コト消費

コト消費に関して記載します。

【コト消費とモノ消費】

モノ消費・コト消費ということが、流通業界で言われます。また、今の時代、すでにモノで満たされていて、物質的なモノに価値を見出しにくくなっていることから、経験に価値を見出す「コト消費」への志向性が強まっているといいます。

モノ消費とは商品・サービスそのもののことを言い、そしてコト消費とは商品・サービスの本質的購入目的のことで、使用(消費)することで得られる期待満足及び結果満足につながることを言います。

コト消費の具体例として、有機野菜の宅配サービスを提供するオイシックスがあります。オイシックスは農業体験ツアーや料理教室などの体験イベントを行っていますが、それらを通じて、消費者が有機野菜の魅力を実感するとともに、有機野菜の品質・安全性を確認することができ、結果として宅配サービス利用のリピート率が高まっているそうです。

【今、人々はどんなことにお金を使いたいのか】

 経済産業省が行ったアンケートで、今後の消費についてジャンルを広げて「今後お金をかけたいもの」について質問した結果を見てみると全体では「旅行」(54.5%)、「趣味」(47.4%)、「貯金」(46.9%)、「外食」(34.3%)、「家電品」(32.8%)が上位で、日常生活における必要経費的な支出は抑え、「旅行」「趣味」をはじめとして生活を楽しむためにお金を使いたいという傾向が表れています。詳細を見てみると「家電品」「車」「株など財テク」は男性、「普段の食事」「外食」「普段着」「装飾品・ファッション小物」「美容」「内装・インテリアなど住まい」「旅行」「自分の教養・勉強」「通信」「貯金」は女性が多くあげているようです。また、上位に上がった「旅行」と「趣味」では傾向が異なり、「旅行」が男女とも高年齢層、高世帯収入層のほうが多いのに対して、「趣味」は若年層、低世帯年齢層のほうが多いという傾向がみられているようです。人口規模別でみると、「車」にかけるお金は小規模な都市ほど多くあがっていて「外食」「旅行」「友人との交際」は反対に大規模な都市ほど多い傾向にあるようです。

【コト消費 イオンの取り組み】

2013年2月7日付け日本経済新聞(朝刊)において、イオンモールの岡崎双一社長の発言が掲載されていましたが、その中で「自転車やカメラを売りたければツーリングや写真撮影会を主催する。そんな時代になった」というコメントが出てきます。また、「茨城県つくば市にイオンが3月に開いたショッピングセンターには地元サッカークラブ運営のフットサルコートや、ドッグランを楽しめるカフェを導入し、売上高は計画の3割増しだ」というものもありました。これも単純にモノを提供するのではなくモノに体験を付与して、お客様に提案しているという、コト消費の事例だと思われます。

モノがあふれる時代、他との商品との差別化が難しくなれば、その商品はコモディティ化して価格競争に陥ることになります。そのことは当然、企業の利益を減らしていくこととなります。お客様に共感を与えられるような商品・サービスを提供するということが売上・利益を確保する上で重要になってくるのでしょう。

 (参考文献 「消費者購買動向調査」~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~)

従業員満足度(ES)

従業員満足度(ES)について記載します。

アメリカにおいてはトップが自分のことしか考えず顧客や従業員を無視した企業は痛烈な批判を浴び衰退していっているといいます。顧客や従業員から見ると“His Company(彼の会社)”に過ぎないからです。そこから“Our Company(私たちの会社)”意識の醸成が主流となりチームプレーが重視されるようになり、今では従業員が“My Company(私の会社)”意識を持てるようにしなければ、本当に優れた顧客サービスは実現できないとまで考えられるようになってきました。

 顧客サービスの優れた小売業は「顧客の滞在時間が50%以上長くなる」「セールス及びマーケティングコストが20~40%削減される」「純利益が7~17%高くなる」という調査結果がアメリカで報告されているそうです。接客サービスを行うのは従業員であり、良い従業員が良いサービスを行うことで、ロイヤルカスタマーが作られます。顧客満足度(CS)を高めるには従業員満足度(ES)を高めることが必要であり、ロイヤルカスタマーはロイヤリティの高い従業員から作り出されるのです。

