EDLP(エブリデーロープライス)を支えるローコストオペレーションの取り組み

EDLP(エブリデーロープライス)を支えるローコストオペレーションの取り組みに関して記載します。

【西友の変化】

だいぶ前の話にはなりますが、西友がウォルマート傘下に入ってから、店内の什器が一斉に変わって、店内の雰囲気がずいぶんと変わりました。昔と比べてそぎ落とされたシンプルな店内の雰囲気になったと思います。この店内の什器内容の変更はEDLPを支える重要な施策の一つとなっています。この什器変更を行った目的とは「店舗で人手のかかる商品補充などの作業を効率的に行う」ということです。

【ローコストオペレーション 什器の工夫の事例】

 例えば、よくスーパーマーケットなどで見かける冷凍・冷蔵オープンケース。西友に行くとこの什器を見ることがないような気がします。西友では冷蔵・冷凍オープンケースの替わりにコンビニでよく見るような什器、「リーチインケース」言われるガラス扉のついた縦型の什器が使われています。この什器の使用目的は、開閉式の扉がついているおかげで、冷気が外に逃げにくく省エネ効果が高いということと、飲料や冷凍食品を一度に大量に収納できて効率がよいということです。

【ローコストオペレーション 陳列の工夫の事例】

 他の例としては、店舗の陳列棚の両側にあるエンドでは「1品大量陳列」を行うようにしているということも挙げられます。併せて、エンドで使用している棚の横には「サイドキック」と言われる陳列什器が設置され、お菓子などの小さな商品が1種類並べられています。これは1種類・1価格の商品をまとめて陳列することによって商品のボリューム感を出すと同時に、商品陳列の作業負担を減らすことを目的としています。

それ以外にも、婦人服はカウンターやワゴンに平積みされている商品は少なく、ハンガーに吊るして陳列することをメインとしています。陳列や商品移動の負担を減らすことが目的です。

【ローコストオペレーション 発注から物流システムに至る工夫の事例】

また、店内の陳列以外にも、発注から物流システムにわたって、いろいろと工夫がなされているようです。精肉の加工では、店内での作業を止め、複数の店舗に供給する商品の加工を一手に引き受けるセンターの作業に移行したそうです。また、惣菜についても店内加工を減らしていると言います。

【まとめとして】

 以上のようにEDLPという低価格戦略を継続的に実行していくために“作業効率を向上するための工夫”“発注から物流システムに至る仕組みの工夫”が行われています。安売りをするためにウォルマートは相当な企業努力を行っているということが言えます。こういった一つ一つの積み重ねがウォルマートを世界最大の小売業に押し上げた要因の一つではないかとも思います。

 (参考文献 1からのリテールマネジメント)

価格戦略の「ハイ・アンド・ロー」「エブリデーロープライス(EDLP)」について

価格戦略の「ハイ・アンド・ロー」「エブリデーロープライス(EDLP)」について記載します。

【ハイ・アンド・ロー】

「ハイ・アンド・ロー」はスーパーの特売のような、価格を下げたり、時期が過ぎると価格を上げてもとに戻したりと、価格を上下させる手法のことです。

この価格手法は消費者の購買意欲を喚起し、「プロモーション効果」がありますので、店舗への集客効果が見込めます。特定の商品を「ロスリーダー(目玉商品)」と設定し、特売価格で消費者を店舗に誘い込む戦略です。値下げしていますので、ロスリーダーとなる商品は粗利益率は低くなります。しかしながらほかの商品の購入も促せますので、全体的な粗利益率を確保することができます(この手法は「粗利ミックス」と呼ばれます)。

 他の店舗での販売価格という比較対象があることから、有名ブランドほど価格引き下げの効果は大きくなりますが、一方で消費者がイメージする「参照価格」を低下させてしまう可能性があります。参照価格とは、消費者の過去の購買経験によって作られている記憶による価値を指します。例えばペットボトルのお茶がいくらかと聞かれて「88円」と答えれば「88円」が参照価格となります。参照価格が下がると、価格を元に戻した際に購入してもらえない可能性が出てきます。消費者は一般的に、損得の「得」よりも「損」に反応する傾向があるためです。また、値引き販売はブランドイメージが下がるという危険性も含んでいます。

