バーンズ&ノーブルとボーダーズ

本日はアメリカの書店「バーンズ&ノーブル」「ボーダーズ」に関して記載します。

市場が縮小する中にある一方で、小売業において、同業とはいえ、競合他社よりも持続的に優れた成果を残している企業があることも事実です。成果を残している企業というのは「組織能力(価値をつくり出す集合的な仕事のやり方)」が強みになっていると言います。ペンシルバニア大学のラフが進化経済学の立場から1970~95年のアメリカの二大書店チェーン「バーンズ&ノーブル」と「ボーダーズ」の生成・発展過程を取り上げていますが、両社はともに郊外立地で「スーパーストアと呼ばれる大型書籍専門チェーンとして急成長し、業界を二分する存在となったものの、歴史的な初期条件の違いから、異質な能力を備えていたと言います。

【バーンズ&ノーブル】

バーンズ&ノーブルはアメリカ合衆国で最大の書店チェーンであり、また最大の専門小売店だそうです。1960年代、レオナルド・バッジオが大学近くで小さな学生向けの書店を起業し、優れた接客サービスにより繁盛店となり、多店舗化に乗り出していきます。71年にはニューヨーク5番街にある老舗書店バーンズ&ノーブルを買収します。スーパーマーケット方式の経営に習い「うず高く積んだ本を、素早く売り切る」商法を導入。アメリカの書店で最初に特売商品を掲げたテレビ広告を打ったりしています。徹底した値下げ販売はたちまち保守的なニューヨークの書籍業界に旋風を巻き起こしたと言います。バッジオは経営の採算性を維持するため、2つの点に留意したそうです。一つはベストセラーと広告した商品は33%引き、他のハードカバー本は15%引き、特定のペーパーバックは20%引き、他のペーパーバックは15%引き、特定のペーパーバックは10%引きとするマージンミックス(粗利益の組み合わせ)の最適化を確立したこと。もう一つは中央集権的な在庫管理と店舗運営を取り入れ、ローコスト・オペレーションを徹底したことです。

バーンズ&ノーブルは積極的な企業買収や書籍のカタログ販売で、さらに規模の利益を追求していきます。

バーンズ&ノーブルは、「低価格訴求で大量販売を実現する業態・出店戦略」をとり、中央集権的な店舗運営システムを構築していったのです。

【ボーダーズ】

2011年に経営破綻した企業となりますが、2005年にはバーンズ&ノーブルに次いで2番目に大きい書店チェーンでした。

トーマスとルイスのボーダーズ兄弟が、ミシガン大学のある大学町のアナーバーで1960年代終わりに古本屋を開業したのが始まりとなります。その後、71年に大学町のメインストリートで小さな店舗物件を見つけ、そこで大学町に住む顧客の多様な関心に応えるために品揃えの幅を拡大して展開していきます。そのことが顧客の支持を広げ、間もなく同じ通りの大きな店舗へ移転。その間、取扱書籍数の増加に対処して、ルイスが簡単な在庫管理のためのソフトウエアを作成し、漸次改良を加えていきました。売場管理を行っていた従業員は在庫管理表を見ながら、出版社別でなくテーマ別・作者別に棚割を作成し、担当分野の在庫補充を行い、時には売場に出て商品説明やレジの仕事も行っていました。1974年には在庫管理システムが線形モデルによる販売予測機能を備えるようになり、その後更に、商品バーコードの導入や配送センターの設置により、システムが高度化していきます。

ボーダーズの強みは専門書を含む大量の在庫をコンピュータで迅速に管理し、地域ごとに適切な品揃えを行う「独自の在庫管理システムの開発を軸にした地域密着型の店舗経営」というものとなります。

【アメリカの二大書店チェーンから見える、組織能力の形成に関して】

バーンズ&ノーブルやボーダーズの例から、まず組織能力というものは、歴史初期の条件によって影響され、その後の流れを受けて形作られていくということが見えてきます。また、同じ事業分野であったとしても、企業ごとに異なった能力が蓄積されていくということも見えてきます。このように形作られた組織能力は、他の関連する経営資源や能力によって補完され、持続的な競争優位性の基盤を形成していくようです。

