家具・インテリア・生活雑貨店の現状

本日は家具・インテリア・生活雑貨店の現状に関して記載します。

【新設住宅着工戸数から見る、家具・インテリア業界】

家具の買い替え需要を生み出すために、家具市場の先行指標として注目される「新設住宅着工戸数」を見ると、その数が増加しており、家具・インテリア業界に回復の兆しがみられると言います。国土交通省が2014年1月31日に発表した2013年の新設住宅着工戸数は、前年比11.0%増の98万25戸となっていて、前年比は4年連続で増加しています。新設住宅着工戸数は少子高齢化に伴う人口減少で長期的に見ると減少していくことが想定されますが、過去1996年度1,630千戸、2006年度1,285千戸、2010年度819千戸と減少が続いてきたことを踏まえれば、近年の新設住宅着工戸数の増加は家具・インテリア業界にとって明るい話題です。

しかし、このような環境下にあるものの、SPAモデルで低価格を訴求してきたニトリHDやIKEAといった大手企業は拡大する一方、中小家具店・メーカーなどは苦戦を強いられていると言います。

【円高に伴う対応】

ニトリでは例年約3割の商品を入れ替えるそうですが、2013年度は6割以上の商品を見直しています。例えば、主力商品であるソファの中心価格を4万9,900円から5万9,900円(消費増税前の税込み価格)へと切り上げを行っています。ニトリは商品の改廃を積極的に進め、高単価かつ機能性のある商品の拡充を図っているのです。大塚家具についても輸入品の値上げを実施するなど収益確保の動きを活発化しています。

【生活雑貨系の店舗に関して】

生活雑貨系では「無印良品」を展開する良品計画、東急ハンズ、ロフト、「フランフラン」主体のバルスなど多くの企業が参入していると同時に、オリジナル商品の開発や幅広い品揃えなど各社でそれぞれの強みを持っています。生活雑貨は、総合スーパーや個人店でも販売されていることから厳しい競合環境にあります。各社の強みを活かして他社と差別化し、ブランドや商品価値を訴求していくことが重要となってきます。

長いデフレを経験した消費者に対して、円安や消費増税を受けて、単純に価格を上げるのではなく、価値を伴った商品を販売していくことが、利益を上げていくためには、必要なのでしょう。

【参考 家具・インテリア・生活雑貨店各社の現状】

■家具主体

・IKEA(家具世界1位)売上高3兆5,916億円 営業利益4,526億円

…日本では6店舗、売上高674億円

・ニトリHD(家具チェーンの国内最大手)売上高3,487億円 営業利益615億円

・ナフコ(西日本地盤)売上高2,241億円 営業利益112億円

・島忠(家具・インテリア雑貨・ホームセンターを展開)売上高1,594億円 営業利益136億円

・大塚家具(中高級品、輸入品に強み)売上高545億円 営業利益11億円

・東京インテリア家具(東日本中心に展開)売上高418億円

・ミサワ(20~30代女性主要顧客)売上高51億円 営業利益3.8億円

※家具世界1位のイケアや家具国内1位のニトリHDの店舗に行って感じたことは、売場レイアウトでワンウェイコントロールがしっかりとなされていると思いました。価値ある商品を低価格で提供するイメージの強い両社ですが売場レイアウトも工夫が凝らされているように感じます。

※ミサワは「unico」ブランドの雑貨店を展開しています。若い女性に人気があり、2013年にはルミネ新宿やあべのハルカスなど人気の商業施設に次々と出店しています。

■雑貨主体

・良品計画(無印良品)売上高1,883億円 営業利益183億円

・ロフト(セブン&アイグループ)売上高861億円 営業利益22億円

・東急ハンズ(東急不動産グループ)売上高828億円 営業利益8.6億円

・サザビーリーグ(「アフタヌーンティー」など展開)売上高877億円

・パスポート(首都圏中心に雑貨専門店を展開)売上高135億円 営業利益4.6億円

・バルス(「フランフラン」が主力)店舗数156

・スタイリングライフHDプラザスタイルカンパニー 店舗数:プラザ77店 その他52店

(参考文献 会社四季報業界地図2014年版)

アパレルメーカーの現状

本日は量販・百貨店販路の縮小が進むアパレルメーカーの現状に関して記載します。

【アパレルメーカーを取り巻く環境変化】

アパレルメーカーは婦人服・紳士服・子ども服などの幅広い商品を手掛ける総合力で、戦後、アパレル業界の成長を牽引してきました。しかしながら、1990年代以降になるとユニクロなどの低価格専門店が拡大してきた影響もあり、1世帯当たりの衣料品関連支出は右肩下がり。それとともにアパレルメーカーが主販路とする百貨店や量販店での販売規模は縮小していきました。2012年の衣料品市場の販路別シェアを見てみると、専門店58.2%(前年比1.2%増)、百貨店28.3%(0.7%減)、スーパー13.5%(0.4%減)と、その割合は専門店が1/2以上を占めている状況になっています。

