置き菓子

本日は家賃の発生しない小売システム“置き菓子”に関して記載します。

【家賃の発生しない店舗】

つい最近、体調を崩し、薬を家の中で探していたところ、ちょうど富山の薬売りの薬箱から求めていた薬を発見。富山の薬売りと言えば、昔、家に薬を持ってきてくれる際に、子どもの自分に紙風船を渡してくれた記憶があります。富山の置き薬は、個人の家庭やオフィスに薬箱を無料で置かせてもらって、定期的に巡回して使用した薬の補充と代金の回収を行うビジネスモデルをとったものですが、薬箱はまさしく家賃の発生することのない小型店舗となります。

近年、同様の手法で置き菓子という手法があります。

【置き菓子 オフィスグリコ】

江崎グリコ株式会社が「オフィスグリコ」という、プラスチック製のボックスに菓子類を詰めてオフィスに置かせてもらうビジネスを展開しています。ボックスの中には10種類24個のお菓子が入っていて、値段は1個100円均一。仕事をしているとどうしても小腹がすくこともあるので、コンビニまでわざわざ行く必要がないので、従業員としてはメリットがあります。また、グリコとしても従業員という消費者のすぐ近くに家賃を発生させることなく店舗を構えることが出来るのでメリットがあります。

このビジネスは1999年2月に大阪に第1号販売センターが設置され2002年から本格的な展開を始めました。2012年現在でボックスの設置台数は12万台。その他にアイスと飲料を入れた冷蔵庫型の「アイスリフレッシュ・ボックス」というものもあり、こちらが1万台以上設置されています。一つのボックスにつき平均すると週で1000円程度の売上しかないものの、2011年の年間総売上は41億円にもなります。

グリコとしては、商品の補充や代金の回収を行うに当たり、巡回するスタッフが効率よくオフィスを巡回し、移動時間を短く人件費を圧縮できるかがポイントとなります。ですので、設置エリアはオフィスの密度が高い都心が中心となっているようです。一方で都心ではコンビニなどとの競合で売上高は比較的小さくなります。その分、郊外の場合はスタッフの移動距離は増えてしまうものの、オフィス周辺に競合が少ないことから売上が高くなる傾向があるようです。そのため、郊外のオフィスにボックスを設置してあっても、現状では利益が出ているようです。

オフィスグリコ以外にも、ロッテの「オアシスボックス」や森永乳業の「森永コンビニBOX」があります。このように他企業もこの市場に参入していることから、このビジネスモデルはメリットが大きいということだと思われます。一方で、千趣会の「ちょこたべBOX」は取り扱いを終了しています。このことから簡単に成功できるものでもないということも言えます。

(参考文献 立地ウォーズ)

居抜き

本日は“居抜き”に関して記載します。

【スケルトンにしてから開店】

近所のビルで1階をしばらく工事している空き物件がありました。以前そこにどういった業種が入っていたか詳細は分かりませんが、多分、生命保険関係の会社が入っていたかと思います。工事中の中を覗いてみると、中はコンクリートむき出しの、いわゆる「スケルトン」の状態になっていました。最近、徐々に形が出来上がりつつあり、どうやらそこは居酒屋になるようです。

通常の賃貸契約において、借主がある物件から撤退する場合、上記のように内装や設備を全て取り払ってスケルトンの状態にしてから家主に返却することとなります。しかし、スケルトンの状態に戻すためには撤去費用がかさみ、数十万円から数百万円の撤去費用がかかると言います。また、次の借主にとっても、一から内装や設備の工事をする必要がありますし、開店までに時間がかかってしまうというデメリットが生じてしまいます。

【居抜きとは】

上記のようにスケルトンにしてから家主に返却する無駄を省くことを狙って“居抜き”と言われる手法が使われることがあります。居抜きとは、業績不振などで閉店した店舗の内装や設備をそのまま別の企業が借りて開業することを言います。この手法を使うことによって、新たな借主の初期投資が抑制できますし、家主との交渉で毎月の家賃負担が軽くなることもあるようで、経営的に黒字化しやすい店舗を作ることが出来ます。

1990年代末頃から消費不況が顕著となり、閉店と出店のスピードが一段と速くなってきています。それに伴って撤退跡地を狙った居抜き出店が増えています。

【居抜きの成功事例】

中古書籍販売の「ブックオフ」は1990年に創業した時から居抜き出店を基本戦略としてきました。ブックオフが創業した時は大店法改正による規制緩和が行われ、各チェーン店が店舗の大型化を進めようとしていました。そのため、大型店へ移転した後に残された空き物件が豊富に供給されていました。そこに目を付けたのです。飲食店から物販店への居抜きだと店舗の改修が必要となってくることから、ブックオフは物販店の跡地を効率的な出店場所と考え、店舗を拡大。居抜きにより出店コストを押さえつつ、成長していくこととなります。