歴史や初期の条件とその後の経過によって、企業の強みが作られていくということは、自社を見つめ直すとき、他社をベンチマークするときに、認識しておいた方がよさそうです。

(参考文献 日本優秀小売企業の底力)

湖南平和堂

本日は海外進出の際、現地市場への適応化を図った“湖南平和堂”に関して記載します。

小売業各社が海外進出を図る中で、失敗する企業もあれば、数は少ないものの進出先市場でマーケットリーダーとなっている企業もあります。例えば、イオンのアジア事業を牽引する『イオンマレーシア』、中国内陸部の成都で総合量販店として高収益を上げている『成都イトーヨーカ堂』、中国内陸部の湖南省長沙市で地域一番店を作り上げた『湖南平和堂』が挙げられます。

【総合スーパー 平和堂】

平和堂は1957年に滋賀県彦根市の中心街・銀座街の一角に「靴とカバンの店 平和堂」として創業した店で、その後、総合スーパーとして成長してきました。2011年でみると同社は小売業売上高ランキング25位。総合スーパー売上高ランキングで見ると7位。有力地域チェーンです。中国事業に関しては、収益力はイオンのアセアン事業と並んで、売上高営業利益率7%台と極めて高い水準にあり、とりわけ1号店の本店は圧倒的な地域一番店の座を確保。3店舗の展開になりますが、その3店舗で平和堂グループ全体の15.9%もの営業利益をはじき出しているといいます。

【湖南平和堂 総合スーパーの予定が高級百貨店へ方向転換】

平和堂が最初に進出した長沙市から少し離れた再開発物件である五一広場店は、当初総合スーパーとして構想されていました。ところが、この総合スーパーの計画は当初から挫折します。売場の基本的なゾーニングやレイアウト、店舗運営や販売面においては問題なかったのですが、商品調達面で難題が生じたのです。事前の調査で、地元消費者が平和堂を外資系小売業とみなしており、上海などの百貨店や商業施設で販売されているブランド商品に対するニーズが大きいことが判明します。中国では偽物商品が多いため、消費者のブランド信仰が予想以上に強かったのです。当初、日本での経験を踏まえ、ワンストップ・ショッピングと比較購買機能を充足するために、直営売場70%、テナント30%という売場構成を想定していました。しかし、中国には問屋機能がなく、直営売場の商品仕入れは自社で行わなければなりませんでした。そのため、外国の初めての土地で信用や人間関係もなく、仕入れ規模も小さかったため、有名アパレルメーカーと商談しても相手をしてもらえない。日本製品を中心に品揃えしたのでは、デザインや価格の面で現地市場に適合しない。そのようなことから自社で直営売場の商品を仕入れることが非常に厳しかったのです。その状況を打破するため、衣料品を中心に専門小売店や製造小売業のテナント比率を引き上げ、売場を構成する方針に切り替え、テナント売場の比率を50~55%まで拡大していきました。それにより、初年度の売上は約46億円と順調な滑り出しとなり、期間営業損益は、開業費負担を除いて、黒字化を果たします。その結果を受け、五一広場店は開店後、数年かけて直営方式からテナント方式へと売場を徐々に切り替えていきました。

同時に、接客サービスが予想以上に強力な顧客吸引力を持つこともわかりました。長沙の人々は平和堂を百貨店とみなし、上質な接客サービスを期待しました。実際、来店する顧客は店員に相談し、勧められる商品の中から選択し、購入をしていました。それを受け、現場での接客サービスの重視が徹底されていきます。

平和堂は日本では総合スーパーであり、百貨店として海外進出をしようとしたわけではありませんでした。自社仕入れの難しさや現地市場への適応の結果として、事後的に有名ブランド商品の強化や対面販売の徹底が図られたのです。小売業には現地に合わせた湖南平和堂のような柔軟な対応が求められると言えそうです。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