【アパレルメーカー再編】

上記のような厳しい環境下でアパレルメーカーの再編が起こっています。かつて業界首位だったレナウンは2010年に中国の如意グループの出資を受けていました。これにより中国事業の拡大を目指したのですが苦戦を強いられます。そして2013年には如意グループの出資比率が41%から53%となり、レナウンは同グループの連結子会社になりました。2011年には東京スタイルとサンエー・インターナショナルが経営統合。TSIホールディングスが誕生し、不採算ブランドの撤退と新規チャネルへの種まきを積極的に進めています。

【今後の成長へ向けた新規チャネルの育成】

TSIホールディングスが新規チャネルへの種まきを行っているように、今後の成長のカギとして新規チャネルの育成に取り組む企業が出てきています。1990年代にいち早くSPA路線に舵を切ったワールドは、すでにファッションビルやSC向けブランドの直営店展開が主力となっています。また、ワコールも20~30代半ばのOLをターゲットとしたSPA型ブランドショップ「アンフィ」の出店を拡大。東京メトロ表参道校内のエチカなど全国68店舗に展開し(2013年3月現在)、2012年の売上高は71億6,600万円と前年比118%と成長を遂げています。

最近ではコト消費に対応してライフスタイル提案型ブランドも登場しています(ライフスタイル提案型ブランド:衣料品に限らず、生活雑貨や食品等を取りそろえ、衣食住での総合的な提案を行うブランド。カフェなど飲食を提供する店舗を持つものもあります)。2009年に千駄ヶ谷に日本1号店を出店した「ロンハーマン」はメンズ・ウィメンズ・キッズのウェア、アクセサリーや雑貨など、オリジナルブランドをはじめ、カジュアルからラグジュアリーまで商品を展開。セレクトショップ業界最大手のビームスは2012年に新業態「B:MING LIFE STORE(ビーミング ライフストア)」を立ち上げ、メンズ、ウィメンズはもとより、キッズ、ベビーまでカバー。アパレルショップとして知られている「トミーバハマ」の銀座店は街路に面してバーカウンターを設置しています。売られている商品がジャンルで区切っているのではなく、世界観やコンセプトによってセレクトされているということに特徴があります。

アパレルメーカーのSPA化やライフスタイル提案型ブランドの登場は既存の小売店との競争が発生することが容易に想定されます。今後、小売店とアパレルメーカーの業種を超えた競争も増していきそうな気もします。

【参考 アパレルメーカー各社に関して】

■百貨店主力の総合アパレル

・オンワードホールディングス(23区、組曲、ICB、五大陸など) 売上高2,583億円 営業利益111億円

・三陽商会(BURBERRRYをライセンス販売。EPOCA、Paul Stuart) 売上高1,076億円 営業利益58億円

・イトキン(HIROKO KOSHINO、MICHEL KLEIN) 売上高1,099億円 営業利益6.5億円

・ファイブフォックス(COMME CA DU MODE) 売上高993億円

・ラピーヌ(LAPINE BLANCHE、Pierre Cardin) 売上高111億円 営業利益2.2億円

・レナウン(如意グループ)(D’URBAN、INTERMEZZO、SIMPLE LIFE) 売上高761億円 営業利益▲5.1億円

■ファッションビル、SC主力の総合アパレル

・ワールド(UNTITLED、HusHusH、TAKEO KIKUCHI) 売上高3,364億円 営業利益71億円

・サンエー・インターナショナル(TSIホールディングス)(NATURAL BEAUTY、FREE’S SHOP) 売上高1,028億円 営業利益7.0億円

・東京スタイル(TSIホールディングス)(22 OCTOBRE) 売上高826億円 営業利益▲21億円

■下着・靴下

・ワコールホールディングス(傘下に通販PEACH JOHN) 売上高1,771億円 営業利益80億円

・福助(足袋、ストッキング等 豊田通商傘下) 売上高267億円 営業利益2.0億円

・グンゼ(紳士肌着首位) 売上高1,323億円 営業利益17億円

・ナイガイ(靴下・ストッキングの老舗) 売上高173億円 営業利益0億円

■デザイナーズブランド

・コムデギャルソン(川久保玲、渡辺淳弥)売上高150億円

・エイ・ネット(三宅デザイン事務所)(TSUMORI CHISATO、ZUCCa) 売上高187億円

・イッセイミヤケ(三宅デザイン事務所)(ISSEY MIYAKE)売上高115億円

・ヨウジヤマモト(Y’s、Yohji Yamamoto):2009年に民事再生法の適用申請、投資会社の支援下で再出発

(参考文献 会社四季報業界地図2014年版)

衣料専門店の現状

本日は衣料専門店の現状に関して記載します。

【衣料専門店:市場の低迷と競争激化】

アパレル小売市場は2008年に市場規模が10兆円を割り込んだ後も低迷が続いています。好調のイメージの強いSPAに関しても、製販一体による機動的な商品企画・投入による回転率と粗利の高さはいまだ健在のようですが、競合との同質化や過当競争に悩むブランドが増えていると言います。またH&MやZARAなどの海外ファッション勢が日本での出店エリアの拡大や別業態での上陸を着実に進めてきていることにより(H&M 2013年に関西初出店、ZARA インテリア業態でZARAHOMEを出店)、国内外企業間での競争も激化してきています。