ウォルマートの創立者サム・ウォルトン氏は「従業員が競合との差別化のカギだ」という哲学の下、「人は通常仕事場で発揮しているよりも大きな才能を持っているが、それを出しきっていない」「誰でもよい仕事をしたいし、働き甲斐を求めている」という信念を持ち、従業員への権限移譲を進めていました。この権限移譲のメリットとしては、第1に顧客に対して素早い解決を提供できる、第2に従業員は信頼され任されることに対し、やり遂げようという責任感が強まる、第3に権限移譲された従業員は仕事に強い興味と意欲を持つので企業の生産性が上がる、ということが挙げられます。

 従業員満足度(ES)を高めている企業の他の例として、テキサス州にある収納器具など入れ物を中心に品揃えしているチェーン、コンテイナーストアがあります。この企業の店舗へ行くと明るい従業員が笑顔で迎えてくれ、質問には親切に答えてくれると言います。CEOのキップ・ティンデル氏は、接客のレベルを上げるポイントは「社員を愛することだ」と述べています。例えばバレンタインデーの日を「社員を愛する日」とし、本社屋上に大きな“We Love Our Employees”のメッセージを掲げたり、社員を称賛するための顧客用のサイト、Facebook、Twitterなどを用意したりしているようです。

ある機関が行った「従業員が会社に求める事柄」調査では経営者と従業員の考えに大きな齟齬があります。従業員が考える順位では、経営者が考える順位でのトップ「良い給料」は第5位で、第1位は「良い仕事をしたときの評価」となっています。このギャップは上司と部下の温度差を高めることが想定され、企業内での一体感・情報伝達に少なからず影響を与えると思います。従業員もお客様も人であるということを意識するということが求められている時代なのかもしれません。

 (参考文献 実店舗で商品を売るにはどうしたら良いのか)

ゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションについて記載します。

 何か月か前に、電車に乗っているとGungHoのパズドラ(パズル&ドラゴン)をしている人がいました。このゲーム、非常にヒットしているようで、サービス開始から1年4ヶ月余りたった2013年6月29日には累計1600万ダウンロードされています。これはスマホ利用者の3人に1人が遊んだ計算となるようです。ゲームの内容としては、同じ色の球をそろえて消すというもので、球を消した数で攻撃力が決まり、ドラゴンなどを倒していきます。このゲームでは、育てて・集めて・戦うというRPG的な要素も取り入れています。

 上記のようなソーシャルゲームはGREEやDeNAといった企業によって一躍有名になりました。実際GREEやDeNAは企業としても急成長していて、GREEは2006年決算時には売上が107百万円だったのに対し、2010年6月には35,231百万円、DeNAは2009年3月の決算時には37,607百万円だったのに対し、2013年3月には202,330百万円という状況です。

ソーシャルゲームには、ミッションをクリアしなければならなかったり、一定の条件をクリアすると勲章がもらえたり、レベルを上げる楽しさがあったりと様々な楽しみがあります。現在、こういった要素はソーシャルメディア以外にも活用されています。それをゲームフィケーションと言います。ゲーム的な仕組みを使って、プレイヤー(ユーザー)を楽しませる、つまり、ある企業がゲームの仕組みを応用して、顧客の問題解決や契約を獲得する、という手法です。

このゲーミフィケーションの一つとしてミッション制があります。ミッション(課題)を作って、クリアすることでユーザーに達成感を与えます。これは身近な例で言うと「ポイントを集めて、グッズをもらう」というものがあります。例として楽天レシピがあります。楽天レシピは会員が料理を投稿し、それに対し“つくったよレポート”が来ると10ポイント得られるという仕組みです。料理を投稿して、ポイントをどんどん集められるという、楽しさと実益を兼ねたものだと思います。

ゲーミフィケーションとしてもう一つ、バッヂシステムというものもあります。これは物事を達成できたときにバッヂ(勲章)がもらえるという仕組みです。例えば居酒屋の塚田農場。この店、料理もおいしいのですが、来店したお客様にオリジナルの名刺を渡しています。そこには「主任」と書かれていて、来店回数が増えると「係長」「課長」と昇進していきます。小売業の例としては、2011年の始めBlueFlyが、サイト上で動画を見る、ウィッシュリストを書く、レビューを書くなどすると、それに対してバッヂをもらえるということを行いました。より多くのバッヂをもらった人は特別セールや商品へのアクセスが提供されるという仕組みです。

ゲームの要素を取り入れるということは、情報過多の時代において、お客様から自社の商品・サービスに対して共感を持って接してもらうための手段の一つになると思われます。これからますます情報が増え、商品・サービス内容がコモディティ化していくことが想定されますので、ゲーミフィケーションの要素を取り入れていくことも必要になってくるのかもしれません。