コメリの船団方式出店戦略

本日は、コメリの船団方式出店戦略に関して記載します。

【コメリの小型店出店 独自の専門性を持ったハード&グリーン】

コメリは1974年に実施された大店法による出店規制や79年の規制強化(規制対象が売場面積1500平方メートル以上から同500平方メートル超に引き下げ)といった流れを受け、「ハード&グリーン」という売場面積150坪スタイルの小型店を出店していくようになります。このハード&グリーンの特徴は、金物と工具(ハード)、園芸用品と農業資材(グリーン)の2つの商品カテゴリーに絞り込んだ、専門店指向の徹底を図ったことと、店舗バッグヤードに在庫を置くスペースを持たず、納品された商品をそのまま通路に置き、速やかに売場に陳列する作業システムを採用したことです。このコメリの戦略が同社の成長につながっています。

【コメリの集中出店戦略 船団方式】

そして、コメリは小型店を中心としながら、中・大型のホームセンターの出店も行っています。これは競争相手の大型店が近隣に出店した場合、同社の小型店の売上に影響するので、その対策として中・大型店の出店を行い競合相手に対する防御装置としています。コメリは上記のような、大きな戦艦の周辺に小さな駆逐艦を配置するように、小型店と中・大型店を組み合わせて地域市場を制覇していく独特の集中出店戦略を船団方式と呼んでいるそうです(2010年8月時点ではホームセンター1店に対して小型店6店の割合で出店)。

全体の店舗数の推移を見ると、最初に総店舗数が100店舗に達成するのに15年かかっていますが、その後、店舗数の増加度は加速。200号店は100号店達成から3年数か月、そして300号店はそれからちょうど3年。400号店以降は、ほぼ2年以内の期間に100店舗ずつ上乗せしています。チェーンストア経営のパワーとして、一度、業態を支える事業の仕組みを確立すると、全体店舗数の増大と出店数が加速化していくといいます。コメリは事業システムを確立し店舗数を拡大することに成功したと言えます。

【コメリの新店舗出店を支える配送センターの開設】

新規出店の加速度と密接に関連していることに、配送センターの配置戦略もあります。小型店の経営効率化は店舗では極力在庫を持たず、店舗作業の単純化・省力化と店舗面積の有効活用を徹底することにあります。そのための要として配送センターがあり、配送センターから1日で往復できる距離に店舗を集中出店するドミナント地域の形成が必須となってきます。コメリも各地に配送センターを開設し、その周辺地域で出店攻勢をかける戦略を繰り返し実行しています。例えば、1995年郡山流通センターを開設し、その後98年に高崎流通センターを開設。その時期に、群馬・埼玉・千葉・神奈川・東京といった関東圏への出店攻勢が始まっています。また、97年福井流通センターを開設し、2000年には三重流通センターを開設。この時期には福井・滋賀・岐阜・京都・三重など、中部から関西地区へと出店エリアが一段と拡大しています。

大量出店の戦略として、この立地条件でこの規模の店舗を出店すれば「間違いなく」これだけの売上が上がるという店舗投資予測の精度を上げることが、投資リスクの回避につながります。出店経験を積み、店舗投資予測の精度が安定すると、標準化された店舗の反復複製は迅速かつ容易に進めることができるそうです。過去の成功パターンにとらわれないということは成熟産業の視点であり、方向性を模索し成功パターンを構築し繰り返すことは、成長過程にある企業にとっては重要な戦略であるということを感じます。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

イズミの地域密着経営

本日はイズミの地域密着型経営の徹底による成功に関して記載します。

イズミは広島に本拠地を置く総合スーパーで、その成長性は非常に高く、日経MJ調査の小売業売上高ランキングでは、1989年度47位(1172億6600万円)→99年度26位(2839億8700万円)→10年度14位(5023億7900万円)という結果です。この数値は地域チェーン・ナンバーワンです。また収益力も総合スーパー業界で最高水準となっており、2011年2月期、売上高営業利益率は3.7%、総資産経常利益率は5.2%です(イオンリテール、イトーヨーカ堂の売上高営業利益率は同期それぞれ1.9%と0.2%、総資産経常利益率は3.0%、0.5%)。

このような結果を出している要因として、イズミが地域密着型の経営を徹底しているためであり、それを実現させているのが『ドミナント戦略の拡張』と『店舗主導型組織運営』の2つの組織能力の発揮によるものです。