【EDLP】

「EDLP」ですが、これはウォルマートの価格戦略で、特売品などの価格訴求を実施せずに、毎日低価格で販売する手法です。この手法を用いることで、特売時に発生するチラシの費用・商品の値札の付け替え・特売に伴う売場の変更の手間、といった作業が不要となり、ローコストオペレーションが可能となります。値段の上げ下げがないので、売上の予測もつきやすくなり、メーカーにとっても安定的な生産で対応することができます。

【まとめとして】

 近年ではこの「ハイ・アンド・ロー」と「EDLP」2つの価格戦略を併せたものも出てきていると言います。どういった価格戦略を取るかは企業にとって重要な戦略の一つです。ウォルマートが日本市場に進出してきてEDLPの考え方も一般化してきているように思われます。今後、日本のスーパー各社がどのような価格戦略を取っていくのか、興味深くあります。

 (参考文献 1からのリテール・マネジメント)

従業員満足度(ES)

従業員満足度(ES)について記載します。

アメリカにおいてはトップが自分のことしか考えず顧客や従業員を無視した企業は痛烈な批判を浴び衰退していっているといいます。顧客や従業員から見ると“His Company(彼の会社)”に過ぎないからです。そこから“Our Company(私たちの会社)”意識の醸成が主流となりチームプレーが重視されるようになり、今では従業員が“My Company(私の会社)”意識を持てるようにしなければ、本当に優れた顧客サービスは実現できないとまで考えられるようになってきました。

 顧客サービスの優れた小売業は「顧客の滞在時間が50%以上長くなる」「セールス及びマーケティングコストが20~40%削減される」「純利益が7~17%高くなる」という調査結果がアメリカで報告されているそうです。接客サービスを行うのは従業員であり、良い従業員が良いサービスを行うことで、ロイヤルカスタマーが作られます。顧客満足度(CS)を高めるには従業員満足度(ES)を高めることが必要であり、ロイヤルカスタマーはロイヤリティの高い従業員から作り出されるのです。

ウォルマートの創立者サム・ウォルトン氏は「従業員が競合との差別化のカギだ」という哲学の下、「人は通常仕事場で発揮しているよりも大きな才能を持っているが、それを出しきっていない」「誰でもよい仕事をしたいし、働き甲斐を求めている」という信念を持ち、従業員への権限移譲を進めていました。この権限移譲のメリットとしては、第1に顧客に対して素早い解決を提供できる、第2に従業員は信頼され任されることに対し、やり遂げようという責任感が強まる、第3に権限移譲された従業員は仕事に強い興味と意欲を持つので企業の生産性が上がる、ということが挙げられます。

 従業員満足度(ES)を高めている企業の他の例として、テキサス州にある収納器具など入れ物を中心に品揃えしているチェーン、コンテイナーストアがあります。この企業の店舗へ行くと明るい従業員が笑顔で迎えてくれ、質問には親切に答えてくれると言います。CEOのキップ・ティンデル氏は、接客のレベルを上げるポイントは「社員を愛することだ」と述べています。例えばバレンタインデーの日を「社員を愛する日」とし、本社屋上に大きな“We Love Our Employees”のメッセージを掲げたり、社員を称賛するための顧客用のサイト、Facebook、Twitterなどを用意したりしているようです。

ある機関が行った「従業員が会社に求める事柄」調査では経営者と従業員の考えに大きな齟齬があります。従業員が考える順位では、経営者が考える順位でのトップ「良い給料」は第5位で、第1位は「良い仕事をしたときの評価」となっています。このギャップは上司と部下の温度差を高めることが想定され、企業内での一体感・情報伝達に少なからず影響を与えると思います。従業員もお客様も人であるということを意識するということが求められている時代なのかもしれません。

 (参考文献 実店舗で商品を売るにはどうしたら良いのか)

ネット販売とPB

本日はネット販売とPB(プライベートブランド)に関して記載します。

アメリカにおいて1916年にグローサリーストアのピグリーウイグリーが、顧客が自分で商品を手に取って選び、買物かごやショッピングカートに入れ、レジで一括会計して代金を決済するというセルフサービス方式を導入して以来、豊富な品揃えとローコストオペレーションが実現し、小売店では対面販売の小売店からセルフサービス方式が発展するという変化が起きました。そして現在、その時と同じような小売業の変化がアメリカで起きているといいます。それがネット販売の急成長です。2012年のアメリカのネット販売市場は小売業トータルの約5%のシェアを占め、前年比で15%強の成長を示しているようです。

