中小企業の新事業展開

本日は中小企業の新事業展開に関して記載します。

【中小企業が新事業展開の検討を始めた時の業績傾向】

中小企業が既存事業と異なる事業分野・業種へと進出を図る“新事業展開”の検討を始める時は、必ずしも業績が良いことを背景に新たな収益源確保のためというわけではなく、業績が悪化している中で現状を打破するために実施するというパターンもあります。過去10年の間に新事業を実施し、10年前と比較して主力事業が変わった“業態転換した企業”と、過去10年の間に新事業展開を実施した場合で事業転換以外の“多角化した企業”それぞれで見てみると、事業転換をした企業では、新規事業展開の検討当時に業績が好転していたと答える企業は35.5%、それに対して、悪化していたと答える企業は30.5%、多角化した事業では、好転していたと答える企業が21.1%、悪化していたと答える企業が20.4%、という数値となっています。新事業展開を検討していた際の企業の業績は好転と悪化がほぼ拮抗している状態です。苦しい状況にある中で新たな成長を図ろうとして新事業展開を行うということもあるということです。

【新たな挑戦をしたことによる成長】

さて、新事業展開を実施した企業と実施・検討したことのない企業の業績見通しを見てみると興味深い数値が出てきます。それは売上見通し、利益見通しともに「増加傾向」の割合が最も高いのが事業展開した企業、そしてそれに続いて多角化した企業となっています。事業転換した企業や多角化した企業の方が、新事業展開を実施・検討したことがない企業よりも業績が良くなると見ています。雇用に関しても同様の結果となっています。

■売上高の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業転換した企業48.8%、多角化した企業35.2%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業20.2%

■経常利益の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業転換した企業42.6%、多角化した企業32.4%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業18.3%

■常用雇用者の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業展開した企業40.1%、多角化した企業25.6%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業15.1%

また、新事業展開を実施した後の主力事業の後の見通しを見ると、事業転換した企業、多角化した企業ともに、新事業展開を実施・検討したことがない企業と比較して、主力事業の成長が期待できると回答するとともに、国内市場全体に対しても成長が期待できると見込んでいます。

そして、新事業展開を実施した企業は「企業のPR・知名度の向上(良い影響があった64.7%)」「企業の信用力向上(同60.7%)」「企業の将来性・成長性(同60.7%)」と回答しており、新事業展開は短期的な企業収益の改善というよりも、企業の知名度や信用力の向上や信用力の向上を通じて、経営基盤全般に好影響を与えているということが見て取れます。

なお、新事業展開を実施し、成果を上げた企業が、事前に取り組んだことを見ると、「自社の強みの分析・他社研修」や「既存の市場調査結果の収集・分析」の割合が高くなっています。しっかりとした分析を行った上で、新たな挑戦を行うことにより、新たな成長が成し遂げられる可能性が高いということがわかります。

※中小企業庁委託「中小企業の新事業展開に関する調査」(2012年11月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)より

中小企業の事業承継

本日は中小企業の事業承継に関して記載します。

【高齢化する経営者】

中小企業の経営者の引退年齢は徐々に高齢化する傾向にあります。30年以上前には小規模事業者の平均引退年齢62.6歳、中規模企業は61.3歳だったのに対し、0~4年前には小規模事業者70.5歳、中規模企業67.7歳という状況になってきています。

また、経営者が高齢である企業ほど、経常利益の状況について減少傾向にあり、経営者の年齢が70歳以上になると、中規模企業が5割、小規模事業者の約7割が減益傾向という結果になっています。そのような状況の中で、経営者の年齢が高い企業ほど事業を縮小・廃業したいと考えているようです。

このことは少子高齢化が進む中で経営者自身の高齢化も進んでいる一方で、経営者が高齢になると事業を縮小・廃業したいと考えていることから、その事業の利益が縮小していっているということが言えると思われます。