【円安に伴う影響】

2012年末からの円安も衣料専門店に大きな影響を与えています。1年足らずで1ドルが80円から100円台になったことによって、中国など海外からの調達に依存する専門店にとって、そのことが大きな利幅圧縮要因となったのです。しまむらは2014年2月期の決算で、営業利益が前年同期比▲8.1%の418億円と5期ぶりの減益に転落してしまいました。

更にこの円安に加え中国での労務費高騰も海外からの商品調達コストを引き上げています。

この状況に対応すべく、各社はASEANやバングラデシュなど、より賃金の低い地域に生産移転を進めています。

【ワンランク上の商品展開へ】

より賃金の低い地域に生産移転を進める一方で、各社は相次いでワンランク上の商品の拡充を図っています。

しまむらは2014年2月から新疆綿やプラチナコットンなど肌触りのよい上質な素材を使用したPB「クロッシー」を展開。480円や980円の価格が定番だったTシャツで、1480円と1000円以上の価格帯での展開に踏み切りました。

ユニクロでは2013年秋冬商戦で高級素材のシルクやカシミヤを使用した高単価商品の展開をスタートさせました。主力商品のヒートテックでは通常より1.5倍暖かく単価も1.5倍する「エクストラウォーム」を新たに開発。2014年春からはフランスのファッションアイコンとして知られるイネス・ド・ラ・フレサンジュとのコラボレーションコレクションを展開。商品単価の引き上げを始めています。

商品単価の引き上げにはリスクも伴っています。レディスカジュアルのSPAハニーズは2013年秋にジャケットなどの単価を500円引き上げました。その結果、客数は10%以上減。値引き処分を余儀なくされてしまいました。消費者が商品の価値をしっかりと見極めるようになってきていますので、素材やデザイン、機能性などの付加価値を向上させることによって、粗利を確保できるようにしていかなければならないということです。

このことは衣料専門店に限らないようにも感じられます。

【参考:世界の衣料専門店チェーンランキング(2012年度)】

1位 インデックス(スペイン) 売上高2兆729億円 主要ブランド「ZARA」

2位 へネス&マウリッツ(スウェーデン) 売上高1兆8,119億円 主要ブランド「H&M」

3位 ギャップ(アメリカ) 売上高1兆4,868億円 主要ブランド「GAP」

4位 リミテッドブランズ(アメリカ) 売上高9,936億円 主要ブランド「Victoria’s Secret」

5位 ファーストリテイリング(日本) 売上高9,286億円 主要ブランド「ユニクロ」

6位 ネクスト(イギリス) 売上高5,322億円 主要ブランド「next」

7位 プライマーク(イギリス) 売上高5,254億円 主要ブランド「Primark」

8位 しまむら(日本) 売上高4,920億円 主要ブランド「ファッションセンターしまむら」

9位 アバクロンビー&フィッチ(アメリカ) 売上高4,285億円 主要ブランド「Abercrombie & Fitch」

10位 アルカディアグループ(イギリス) 売上高4,018億円 主要ブランド「TOPSHOP」

インデックスが2兆円、へネス&マウリッツ、ギャップが1兆円を超える売上高を誇っています。日本のカジュアルSPA、No1のファーストリテイリングの売上高は9,286億円とインデックスと比較すると1/4ほどとなっており、グローバル競争の激しさが伺えます。

【参考:衣料専門店各社の売上高・営業利益に関して】

■カジュアルSPAの会社

・ファーストリテイリング(ユニクロ、GU) 売上高9,286億円 営業利益1,264億円

・ポイント(LOWRYS FARM、GLOBAL WORK) 売上高1,216億円 営業利益97億円

・パル(Ciaopanic、GALLARDA GALANTE) 売上高924億円 営業利益75億円

・クロスカンパニー(earth music&ecology) 売上高639億円

・ハニーズ(Honeys) 売上高619億円 営業利益47億円

■紳士服チェーン

・青山商事(洋服の青山、THE SUIT COMPANY) 売上高2,124億円 営業利益212億円

・AOKIホールディングス(AOKI、ORIHICA) 売上高1,605億円 営業利益170億円

・コナカ(コナカ、SUIT SELECT) 売上高659億円 営業利益42億円

・はるやま商事(はるやま、P.S.FA、フォーエル) 売上高523億円 営業利益28億円

■セレクトショップ

・ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS、green label relaxing) 売上高1,150億円 営業利益125億円

・ベイクルーズグループ(JOURNAL SANDARD) 売上高643億円

・ビームス(BEAMS) 売上高551億円

・トゥモローランド(TOMORROWLAND) 売上高413億円

■ジーンズカジュアル

・ライトオン(Right-on、FLASH REPORT) 売上高853億円 営業利益39億円

・マックハウス(Mac-House、Blueberry) 売上高386億円 営業利益27億円

・ジーンズメイト(JEANS MATE、ワケあり本舗) 売上高109億円 営業利益▲1.5億円

ファーストリテイリングの売上高・営業利益の大きさが国内の衣料専門店他社と比較するとわかります。

(参考文献 会社四季報業界地図2014年版 週刊東洋経済2014 4/26)

