女性限定マラソン大会「ランガール・ナイト」のプライシングに関して

本日は女性限定マラソン大会「ランガール・ナイト」のプライシングに関して記載します。

「ランガール・ナイト」というお台場で開催される女性限定のマラソン大会があります。これは「ランガール」という一般社団法人が主催している大会で、同法人は自分たちのことを「走る女性ならではの視点・パワーを活かし、生活を浴衣にするアイデアを様々なカタチに変えていく企業集団」とし、先ほど記載したランガール・ナイトの企画・運営やランニングを通じての地域活性化などの活動を行っています。

さて、この女性限定のマラソン大会「ランガール・ナイト」ですが、2011年に開催された時には参加費が8000円に設定されていました。この価格設定は他の競合のマラソン大会の参加費と比較すると高額になります。東京マラソンだと参加費がフルマラソン1万円・10キロコース5000円、距離設定がランガール・ナイトと似通っている三浦国際市民マラソンだと、ハーフマラソン4000円・10キロ3500円・5キロ2500円となっています。2013年に開催された時にはランナーの参加費が6500円でしたので、2011年と比較すると若干安くなっていますが、それでも比較的高めの価格設定となっています。

このように高めの価格設定が行われているのには戦略的な意味合いがあります。

マラソンやランニングの価値構造を考えてみると、まず中核価値として「走ることによって得られる健康維持や体力作り」ということが挙げられます。それに加えてランガール・ナイトは女性の視点にこだわって作られていて、実体価値として「おしゃれに走ること」という価値が加わります。そして付随機能として“レース前のメイクレッスンやエクササイズレッスン”“レース後のパーティーやショー”がありますし、更衣室や託児所も用意されています。参加する女性にとっては高い参加費を払っても参加したいという価値があります。

また、あえて高い価格設定をすることによって、参加者をふるいにかける(フィルタリング)という効果があります。つまり、参加費を高額に設定することで、おしゃれに走る女性でありたいという意識の高い人が参加するよう絞り込みを行うのです。高い参加費を払って参加する人たちは共通の価値観を持っているため、イベント自体が盛り上がるという効果も期待できます。

フィルタリングという手法はよく見られるように思います。消費者側としては製品・サービスの価格が表している意味合いを考えることも重要なのでしょう。

(参考文献 ポーター×コトラー仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本)

立地に適応した施策「地域別価格制」に関して

本日は立地に適応した施策「地域別価格制」に関して記載します。

【立地する場所によってマクドナルドで売っている商品は値段が変わる】

2007年6月に日本マクドナルド社は都道府県ごとに商品価格に差をつける「地域別価格制」を導入しました。この時の価格差を例えばビッグマックで見てみます。

『東京・神奈川・京都・大阪では、単品290円、セット(ビッグマック+ポテト、ドリンク)640円』

『埼玉・千葉・愛知・兵庫・広島では、単品290円、ただしセットでは620円』

『福島・山形・鳥取・島根では、単品が260円、セットが560円』

という価格設定です。

この導入時、ビッグマックセットの価格差は最大80円です。導入1か月経ってからの状況を日本マクドナルドのCEOは「値上げした地域で安い商品に消費が移るという現象は起きておらず、クレームも少ない」と語っていました。ほぼ問題なしということです。

このマクドナルドの動きに追随するように、その後、カレーチェーンの「壱番屋」でも採用され、2007年秋には「ローソン」や「吉野家」でも地域別価格制の導入が検討されることとなります。

(マクドナルドの地域別価格制は2012年にはビッグマックセットの価格差は40円まで縮小。また、2013年9月13日からは“立地”をベースとした新しい価格設定を導入しています。)

【地域別価格制、その導入の理由】

外食チェーンでは家賃と人件費(アルバイト経費)が経営コスト(固定費)の大きな部分を占めていることから、各店舗でコストに差が生じます。都心の方が家賃も人件費も高いので、これは避けられない話です。ですので、地域別価格制を導入する前は、全国一律の販売価格であるため、各店舗で利益率にバラツキが生じていました。この点について、当時のマクドナルの本部としては、店舗間で利益差はあるけれど、店舗全体で利益を平均化すれば良いという考え方でした。

ところが、1990年代の消費不況後、マクドナルドは全店舗一律に大幅な値下げをしたために、利益率が低下してしまいます。それに合わせて大都市部で家賃や人件費の上昇がみられ、店舗のコスト差が大きくなっていきました。その結果、一律価格での販売が企業収益を圧迫するようになり、企業の持続的な成長を目的として、地域別価格制が導入されるに至ったのです。

外食チェーンや小売店の場合、いったん店舗を立地してしまうと、その後、店舗を移転するのに大きなコストがかかってしまいます。ですので、その立地場所の状況に応じて変化していくことも求められます。地域別価格制はその“立地に適応する”一つの例です。

