イズミの地域密着経営

本日はイズミの地域密着型経営の徹底による成功に関して記載します。

イズミは広島に本拠地を置く総合スーパーで、その成長性は非常に高く、日経MJ調査の小売業売上高ランキングでは、1989年度47位(1172億6600万円)→99年度26位(2839億8700万円)→10年度14位(5023億7900万円)という結果です。この数値は地域チェーン・ナンバーワンです。また収益力も総合スーパー業界で最高水準となっており、2011年2月期、売上高営業利益率は3.7%、総資産経常利益率は5.2%です(イオンリテール、イトーヨーカ堂の売上高営業利益率は同期それぞれ1.9%と0.2%、総資産経常利益率は3.0%、0.5%)。

このような結果を出している要因として、イズミが地域密着型の経営を徹底しているためであり、それを実現させているのが『ドミナント戦略の拡張』と『店舗主導型組織運営』の2つの組織能力の発揮によるものです。

【ドミナント戦略の拡張】

もともとイズミは広島を中心に隣接する岡山・山口・愛媛の4県に出店を限定した、瀬戸内ドミナント戦略をとっていました。しかし、1990年代に入り、“バブル経済の崩壊”“大規模小売店舗法による出店規制の緩和”“小売外資の参入機運の高まり”“経営低迷に直面した有力地域チェーンが相次いで大手全国チェーンの傘下に入る”といった厳しい経営環境となり、イズミは生き残りをかけて、中国地方から山陰・四国・九州へと大量出店を断行します。またその際、九州地方の郊外型大型ショッピングセンターは足下商圏が総じて薄かったことから、それまで中国地方で展開していた狭域商圏に対応した店舗から、広域商圏に対応した大規模ショッピングセンターの出店へと転換していきます。この結果、90年代末にかけて3期連続減益という厳しい状況に陥りますが、経営の立て直しを行い、九州という大きな市場を開拓することに成功します。全国的に広域商圏対応のショッピングセンターの開発で先行する企業はありましたが、九州・四国に的を絞って、集中的に展開した企業としてイズミは先駆者でした。

【店舗主導型組織運営】

1993年に就任した山西社長が、本部主導型から店舗主導型への転換を提唱し、店舗が部門別損益管理を軸に利益管理を行う体制に移行しました。売場主任が本部と上司の次長と相談しながら、売上高、販売効率、粗利益率、商品ロス率、経費率の目標数字を立て、品揃え形式や価格の最終決定を行っていき、そのうえで、フィードバックされる日々の業務実績データを分析し、目標数値の管理を行いながら、売場担当者のパートタイマーらと協力し、業務改善を進め、目標達成を目指していきます。これにより売場を支えるパートタイマーも利益のことを考えて業務を行うような体制になっているといいます。なお、パートタイマーが売場主任になれる制度もあり、主任の5人に1人がパートタイマーから昇格した主任だそうです。各店が売場部門をベースに店舗間ベンチマーク活動にも取り組んでいます。各売場部門はベンチマークする店舗の数値を見ながら、今月、自店はどうだったか、なぜ自店は他店と比べて劣っているのか等々、店舗幹部が分析し、業務改善案を検討しています。その結果、社内での店舗間・部門間競争が発生し、本社が黙っていても業務改善案が出てくるようになったといいます。このように店舗による部門別損益管理体制は組織の活性化に大きく貢献しているそうです。

大型ショッピングセンターをある一定のエリア内に限定し出店を行うドミナント戦略と各店舗への権限移譲による活性化は、店舗経営の戦略の一つの成功例として非常に注目できると思われます。また、積極的出店による経営の危機があったからこそ、社内の組織運営を見直し、変革を行っていったという部分は興味深いものがあります。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

出店エリアのイノベーション〈コメリ〉

本日は出店エリアのイノベーションにより成功している「コメリ」に関して記載します。

 企業がイノベーションを起こせない理由の一つに小規模な市場よりも大規模な市場を狙ってしまう傾向があるということが挙げられます。将来的には大市場になる可能性があったとしても、当初の市場は小さいので、大企業はそこに参入することを避けます。市場が小さいと自社の成長率が維持しにくくなるからです。そのため、大企業になればなるほど、初めから大市場を狙ってしまい、小さな市場を育てていこうという意欲が失われてしまう傾向があります。

 小売業においては人口密度が高く、商圏が大きいエリアに出店するというのがセオリーです。お客様がいなければ売上が小さくなるからです。また、土地や家賃の高い都市部を避け、クルマの使用しやすい郊外の広大な土地にショッピングセンターを作るということもよくなされます。規模を広げ商圏を広げ、クルマを利用する人を多く集客することによって売上を上げるのです。このように一般的に小売業は出店するにあたって、商圏人口を増やして自店舗の見込み客を増やす戦略を採るもので、あえて小さな商圏に出店するということはそれほどないと思われます。