 (参考文献 萌えビジネスに学ぶ「顧客を熱中させる」技術)

行動経済学 ハーディング効果

「行動経済学:ハーディング効果」に関して記載します。

【行動経済学の考え方】

従来の伝統的な経済学では人間を経済的な合理性や経済的打算にのみしたがって行動する存在として扱っていましたが、行動経済学においては、基本的に経済主体としての人間は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に非合理的な行動もとるという考え方をします。

【“赤信号、みんなで渡れば怖くない”=ハーディング効果】

この行動経済学の一つの考え方の中に「ハーディング効果」というものがあります。このハーディング効果とは、一般的に人間は物事が適切か否かの判断を行うよりも多くの人々と同じ行動をとることに安心感を得て、他人の行動に追従したり同調したりする意識が強くなる傾向がある、ということを言います。簡単な例だと「赤信号みんなで渡れば怖くない」です。

【アメリカ、ドッキリカメラでの事例】

この件で、アメリカで行われたドッキリカメラの興味深い事例がネットに出ていました。それは騙される側の人が診察してもらうために病院に行くと、待合室の人みんなが裸という状況を作り、その状況に遭遇したら騙される側の人はどうするかという番組だったようです。その結果、診察に来た人の中には騙す側の人のまねをして裸になってしまった人がいるというのです。人は意識して常に考え、行動し続けないと、自分というものをしっかり持てなくなってしまうことがあるようです。

【ハーディング効果がもたらす購買意欲】

さて、このハーディング効果は古くから人々の購買意欲をかき立てる手法として利用されてきました。例えばレストランで行列ができていると、それを見ただけで、そのレストランは美味しいに違いないと判断され、行列が行列をつくるという状況になることが挙げられます。このことを踏まえて、レストランで表に椅子を並べるという作戦があります。そうすることにより「当店は行列ができる店です」という見せ方ができ、集客につながるという作戦です。

またハーディング効果の活用例として、数量限定版のように、あえて販売点数を絞り込むことにより、人だかりを作るというものがあります。あるゲーム会社では新機種を市場に投入する際に供給量を抑えるということがあるようです。ジャニーズ等の限定版のCD・DVDとかもこれに当たるのでしょうか。

 最近だとイトーヨーカドーの鈴木敏文氏が行動経済学の本を出しているなど、小売業を営んでいる人はある程度抑えておくべき内容なのかもしれません。一方で消費者側の立場としてみると行動経済学に基づいて店舗側が売上を拡大するために特定の作戦を行っていると判断できるようになっておくと買い物をする際の面白みが増すような気がします。

 (参考文献 行動経済学の基本がわかる本)

クロスマーチャンダイジング

クロスマーチャンダイジングに関して記載します。

【クロスマーチャンダイジングとは】

クロスマーチャンダイジングとは、カテゴリーにこだわらず関連商品を併せて陳列することにより、売上の拡大を図る販売手法のことを言います。従来では単品で陳列されている商品を、特定の生活のテーマに沿って関連商品を含めた品揃えと演出で販売することです。全ての生活テーマは単品を買うだけで終わるわけではなく、多様な商品のコーディネイトによって対応しなければならないという考え方で、その要請に応じるのがこのクロスマーチャンダイジングとなります。

【クロスマーチャンダイジングの例】

 例としては様々あります。「焼き肉と焼き肉のタレ」「タバスコを調味料コーナーとピザ・パスタコーナーへ陳列」「胃腸の働きを良くして健康的な肌を保つという観点から、胃腸薬を薬売場とともに化粧品売場に陳列」「イチゴの平台にコンデンスミルクを陳列」などなど。また、通路を挟んで「鍋物」に関連する商品をレイアウトすることにより、お客様が献立をイメージしやすくする方法も取られたりします。

【クロスマーチャンダイジングの効果】

 実際にこのようなクロスマーチャンダイジングの実践には売上効果も出ているようです。日清オイリオがPOSデータを分析し、ごま油とレトルトのおかゆを一緒に購入しているお客様がいることに着目し、ライフコーポレーションにクロスマーチャンダイジングを提案しました。ライフコーポレーションでは「中華風のおかゆに商機がある」とみて、七草粥にあわせたクロスマーチャンダイジングを実施し、売場の関連商品を販売量が前年比2倍以上に伸びたと言います。

