行動経済学 現状維持バイアス

行動経済学の「現状維持バイアス」について記載します。

 現状維持バイアスとは、人は現状を好む傾向にあることを言います。

プロスペクト理論という理論がありますが、人は1万円のお金をギャンブルでかけて1万円得するというものには、あまり参加しません。1万円をかけて2万円とか2万5千円とかの儲けがでれば、そのギャンブルに参加する人が増えていきます。人は同じ額であれば、得をするよりも損をする方がダメージを大きく感じるのです。

このようなことから、過去のやり方を捨てて新たな道を選ぶという行為にはリスクが高いと人は感じてしまいます。結果、人は新たな一歩を踏み出すことをせず、現状を好む傾向が強くなるのです。これを行動経済学では現状維持バイアスといいます。

しかし、この現状維持バイアスの傾向は非常に良くないことを引き起こす可能性があります。カエルを水の中に入れて、その水を徐々に熱していくと、カエルは熱がることもなく、やがて死んでしまうそうです。現状維持を続けたことによって、結果、危機を回避できず最悪の事態を招いたのです。

 現状を維持・前年踏襲は一見安全なように見えますが、現状維持は危険をはらんでいる可能性があることも十分に頭に入れておく必要があります。

 (参考文献 行動経済学の基本がわかる本)

プロスペクト理論

本日はプロスペクト理論について記載します。

2002年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授とその友人トバスキー教授が唱えた理論で「プロスペクト理論」というものがあります。通常1000円くらいだろうなと思っていた商品が800円で200円得したなという時と、通常800円の物を1000円で買って損したなという時だと、同じ200円でも、消費者にとって損をした時の方がインパクトは強いという理論です。この理論をグラフ化すると掲載しているもののようになります。このグラフの傾きを見てもわかるのですが、得をするときと損をする時では、損をする方が急になっています。つまり、損失のほうがインパクトは強くなります。また、効用逓減といって利得、損失ともに次第に曲線は水平に近づいていくこととなります。

 感じ方は人それぞれだとは思いますが、「損した」「得した」という場合、それぞれの額が同じでも感じ方が異なるということは面白い話だと感じました。

 (参考文献:「日本一わかりやすい価格決定戦略」)

行動経済学から見る単品通販の無料お試しセット

本日は行動経済学から見る単品通販の無料お試しセットに関して記載します。

【単品通販の戦略】

通信広告を見て消費者が商品を申し込む確率は0.2%~0.02%程度だと言います。そのような中で単品通販を行う業者が重視しているのは、市場シェアを拡大することではなく顧客数を増やすことです。

単品通販とは、ひとつの商品やひとつのカテゴリーに絞りこみ、顧客の欲する情報量を増やし、コミュニケーションを重視した販売方法となります。例としてはやずやの「香酢」「にんにく卵黄」や山田養蜂場の「ローヤルゼリー」「プロポリス」があり、リピート性の高い商材が向いています。

単品通販は利益を得るために『新規顧客を獲得する→新規顧客の獲得コストを下げる→獲得した顧客に継続購入を促す→その顧客の客単価や購入回数をアップさせる』というプロセスを採って行きます。商品の単価にもよりますが、初めの数回の購入では利益が出ないことは織り込み済みです。数回以上、商品を買ってもらって初めて利益が出るビジネススタイルとなっているのです。

これら通販企業が無料のお試しセットを出していることがあります。これは新規顧客獲得と合わせ、2回目以降も自社の販売する商品を購入してもらおうという意図を込めているのですが、消費者にとって『無料』ということが非常に魅力的に映ります。無料であるということは低価格であるという以上に消費者に魅力を与えます。通販企業は『無料』の魅力で大量の見込み客リストを集め、活用しています。

【無料の魅力 行動経済学『プロスペクト理論の確率加重関数』】

無料のお試しセットの「損をする確率がゼロである」ということは消費者から非常に強いメリットとして認識されます。そのことに関して以下のような実証結果があります。

■チョコレートを買う人の心理の実験

15セントの高級なトリュフチョコと、1セントのポピュラーなキスチョコを並べてどちらか一つだけ、買えるものとしました。その結果、73%が高級チョコで、残り27%がキスチョコを選びました。