【ドミナント戦略の拡張】

もともとイズミは広島を中心に隣接する岡山・山口・愛媛の4県に出店を限定した、瀬戸内ドミナント戦略をとっていました。しかし、1990年代に入り、“バブル経済の崩壊”“大規模小売店舗法による出店規制の緩和”“小売外資の参入機運の高まり”“経営低迷に直面した有力地域チェーンが相次いで大手全国チェーンの傘下に入る”といった厳しい経営環境となり、イズミは生き残りをかけて、中国地方から山陰・四国・九州へと大量出店を断行します。またその際、九州地方の郊外型大型ショッピングセンターは足下商圏が総じて薄かったことから、それまで中国地方で展開していた狭域商圏に対応した店舗から、広域商圏に対応した大規模ショッピングセンターの出店へと転換していきます。この結果、90年代末にかけて3期連続減益という厳しい状況に陥りますが、経営の立て直しを行い、九州という大きな市場を開拓することに成功します。全国的に広域商圏対応のショッピングセンターの開発で先行する企業はありましたが、九州・四国に的を絞って、集中的に展開した企業としてイズミは先駆者でした。

【店舗主導型組織運営】

1993年に就任した山西社長が、本部主導型から店舗主導型への転換を提唱し、店舗が部門別損益管理を軸に利益管理を行う体制に移行しました。売場主任が本部と上司の次長と相談しながら、売上高、販売効率、粗利益率、商品ロス率、経費率の目標数字を立て、品揃え形式や価格の最終決定を行っていき、そのうえで、フィードバックされる日々の業務実績データを分析し、目標数値の管理を行いながら、売場担当者のパートタイマーらと協力し、業務改善を進め、目標達成を目指していきます。これにより売場を支えるパートタイマーも利益のことを考えて業務を行うような体制になっているといいます。なお、パートタイマーが売場主任になれる制度もあり、主任の5人に1人がパートタイマーから昇格した主任だそうです。各店が売場部門をベースに店舗間ベンチマーク活動にも取り組んでいます。各売場部門はベンチマークする店舗の数値を見ながら、今月、自店はどうだったか、なぜ自店は他店と比べて劣っているのか等々、店舗幹部が分析し、業務改善案を検討しています。その結果、社内での店舗間・部門間競争が発生し、本社が黙っていても業務改善案が出てくるようになったといいます。このように店舗による部門別損益管理体制は組織の活性化に大きく貢献しているそうです。

大型ショッピングセンターをある一定のエリア内に限定し出店を行うドミナント戦略と各店舗への権限移譲による活性化は、店舗経営の戦略の一つの成功例として非常に注目できると思われます。また、積極的出店による経営の危機があったからこそ、社内の組織運営を見直し、変革を行っていったという部分は興味深いものがあります。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)

地理的な市場セグメンテーション〈パーク24〉

本日は地理的な市場のセグメンテーションに関してパーク24(タイムズ駐車場)を中心に記載します。

自分たちの商品・サービスを打ち出す際、最適なマーケティング方法を見つけ出すためには市場を細分化するということが欠かせません。例えばコカ・コーラ社は当時日本限定で販売された缶コーヒー「ジョージア」に対して、砂糖入りの缶コーヒーなど売れないと難色を示したと言います。ところが実際には大ヒットとなったわけです。グローバルな視点では「売れないだろうから販売しない」という判断になっていたかもしれません。しかし“日本”という地域に焦点を当てて、市場を細分化したことが、成功につながったのです。

駐車場を経営するパーク24に関しても地理的に市場のセグメンテーションを行うことによって成功を果たしています。パーク24が着目したのは「遊休地」。バブル崩壊により遊休地が増えたのですが、同社はそこに目をつけ、駐車場業界に無人時間貸し24時間営業駐車場という新しいビジネスモデルを確立させたのです。

バブル崩壊により都市部を中心に遊休地がかなり存在していました。不動産は所有していれば固定資産税が求められます。土地にアパートやマンションを建てれば、家賃に加え、建物分に対しては減価償却ができますので、キャッシュフローは改善できるわけですが、初期投資はそれなりにかかります。そういったことから、土地所有に伴う出費は減らしたいものの、売却や賃貸も含めて土地の活用方法を決めかねている土地所有者が多く、遊休地が多くなっていました。

