シニア対策

小売業が取り組んでいるシニア対策に関して記載します。

 日本においては全人口に占める65歳以上の年齢の割合が、2010年に約23%、2013年に約25%、2040年に36%、2060年には約40%と、どんどん増えていくことが想定されています。また、2011年の世帯主の年齢階級別の1ヶ月平均の消費支出(二人以上世帯)を見ると、働き盛りと思われる30~39歳が263,197円に対して60~69歳が281,022円という具合に、高齢者も多くの支出をしています。高齢になればなるほど保健医療の支出が増え(保険医療の支出 30~39歳9,424円→60~69歳14,721円)、洋服や通信の支出は40代以降減るという年齢に伴う消費構造の変化は見られますが、家庭用耐久財や書籍など支出の割合にそれほど大きな変化の見られないものもあります。何れにせよ高齢者市場は今後確実に拡大することが想定されますし、最近では元気で活動的なアクティブシニアが増加していることから、その年齢層の方を対象とした商品・サービスが強化されてきています。

イオンは2011年を起点とする3ヶ年のイオングループ中期経営計画において、グループ共通戦略の一つに、シニア層への商品・サービスなどを強化し飛躍的な成長を目指す「シニアシフト」を掲げています。その一環としてシニア世代を年齢にとらわれず豊かに人生を楽しむ世代と捉え、「GRAND GENERATION(グランド・ジェネレーション)」と名付けました。そして、2012年9月に55歳以上を対象とした「G.Gイオンカード」「G.G WAON」を誕生させ、年金支給日の15日を「G.G感謝デー」に制定し、「イオン」「マックスバリュ」「イオンスーパーセンター」などの店舗でこれらのカードを使用すると支払額が5%引きとなるサービスを実施しています。イオン同様、セブン&アイ・ホールディングスに関しても、電子マネー「ナナコ」に2012年4月から65歳以上対象の「シニアナナコカード」を設け、年金支給日の15日をシニアナナコデーとして、衣料、食料、住まい品を表示価格より5%引きしています。また、店舗購入商品の宅配サービス「きいろい楽だ」の配送料金を通常315円から80円に割引なども実施しています。

2012年3月1日に新しい建物に建て替えてオープンしたダイエー赤羽店はヤングと子供をカットした「アクティブシニアの館」へとリニューアルを行いました。商圏の居住者の4割が50歳以上、2人以下の少人数世帯が72%という状況の中、シニア向けのMDを強く意識して「こだわり」「美容・健康」「趣味・ライフスタイル」をキーワードに店づくりを行っています。なお、施設面から見ても、この店舗のエスカレータ、とてもゆっくりです。

コンビニもシニアの取り込みを大きな課題としていまして、ファミリーマートは、元気で毎日はつらつと過ごすアクティブシニアを「おとな」と位置付け、新しいおとなのコンビニ文化創造を目指し、2010年9月に「おとなコンビニ研究所」を立ち上げました。実際にアクティブシニアの声を聞いて開発した「おとなコンビニ研究所」の商品は、見た目や彩り、素材、ひと手間かけた調理、健康や環境への配慮などをコンセプトに作られています。また、シニア扱いされることを嫌うアクティブシニアの声を反映して、まとめてコーナー化するのではなく、各カテゴリーの商品の一つとして陳列されています。

シニア世代がかわいい孫に買ってあげるということを狙って、アメリカでは10月の第3日曜日を「孫の日」としてキャンペーンを展開しています。日本においても日本百貨店協会が10月第3日曜日をまごの日と制定しPRを図っています。アメリカにおいては特定の日の設定だけでなく、多くの小売業が「Upromise(ユープロミス)」と提携して、孫の教育資金としてポイントを蓄えることもしています(Upromiseとはお買い物額の何%かを大学の学資としてUpromiseの口座に貯金することができるシステム)。

 社会の変化に対応して様々な動きが出てきています。そして身近なところで変化が着々と進んでいます。気づかずスルーしてしまいそうなことの中にも社会の変化を裏付ける何かがある場合があるのかもしれません。

 (参考文献:実店舗で商品を売るにはどうしたら良いのか!? データ:流通統計資料集)

総合スーパーの戦略の転換

本日は総合スーパーの戦略の転換に関してアップします。

 今日、イオングループの「まいばすけっと」に行ってみました。「まいばすけっと」とはイオングループの都市型小型食品スーパーマーケットです。今日行った店は駅から歩いて5,6分のところにあり、周辺地域は静かな住宅街でした。「まいばすけっと」は店の外から見るとコンビニのような佇まい。しかしながら、店自体はコンビニよりちょっと大きめの規模で展開しているように感じました。また、コンビニとの違いは店内で販売しているものがほとんど100%近く食料品。しかも安め。チェーン店の什器陳列に見られるような店舗レイアウトになっていてコンビニとはそういったところも違うかなという感想を持ちました。

 「まいばすけっと」は店舗形態としてコンビニに類似していますが、“営業時間が7時(8時)~23時まで”“売上高に占める生鮮食料品の割合が約30%”“商品の価格設定が総合スーパー(イオン)や食料品スーパーに準じている”といった点からコンビニとは異なる性格を持っています。2011年12月現在、東京23区、川崎市、横浜市に出店地域を集中させていて店舗数は238店舗。「居抜き物件」を出店先に選び建設にかかる初期投資を抑え、大量出店につなげてきました。商圏規模についてはコンビニほどの店舗面積ということもあるためか、基本的に半径300m以内かつ2000世帯以上に設定されています。

 過去、イオンは広い用地が確保できる郊外地域あるいは既成市街地の工場跡地に広域型ショッピングセンターを出店する戦略を取っていました。この戦略は1990年代から2000年代前半までは集客力を高める手段として確立していましたが、2006年に改正された都市計画法で広域型ショッピングセンターによる出店が難しくなりました。また、少子高齢化に伴う市場の縮小の影響で、広域型ショッピングセンターの出店は飽和状態にもなっています。自動車での利用を前提としたイオンにとって、広域型ショッピングセンターに替わる業態の開発を模索していました。その中で大都市内部の既成市街地は人口密度の高さから食料品に対する潜在的な需要が見込める有力な市場であるにもかかわらず、地価価値が高く大型店の展開が難しく、イオンにとって未開拓の地域でした。そこで「まいばすけっと」を大量出店し、短期間で大都市内部の既成市街地へのシェア拡大を図ったということになります。

 次にイトーヨーカ堂を見てみます。イトーヨーカ堂は2000年代に関東地方へ出店した34店の大半が東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県の大都市圏に限定されていて、ドミナントエリアとして東京大都市圏に深耕化を図っています。そして、2000年代後半イトーヨーカ堂は新たな広域型ショッピングセンター「Ario」を開発。また、既存店を業態転換したディスカウントストア「ザ・プライス」を展開。このような重層的な店舗展開をドミナントエリア(東京大都市圏)で行うことにより、勢力の維持と多様な消費者の需要を満たそうとしています。

イオンがとっている戦略にしてもイトーヨーカ堂がとっている戦略にしても、業態として総合スーパーに依存しないビジネスモデルを構築しようと試みているということが言えます。世界の小売業売上高ランキングの14位と17位の企業がチャレンジし続けています。変化への対応・現状を維持することに留まらないための努力が市場から求められているのかもしれません。

 (参考文献:小商圏時代の流通システム)