次にそれぞれ1セントずつ値下げし、高級チョコを14セント、キスチョコを無料で提供したところ、結果は逆転。69%がキスチョコを選び、高級チョコは31%にとどまる結果となりました。

人間の心理において、無料で得られるとなると、それが実際よりも価値のあるものに見えるのです。

上記の例以外にアマゾンの無料配送キャンペーンの事例もあります。アマゾンは一定額以上の注文をすると配送料が無料になるキャンペーンを実施し、ついで買いを誘うことで、世界的に業績がアップしました。しかしながら、フランスにおいてのみ業績アップにならなかったと言います。これは、フランスでは一定額以上の注文で配送料を1フランにしたためだと言います。1フランであっても無料との差は、実際以上に大きく消費者に感じさせるということです。

行動経済学の中のプロスペクト理論に確率加重関数という理論があります。これは人間が判断する際の癖で、確率が小さい時は過大評価され、確率が中くらい以上に大きくなると過小評価される傾向があることを言います。また、確率が0%や100%などの極端な数値の近辺では反応が強くなります。

人間は確実に起きることを重視します。確実に得られるメリットには強い魅力を感じる一方で、非常に高い確率で得られるメリットであっても、それが100%確実に得られるものでなければ、魅力は下がるのです。

無料であるということは思った以上に消費者に魅力的に映るようです。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

行動経済学「プロスペクト理論」

本日は付録付き雑誌から見る行動経済学「プロスペクト理論」に関して記載します。

【付録付き雑誌のヒット】

現在、書籍や雑誌の売上は厳しい状況に置かれています。2012年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売額は前年比3.6%の1兆7398億円で、1996年に比べて34.5%も減少しています。そのような中で、00年代後半に雑誌に付録を付けた「付録付き雑誌」が大ヒットしました。この手法で最も成功を収めた出版社は「宝島社」で、女性ファッション誌「SWEET」は2010年2月号で発行部数が100万部を突破。同社の売上高は2007年の138億円を底に、2008年160億円、2009年207億円と急激に伸びていくこととなります。

このヒットの要因として規制緩和と不況があいまったということが言えます。

まず規制緩和に関してですが、その一つとして2001年日本雑誌協会による「雑誌作成上の留意事項」の変更があります。これにより雑誌付録の素材や大きさなどに対する基準が大幅に緩和されました。次に2007年に「景品表示法」の変更があります。これにより1000円未満の商品へのベタ付けの景品の上限が100円から200円に引き上げられました。

そして、2008年のリーマンショックによる不況で、消費者の購買意欲は冷え込んでいました。ブランド品は欲しいものの、高い買い物はしたくないという心理が広く浸透していました。

このような背景の中、付録付き雑誌は付録自体に有名ブランドが冠されていることが多く、お買い得感があるので、消費者から支持されるようになったのです。

しかしながら、この人気も長く続かず2011年の時点で付録付き雑誌の売上は減少傾向となります。

【付録付き雑誌をプロスペクト理論から見てみる】

人間は物事の最終的な結果よりも経過における「変化」を重視する傾向にあります。初め1000万円稼いでいて1年後に500万円稼いでいたAさんと、初め100万円稼いでいて1年後に500万円稼いだBさんでは、Bさんの方が満足度は高いです。人は価値を「絶対量」ではなく「変化」で測る傾向があります。付録付き雑誌が登場した時は、買う人の意識は、“付録がない雑誌”から“ブランドの付録がついてくる雑誌”へ変化しました。しかしながら“ブランドの付録がついてくる雑誌”が当たり前の状態になってくると消費者はよりレベルの高い付録付き雑誌を求めるようになっていきます。

得も損も、その値が小さいうちは、小さな変化が大きな価値変化をもたらしますが、得や損の値が大きくなるにつれて、変化への反応は鈍くなっていきます(「感応度逓減」)。気温を例にとれば、同じ5度の変化であっても20度から25度に上がるよりも0度から5度に上がる方が暖かくなったと感じるといったことです。付録付き雑誌にもこれと同じことが起こったわけです。

人は価値を「絶対量」ではなく、「変化」で測る傾向がある、ということは商売を行う上で様々なシーンで関係してくる重要な要素だと思われます。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)