【クロスマーチャンダイジングの壁】

このクロスマーチャンダイジング、お客様から見たら自分が商品をまとめて選べるので便利ですし、小売業側から見れば客単価も上がるでしょうから、いいことづくめでどんどん実践されてもいいのではないかというと、そう一筋縄ではいかない部分があります。まず、小売店においては商品のカテゴリー別に取り扱う商品の担当者が異なります。つまり商品別に縦割りの組織になっているわけです。例えば鍋を軸としてクロスマーチャンダイジングを行おうと思った場合、鍋で使う野菜は生鮮品の担当でポン酢は加工食品の担当、といった感じで担当が異なり、双方がコミュニケーションを取りながら、商品陳列や演出を行っていかなければなりません。もう一つ、クロスマーチャンダイジングが困難になる理由として売場の維持管理に手間がかかるということが挙げられます。商品が在庫切れになった場合、担当外の商品を補充する必要が出てきます。そうなると商品補充に手間と時間がかかるわけで、どうしてもクロスマーチャンダイジングを行っている売場の整備が後回しになってしまうという傾向が出てくるようです。

 店舗の運営を行うにあたって、いろいろな理論がありますが、その実施というのは過去からの慣習や組織上の問題で実施できたりできなかったりといろいろとあります。小売業はこのせめぎ合いの中で自己変革し自店の付加価値を高めていくことが求められているのだと思います。

コンビニが抱える後継者問題

コンビニが抱える後継者問題に関して記載します。

 日本社会の高齢化が進む中で、例えば商店街においては、「経営者の高齢化による後継者難」が、商店街の抱える大きな問題として考える人が、51.3%と非常に大きな割合を占めているということがアンケート結果からわかっています。コンビニにおいては若いアルバイトの方がレジのところにいたり、品出しをしたりしている光景をよく見るので、高齢化に伴う後継者問題という意識をすることはそれほどありませんでした。ところが、このコンビニにおいても後継者問題があるようなのです。

そもそも、コンビニの経営者は非常に激務のようです。早朝5時頃からお客様の来店が始まり、10時ごろまで出勤前のサラリーマン・OLの来店が続きます。お昼需要のお客様の来店ピークがやってきた後、比較的落ち着いた昼下がりが過ぎて、学校帰りの中学・高校生の来店が始まります。夜の時間は会社帰りのサラリーマン・OLの来店が増えてきます。このような一日の流れの中で接客対応だけでも朝の5時頃から23時ごろまで行う必要がありますが、コンビニ経営者にはそれに加えて商品の発注・納品業務もあります。通常は深夜時間に納品・品出し業務を行っていますから、夜遅くまで業務を行う必要があります。通常のコンビニ経営者は夫婦2人で勤務していますので、接客や納品・品出しなどの業務を行うために、夫婦2人で勤務時間をずらして対応を行っているようです。信頼できるアルバイトが見つからない場合は、金銭トラブルを防ぐためにも、夫婦のうちどちらか1名が必ず店内にいるようなシフトになってくるのです。このようにコンビニ経営は非常に激務のようなのです。

コンビニの加盟店が増加した時期は1980年~2000年ですが、このころ脱サラして店舗をオープンしたとしても、そういったコンビニ経営者も今では高齢になっています。コンビニの経営は上記に記載したように非常に体力的に厳しいものがあります。経営者の中には「もう経営しなくてもよいか」と考える人が増え始めます。これによって経営者が大量に退職し、店舗の経営者が足らなくなってくるのです。また、コンビニ経営者の子どもが店舗を引き継ぐということもあるようですが、激務を知っている親が継がせたがらないということもあるようです。

チェーン本部によっては後継者難による空き店舗を「直営店」として運営していくことを考えているところもあるようです。しかしながら、直営店の比率が高まると、チェーン本部の営業利益率はコスト増により、悪化してしまいます。

 日本社会で進む高齢化は普段は意識していないようなところでも着実に進行しているということでしょう。

 (参考資料:『平成21年商店街実態調査報告書』『コンビニのしくみ』)

日本人の消費スタイルの変化

日本人の消費スタイルの変化に関して記載します。

 時系列で消費スタイルを見てみると、自分が気に入った付加価値には対価を払うという消費スタイルを取る人の割合が年々増えてきています。それに対して、製品のこだわりはなく、安ければよいという消費スタイルをとる人は年々減ってきています。