その中で、アメリカにおいて、リアル店舗で商品の実物を見て、実際の購入はアマゾンのようなネットショップで行う「ショールーミング」という消費行動が常態化してきています。

ウォルマートのようなスーパーセンターの大型店は圧倒的な品揃え数によるワンストップショッピング機能で人々に支持されてきました。それと同時に「エブリデーロープライス」などの価格訴求を行ってきました。しかしながら、品揃え数についてはネットの方が豊富になってきていますし、最低価格は、スマホで簡単にどこが一番安いか確認が取れるようになり、小売業の低価格戦略が以前ほどの強みではなくなってきました。スーパーセンターの強みが弱体化してきているのです。その状況に対抗するため、アメリカの大手ディスカウントストア「ターゲット」は、商品はリアル店舗で見て買い物はネットという「ショールーミング」を避けるため、大手トップブランド企業に「差別化のできるPB商品の開発」を迫っています。PBで独自の商品を提案することでネットとの価格比較を避ける作戦です。今後もPB商品の開発が進むことが想定されます。PBが増えるということは、メーカーにとっては商品の陳列スペースが減るということになります。メーカーとしては対策を取らなければならないわけで、生き残りをかけてネットを使って消費者へ直接販売を始めているようです。そのことが小売業とメーカーの間で軋轢を生んでいることもあるとのことです。

さて、日本のPBの購入率を見てみると、その数値は意外と高いものとなっています。例えば2012年で最近1年間に最もよく利用したスーパー・コンビニにおける「菓子/デザート/おつまみ」の購入率を見てみますと43.8%という数値になっています。さらに20代の購入率においては50.3%と約半数もの人がPB商品の購入を行っているという結果となっています。また、清涼飲料やお茶もPBの購入率は高く、ともに30%を超える数値となっています。最近、スーパーやコンビニへ行くとだいぶPBが多いなあというような実感もあります。2012年に「ファミリーマートコレクション」にブランド統一されてはいますが、「ボクのおやつ」は税込105円で安かったですし、PBのお茶系も安いから商品棚で選んでいる時にはすぐに見てしまう自分がいます。日本においても小売業者ごとに差別化を図るためPBを強化する=メーカー独自商品の陳列スペースが減るということが確実に起こっているということが言えると思います。

ネット販売とPB、相関関係がないように思っていましたが、そうではないということを感じました。

 (参考文献:実店舗で商品を売るにはどうしたらよいのか!?)

イノベーションのジレンマ“シアーズ”と“ウォルマート”

本日はイノベーションのジレンマ“シアーズ”と“ウォルマート”に関して記載します。

【世界最大の小売業だったシアーズと世界最大の小売業ウォルマート】

シアーズは過去、様々な分野で小売業の技術革新を行い、アメリカ最大(=世界最大)の小売業として君臨していました。同社はもともと通販ビジネスで成長した企業でした。その勢いは、19世紀、アメリカでどの家に行っても、聖書と同社のカタログがあったと言われているほどです。ところが1920年代にアメリカで自動車が普及し始めると、注文した商品が届くのを待つより、自動車で小売店に行って商品を購入することを好む消費者が増えていきました。この環境変化に対しシアーズはGMSと呼ばれるビジネスモデルを構築。大きな駐車場を完備した大型店舗に衣料品から雑貨まで様々な商品を置き、消費者がワンストップショッピングできるようにしました。この際のシアーズの店舗は日本型GMSであるイオンやイトーヨーカ堂とは異なり食料品の取り扱いは行っていませんでしたが、代わりに自動車保険や自動車修理を扱っていました。また同社はPBの取り組みを行ったり、シアーズカードを展開し、シアーズの店でのみ様々な付帯サービスを提供したりと、今では当たり前のようにある小売業の仕組みを生み出していったのです。まさしく当時のシアーズはイノベーションの先端を走る企業だったのです。