しかしながら、ホームセンターのコメリは一般の小売業が行う逆を行うことで成功を治めています。コメリは農業資材カテゴリーを取り揃えたホームセンターで、「農業を営む人たち」を顧客に設定しています。出店方法はコンビニなどがよく行っているドミナント戦略を採っているのですが、他の小売業と違うところは、店舗面積が約300坪と小型でDIYと園芸用品に絞り込んだ専門店を、競合他社が目を向けず、商圏としてあまり魅力のない、地域人口が1万人程度の農村エリアに重点的に出店しているということです。この出店方法の理由の一つは競合他社との競争を避けるということ。そして二つ目は高齢者が多い農家の人を対象にしているので、顧客が自宅近くにある同店舗でほしいものを歩き回ることなく入手できる利便性があるということです。

 主要顧客である農家の人たちへの対応は、商品の品揃えや出店方法のみならず、支払方法に毎年1回顧客が指定した月に一括払いできる「収穫期払い」なるものもあるそうで、いろいろと手厚くなっているそうです。

 普通に考えれば人が多いところでないと商売ができないと考えてしまうのですが、コメリは農家という切り口で市場を絞り込み、農家を営む人に対応した品揃えや出店方法を採ることで、成長をしています。先入観を見直し、イノベーションを起こすことは、成長を続けるために必要なようです。

 (参考文献 成功事例に学ぶマーケティング戦略の教科書)

出店エリアのセグメント化

本日は出店エリアのセグメント(ドミナント化)を行っているオオゼキに関して記載します。

 過去にオオゼキに行ったことがあり、その際は一見、普通の食品スーパーマーケットに見えました。しかしながら、実はこの企業はすごいようです。今まで出店した35店舗中、過去に1店も閉店したことがなく、経常利益率に関しても同業他社と比較して7~8%(2~3倍も)あるそうです。

オオゼキは商圏として比較的高額所得者が多い東急線や小田急線の沿線のエリアに出店。ビジネス展開をする際に最適な「エリア」と「そこに暮らす住民」の両者に焦点を合わせて、市場を細分化し、ドミナント出店。独自のマーケティングを展開しています。セブン-イレブンが当初その出店エリアを東京都江東区に絞って成功したように、オオゼキは高額所得者の多い世田谷エリアにドミナント出店することにより成果を収めているようです。また、出店の際には初期投資額も居抜き物件をそのまま借り入れるようにして最小限に抑えるようにしているそうです。

 食品スーパーマーケットは、人件費や家賃などの固定費が毎月出費されています。それを踏まえ人件費を抑えるためにパートタイマーの比率を高めることが不可欠だという専門家がいるそうです。固定費を減らすことにより不景気を乗り切る体力をつけ苦しい経営環境を乗り切ろうという施策なのでしょう。しかしながら、オオゼキは正社員の比率が7割程度とその採用者数を増やしていると言います。パート社員に必要とされる採用や教育、配置などに関わるコストを考えると、正社員の方が割安と同社は考えているようです。事実、こうした人材面での投資が功を奏し、一般的な食品スーパーマーケットの廃棄ロス率が3~4%とされる中で、同社は正社員の細かい対応により何と0.1%以下と言われています。

 地域を細分化しドミナント出店を行うことは、そのエリアに住む人々に企業名を認識してもらう上で非常に重要ですし、商品の運送にかかるコストも削減することができます。リアル店舗を出店する際は、商圏内の人口・導線、生活者の所得水準と言った内容から、どこに出店するかによって、出店後の売上に影響することから、慎重を要します。出店した後の戦略を含めて、新規出店する際にはどこに出店するかは非常に重要なのです。また、オオゼキの例から同業他社が行っているから自分たちも追随するという姿勢ではなく、独自に正しいと思う戦略を採ることにより、より多くの利益を得ることができるということもあることは押さえておく必要がありそうです。

 (参考文献 成功事例に学ぶマーケティング戦略の教科書)

ドミナント戦略

本日はドミナント戦略に関して記載します。

【ドミナント戦略とは】

ドミナント戦略とは主にチェーン展開している店舗の出店施策の一つで、単独で店舗を出店するのではなく複数の店舗を近隣に出店させる戦略です。よくコンビニの出店戦略でこのドミナント戦略が聞かれると思いますが、セブン-イレブンでは1号店が豊洲(東京都江東区)にできた後、ドミナント戦略を実施するために出店地域を江東区以外に許さなかったと言います。

【ドミナント戦略のメリット】

このドミナント戦略を取るメリットの一つに、単独で出店するのに比べてお客様のチェーンに対する認知度が向上するというものがあります。単独で出店すると周囲の競合店にイメージで負けてしまうことがありますが、複数店舗で出店を行えば「この地域には○○店が多い」と認識してもらえ認知度を上げることができます。二つ目のメリットとして、特定地区を面で制圧することになるので、競合店の出店を抑制できるという効果もあります。特定地域内を制圧するために必ず押さえなければならない場所(例えば交通量の多い道路の交差点の角地、主要ターミナル駅の駅前立地等)があります。ここを押さえられてしまうと、地区の大半の売上・客数がとられてしまうであろう重要な地域です。この地域を含めて重要な立地を同一チェーンで押さえることで、その地区を制圧することができます。なんとなくイメージとしてはオセロの角地を押さえる感じに近いでしょうか。3番目のメリットとして、機動的・効率的な物流網の実現ができるということがあります。ドミナント戦略で複数の店舗を出店すると、必然的に店舗間の距離が短くなり、配送トラックが効率的に商品を配送することができます。トラックで商品を運搬している最中は1銭も稼げませんが、店舗に商品を並べれば売上を嵩上げしていくことができる可能性が高まります。