コンビニエンスストア業界の現状

本日はコンビニエンスストア業界の現状に関して記載します。

【コンビニ業界の状況】

国内コンビニエンスストアの店舗数の限界と言われた4万店を2012年に突破した後も、セブン-イレブンやファミリーマートを中心に出店競争が続いています。その中で既存店の売上高は厳しい状況にあります。そして、新規出店や商品開発を進める上位チェーンと体力のない中堅以下の格差が鮮明になってきています。

【セブン-イレブンに関して】

セブン-イレブンはパウチ惣菜など使い切りサイズの品揃えを厚くして、高齢者や単身者の支持を得ています。また、2013年に淹れたてコーヒーを導入し、一部ファストフード店の顧客を奪って業態を超えた顧客の争奪戦となりました。出店数を加速させており、2012年度に1350店、2013年度に1500店と出店しています。

【ローソンに関して】

2013年10月にローソンはキャッチコピーを「マチの健康ステーション」へ変更し、高齢化による顧客の健康志向が今後増すことを想定し、「健康に配慮した商品ならローソン」を連想させるような店づくりを進めています。2013年にローソン初の直営調剤薬局併設店、ローソンホーム薬局蒲田店がオープン。在宅介護を受けている人に薬の出張調剤を行っています。その中で宅配する薬と一緒にコンビニのお菓子を持っていくこともあるそうです。東京都大田区にある久が原一丁目店では、無料で使えるタニタの業務用体組成計を設置し、顧客の定期的な来店を促しています。その他、野菜販売の拡大、医薬品の販売に取り組み、健康をテーマとした店づくりを試験的に行っています。

【ファミリーマートに関して】

ファミリーマートは2012年10月に新PBの「FamilyMart collection」を立ち上げ、品揃えの幅を拡大。高質な商品を開発し、価格よりも質を重視した戦略を採っています。また国内の新規出店においては地方都市や駅ナカを中心に展開。2012年に大阪市営地下鉄の駅構内に2012年開店したり、2013年に近畿日本鉄道と駅ナカ売店・コンビニ事業について業務提携し、近鉄の駅ナカ売店等をファミリーマート店舗に順次転換していくことに基本合意したりしています。

【コンビニの大量出店に伴って】

コンビニが大量出店するのに伴って、加盟店オーナーが不足するという問題が発生しているようです。各チェーンとも一人のオーナーが複数の店舗を経営する「複数店経営」を推進しているようです。店舗の質を維持しつつ、大量出店を続けられるかは、各チェーンの対策にかかっています。

【参考:現在のコンビニエンスストア各社の状況】

コンビニ売上高1位はセブン-イレブン・ジャパン。チェーン全店売上高3兆5,084億円で、営業利益1,867億円とコンビニ業界では群を抜く利益水準となっています。全店平均日販は66.8万円とこちらも高水準。国内店舗数は1万5,072店です。

続く売上高2位はローソン。チェーン全店売上高は1兆9,065億円、営業利益662億円。全店平均日販54.7万円、国内店舗数は1万1,130店となっています。

3位は伊藤忠系のファミリーマート。チェーン全店売上高は1兆5,845億円、営業利益431億円、全店平均日販52.3万円、国内店舗数は9,481店となっています。前述のように鉄道10社(西武・東武・京成などとも提携)と駅売店で提携し駅ナカでも強みを見せています。

4位はユニーグループ・ホールディングスの完全子会社、サークルKサンクス。チェーン全店売上高8,788億円、営業利益182億円、全店平均日販46.7万円、国内店舗数6,242店となっています。

5位はイオンが54%出資する、ファストフードに特色のあるミニストップ。チェーン全店売上高、3,526億円、営業利益50億円、全店平均日販46.5万円、国内店舗数2,192店となっています。イオンとの連携を強化し、惣菜や日配品を拡大しています。

その他のコンビニとして、神奈川など首都圏を中心に展開するスリーエフ(チェーン全店売上高977億円、営業利益0.5億円)、北海道を中心に展開するセイコーマート(チェーン全店売上高1,846億円、営業利益17億円)、広島が地盤のポプラ(チェーン全店売上高868億円、営業利益2.1億円)、2013年7月に山崎製パンが吸収合併したデイリーヤマザキ(チェーン全店売上高2,256億円、営業利益▲6.9億円)、中部・近畿を中心に展開するココストア(チェーン全店売上高1,089億円)などあります。

コンビニ業界においても他業態との競争が激化しています。例えば2014年からアマゾンが自社で酒販売を開始するなど、ネット企業が食品・飲料分野での販売を拡大しています。今後、ネット企業を含め、縮小する国内市場のパイの奪い合いが激化してくることが想定されます。

(参考文献 会社四季報2014年版業界地図 週刊東洋経済2014 4/26)

