ジョンソン・エンド・ジョンソンCEOバークの危機管理

本日はジョンソン・エンド・ジョンソンCEOバークの危機管理に関して記載します。

【鎮痛剤に青酸カリ】

1982年9月30日、薬局で市販されていたジョンソン・エンド・ジョンソンの鎮痛剤「エクストラ・ストレングス・タイレノール」のカプセルに、何者かが致死量の青酸カリを混入。結果、シカゴに住む7名が死亡しました。これは、毒物が混入した錠剤の製品ロットがどれもバラバラで、犠牲者がシカゴ周辺に集中しているということから、製造過程に問題があったのではなく、誰かがタイレノールのボトルに異物を混入して、店の棚に置いたのだということが判明したのです。当時、タイレノールはジョンソン・エンド・ジョンソンの大人気商品であり、市場シェアの35%を占める、全米No.1の売上を誇る鎮痛剤でした。それだけに、この事件は同社にとって衝撃が大きかったと想定されます。

【CEOジェームズ・E・バークの決断】

(1)小売史上最大のリコール

この事件を受け、ジョンソン・エンド・ジョンソンのCEO、ジェームズ・E・バークは、その翌日に全国規模のリコールの検討を始めます。これに対して一部の幹部が反対しただけのみならず、FBIの職員たちまでもパニックを誘発することを恐れ、リコールに反対したそうです。しかしながら、その後、この事件の模倣犯が現れたことにより(カリフォルニア州でタイレノールのカプセルにストリキニーネ(毒薬)が混入された)、反対の声は消えていきます。そして、ジョンソン・エンド・ジョンソンは3100万本のタイレノールの「エクストラ・ストレングス」を全国の販売店から回収することを発表。小売史上最大のリコールが行われたのです。

(2)新パッケージの開発

また、バークは不正開封防止のパッケージの設計を命じます。それにより、三層密閉方式のパッケージが生まれました(キャップの内部にアルミホイルを挟み、キャップの上からシュリンク・スリーブをつけて密閉し、さらに糊付けされた外装箱の中に入れる方式)。この時開発されたパッケージは、今日においても多くのアメリカの内科医や薬剤師から支持を集めているそうです。

(3)巻き返し作戦

11月、ジョンソン・エンド・ジョンソンはパッケージを一新したタイレノールの復活キャンペーンを立ち上げます。併せて、消費者が捨てたタイレノールを無償交換することを発表し、「タイレノール」シリーズのどの商品でも買える、2.5ドル相当の4000万枚のクーポンも発行。更にバークは、当時としては珍しかった衛星中継によるビデオ記者会見を開き、全米30都市の記者からの質問に答えました。このキャンペーンが奏功し、事件後7%程度まで落ち込んでいた市場シェアは、事件後1年で30%まで回復したのです。

【バークのクレド(信条)】

バークは会社のクレド(信条)、“リーダーはジョンソン・エンド・ジョンソンの製品とサービスを利用する人々に対する責任を第一に考えなければならない”ということを信じ、実践したのです。この時のバークの対応「危機に際しては、まず自分の知っていることを全て速やかに洗い出し、顧客を守るためにあらゆる手段をこうじるべし」という対応は、危機管理の手本となっています。

様々な場面で危機管理案件がニュースで話題になりますが、その解決に向けた舵取りは、様々な既得権益と絡み合い、道筋のつけ方が非常に難しいのだろうと思います。しかしながら一方で、バークの危機管理もいろいろなところで根付いているようにも感じます。何につけても消費者を優先し対応するということは忘れてはならないということでしょう。

(参考文献 ありえない決断)