しかしながら、このシアーズはEDLP(エブリデイ・ロープライス:いつでも低価格で商品を提供)を掲げるウォルマートに売上世界第一位の小売業の座を奪われることになります。これは技術革新や社会の変化により、シアーズが作り出してきた様々なイノベーションが、同社以外にも簡単に利用できるようになってきたということが、要因として挙げられます。他のクレジットカードのサービスは充実し、商品の幅が広がったことによりシアーズだけではワンストップショッピングが成り立たなくなり、同社の開発するPBも様々な商品が流通することでその価値が相対的に低くなってしまったのです。そして、シアーズが開拓したサービスを踏まえて、より魅力的な価格と品揃えだけに集中したウォルマートのような店がより多くの消費者を引き付けるようになっていったのです。

【イノベーションのジレンマ】

シアーズが後発であるウォルマートに抜き去られたような事例は、イノベーションのジレンマという考え方に当てはまります。イノベーションのジレンマとは、業界トップになった企業が顧客の意見に耳を傾けて、今まで以上に高品質な製品・サービスを提供していくことが、かえってイノベーションを立ち遅らせ、結果として失敗を招くという考え方です。優良企業にとって、規模の大きい既存事業の前に現れる新興の事業や技術は魅力なく見えるとともに、既存事業とのカニバリズム(共食い)を起こす危険があるため、新興市場への参入が遅れる傾向にあるのです。

企業が継続的に成長していくためには、ライフサイクルの成熟期に入ったタイミングで破壊的イノベーション(従来製品の価値を破壊するかもしれない全く新しい価値を生み出すイノベーション)を起こしていくことが必要となってくるわけですが、成熟期に入ったタイミングでそれが起こせるかどうかは、非常に難しい経営判断となるのかもしれません。

(参考文献 「流通大変動 現場から見えてくる日本経済」)

ウォルマート 土曜日早朝ミーティング

本日はウォルマートの土曜日早朝ミーティングに関して記載します。

【土曜日早朝ミーティング、スタート】

1962年、アーカンソー州ベンドンビル郊外の小さな小売店であったウォルマートの創業者サム・ウォルトンは、土曜日の早朝に従業員を店の事務所に集め、直近一週間の販売実績を見直させるようにしました。これをきっかけにウォルマートの運命が変わっていったと言います。

週末に作り上げる売上は大きなものであることから、サム・ウォルトンは毎週土曜日の早朝に店の事務所で、何が売れているのか、売れていないのか、前週と比べて今週の売上はどうなのか、ということを知るために、直近一週間の数字を見直していました。

そして、サム・ウォルトンは開店の表示を掲げる前にミーティングを開き、従業員全員に自分の調査結果を伝え、従業員の意見を求め、そしてどの品を特売に出すか、陳列でさらに目立たせるべき商品は何かを決めていきました。

【土曜日早朝ミーティングがもたらした成果】

土曜日早朝ミーティングでの大きな成果は、事業についての情報を全社員と共有できるということであり、そしてそれにより、従業員も店主意識を持つようになったということです。加えて、競合他社よりもスピーディーな対応ができたことです。

1970年代、安売り業界の最先端を行く企業はKマートで、ウォルマートの規模はKマートと比べるとその数分の一の規模でした。この中でウォルトンが競合できると考えたものがスピード面でした。当時、Kマートやシアーズといった競合店は地域オフィス方式をとっていましたが、ウォルマートはベントンビル本社の人間が各店舗を見て回るようにしていました。彼らは月曜から木曜までいろいろな店を回り、金曜の早朝に本社でマーチャンダイジングのミーティングを開きました。そして、土曜日の早朝に各店舗で販売ミーティングを開く際には、各店舗を回って集められた情報を基に、何を修正すればいいのか決めていきます。そして土曜の昼前には地域マネジャーが全地区マネジャーに連絡して、“何をするか”“何を変えるか”の指示を出します。これにより、競合他社では月曜日に前の週の売上を検討していたので、ウォルマートは他社よりも一歩リードした対応が行えたのです。

【現在の土曜日早朝ミーティング】

現在では、細かい問題については平日に行われる無数の会議で扱われ、土曜日早朝ミーティングは月一回のペースになっています。しかしながら、このミーティングは今でもウォルマートが市場の動向を把握するための機会であり、本社と各店舗の一体感を醸成するのに役立っていると言います。

土曜日の早朝にミーティングを行うということを表面的にみると、それほど大きなことのようには感じませんが、結果としてはウォルマートの成長を支える大きな力となったようです。一見、小さく見える行動でも、それが大きな力につながっていくことがあるということを土曜日早朝ミーティングは示していると感じます。

(参考文献 ありえない決断)