スーパーマーケット業界の現状

本日はスーパーマーケット業界の現状に関して記載します。

【厳しい状況の続くスーパーマーケット業界】

アベノミクスによる売上の嵩上げ効果があった中においても、スーパーマーケット業界は他業態からの攻勢を受けて厳しい状況に置かれていました。震災後、買いだめの特需があり、2011年に売上が上昇に転じたものの、特需が一巡した後は再び減少基調になりました。既存店の売上高は16年連続で減少しています。

上記の要因として、ユニクロのようなファストファッションの台頭が挙げられます。スーパーの稼ぎ頭は粗利益率30%内外の衣料品ですが、この分野の売上がファストファッションという低価格の衣料専門店に浸食されたのです。このことに対応すべく各社は衣料品売場を縮小し、利益率の低い食品売場を拡張し、売上・利益の確保を図ろうとしました。ところが、医薬品の高い利益率を背景とした採算を度外視したドラッグストアの食品販売の拡大やコンビニの大量出店により、食品事業自体が圧迫されてしまいました。

そして、この状況に対応すべくスーパー各社は、出店強化、PBの拡大、合従連衡によるスケールメリットの追求で対抗してきているのです。

【スーパー再編の波】

上記のような厳しい状況の中、生き残りをかけてスーパー再編が行われています。2013年4月には原信ナルスHDとフレッセイHDが経営統合。この統合により、両社の資産とノウハウの共有や人材・組織能力の強化、事業基盤の拡大を図っています。また、同年同月イオンはJフロントリテイリングからピーコックストアを買収。ダイエーも子会社化しています。そしてイトーヨーカ堂も2013年8月に北海道の食品スーパー、ダイイチへ出資をしています。このようにスーパーマーケット業界は続々と合従連衡によるスケールメリットの拡大を図ってきています。

【新業態:都市型ミニスーパー】

コンビニやドラッグストアなどの攻勢に防戦一方だったスーパーマーケット業界ですが、都市型スーパーの新業態「都市型ミニスーパー」で反攻策に打って出ています。東京都心部で出店を続けるイオンの「まいばすけっと」は2013年2月に店舗数が500を超え、2013年度は運営会社が黒字転換しました。都市型ミニスーパーの先駆けであるマルエツが手掛ける「マルエツプチ」は現在56店舗を出店しており、同社の基幹業態の一つとなっています。特徴は豊富な品揃えで、品目数4000~1万。2000~3000のコンビニや他ミニスーパーをしのぎます。棚の高さを通常のスーパーが1.6メートル(5~6段)のところ、マルエツプチでは1.9メートルで最大9段にし、商品の絞り込みよりも品揃えを優先し、売上の嵩上げを狙っています。「都市型ミニスーパー」の都心部での展開が加速しており、まいばすけっとやマルエツプチ以外にも、ユニーのミニピアゴやイトーヨーカ堂の食品館などが都市型の小型スーパーを展開しています。

少子高齢化が進む中、首都圏においては人口の増加が見込まれています。そのために今まで他エリアで展開していたスーパーも首都圏進出を進めているようです。

【参考:現状のスーパー各社の状況】

売上高1位はイオンで、売上高5兆6,853億円、営業利益1,909億円。それにセブン&アイホールディングスが、売上高4兆9,916億円、営業利益2,956億円で続きます。

ユニーグループ・ホールディングス、イズミヤ、フジが3社で共同商品開発をしています。

共同仕入れ機構としては、CGC(Olympic、原信、ナルス、フレッセイ、マミーマートなど)、ニチリウ(オークワ、サンエーなど)、八社会(相鉄ローゼン、東武ストアなど)、オール日本スーパーマーケット協会(天満屋ストア、マルヨシセンター、ヤマナカなど)があります。外資系は、ウォルマート・ジャパン・ホールディングス(西友:売上高7,387億円)やコストコがあり、カルフール(仏)やテスコ(英)は日本から撤退しています。

(参考文献 会社四季報2014年版業界地図 週刊東洋経済2014 4/26)

ダイレクトモデル

本日はダイレクトモデルに関して記載します。

【ダイレクトモデルとは】

ダイレクトモデルとは、従来産業バリューチェーンに存在していた間にあるチャネルをスキップして、直接最終顧客へ自社の商品やサービスを販売するビジネスモデルのことを言います。このビジネスモデルを採用している具体例とするとアスクルが挙げられます。

従来チャネルを通じて販売されていた商品・サービスを直接販売しますので、中間マージンやリベートが不要となります。それに伴って粗利が深くなることで低価格販売が可能になり、チャネルを通じて販売している競合と比較して価格的に優位に立つことができます。

このダイレクトモデルが採用されるようになってきた背景には、近年、インターネットの登場、ウェブEC技術の発達、CRM技術、コールセンター技術やその受託ビジネス、決済サービス、宅配サービスといった社会的な環境が整ってきたことにより、チャネルを介することなく最終顧客に販売することのハードルが低くなったことにあります。