そして、大都市を中心に駐車場は慢性的に不足しています。地価が高い日本では、需要が見込める土地を購入して駐車場ビジネスを展開しても、購入資金が大きく収益が出にくいです。反対に安価な土地の場合、駐車場需要が少なくなってしまいます。

上記のような流れの中、パーク24は「遊休地」を活用するというセグメントを行い、そして「駐車場」として活用する方法に至ります。

また、過去の駐車場は1時間単位の時間貸し料金や月ぎめ契約しかありませんでしたが、パーク24は15分単位の貸し出しという「時間」という切り口でもセグメントを行いました。さらに有人の駐車場が一般的だった時代に無人の駐車場を導入。全国のタイムズ駐車場に自動精算機を無線ネットワークで結び、駐車スペースごとに入出庫時間と日時、利用金額、利用状況などのデータを全て把握できるような仕組みを作り上げました。

パーク24は、将来、駐車場ビジネスが飽和することを見越して、病院、スーパー、百貨店、外食、公共施設などに併設された駐車場をタイムズ駐車場として活用してもらうため法人向け営業を行ったり、マツダレンタカーを買収し、レンタカー事業とカーシェアリング事業を展開したりし、次の収入源づくりにも取り組んでいます。

バブルの時、道は混んでいるし駐車場はないしでクルマを運転するのは大変だったようです。「遊休地」という切り口で消費者のニーズをとらえたことが、パーク24が成功した要因と思われます。 (参考文献 成功事例に学ぶマーケティング戦略の教科書)

出店エリアのイノベーション〈コメリ〉

本日は出店エリアのイノベーションにより成功している「コメリ」に関して記載します。

 企業がイノベーションを起こせない理由の一つに小規模な市場よりも大規模な市場を狙ってしまう傾向があるということが挙げられます。将来的には大市場になる可能性があったとしても、当初の市場は小さいので、大企業はそこに参入することを避けます。市場が小さいと自社の成長率が維持しにくくなるからです。そのため、大企業になればなるほど、初めから大市場を狙ってしまい、小さな市場を育てていこうという意欲が失われてしまう傾向があります。

 小売業においては人口密度が高く、商圏が大きいエリアに出店するというのがセオリーです。お客様がいなければ売上が小さくなるからです。また、土地や家賃の高い都市部を避け、クルマの使用しやすい郊外の広大な土地にショッピングセンターを作るということもよくなされます。規模を広げ商圏を広げ、クルマを利用する人を多く集客することによって売上を上げるのです。このように一般的に小売業は出店するにあたって、商圏人口を増やして自店舗の見込み客を増やす戦略を採るもので、あえて小さな商圏に出店するということはそれほどないと思われます。

しかしながら、ホームセンターのコメリは一般の小売業が行う逆を行うことで成功を治めています。コメリは農業資材カテゴリーを取り揃えたホームセンターで、「農業を営む人たち」を顧客に設定しています。出店方法はコンビニなどがよく行っているドミナント戦略を採っているのですが、他の小売業と違うところは、店舗面積が約300坪と小型でDIYと園芸用品に絞り込んだ専門店を、競合他社が目を向けず、商圏としてあまり魅力のない、地域人口が1万人程度の農村エリアに重点的に出店しているということです。この出店方法の理由の一つは競合他社との競争を避けるということ。そして二つ目は高齢者が多い農家の人を対象にしているので、顧客が自宅近くにある同店舗でほしいものを歩き回ることなく入手できる利便性があるということです。

 主要顧客である農家の人たちへの対応は、商品の品揃えや出店方法のみならず、支払方法に毎年1回顧客が指定した月に一括払いできる「収穫期払い」なるものもあるそうで、いろいろと手厚くなっているそうです。

 普通に考えれば人が多いところでないと商売ができないと考えてしまうのですが、コメリは農家という切り口で市場を絞り込み、農家を営む人に対応した品揃えや出店方法を採ることで、成長をしています。先入観を見直し、イノベーションを起こすことは、成長を続けるために必要なようです。

 (参考文献 成功事例に学ぶマーケティング戦略の教科書)

