オムニチャネル戦略に取り組む企業

本日はオムニチャネル戦略に取り組む企業に関して記載します。

【オムニチャネルとは】

オムニとはラテン語を語源とした「すべて」の意味を指し、オムニチャネルとは顧客が買い物をする上で、テレビ、通販サイト、ウェブサイト、DM、ソーシャルメディア、携帯・モバイルデバイスなど無数の販売チャネルによる区別をなくすことです。オムニチャネルを実践していく上で、ネット通販やリアル店舗などあらゆる販路を組み合わせ、いつでもどこでも買い物ができる体制を整える、つまりネットとリアルを融合していきます。例えばECサイトで顧客の注文を受けた場合に、リアル店舗の在庫と同じ在庫を確認し、ECサイトの在庫ではなく、グループ全体としての在庫が1つ減るような形になります。

マルチチャネルが単に販売チャネルを増やした「多角展開」であるのに対し、オムニチャネルはすべてを「統合していくもの」で、複数のチャネルから得られた顧客データを統合して、顧客とのコミュニケーションに活用していきます。

【オムニチャネルを最初に使い始めた企業:メイシーズ】

このオムニチャネルという言葉を最初に使い始めたのが、アメリカの百貨店「メイシーズ」です。メイシーズは2007年ごろから徐々に経営革新に取り組み、膨大なシステム投資によって、リアル店舗と自社ECサイトの区別をなくし、在庫や顧客情報を一元化させ、顧客ニーズの取りこぼしをなくすことに注力しました。

また、会社として統一的な戦略を実行できる組織を作るべく、すべてのチャネルをマーケティング部門の参加に置き、マーケティング部門が全体最適を考えた上で、キャンペーンやプロモーションのすべてを取り仕切るようにしました。

店員にはモバイル機器を配布。顧客のために商品詳細やレビューを調べたり、ライバル店の価格と比較できたりできるようにしました。また、モバイル機器は在庫情報とリンクしているので、その場で在庫の有無を確認できますし、店舗に商品がない場合は、ネット在庫あるいは多店舗在庫から、その場で自宅に配送することができるようにしました。

このような取り組みにより、メイシーズのオンラインの売上金額が、2010年から2011年で40%増加するという結果を残しています。

【オムニチャネル戦略:セブン&アイホールディングス】

セブン&アイホールディングスは2013年11月に「第2の創業」を掲げ、オムニチャネルの実現を戦略の中核として明確に位置づけて、グループ各社が顧客に最適な商品・買い物環境を提供できるように取り組みを進めています。

これから開業するセブン‐イレブンの店舗では、通販商品の保管スペースを設けると言います。今後、書籍卸・トーハンが持つセブン‐イレブン向けの物流を軸に、ネットで販売した商品も毎日セブン‐イレブンの店頭に届くシステムを構築していきます。そして、帰りの便を活用し、ネットで購入した商品の返品にも対応できるようにしていきます。また、イトーヨーカ堂ではネット商品の店頭受け渡しサービスを開始し、デニーズでは一部店舗で座席のネット予約を開始しています。

オムニチャネルを実施する上でのポイントとなる物流においては、2014年3月にグループの赤ちゃん本舗が、ネット経由で販売する商品の保管・出荷を2013年6月に竣工した埼玉県久喜市にあるネット通販専用の物流センターに集約します。このように、今後、グループ各企業でバラバラだった物流機能を集約していくと言います。

データに関しても、各社の既存システムを活用しながら、ネット上でデータを統合。今後、顧客の持つ電子マネー「ナナコ」や各社が発行するカードの切り替えをすることなく、共通IDを導入するそうです。これまで事業会社ごとにバラバラだった商品管理コードも、同じ仕組みですべてそろえていきます。

このように、セブン&アイは複数の業態をシームレスにしながらオムニチャネルを進めています。

【H2Oとイズミヤ 統合によるオムニチャネル】

2014年1月末にH2Oとイズミヤの異業種統合が発表されましたが、この統合の狙いとして「エリアに特化したオムニチャネルの構築」ということがあったようです。両社が地盤とする関西エリアでも人口減少が進んでいますが、その中で1人当たりのシェアを高めるべく、「いつでも、どこでも」グループで買い物ができる環境を整えることにより、競合に打ち勝とうとしているようです。

例えば、イズミヤの店舗で百貨店のお中元や正月用品などのカタログ販売を実施し、競合するスーパーとの差別化を図ると同時に百貨店の商品を関西全域で展開していきます。将来的にはH2Oの個宅配送とイズミヤのネット通販も共有化を進めていく散弾のようです。

ネット環境が急速に整う中で、ネットとリアルの区別がなくなってきています。その中でオムニチャネルは単純なネット事業の一つではなく、経営戦略として各社が取り組みを進めています。今後もオムニチャネルの取り組みは各社で進んでいくことが想定されます。

(参考文献 週刊東洋経済 2014 4/26)

H2O・イズミヤの経営統合とのれん

本日はH2Oとイズミヤの経営統合と「逆のれん」による経営改善について記載します。

【H2Oとイズミヤの経営統合】

2014年1月31日にH2Oとイズミヤが経営統合を発表し、6月1日にイズミヤはH2Oの完全子会社となります。両社の2013年度の連結売上を単純加算すると9200億円、営業利益で209億円になります。

H2Oは現状、大阪地区の百貨店売上シェア36%を占めており、経営陣は将来その数値を40%にまで上げたいと考えています。過去の推移を見ると、“2008年に阪急うめだ本店に隣接した阪急メンズ大阪を増設”“同年11月、大阪郊外に西宮阪急を展開”“2012年11月、売場面積を6万1000平米から8万平米へ拡大し、阪急うめだ本店をグランドオープン”と百貨店事業の体制を整えてきた経緯があります。