【チャネルを介しての販売にないダイレクトモデルのメリット】

ダイレクトモデルではチャネル販売にはない利点が生まれます。

まず、個々の購買者の情報を直接収集することができるということです。この収集した情報を分析やプロモーションに活用することができます。また、顧客の声を収集して製品改良や新製品の開発に反映させたりすることもできるようになります。

ダイレクト販売ではリアル店舗のような空間的な制約もありません。よって、品揃えに制約を持たないことからロングテールでの売上確保も期待できます。

【アスクルとカウネット:過去の関係に縛られないメリット】

チャネルを支配している既存の事業者は、既存の売上をチャネルに依存していればいるほど、そのチャネルに対しての配慮をすることとなり、ダイレクトモデルを容易に採用することができません。コクヨはカウネットという名前でダイレクトモデルに参入していますが、それはアスクルから大きく遅れてのスタートでした。しかもチャネルへの配慮から卸と小売を二重に商流(商流:商品の流通において、物的な流れである物流に対し、受注・発注・出荷・在庫保管・販売管理など取引関係の流れ)に介在させるモデルとなっていて、中間マージンの排除という意味では不利なモデルを採用せざるを得ない状況となっているそうです。それに対して、アスクルは大きく頼る既存業者がなかったためにダイレクトモデルを採用することができました。このようにダイレクトモデルは新規参入に適したビジネスモデルと言えます。

〈参考〉

アスクル:商品点数、107,000点 1,000円以上で送料無料。

カウネット:商品点数、64,900点 1,500円以上で送料無料。

両社ともに、登録料・年会費無料。365日以内返品可。

(2011年データ)

【ダイレクトモデルのデメリット】

ダイレクトモデルではネットで他社との条件比較が容易になることや、ダイレクトモデルを好む顧客セグメントは価格感応度が高い傾向にあるので、価格と性能だけの勝負になる傾向にあると言います。ダイレクトモデルを採用すると既存のチャネルを介するモデルに対しては優位に立てますが、ダイレクトモデル同士の戦いになると価格競争に陥る危険性があります。

また、ECサーバーや出荷センター、コールセンターなどダイレクト独特の新たな業務が加わりますので、単純に中間のチャネルがなくなる代わりにリスクが発生する可能性が出てきます。例えば、ECによる取引は返品率が意外と高いようですので、そういった点は事前に織り込んでおく必要がありそうです。

既存企業の立場からすると、古くからあるチャネルとの関係性をどのように位置づけて、新規参入企業から市場シェアを奪われないようにしていくか、十分に検討することが必要そうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

ロングテールを実践するリアル店舗

本日はロングテールを実践するリアル店舗に関して記載します。

【ロングテールに関して】

従来、小売店では店舗面積や在庫コストなどの物理的な条件があるため、一部の人気商品が売上のほとんどを占める形になります。そのため、効率よく売れ筋商品を販売するためにPOSに頼った仕入れが行われるわけです。一方で、近年、アマゾンもビジネスモデルとして実践している“ロングテール”が注目を集めています。ロングテールとは売れ筋商品の売上数量はダントツに大きいけれども、死に筋商品は恐竜の長い尻尾のようにその売上数量が少なくなることを踏まえ、売れ筋商品だけでなく、死に筋商品も数多く揃え「何でも揃う場」を創造し、その結果、幅広い顧客層を獲得して、安定的な売上を得る手法です。このロングテールは店舗面積という物理的な制約がないeコマースの世界で成立することが一般的です。しかしながら、リアル店舗においてもこのロングテールのビジネスモデルを採っている企業もあります。

【ロングテール実践企業例】

■東急ハンズ

1976年に設立された東急不動産傘下の市街地立地型のホームセンターです。東急ハンズはDIYなどに適した資材や部材を中心にした多彩な品揃えで有名です。数多くのユニークな商品もそろっているので楽しく買い物ができる店です。豊富な商品を取り扱っているにもかかわらず、驚くべきことに、仕入れを行うにあたってPOSに頼っていないそうです。現場に裁量を持たせて「これはお客様に喜ばれる」「こういった商品がないかと問い合わせがあった」等の売場で拾い上げた情報を基にした仕入れを奨励しているのです。このことから同社は元祖ロングテールとも言われています。

■ハンズマン

ハンズマンは宮崎県に本社を持つホームセンターチェーンで、2013年3月現在、九州に11店舗展開しています。九州にしか店舗はないものの、「ズームイン!!SUPER」などの全国放送の番組で度々放送されていると言います。ハンズマンは1店舗あたり21万アイテムを品揃えしていて、1年に1個しか売れない商品が大半を占めているそうです。このような商品の多さが、ワンストップで購入したいプロや日曜大工などのユーザーの心を掴んでいると言います。また同社も東急ハンズと同様、POSを導入していません。1店舗当たり100名いる従業員が商品に接しながら、顧客の要望を反映した品揃えができるよう取り組んでいます。

■ダイシン百貨店

東京都大田区山王にある百貨店。近所に数シニア層の心を掴むため、売れ筋商品だけでなく死に筋商品も数多く取り揃え、取扱品目は約18万点に達します。「ポマード」「粉歯磨」「チリ紙」「ちりとり」「ハタキ」など、ここにしかない商品を取り揃え、近隣に住む良質なリピーターを集めることに成功しました。