同じ日本で同じ商品なのに価格が違うというのは一見不思議ですが、土地の価格などを考えれば普通のことで、発想の転換といったところなのでしょうか。

(参考文献 立地ウォーズ)

ブロッキング作戦による競合企業の閉めだし

本日は、ブロッキング作戦による競合企業の閉めだしに関して記載します。

【液体石鹸「ソフトソープ」登場】

今でこそ、液体石鹸は普通に家庭で使われているものですが、その登場当時、ドラマがあったようです。

1977年、アメリカの発明好きの企業家であるロバート・テイラーは「石鹸をきれいな容器に入れてポンプで出せるようにしたら、主婦に受けるかもしれない」と思いつき、薬品担当者に開発を指示します。そして、シャンプーと同じ製法で保湿成分を加えた、ポンプ式の液体石鹸「インクレディブル・ソープ・マシン」が出来上がり、市場に投入。デパートで売り出すと、大変な売れ行きになったと言います。

1979年後半、テイラーは「ソフトソープ」の名で、食料雑貨店とドラッグストア市場への参入を決めます。テスト・マーケティングを行った結果、かなりの売上が期待できたため、1980年初めに700万ドルの全米キャンペーンを実施。初めのころこそ、反応は良くありませんでしたが、結果的には大好評となりました。

【価格競争回避・市場シェア確保に向けたブロッキング作戦】

ソフトソープの売上が好調な中、競合がテイラーの前に立ちふさがりました。弱小メーカー勢が数十種の模倣商品を出していたということのみならず、P&Gやユニリーバなどの大手がテスト商品を出し始めたのです。競合の激化により、液体石鹸のコモディティ化が進んでしまう恐れが出てきてしまったのです。テイラーは大手が原価ギリギリの価格で液体石鹸を販売してきて、ソフトソープの市場シェアが奪われることを想定し、その対策を採ります。

1981年初め、テイラーは、ソフトソープのプラスチック・ポンプ製造を一手に請け負っていたカリフォルニアのメーカーへ、1年で1億本のポンプを買い取りたいと伝えました。それまでの発注は最大でも一度に500万本程度で、その発注量の多さは途轍もないものでした。この注文によりこのメーカーは他の顧客向けの生産ができなくなりました。他にプラスチック・ポンプを作れる会社も全米で1社しかなく、しかもこの1社もマス・マーケット向けに商品を提供できるところではありませんでした。これにより大手の競合他社は液体石鹸の販売に向けた動きが取れなくなってしまいました。その間、ソフトソープの売り上げは伸び、テイラーの会社(ミネトンカ)は液体石鹸市場で首位の座を守ったのです。

【ブロッキング作戦の汎用性】

このテイラーのとったブロッキング作戦は他にも行われており、例えばアップルはiPodのフラッシュメモリーのように重要な機器の鍵となるような部品を特定し、供給網を独占したり、かつてロックフェラーが石油の樽に使われる鉄の輪の製造業者を買い上げたりしています。人気商品に対して、模倣商品が現れ、価格競争が起こり、儲かりにくくなる、という流れがあります。ブロッキング作戦は上記を防ぐ意味で有効な手段と思われますが、資金を投入するためリスクを背負います。その作戦の採用には、大胆さと繊細さが必要そうです。

(参考文献 ありえない決断)

価格プロモーション(値引き、特売)を行う際の課題

本日は価格プロモーション(値引き、特売)を行う際の課題に関して記載します。

 店舗内で直接的に顧客に購買を働きかけるマーケティング活動を、インストア・プロモーションと言いますが、その手法の一つに価格プロモーションというものがあります。価格プロモーションは、一定期間、定番価格から価格を下げること消費者に割安感を与えることを言い、つまりは“値引き販売”“特売”のことを言います。時間を限って商品の価格を下げて「今買えばお得」「今買わないと損」という消費者の購買意識を高めるのです。そのようなことから、価格プロモーションは売上を拡大する手法として、強い短期即効性を持っています。しかしながら、この方法を採ることには注意しなければいけないポイントがあります。

ポイント1 内的参照価格の低下

 値引きによって低価格の値段が消費者に記憶されてしまい、元の定番値段に戻ったときに消費者がその価格で商品を購入すると損したという感覚が強くなり、定番価格での購買が阻害されてしまいます。そのため、延々と同じレベルの価格プロモーションを実施しなければいけなくなる危険性があります。

ポイント2 ブランド・イメージの低下

 消費者は、過度な値引きが実施される商品に対して、「品質が悪い」「人気がない」というイメージを持つようになります。

ポイント3 需要の先食い・先延ばし効果

 消費者による需要の前倒し、買いだめが起こり、特売時への販売の集中が起こる可能性があります。そのため、長期的に見て平均売価を引き下げる可能性があります。また逆のパターンとして、値引きを待って消費者が購買しないということもあります。

ポイント4 需要の共食い効果

 同じカテゴリー内でAというブランドから値引きを行っているBというブランドへ買われる商品がスイッチしただけという、ブランド間での顧客の取り合いが起こっただけという結果につながることがある。