出店エリアのセグメント化

本日は出店エリアのセグメント(ドミナント化)を行っているオオゼキに関して記載します。

 過去にオオゼキに行ったことがあり、その際は一見、普通の食品スーパーマーケットに見えました。しかしながら、実はこの企業はすごいようです。今まで出店した35店舗中、過去に1店も閉店したことがなく、経常利益率に関しても同業他社と比較して7~8%(2~3倍も)あるそうです。

オオゼキは商圏として比較的高額所得者が多い東急線や小田急線の沿線のエリアに出店。ビジネス展開をする際に最適な「エリア」と「そこに暮らす住民」の両者に焦点を合わせて、市場を細分化し、ドミナント出店。独自のマーケティングを展開しています。セブン-イレブンが当初その出店エリアを東京都江東区に絞って成功したように、オオゼキは高額所得者の多い世田谷エリアにドミナント出店することにより成果を収めているようです。また、出店の際には初期投資額も居抜き物件をそのまま借り入れるようにして最小限に抑えるようにしているそうです。

 食品スーパーマーケットは、人件費や家賃などの固定費が毎月出費されています。それを踏まえ人件費を抑えるためにパートタイマーの比率を高めることが不可欠だという専門家がいるそうです。固定費を減らすことにより不景気を乗り切る体力をつけ苦しい経営環境を乗り切ろうという施策なのでしょう。しかしながら、オオゼキは正社員の比率が7割程度とその採用者数を増やしていると言います。パート社員に必要とされる採用や教育、配置などに関わるコストを考えると、正社員の方が割安と同社は考えているようです。事実、こうした人材面での投資が功を奏し、一般的な食品スーパーマーケットの廃棄ロス率が3~4%とされる中で、同社は正社員の細かい対応により何と0.1%以下と言われています。

 地域を細分化しドミナント出店を行うことは、そのエリアに住む人々に企業名を認識してもらう上で非常に重要ですし、商品の運送にかかるコストも削減することができます。リアル店舗を出店する際は、商圏内の人口・導線、生活者の所得水準と言った内容から、どこに出店するかによって、出店後の売上に影響することから、慎重を要します。出店した後の戦略を含めて、新規出店する際にはどこに出店するかは非常に重要なのです。また、オオゼキの例から同業他社が行っているから自分たちも追随するという姿勢ではなく、独自に正しいと思う戦略を採ることにより、より多くの利益を得ることができるということもあることは押さえておく必要がありそうです。

 (参考文献 成功事例に学ぶマーケティング戦略の教科書)

エキナカ・エキチカ

本日はエキナカ・エキチカに関して記載します。

 昔メルマガかTwitterか何かで、世界の駅の乗降客数ランキングで日本の駅が上位を独占している記事を読んだことがありました。それを思い出して、ネットで調べてみると、新宿駅、池袋駅、大阪駅・梅田駅、渋谷駅は国内にとどまらず世界でもトップクラスの乗降客数を誇るようです。東京駅を中心とする半径70キロ圏に居住する12歳~69歳の首都圏生活者2,753万人のうち、66%にあたる1,813万人が週に1回以上鉄道を利用し、さらにその半数強の992万人が鉄道の定期券を保有しているそうです。そして、上記の人たちの1週間の鉄道延べ利用数(在来線)は何と推計2億7,143万人。日本の人口の倍の規模になります。そのような状況下において、近年、駅ビルやエキナカが次々と作られています。ある調査によると、エキナカ(改札内)の買物件数2.5%、駅ビル・駅施設(改札外)7.4%、駅徒歩5分圏の駅前34.1%、という数値が出ていて、エキナカから駅徒歩5分圏内の買物件数は全体の44%の割合を占めているという結果が出ています。

エキナカではスイカやパスモの登場で、買物の少額決済をしやすい環境が整ってきています。少額決済の多いと想定される駅のコンビニ「NEWDAYS」は2001年258店舗から2011年468店舗とその数を増やしています。首都圏生活者(18~49歳)のスイカもしくはパスモの所持者は8割を超えています。そして、改札内の買物の4割、駅ビルなどでも1割強はスイカやパスモが使われているといいます。これらの電子マネーはオートチャージ機能もあるので、チャージする手間もかかりませんので、簡単に買い物ができる環境が整ってきていると言えると思います。