ロングテールは消費者にワンストップショッピングの場を提供するためには重要な取り組みだと考えます。一方で店舗面積や在庫管理など物理的な条件を鑑みなければならないことも確かです。

(参考文献 図解&事例で学ぶビジネスモデルの教科書)

ウォルマート 土曜日早朝ミーティング

本日はウォルマートの土曜日早朝ミーティングに関して記載します。

【土曜日早朝ミーティング、スタート】

1962年、アーカンソー州ベンドンビル郊外の小さな小売店であったウォルマートの創業者サム・ウォルトンは、土曜日の早朝に従業員を店の事務所に集め、直近一週間の販売実績を見直させるようにしました。これをきっかけにウォルマートの運命が変わっていったと言います。

週末に作り上げる売上は大きなものであることから、サム・ウォルトンは毎週土曜日の早朝に店の事務所で、何が売れているのか、売れていないのか、前週と比べて今週の売上はどうなのか、ということを知るために、直近一週間の数字を見直していました。

そして、サム・ウォルトンは開店の表示を掲げる前にミーティングを開き、従業員全員に自分の調査結果を伝え、従業員の意見を求め、そしてどの品を特売に出すか、陳列でさらに目立たせるべき商品は何かを決めていきました。

【土曜日早朝ミーティングがもたらした成果】

土曜日早朝ミーティングでの大きな成果は、事業についての情報を全社員と共有できるということであり、そしてそれにより、従業員も店主意識を持つようになったということです。加えて、競合他社よりもスピーディーな対応ができたことです。

1970年代、安売り業界の最先端を行く企業はKマートで、ウォルマートの規模はKマートと比べるとその数分の一の規模でした。この中でウォルトンが競合できると考えたものがスピード面でした。当時、Kマートやシアーズといった競合店は地域オフィス方式をとっていましたが、ウォルマートはベントンビル本社の人間が各店舗を見て回るようにしていました。彼らは月曜から木曜までいろいろな店を回り、金曜の早朝に本社でマーチャンダイジングのミーティングを開きました。そして、土曜日の早朝に各店舗で販売ミーティングを開く際には、各店舗を回って集められた情報を基に、何を修正すればいいのか決めていきます。そして土曜の昼前には地域マネジャーが全地区マネジャーに連絡して、“何をするか”“何を変えるか”の指示を出します。これにより、競合他社では月曜日に前の週の売上を検討していたので、ウォルマートは他社よりも一歩リードした対応が行えたのです。

【現在の土曜日早朝ミーティング】

現在では、細かい問題については平日に行われる無数の会議で扱われ、土曜日早朝ミーティングは月一回のペースになっています。しかしながら、このミーティングは今でもウォルマートが市場の動向を把握するための機会であり、本社と各店舗の一体感を醸成するのに役立っていると言います。

土曜日の早朝にミーティングを行うということを表面的にみると、それほど大きなことのようには感じませんが、結果としてはウォルマートの成長を支える大きな力となったようです。一見、小さく見える行動でも、それが大きな力につながっていくことがあるということを土曜日早朝ミーティングは示していると感じます。

(参考文献 ありえない決断)

スリーエム 15%ルール

本日はスリーエム、創造性と革新性を生み出す“夢想の時間”に関して記載します。

【15%ルール 社員が夢見る時間】

スリーエムはアメリカにある化学・電気素材メーカーで、サンドペーパーやマスキングテープ、ポスト・イットなどを開発してきた企業です。この会社には1948年に決断が下された、「15%ルール」という、有名な企業方針があります。これは社員が勤務時間の15%を自分の好きな研究などに充てても良いというもので、同社の文書で「スリーエムの技術関連従業員には、その配置にかかわりなく、就業時間の15%を上限として、日々の仕事に囚われないプロジェクトに時間を充てることを推奨する」というものがあります。この方針により同社は様々な革新的な商品を生み出しています。その中の一つとして、記録的なヒットとなった“ポスト・イット”があります。これは同社の研究員が聖歌隊で歌の練習をしている時に、聖歌集からしおりが何度も落ちたことが技術開発のヒントとなっています。

【スリーエム 15%ルールへの歴史的背景】

この15%ルールの考え方は、その考え方が評価されるようになる以前から、スリーエムに企業風土として根付いていたようです。スリーエムの創業者たちは自分たちの会社を1902年に創業した際「ミネソタ・マイニング&マニュファクチャリング」と名付けましたが、創業者の中に採掘(マイニング)や製造(マニュファクチャリング)をした人は誰もいなかったと言います。創業者たちは当初、コランダムと言われる硬度の高い鉱石を採掘することを目的としていました。しかし、2年に及ぶ作業と投資の結果、自分たちが採掘したのはコランダムよりもずっとやわらかい斜長岩という鉱石だったと気づきます。そこで彼らは鉱石の販売をあきらめ、砥石車の製造に取り掛かりますが、これもそもそも知識を持っていなかったために失敗。続いてサンドペーパー製造に目標を変えます。この際、サンドペーパーに関しても創業者たちは知識を持っていませんでした。その後、サンドペーパーのサンプルをリチャード・ドリューという社員が地元の車体塗装工に持っていったときに、車を塗装する際に周囲をマスキングするテープの品質の悪さに作業員たちが怒っていることを目にします。それを受けてドリューは、上司からサンドペーパーの仕事に戻るように言われつつも、仕事の合間を縫って新しいテープの開発を続けました。そして1925年にマスキングテープが完成。同社のロングセラー商品となったのです。