ポイント5 営業利益からの観点

 値引きにより営業利益の低下が考えられます。

 店内での販売促進活動(インストア・プロモーション)は値引き販売以外にも様々ありますが、どうしても値引き販売に偏る傾向があります。値引き販売を行う際には上記のようなデメリットが発生することを踏まえておくことが必要そうです。

 (参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

ブランド・イメージの低下

ブランド・イメージの低下に関して記載します。

 消費者は、過度な値引きが実施される商品に対して「品質が悪い」「人気がない」というイメージを持つようになるそうです。そのことに関して、ムーア、オルシャヴァスキー(1989)が次のような実験を行っています。

 実験内容は、学生を対象に「馴染みのある既存ブランド」と「馴染みのない新規ブランド」の男性用ワイシャツに関して、値引き額を5%、30%、75%としたときに、それぞれ購入したいと考える比率を計測したものです。実験の結果、馴染みのないブランドの選択確率が5%の時0.42、30%の時0.61、75%の時0.32となりました。大幅な値引きをすると馴染みのないブランドは購入したいという反応が減ってしまうという結果です。

 馴染みのあるブランドでは、値引きは購買意欲を高める結果となっていますが、馴染みのないブランドの場合は「品質が悪いから安い」「人気がないから安い」という判断をされてしまったということです。

 例え馴染みのあるブランド商品だったとしても、値引きの回数を重ねると、消費者に通常価格が高いと感じさせてしまいます。値引き販売を行う際、この点は認識しておいた方がよさそうです。

 (参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

新潟戦争とCGC

本日は新潟戦争とCGCに関して記載します。

2003年。長岡駅前にはイトーヨーカ堂とダイエー、駅から離れたところにジャスコがあり、原信という長岡市を本拠地とするスーパーもありました。そこにスーパーセンター(非食品中心の総合ディスカウントストアと食品スーパーが融合した店舗のこと)のベイシア(群馬県)とPLANT(福井県)、地元のスーパーのウオロクが一斉に長岡市の半径10キロメートル以内に出店。それをきっかけに、かつてないほどの厳しい値下げ競争が始まりました。その競争の激しさは、“豆腐1丁(300~400g)8~18円”“500mlペットボトル飲料69円”“もやし1パック18円”というものでした。新潟戦争ではスーパーで一番利益を確保していた日配品の価格を叩きあったと言います(日配品:工場で生産されて毎日配送され、数日中には消費されるものをいい、牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの洋日配、豆腐、漬物、納豆などの和日配がある)。

原信に関しては「日本一のサービスの提供」を目指した企業で、そもそも低価格での販売を武器にするというスタイルではありませんでした。例えば1998年からレジでの商品の袋詰めサービスを続けてきていました。この袋詰めに対する熱意は、レジ係が処理スピードを落とさずに、一人で会計と袋詰めを同時にこなせるように、専用のショッピングカートや買物袋、袋詰め台まで開発するほどのものでした。しかしながら、新潟戦争の勃発で値引き合戦が起こったことで、その渦中に巻き込まれ、1998年当時約4%あった経常利益率は1.5%まで落ち込んでしまいました。

この経験を下に原信は自分の城は自分で守るしかないという発想で自社PBの開発に至ります。2013年に原信とフレッセイ(群馬県)が経営統合し、アクシアルリテイリングが設立されました。両社はともに仕入れ機構CGCのグループの一員で、以前から交流がありました。CGCは全国各地の中小規模の独立したスーパーによって構成される、さまざまな事業活動を協業するために組織されたチェーンで、商品開発・調達、物流システム、情報システム、営業支援の4つをグループ活動の柱としています。そして「商品こそすべて」という事業理念を掲げて、創業当時から一貫して商品開発を重視してきました。代表的な加盟社はラルズ、リオン・ドール、スーパーマルモ、三徳、Olimpic、成城石井、オギノ、カネスエ、マルヤス、フレスタ、西鉄ストアなど、全国220社、売上高は総計4兆円にも及び、PB開発でもメーカーとの交渉においてイオンやセブン&アイにも対抗できる規模を持っています。それでもアクシアルリテイリングとしてはCGCのPBだけでは競争力として十分ではなく、自社PBを強化する必要があると考えているようです。上記の新潟戦争での価格競争や、少子高齢化で商環境が厳しくなる中で、際立った特徴を持った会社以外は、売場面積の広さで競争力が決まってしまうという考え方が基になっているようです。

商品のコモディティ化が進み価格競争に陥った際には、物流機能やPBなどで利益を創出しやすい企業にしたり、自社の強み・特徴を出して差別化を図り、他社との競争に打ち勝っていくことが必要となってきます。新潟戦争を経た原信の動きはそのことの必要性を物語っているように感じます。

(参考文献 「週刊ダイヤモンド2013 12/7」「1からのリテール・マネジメント」)