャンペーンは15年間減り続けた1人あたりの牛乳消費量を回復させることに成功しました。

なお、「GOT MILK?」キャンペーンが始まる前に何も対策を打っていなかったというわけではありません。政府による健康促進キャンペーン「Milk Does a Body Good(ミルクは体にいいですよ)」という牛乳の飲用促進キャンペーンが行われていたのです。このキャンペーンの結果、93~94%の人が牛乳は栄養価が高いと認知し、90%の人が牛乳にはカルシウムが含まれていることを知り、その中の多数が牛乳のカルシウムで骨粗しょう症を予防できると理解するようになりました。それでも牛乳消費量は増えなかったのです。

しかしながら、「GOT MILK?」キャンペーンが始まったことにより、1994年の牛乳販売量は7.4億ガロンから7.55億ガロンへと上昇。牛乳消費量を回復することに成功したのです。

このキャンペーンのTVCMは10年以上続いていて多くのパターンがあり、その内容は、登場人物が甘いビスケットやケーキ、シリアルを食べていて、牛乳を飲もうとするとちょうどなくなっていたり、自販機が壊れていたりという内容です。あるCMでは飛行機を操縦しているパイロットが墜落のリスクを冒してまで機首を下げ牛乳の乗ったカートを自分のところまで近づけようとしたものの結局飲めない、というようなものとなっているそうです。

「Milk Does a Body Good」が将来の健康を消費者にアピールしていたのに対し、「GOT MILK?」は“今”飲みたいんだということを消費者にアピールする内容となっています。このことが牛乳消費量を回復させる結果につながったのです。

【行動経済学 時間選好に関して】

消費者の商品・サービスに対する価値の感じ方は常に一定ではありません。同じ商品・サービスでも価値の感じ方は変わります。その感じ方を大きく左右するものに「時間」という要素があります。「今を意識して買うのか」それとも「将来を意識して買うのか」その違いにより価値の感じ方が異なります。将来に消費するよりも現在に消費することを好む程度を「時間選好率」と言いますが、時間選好率が高いほど現在の消費を重視し、低いほど将来の消費を重視します。また、人間は間近の出来事に対しては「せっかち」になり、遠い先の出来事には「気長」になる傾向があります。例えば「今持っている1万円」と「1年後に手に入る1万円」では、今は手元にない1万円の方の価値の方が低くなります(将来の価値を現在の価値に換算する時、どのくらい割り引いて考えるかを表す率を「時間割引率」と言います)。この考え方を踏まえ「GOT MILK?」は将来の健康ではなく今飲みたいんだということへ立ち位置を変化させたのです。

上記のように行動経済学を踏まえたマーケティングの実施により売上を伸ばせるということが言えます。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)