スリーエムは創業当初からお金を儲けるための新たな方法を探し続けてきました。それに加えて、社員が上司に逆らって自分が情熱を傾ける製品の開発に打ち込むと、その商品が同社の成功を導くということがあったのです。

【内的なモチベーションの重要性】

近年、創造性と革新性に関する研究が盛んです。その中で『創造性や革新性を引き出すには、外的なモチベーションよりも内的なモチベーションの方が大切である』という発見がなされています。また、自分の仕事が誰かに評価されることを知りながら作業する場合、ただ自分のためだけに仕事をする場合よりも創造性が下がることが、多くの研究から明らかになっていると言います。スリーエムのリーダーたちは、上記のようなことを経験的に体得していたようです。

この15%ルールは現在では他の企業にも取り入れられています。例えばグーグルでは、技術者は勤務時間の20%を個人的なプロジェクトに充ててもよいとしています。

スリーエムの例は“内的なモチベーションをいかに高めていくか”ということが重要なポイントであるという証左のように思われます。

(参考文献 ありえない決断)

ノードストロームのタイヤ伝説

本日はノードストロームの「タイヤ伝説」に絡んで記載します。

【タイヤ伝説】

ノードストロームは全米最大の高級デパートかつ有数の大型チェーンデパートです。タイヤ伝説とは、1970年代にアラスカ州のフェアバンクスのノードストロームで起きた出来事となります。フェアバンクスのノードストロームはタイヤ販売店の居抜き物件でした。ノードストロームが移転してきたばかりのころ、ある顧客が「ここでタイヤを買った者だが」と言って来店したと言います。そして返品をしたいと言ってきたのです。しかしながらノードストロームではタイヤを販売したことなど一度もなかったのです。普通に考えれば返品はお断りをするところでしょうが、この店にいた販売員は、その顧客への返品を受け付けたのです。

そのような出来事は他にもあり、例えば、ある店員は顧客が求めるサイズの在庫品がなかったので、通りの向こうの競合店まで走って行って買ってきたり、顧客が洗濯表示通りに洗濯しなかったために、縮めてしまったシャツを引き取ったり、ということを行っています。日本ではあまり見られない対応だと思います。

【返品自由のノードストローム】

ノードストロームは、顧客がいつ買ったか、レシートの有無にかかわらず、理由を問うこともなく、事実上あらゆる返品を受け付け、払い戻しに応じるという方針を採っています。その決断を下したのは1929年の大恐慌の影響で経営が苦しい状況に置かれている時でした。創業者の息子たちであるエバレット、エルマー、ロイドがその決断を下したのですが、その理由が、何と、いかにも理屈に合わない理由で返品したがる顧客への対応が嫌だったから、と言います。小売業にとって返品はどうしても発生してしまうものです。それならば、一切顧客と争うことをしないと決め、販売員にも絶対に争わないように申し渡したのです。エルマーは「われわれは販売員に『お客様が満足していない場合、当店に来ていただき、望み通りのサービスを提供するように』と伝えたのだ」と語っています。ノードストロームの新入社員たちは、勤務の初日に「規則その一:あらゆる状況において、よき判断を下すこと。以上。付則なし」というルールを教え込まれると言います。

また、ノードストロームでは従業員に自由裁量が与えられています。

このような方針により、権限を与えられた従業員と、従業員が顧客の立場に立って全力で解決策を探すよう導く企業文化が培われているのです。この風土によりタイヤ伝説が一例として生まれ、そして、大恐慌を乗り越え、今のノードストロームの地位が作られているのです。

【行動経済学の観点からも整合性のあった返品方針】

ノードストロームの返品方針は一見合理的でないように見えます。しかしながら、この返品方針には十分な効果があると、多くの調査研究でも明らかになっているようで、このことを証明した研究を発表した行動経済学者たちはノーベル賞を受賞しているといいます。返品の壁を低くすることで、最も明快にもたらせる効果は、人を買う気にさせることができるということだと言います。人間は間違った行動を最小限にとどめたいと考える生き物です。すなわち、返品ができることで、購入によって失敗したという後悔が少なくなり、購買意識を喚起することができるのです。

【結びとして】

ノードストロームのような返品方針は、長年、企業風土として培ってきたもので、簡単にできるものではないと思います。しかしながら、この方針は間違いなく同社の強みとなっています。顧客サービスをいかに高めるかという点でノードストロームの例は非常に面白い例だと思います。

(参考文献 ありえない決断)