 日本が成熟した社会となることによって、自分が購入するモノに対して、こだわりを持つ傾向が強くなってきているということの表れだと思われます。安くても必要のないものは必要ないですし、3種の神器のようにご近所が持っているから自分も持たないといけないというモノも特にありません。自分の価値観にあうモノが求められているということでしょう。

ドミナント戦略

本日はドミナント戦略に関して記載します。

【ドミナント戦略とは】

ドミナント戦略とは主にチェーン展開している店舗の出店施策の一つで、単独で店舗を出店するのではなく複数の店舗を近隣に出店させる戦略です。よくコンビニの出店戦略でこのドミナント戦略が聞かれると思いますが、セブン-イレブンでは1号店が豊洲(東京都江東区)にできた後、ドミナント戦略を実施するために出店地域を江東区以外に許さなかったと言います。

【ドミナント戦略のメリット】

このドミナント戦略を取るメリットの一つに、単独で出店するのに比べてお客様のチェーンに対する認知度が向上するというものがあります。単独で出店すると周囲の競合店にイメージで負けてしまうことがありますが、複数店舗で出店を行えば「この地域には○○店が多い」と認識してもらえ認知度を上げることができます。二つ目のメリットとして、特定地区を面で制圧することになるので、競合店の出店を抑制できるという効果もあります。特定地域内を制圧するために必ず押さえなければならない場所(例えば交通量の多い道路の交差点の角地、主要ターミナル駅の駅前立地等)があります。ここを押さえられてしまうと、地区の大半の売上・客数がとられてしまうであろう重要な地域です。この地域を含めて重要な立地を同一チェーンで押さえることで、その地区を制圧することができます。なんとなくイメージとしてはオセロの角地を押さえる感じに近いでしょうか。3番目のメリットとして、機動的・効率的な物流網の実現ができるということがあります。ドミナント戦略で複数の店舗を出店すると、必然的に店舗間の距離が短くなり、配送トラックが効率的に商品を配送することができます。トラックで商品を運搬している最中は1銭も稼げませんが、店舗に商品を並べれば売上を嵩上げしていくことができる可能性が高まります。

【配送トラックの効率化:ミルクラン】

また、このような動きの中で、ちょっと話はずれますが、ミルクラン(巡回集荷)と呼ばれるように、配送トラックの動きの効率化を図っていることもポイントです(ミルクラン:牛乳業者が酪農家の間を回って牛乳を引き取っていく様になぞらえた用語)。例えば商品配送センターと3か所あるお店との間を1日1回、3往復していたものを、1回で運ぶ量を3分の1にして、その分3か所の荷物を一緒に運んで、1か所ずつ降ろして回るようにすれば、いっぺんに3か所回ることができます。

ドミナント戦略には様々なメリットがある一方で、デメリットとして売上を共食いしてしまうということがあるようです。デメリットもあるでしょうけれど、コンビニなどのドミナント戦略をみているとメリットの方が大きいように感じます。一つの地域に集中して出店していく、それにより地域でNo.1になっていくということが戦略として有効であるということだと感じます。

 (参考文献 コンビニのしくみ)

左回りの法則

「人間左回りの法則」に関して記載します。

マーケティングの世界では「人間左回りの法則」と呼ばれ、店舗などの導線は反時計回りの「左回りが良い」と言われています。アメリカにおいては1990年代からこの人間工学に基づく「人間左回りの法則」が導入され、主導線を左回りにするところが多いです。確かに、身近な例でいくと、コンビニやスーパーにおいて左回りで導線がひかれているところが多いです。コンビニでは店に入ってすぐに右側に来店目的度が高い雑誌が陳列され、そのまま壁沿いにソフトドリンク・お酒・ファストフード商品が陳列されていて、外周の通路を周遊するような商品配置になっているところが多いと思います。

90%強の人が、右目が効き目なので、右側の壁面に視線が向くようです。そのため、右側の商品に関心が向きやすく、商品を手に取りやすいです。また、右利きの人は買い物かごを左手で持ち、右手で商品を取るので、左回りに歩くと買い物かごが棚にぶつからず買い物しやすいということもあります。

