ブランド価値を守るということに関して記載します。
現ソニーが社名を東京通信工業からソニーに変更して間もなく、1964年「ソニーチョコレート事件」が起きました。事件の発端はハナフジという菓子メーカーが、社名をソニー・フーズという社名に変更し、「ソニーチョコレート」の名前でチョコレートの販売を始めたということでした。さらにソニー・フーズは、社名の変更どころか、当時ソニーがキャラクターとして使っていた「ソニー坊や」にそっくりの「ゴルフ坊や」なるものも作ってソニーとの同質化を図ってきたのです。事情を知らない一般消費者は「ソニーが菓子業界に参入した」「ソニーが販売したお菓子だから、品質・味ともに良いものに違いない」と思い、多くの人がソニーチョコレートを買い求めました。これに対しソニーは商標違反でソニー・フーズを訴え、5年の歳月を経て、両社は和解しました。経済学ではソニー・フーズのような行為を『ただ乗り』と言います。ソニーは『ただ乗り』を許さないと、この事件に取り組んでブランド価値を守ったのです。ソニーはこの事件の後、日本及び世界約170か国のあらゆる商標分類に登録を申請し権利を取得。また、ソニー・フーズは廃業しました。
(ソニー坊や:週刊朝日で連載されていた漫画「あっちゃん」をソニーの前身である東京通信工業が販売促進キャラクターとして使用)
2003年、モンテローザが「和民」を経営するワタミフードサービスに対して、同社から「『和民』に似た名称の店名、似たデザインの看板を『魚民』がわざわざ使っている」との虚偽の事実を公表されたとして、3000万円の賠償を求める訴えを東京地方裁判所に起こしました。結果として両社は和解。「魚民」「和民」が共存することとなりました。
同じく2003年、「月の雫」を運営する三光マーケティングフーズが「月の宴」を運営するモンテローザに対して6000万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地方裁判所に起こしました。訴訟内容は店名やロゴが似ているだけでなく、メニューの豆腐を「豆冨」と表示しているのも同じだという内容です。これに関しては2006年に和解。「月の宴」「月の雫」は共存することとなりました。
名前を合わせることによりブランド価値を打ち消すという方法はランチェスター戦略でいえばミート戦略ということになります。一般の消費者からすれば同じような名前であれば、同じ会社なのかとも思ってしまいます。また、商品名や店舗名などをブランドとして成立させている企業としては、他企業から商品名や店舗名を似たようにされてしまえば、そのブランド価値は下がってしまいます。マネする企業としては他社のブランド価値を利用して売上を作ることができます。ブランドを持つ企業としては自社が作り上げてきたブランドをしっかりと守り抜くことが自社の利益を守るために必要不可欠といったところでしょう。
(参考文献:ブランド・マーケティング ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則)