【配送トラックの効率化:ミルクラン】

また、このような動きの中で、ちょっと話はずれますが、ミルクラン(巡回集荷)と呼ばれるように、配送トラックの動きの効率化を図っていることもポイントです(ミルクラン:牛乳業者が酪農家の間を回って牛乳を引き取っていく様になぞらえた用語)。例えば商品配送センターと3か所あるお店との間を1日1回、3往復していたものを、1回で運ぶ量を3分の1にして、その分3か所の荷物を一緒に運んで、1か所ずつ降ろして回るようにすれば、いっぺんに3か所回ることができます。

ドミナント戦略には様々なメリットがある一方で、デメリットとして売上を共食いしてしまうということがあるようです。デメリットもあるでしょうけれど、コンビニなどのドミナント戦略をみているとメリットの方が大きいように感じます。一つの地域に集中して出店していく、それにより地域でNo.1になっていくということが戦略として有効であるということだと感じます。

 (参考文献 コンビニのしくみ)

コンビニの立地選択と立地適応

本日はコンビニの立地選択と立地適応に関して記載します。

【なぜ、同じチェーンのコンビニがすぐ近所に立地するのか?〈立地選択〉】

同じチェーンのコンビニが50メートルくらいしか離れていない場所に出店していることがあります(新宿や池袋といった繁華街でこのケースが見られると思います)。そもそも、コンビニが出店する際には、ある地域に集中的に出店することによって配送コストを下げたりすることを狙ったドミナント戦略を採っているのですが、その出店戦略は徒歩5分圏程度の商圏設定であり、300~500mで1軒立地させるのが理想となっています。よって、50m程度の間隔での出店は近すぎるため、既存店の売上を減らすという弊害が生じてしまうことになります。それでも実際はそのような出店が行われていることがあるのです。

上記のようなことは特定のエリアでシェアの奪い合いをしている場合に起こります。新規物件が出た場合、例えばAチェーンの既存店から50mしか離れていなかったとします。本来であれば既存店の売上を奪うその場所にAチェーンが出店することはないのですが、競合Bチェーンにその場所を奪われてしまうと、Aチェーンの既存店の売上が奪われてしまいます。その様なことをさせないために、とりあえずAチェーンがその新規物件を押さえてしまうということがあるのです。Aチェーンにしてみれば、1店舗当たりの売上は下がりますが、売上総額は減らないからです。

1店舗当たりで見るとデメリットがあっても、チェーン全体で見ると必要な立地選択であることから、このような出店が行われるのです。

【コンビニの既存店の売上を伸ばすための戦略(立地適応)】

コンビニなどのチェーン企業は、全国で同じ規格の店舗・品揃え・サービスをすることで、全体のコストを下げて効率的に運営することを志向しますが、コンビニにおいては出店競争が激しく既存店の売上が減っていて、その売上の維持が求められています。そこで立地場所に合わせた対応がなされるようになってきました。具体的には、オフィス街、駅前、単身者が多い住宅街、ファミリーが多い住宅街、といった商圏の特性に合わせて品揃えの内容を変えていくということを行っています。サークルKサンクスでは2005年に「住宅地」「工業地住宅」「ロードサイド」「繁華街・オフィス」「駅前」という5つの立地タイプに応じた売場づくりや品揃えを進めています。また、セブン-イレブンでは2006年秋に店舗の立地条件や周辺の施設条件データと商品販売との関係が分析できる第六次総合情報システムを整備しています。このように立地した商圏の特性に合わせて品揃えを適応させていくことで、コンビニは既存店の売上を維持していく策を取っているのです。

【コンビニ以外の立地適応】

話しは逸れますが、立地に適応した品揃えはコンビニ以外でもとられています。

・ライトオン:20種類の品揃えタイプを用意。立地特性別に選択。

・モスバーガー:2008年5月から都市立地の店舗で限定メニューを導入。

・はなの舞:各地域の食材や嗜好を反映した地域別の8種類のメニュー構成。

(甲府駅に「風林火山 はなの舞」があったり、京都に「京都 花の舞」があったりします。そして西新宿にはなぜか「龍馬 はなの舞」があります。)

・ポムの樹:本部が200種類以上のオムライス・メニューを用意。各店舗に立地や客層に合わせた数十種類のメニューの組み合わせを自由に選択させる。

店舗を構える場合、立地を選ぶことがまず重要ですが、環境変化によって立地した場所が当初目論んでいたような効果を発揮しなくなる可能性もあるので、状況に応じた変化が必要になってきます。変化し前進していく力は大切なことなのでしょう。

(参考文献 立地ウォーズ)