 最近ではデジタルサイネージを使った自販機まで登場しています。エキナカやエキチカでの買物は自分の移動導線の中で済みますので非常に便利です。郊外型SCが飽和気味、人口の首都圏への集中、衝動買いの傾向などを踏まえると、エキナカ・エキチカ立地は今後魅力を増していくかもしれません。

 (参考文献)移動者マーケティング)

カクヤスの出店戦略

酒屋チェーンのカクヤスの出店戦略に関して記載します。

 東京23区に集中出店しているカクヤスというお酒のチェーン店があります。このチェーン店はビール1本でも2時間以内に無料配達してくれます。このことを可能にしている要因は、23区内を中心に250店舗という、非常に多くの店舗を出店することにより、近くの店から目的の場所まで配達することができる、ということです。つまり店舗を密集かつ適切に配置することによりそのことを可能としていると思われます。

カクヤスは1999年に着想し、2004年までは赤字だったようですが、今や東京の酒類販売シェア11%を持つチェーン店にまで成長しています。

このような多店舗出店することによりお客様の利便性を高めるスタイルは、はじめは厳しい状況に置かれやすいですが、一定の期間を乗り切れば軌道に乗るということでしょうか。店舗を“販売をするお店”として考えるだけでなく、お客様のお宅へ宅配する商品のための“倉庫”としても活用し成功している面白い事例だと思います。

ドミナント戦略

本日はドミナント戦略に関して記載します。

【ドミナント戦略とは】

ドミナント戦略とは主にチェーン展開している店舗の出店施策の一つで、単独で店舗を出店するのではなく複数の店舗を近隣に出店させる戦略です。よくコンビニの出店戦略でこのドミナント戦略が聞かれると思いますが、セブン-イレブンでは1号店が豊洲(東京都江東区)にできた後、ドミナント戦略を実施するために出店地域を江東区以外に許さなかったと言います。

【ドミナント戦略のメリット】

このドミナント戦略を取るメリットの一つに、単独で出店するのに比べてお客様のチェーンに対する認知度が向上するというものがあります。単独で出店すると周囲の競合店にイメージで負けてしまうことがありますが、複数店舗で出店を行えば「この地域には○○店が多い」と認識してもらえ認知度を上げることができます。二つ目のメリットとして、特定地区を面で制圧することになるので、競合店の出店を抑制できるという効果もあります。特定地域内を制圧するために必ず押さえなければならない場所(例えば交通量の多い道路の交差点の角地、主要ターミナル駅の駅前立地等)があります。ここを押さえられてしまうと、地区の大半の売上・客数がとられてしまうであろう重要な地域です。この地域を含めて重要な立地を同一チェーンで押さえることで、その地区を制圧することができます。なんとなくイメージとしてはオセロの角地を押さえる感じに近いでしょうか。3番目のメリットとして、機動的・効率的な物流網の実現ができるということがあります。ドミナント戦略で複数の店舗を出店すると、必然的に店舗間の距離が短くなり、配送トラックが効率的に商品を配送することができます。トラックで商品を運搬している最中は1銭も稼げませんが、店舗に商品を並べれば売上を嵩上げしていくことができる可能性が高まります。

【配送トラックの効率化:ミルクラン】

また、このような動きの中で、ちょっと話はずれますが、ミルクラン(巡回集荷)と呼ばれるように、配送トラックの動きの効率化を図っていることもポイントです(ミルクラン:牛乳業者が酪農家の間を回って牛乳を引き取っていく様になぞらえた用語)。例えば商品配送センターと3か所あるお店との間を1日1回、3往復していたものを、1回で運ぶ量を3分の1にして、その分3か所の荷物を一緒に運んで、1か所ずつ降ろして回るようにすれば、いっぺんに3か所回ることができます。

ドミナント戦略には様々なメリットがある一方で、デメリットとして売上を共食いしてしまうということがあるようです。デメリットもあるでしょうけれど、コンビニなどのドミナント戦略をみているとメリットの方が大きいように感じます。一つの地域に集中して出店していく、それにより地域でNo.1になっていくということが戦略として有効であるということだと感じます。

 (参考文献 コンビニのしくみ)