本日はアメリカの書店「バーンズ&ノーブル」「ボーダーズ」に関して記載します。
市場が縮小する中にある一方で、小売業において、同業とはいえ、競合他社よりも持続的に優れた成果を残している企業があることも事実です。成果を残している企業というのは「組織能力(価値をつくり出す集合的な仕事のやり方)」が強みになっていると言います。ペンシルバニア大学のラフが進化経済学の立場から1970~95年のアメリカの二大書店チェーン「バーンズ&ノーブル」と「ボーダーズ」の生成・発展過程を取り上げていますが、両社はともに郊外立地で「スーパーストアと呼ばれる大型書籍専門チェーンとして急成長し、業界を二分する存在となったものの、歴史的な初期条件の違いから、異質な能力を備えていたと言います。
【バーンズ&ノーブル】
バーンズ&ノーブルはアメリカ合衆国で最大の書店チェーンであり、また最大の専門小売店だそうです。1960年代、レオナルド・バッジオが大学近くで小さな学生向けの書店を起業し、優れた接客サービスにより繁盛店となり、多店舗化に乗り出していきます。71年にはニューヨーク5番街にある老舗書店バーンズ&ノーブルを買収します。スーパーマーケット方式の経営に習い「うず高く積んだ本を、素早く売り切る」商法を導入。アメリカの書店で最初に特売商品を掲げたテレビ広告を打ったりしています。徹底した値下げ販売はたちまち保守的なニューヨークの書籍業界に旋風を巻き起こしたと言います。バッジオは経営の採算性を維持するため、2つの点に留意したそうです。一つはベストセラーと広告した商品は33%引き、他のハードカバー本は15%引き、特定のペーパーバックは20%引き、他のペーパーバックは15%引き、特定のペーパーバックは10%引きとするマージンミックス(粗利益の組み合わせ)の最適化を確立したこと。もう一つは中央集権的な在庫管理と店舗運営を取り入れ、ローコスト・オペレーションを徹底したことです。
バーンズ&ノーブルは積極的な企業買収や書籍のカタログ販売で、さらに規模の利益を追求していきます。
バーンズ&ノーブルは、「低価格訴求で大量販売を実現する業態・出店戦略」をとり、中央集権的な店舗運営システムを構築していったのです。
【ボーダーズ】
2011年に経営破綻した企業となりますが、2005年にはバーンズ&ノーブルに次いで2番目に大きい書店チェーンでした。
トーマスとルイスのボーダーズ兄弟が、ミシガン大学のある大学町のアナーバーで1960年代終わりに古本屋を開業したのが始まりとなります。その後、71年に大学町のメインストリートで小さな店舗物件を見つけ、そこで大学町に住む顧客の多様な関心に応えるために品揃えの幅を拡大して展開していきます。そのことが顧客の支持を広げ、間もなく同じ通りの大きな店舗へ移転。その間、取扱書籍数の増加に対処して、ルイスが簡単な在庫管理のためのソフトウエアを作成し、漸次改良を加えていきました。売場管理を行っていた従業員は在庫管理表を見ながら、出版社別でなくテーマ別・作者別に棚割を作成し、担当分野の在庫補充を行い、時には売場に出て商品説明やレジの仕事も行っていました。1974年には在庫管理システムが線形モデルによる販売予測機能を備えるようになり、その後更に、商品バーコードの導入や配送センターの設置により、システムが高度化していきます。
ボーダーズの強みは専門書を含む大量の在庫をコンピュータで迅速に管理し、地域ごとに適切な品揃えを行う「独自の在庫管理システムの開発を軸にした地域密着型の店舗経営」というものとなります。
【アメリカの二大書店チェーンから見える、組織能力の形成に関して】
バーンズ&ノーブルやボーダーズの例から、まず組織能力というものは、歴史初期の条件によって影響され、その後の流れを受けて形作られていくということが見えてきます。また、同じ事業分野であったとしても、企業ごとに異なった能力が蓄積されていくということも見えてきます。このように形作られた組織能力は、他の関連する経営資源や能力によって補完され、持続的な競争優位性の基盤を形成していくようです。
歴史や初期の条件とその後の経過によって、企業の強みが作られていくということは、自社を見つめ直すとき、他社をベンチマークするときに、認識しておいた方がよさそうです。
(参考文献 日本優秀小売企業の底力)