【成功につながらなかった居抜きの事例】

生鮮コンビニ「ショップ99(現ローソン100)」は小型のコンビニ跡地への出店を基本戦略としていました。コンビニの跡地は生鮮コンビニがそのまま利用できる構造だったからです。しかしながら、コンビニの閉店跡は効率の悪い狭い店舗であったり商圏環境の悪い店舗であったりすることも多いというデメリットがあります。同社は物流インフラの整備に遅れ、不採算店舗が増大。2007年2月にローソンと業務提携することで立て直しを図り、2010年にローソンの完全子会社となっています。このことから居抜き物件であれば成功が約束されているというわけではないことも分かります。

例えば個人で不動産投資を行うにしても、購入時点で勝負が決まってくる部分があります。企業もそのスタイルに合わせて「どのような場所・広さ・条件で出店するのか」というスタートが重要と言えそうです。

(参考文献 立地ウォーズ)

飲食業界の二毛作

本日は飲食業界の二毛作に関して記載します。

【飲食業界の二毛作とは】

最近では居酒屋がランチメニューを出すことも珍しくなくなってきました。例えば、さくら水産では、ごはんおかわり自由で低価格ランチが楽しめたりします。大都市に立地する飲食店においては、どうしても昼と夜に集客の差が大きくなります。高い家賃を払いつつも、収益を上げられる時間帯が限られてしまうのです。そこで、居酒屋のランチメニューではありませんが、一つの立地で時間帯を分けて二業態の店舗を出店する“二毛作”という手法がとられることがあります。

【二毛作の例】

二毛作が行われるようになったのは、1988年の「プロント」が始めだと言います。プロントはUCCとサントリーの共同出資会社で、昼はUCCのノウハウを活かしたイタリアン・カフェ、夜はサントリーのノウハウを活かしたカジュアルバーを営業。夕方5時にメニューが変わります。UCCとサントリー、それぞれの強みを活かして坪単価を最大化できるように工夫していると言えると思います。

また東京・神楽坂にある「神楽坂そば」では、先代の死をきっかけに、昼はそば店、夜は「ル・トランブルー」というワインバーを営業するようになりました。ワインバーは先代の息子が営業し、そば店はその実母が営業するという二毛作をとっています。息子がワイン好きでこの発想に至ったようですが、そば店とワインバーがそれぞれの特徴をしっかり持って営業しているということが言えそうです。ワインバーは成功し、隣町に2号店も出店しています。

その他には、ハイデイ日高の「焼鳥日高」は昼にうどんランチを出していたり、ラーメンの「ひるがお」駒沢本店は、昼は塩ラーメン、夜は「せたが屋」の名前で醤油ラーメンというラーメンの二毛作を行っていたりします。

2008年の日経MJにはたこ焼き店「築地銀だこ」をチェーン展開する「ホットランド」社が三毛作(2~5月はたい焼き屋、6~9月は焼きそば屋、10~1月はたこ焼き屋)を行っているという記事が載ったようです。1年を3期に分けて季節に応じた三業態を営む店舗を郊外の駅前に出店。メニュー変更とともに看板やのれんも変更しているとのことです。

二毛作を行っていく中で失敗事例も多くあるようです。二毛作それぞれ一つずつの特徴・強みをしっかりと打ち出して営業を行わなければならないということでしょう。この点は一毛作でも二毛作でも同じと言えそうです。

(参考文献 立地ウォーズ)

小商圏戦略

本日は小商圏戦略に関して記載します。

【多くの企業が模索する“小商圏戦略”】

小商圏戦略とは、小売業界で1980年ごろから使われ始めている言葉で、狭域の商圏を多数設定したり、既存の広域商圏を分割したりして、そこに小型店を多数立地させていく手法のことを言います。様々な企業が小型店の出店を行っているのですが、一部その取り組みを以下紹介します。

・関西地盤のホームセンター大手、コーナン商事。7~8万点の品揃えのある大型業態「ホームセンターコーナン」に対し、品揃えを約22,000点に絞った小型業態「ホームストック」を展開。売場面積は約1000平方メートル。

・ロフト。2013年4月に東京ドームシティラクーアにアイテムを文房具に絞り込んだ都心向けの超小型店舗「SELF&SHELF LOFT」を出店。多店舗に拡大する予定で、同年9月にJR大塚駅直結のアトレヴィ大塚にも開店している。

・大塚家具。大型ショールームに加え、気軽に立ち寄ってもらえる雰囲気の小型店で消費者との接点を増やす戦略。低価格品で攻勢に出るニトリホールディングスやIKEAに対抗。

【時代背景によって、その位置づけが変わる小商圏戦略】

小商圏戦略はその時代の流れによってその位置づけが変わっています。

戦略的な小型店が注目されたきっかけは、大店法が1978年に改正され、500平方メートル以上のすべての店舗が規制の対象となったことに始まります。各企業は500平方メートル未満の小型店を出店することで規制を免れようとしました。

1980年代。小型店であるコンビニや専門店チェーンが急成長。小型店が「成長モデル」としての意味を持つようになります。コンビニはそれまでの駅前や商業地を離れ、住宅地という場所に成長の拠点を見出し、専門店はロードサイドに成長の拠点を見出していきます。

1990年代。大店法の規制が緩和され、大型店が増大。様々な業界で大型店間競争が激しくなっていきます。それに伴い、小型店は、競合他社の取りこぼした隙間商圏を確保したり、自社の大型店の隙間を補完しセットで市場占有率を上げるドミナント型の役割を担ったりするようになります。