経営陣が上記に加え注力してきたことに「食料品関連事業の強化」ということが挙げられます。2006年にニプロから食品スーパーを展開するニッショーストアを買収。2011年4月、九州地区が地盤のエブリデイ・ドット・コムの株式を取得して「オレンジライフ」ブランドを獲得。宅配事業の拡張を図る。11年9月には外食事業である家族亭の株式を取得・子会社化といったことを行ってきました。

H2Oには、都市部は百貨店で郊外はスーパーマーケットという発想があり、上記のような買収を行ってきましたが、スーパーマーケットについては小規模なものとなっていました。そこで浮上したのがイズミヤとの経営統合でした。店舗商圏が両者で重なり、都市部でアッパーに対応する百貨店と、郊外で総合生活事業を展開するイズミヤとは補完関係が成立したのです。

【イズミヤ 逆のれんによる経営改善】

イズミヤは、かつて西のイトーヨーカ堂とたとえられたほどの優良GMSでしたが、近年は売上低迷により不採算店舗の閉鎖や事業統合などの改革を行っていました。そして、直近の中期計画ではロジスティック改革やGMSの効率化などに取り組んでいました。この状況をH2Oとの経営統合により改善することができる可能性が出てきます。経営統合を行うことで500億円ほどの『逆のれん』が発生するためです。この500億円を活用して、各種減損、不採算店舗の閉鎖などを行い、財務的負担を低減し、営業キャッシュフローを改善することができます。中長期的には店舗活性化や好立地の既存店舗の建て替え、新店舗への設備投資など積極的な投資に資金を回せる可能性もあるのです。

【のれんとは】

市場の競争が激しくなればなるほど、商品そのもののクオリティだけでなく、その商品自体が持っているブランド力や商品を販売するための顧客基盤などが大切になります。そのために、製造設備のような有形固定資産だけでなく、ブランド力、顧客基盤、ライセンス、コンテンツ権、特許権、ソフトウェアなどの様々な無形資産の重要性が大きくなってきています。

他社から購入したブランドや顧客基盤、技術などの無形の資産は、貸借対照表に無形固定資産やのれんという科目で表示されます。企業買収を行う時、買収時に発生した差額をしっかりと分析することにより、可能な限りソフトウェア、特許、著作権、顧客名簿、独占販売権、コンテンツ権など無形固定資産に分類し、残りの金額をのれんとすることにしています。つまり、のれんというのは目に見えない資産の中で、無形固定資産のようにしっかりと分類できない資産となります。

さて、H2Oとイズミヤの経営統合による『逆のれん』ですが、買収される会社(イズミヤ)の純資産より低い価格で買収した場合の差額で、買収した会社(H2O)の営業外収益となることを言います。

H2Oとイズミヤの経営統合は補完的に両社の経営基盤を強化できるWin-Winの状態だと言えそうです。

(参考文献 販売革新2014 4 ビジネスモデル分析術)

小売業のM&A

本日は小売業のM&Aに関して記載します。

1月31日にH2Oリテイリングが関西地盤の大手スーパー、イズミヤと経営統合することを発表しました。H2Oは高級スーパー「阪急オアシス」を約70店展開しているので、イズミヤを加えて商品調達力などの競争力を高めようとしています。

小売業が大型店化を進め、企業の成長を成し遂げようとしていく場合、成長に合わせて地理的に市場(店舗)を拡大していくことが必要となります。また、市場を拡大していくに当たり、スピード感を持った出店も求められてくることとなります。小売業の大型店化が進む中で、今回のH2Oとイズミヤの事例のように、M&Aを実施することにより市場の拡大を図る対応が行われています。

例えば、家電量販店業界の事例を記載します。過去、家電量販店業界にはNEBAという組織が結成されていたために競合他社の店舗のある商圏への出店に消極的でした。しかしながら、1990年代末頃からその意識が崩れはじめ、大型店の立地場所の獲得競争や大型店同士の近接立地による競争が激しくなっていくこととなります。企業が成長していくためには出店数を増やしていくことが求められますが、有利な立地には先に競合他社の店舗があるため、新規出店を行うこととなり、激しい競争を招いてしまうこととなったわけです。また、安売りを行うためには、仕入れ価格を低下させることが必要であり、そのためにはメーカーに対して仕入れる商品量を増すことで、競争力をつけていくことが必要でした。

この問題を解決するためにM&Aの手法が採られてきたのです。M&Aを行えば、無駄な競争なくして商圏を拡大することができ、出店スピードを速めることもできます。

また、M&Aを行うにあたって店舗の重複がないようにすることも必要です。例えば、家電業界2位のエディオングループですが、合併前の各会社の店舗が最も多い地域を見てみると、“デオデオ、広島38店舗”“ミドリ、兵庫29店舗”“エイデン、愛知42店舗”“石丸電気、東京9店舗”“100万ボルト、福井7店舗”というように地域が重ならないように合併が進められてきていることが分かります。小売業がM&Aを行おうと思った場合、相手企業の店舗の立地場所も検討材料の一つとなるわけです。

1月20日には、2011年に出店したばかりのJR大阪三越伊勢丹が売場面積を5万平米から半分程度に縮小するという発表がありました。2014年春にあべのハルカスの近鉄百貨店阿倍野店が開業しますので、関西エリアの小売業の競合環境は激化していくことが必至です。M&Aを含めて今後の動きが注目されます。

(参考文献 立地ウォーズ)