ある店舗では、導線を右回りから左回りに変えただけで、売上が10%伸びた店もあるとのことです。一定の効果のある戦術ということでしょう。

 普通に生活する中でも、この左回り、よく見受けられるもので、野球のベース、学校の運動場のトラックなども左回りです。左回りは子どものころから無意識に落とし込まれているものなのかもしれません。

 一方であえて右回りの配置にしているものもあります。まずはお化け屋敷やミステリーツアー。これはあえて右回りにすることによって“違和感”“気持ち悪さ”を演出しているようです。また、ディズニーランドもあえて右回りの配置にしているようです。ディズニーランドは東側に過去をイメージさせるアドベンチャーランド(ジャングルの奥地の世界)・ウエスタンランド(19世紀開拓時代の西部)があり、反対の西側には未来をイメージさせるトゥモローランド(宇宙と未来の世界)を思わせるテーマランドがあります。そして北側にはファンタジーランド(白雪姫・プーさんなどに出会える童話の世界)やトゥーンランド(ディズニーのキャラクターが住む街)となっていて、ここは空想世界(現在)という配置になっているそうです。このようにディズニーランドは“過去→現在→未来”とあえて右回りの配置を取っているようです。この理由としては配置を右回りにすることによって混雑を緩和することが狙いのようなのです。

コンビニやスーパーはワンウェイコントロールを意識しつつ人間工学的な観点からの店内レイアウトを行っているので、どこも似たような店内レイアウトになっているように見えますが、その考え方は奥深いものがあると思います。普段意識して見ないと気付かないことですが、各店、店内レイアウトによって顧客滞留時間をいかに伸ばしていくかという工夫がされているということだと思います。

損失回避型の消費行動の高まり

「損失回避型の消費行動の高まり」に関して記載します。

インターネット上に大量の情報が流れ、消費者は商品を購入する前にインターネットで商品情報やユーザー評価を確認するようになってきました。昨今ではその延長線上に「商品を購入する前に、お金を払ってもよいから、その商品・サービスを実際に試してみたい」という考えから、試用サービスにお金をかけるという消費行動が見られるようになってきました。

ビューティー・トレンド・ジャパンという会社があるのですが、この会社、月額1,575円で毎月自宅に4~5種類の様々な高級コスメのサンプリングが入った小さな箱「グロッシーボックス」を届けています。会員登録時に自身のプロファイルを作成すると、それぞれの肌質や好みに合ったサンプルが届きます。また、気に入ったコスメがあればブランドサイトに飛んで、本体商品も購入できる仕組みとなっています。この「グロッシーボックス」、大変人気なようで、商業的な販促活動を行わず口コミの効果で、2013年6月段階で5万3000人の登録会員を獲得しています。また、これまでに国内外220以上の化粧品ブランドが試供品を提供しているそうで、その数も非常に豊富だと思います。このような試用サービスは化粧品以外にもありまして、「おかりなレンタル」ではキッチン家電やお掃除ロボットなど、家電製品のレンタルを行っています。種類は限られていましたが、ガイガーカウンターやカラオケのレンタルまでありました。比較的高額な家電製品。購入前に実際に自宅で機器を使えることには便利さがあるのでしょう。

 上記のようにサンプルを購入したり商品をレンタルしたりして、購入前に商品の内容を確認するという消費行動が出てきています。これは「事前に調べれば、後悔しないで済む」という意識が普及してきているということが言えます。言い換えると、消費について「失敗を恐れる」傾向が高まってきているということです。消費者の意識の中に、事前によく調べずに購入してから、もっとよい商品やよい買い方があったはずなのに、と後悔したくない意識が強くなってきているようです。消費者が買い物をする際に正解を求める傾向になってきているということでしょう。

 一方で、購入前によく調べて「確認・納得」した上で商品を購入するようになった背景には、生活者の品質やライフスタイルへのこだわりの高まりも要因としてあるようです。「多少高くても品質の良いものを買う」という割合が増える一方で、「とにかく安くて経済的なものを買う」という消費者は減っているそうです。インターネットだけでは、買おうと思っている商品・サービスが自分に合っているとは限りません。そのような中、リアル店舗で実物を買いたいという人が68%にも及ぶという結果が出ています。

 消費者は“失敗がなく”“自分に合った”商品・サービスを求めるようになってきました。現在は情報過多の中で消費者が商品・サービスを選択するということ自体、難しくなっている時代だと言えます。それを踏まえた上でのマーケティングも必要となってくると思われます。

 (参考文献 なぜ、日本人はモノを買わないのか?)