2004年ごろからは社会環境の変化に合わせた小型店へと変化。都心への人口回帰に合わせて、都心で日用品や食品を始めとする多様な需要が新たに増大していきます。また、高齢化に伴い、郊外の大型店へのアクセスが難しくなる消費者が増えてきます。それに合わせて、近年の小型店は大都市部での立地が中心となってきています。例えばイオンのまいばすけっとは、その戦略的な位置づけが「高齢化や都心への人口回帰などをにらんだ地域密着型の戦略的小型店」とされており、売上に関しては既存店で2ケタ増で推移しているといいます。

このように一言に小商圏戦略と言っても時代の流れとともにその位置づけが変わってきていることが分かります。

【小商圏戦略のデメリット】

小型店化で成長を図ろうとした場合、商圏が分割されて店舗数が増えますので、店舗の立地開発や建設資金面での負担が膨らむことが想定されます。居抜き物件などによる出店する際の経費削減が求められるでしょう。また、商圏が小さい分、その狭い地域の顧客ニーズに的確に対応していかなければなりません。品揃えの小さな誤差が売上や収益に大きく影響してくる可能性があるためです。

小商圏戦略が時代の法律であったり社会環境であったりによってその位置づけが変わってきているということからも、小売業が小売システムを置かれた環境に合わせて変化させる必要がある業態であるということが言えそうです。

(参考文献 立地ウォーズ)

コンビニの立地選択と立地適応

本日はコンビニの立地選択と立地適応に関して記載します。

【なぜ、同じチェーンのコンビニがすぐ近所に立地するのか?〈立地選択〉】

同じチェーンのコンビニが50メートルくらいしか離れていない場所に出店していることがあります(新宿や池袋といった繁華街でこのケースが見られると思います)。そもそも、コンビニが出店する際には、ある地域に集中的に出店することによって配送コストを下げたりすることを狙ったドミナント戦略を採っているのですが、その出店戦略は徒歩5分圏程度の商圏設定であり、300~500mで1軒立地させるのが理想となっています。よって、50m程度の間隔での出店は近すぎるため、既存店の売上を減らすという弊害が生じてしまうことになります。それでも実際はそのような出店が行われていることがあるのです。

上記のようなことは特定のエリアでシェアの奪い合いをしている場合に起こります。新規物件が出た場合、例えばAチェーンの既存店から50mしか離れていなかったとします。本来であれば既存店の売上を奪うその場所にAチェーンが出店することはないのですが、競合Bチェーンにその場所を奪われてしまうと、Aチェーンの既存店の売上が奪われてしまいます。その様なことをさせないために、とりあえずAチェーンがその新規物件を押さえてしまうということがあるのです。Aチェーンにしてみれば、1店舗当たりの売上は下がりますが、売上総額は減らないからです。

1店舗当たりで見るとデメリットがあっても、チェーン全体で見ると必要な立地選択であることから、このような出店が行われるのです。

【コンビニの既存店の売上を伸ばすための戦略(立地適応)】

コンビニなどのチェーン企業は、全国で同じ規格の店舗・品揃え・サービスをすることで、全体のコストを下げて効率的に運営することを志向しますが、コンビニにおいては出店競争が激しく既存店の売上が減っていて、その売上の維持が求められています。そこで立地場所に合わせた対応がなされるようになってきました。具体的には、オフィス街、駅前、単身者が多い住宅街、ファミリーが多い住宅街、といった商圏の特性に合わせて品揃えの内容を変えていくということを行っています。サークルKサンクスでは2005年に「住宅地」「工業地住宅」「ロードサイド」「繁華街・オフィス」「駅前」という5つの立地タイプに応じた売場づくりや品揃えを進めています。また、セブン-イレブンでは2006年秋に店舗の立地条件や周辺の施設条件データと商品販売との関係が分析できる第六次総合情報システムを整備しています。このように立地した商圏の特性に合わせて品揃えを適応させていくことで、コンビニは既存店の売上を維持していく策を取っているのです。

【コンビニ以外の立地適応】

話しは逸れますが、立地に適応した品揃えはコンビニ以外でもとられています。

・ライトオン:20種類の品揃えタイプを用意。立地特性別に選択。

・モスバーガー:2008年5月から都市立地の店舗で限定メニューを導入。

・はなの舞:各地域の食材や嗜好を反映した地域別の8種類のメニュー構成。

(甲府駅に「風林火山 はなの舞」があったり、京都に「京都 花の舞」があったりします。そして西新宿にはなぜか「龍馬 はなの舞」があります。)

・ポムの樹:本部が200種類以上のオムライス・メニューを用意。各店舗に立地や客層に合わせた数十種類のメニューの組み合わせを自由に選択させる。

店舗を構える場合、立地を選ぶことがまず重要ですが、環境変化によって立地した場所が当初目論んでいたような効果を発揮しなくなる可能性もあるので、状況に応じた変化が必要になってきます。変化し前進していく力は大切なことなのでしょう。

(参考文献 立地ウォーズ)