【経営者の後継者】

中小企業の経営者の高齢化が進む中で、その経営者の後継者として、過去においては息子や娘といった親族へと引き継がれることが多かったのですが、最近では親族以外の役員や従業員・社外の第三者に引き継がれることが増えてきています。帝国データバンクのデータベースで2008年から2012年までの現経営者の承継形態を規模別にみると、小規模事業者は、親族の事業承継が6割強、中規模企業では4割強となっています。中規模企業では社外の第三者を含めた親族以外による承継が、親族による承継を上回っています。ちなみに、後継者を親族に継がせたいと考えている経営者はその理由を自社株式等や個人保証の問題があるようです。経営者の中には自らの資産を担保に借入を行っている場合があり、その場合、親族以外に承継しづらいということがでてくるようです。

【事業売却】

経営者の引退後にも事業を継続したいと考えているけれども、後継者がいない場合は事業を売却し、事業継承を行うということも考えられます。未上場企業間のM&A件数は2006年に752件から徐々に現業傾向にありましたが、2011年を底に回復の兆しを見せており、後継者がいない企業の約3割がM&Aに「大いに関心がある」「関心がある」という話をしているとのことです。また、総資産額3億円超の起業の3割強、5000万~3億円の起業の約3割が、事業買収への関心が「大いに関心がある」「関心がある」という話をしているとのことです。

この流れから中小企業間のM&Aが今後増えるのかもしれません。

中小企業の経営者の高齢化が進む一方で、その企業を継ぐ後継者の承継形態も過去と変わりつつあります。日本の企業の99.7%を占める中小企業も、時代の変化とともに変わっていくのでしょう。

中小企業の果たしている役割

本日は中小企業の果たしている役割に関して記載します。

【日本における中小企業に関して】

4月の消費増税に備えた政府の経済対策の柱の一つとして、革新的な商品やサービスを提供する中小企業の設備投資や試作品開発を促す支援策“新・ものづくり補助金”というものがありますが、日本経済において中小企業は中心的な役割を果たしていると言われます。数値面から見ると、中小企業の割合は日本企業の99.7%を占めており、常時雇用者の69.4%が働いています。

どのような企業が中小企業と言われるのかというと、その範囲は中小企業基本法第2条において定義されていて、資本金基準と従業員基準によって判断されます。資本金基準と従業員基準両方を満たしている必要はなく、どちらかの条件に当てはまれば中小企業と判断されます。

〈参考〉中小企業基本法の定義

■中小企業の範囲

製造業・建設業・運輸業・その他の業種:資本金3億円以下、または従業者数300人以下

卸売業:資本金1億円以下または従業者数100人以下

小売業(飲食店):資本金5000万円以下または従業者数50人以下

サービス業:資本金5000万円以下または従業者数100人以下

※会社役員、および個人事業者の事業主は従業員に含まれない。

■小規模企業の定義

おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むものについては5人)以下の事業者をいう。

※商業とは、卸売業、小売業(飲食店含む)を指す。

【地方での雇用を創出している中小企業】

中小企業・小規模事業者は地方経済で重要な役割を担っていて、雇用の7割弱を生み出していると言います。小規模事業者、中規模企業の常用雇用者・従業者の占める割合は、人口密度の低い都道府県ほど大きなものとなっています。三大都市圏中心市が所在する都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県)とそれ以外の道県で規模別の常用雇用者数・従業員割合を見てみますと以下のようになっています。

まず、三大都市圏中心市が所在しない道県では、大企業16.2%、中規模企業53.9%、小規模事業者29.9%。そして、三大都市圏中心市が所在する都府県では、大企業46.1%、中規模企業38.5%、小規模事業者15.4%となっています。三大都市圏中心市が所在しない道県で、雇用の約3割を小規模事業者が、5割強を中規模企業が占めていることになり、中小企業が地方の雇用に良い影響を与えていることが伺えます。

【女性が活躍する中小企業】

規模の小さな企業ほど、女性雇用者の割合が多く、かつ、管理的職業従事者の割合も多くなる傾向にあります。従業者規模別の女性雇用者割合を見てみると、300人以上の企業で女性雇用者の割合が36.5%なのに対し、1~4人の企業では46.7%という割合になっています。また、管理的職業従事者の割合を見てみると、従業者が1~4人の企業と300人以上の企業では、その割合に7倍以上の差があります。規模の小さな企業ほど女性が活躍しているということが数値面から想定できます。

中小企業は地方で雇用を創出することに大きな役割を担っていたり、女性の雇用の場も創出していたりしていることがわかります。