男性のいないフィットネスクラブ“カーブス”の戦略

本日は男性のいないフィットネスクラブ“カーブス”の戦略に関して記載します。

【フィットネスクラブ カーブス】

カーブスは1992年のアメリカテキサス州の一号店開業から10年程度で世界的な規模となったフィットネスチェーンです。日本では2005年10月から展開をスタートし、わずか8年間で1300店舗を達成しています。また会員数も58万人に上っています。店舗面積が40坪程度で、それほどスペースも取らない形なので、気づかなかったのですが、自宅の近所にもありました。意外と身近なフィットネスチェーンなのでしょう。

また、同社は50代以上の女性をメインターゲットにしていて、30分健康体操教室を行い効率性もアピールしています。

【カーブスの戦略】

カーブスは従来のフィットネスクラブから、ターゲット顧客である中高年女性が不要だと感じていた3つの要素“3つのM”を排除することによって成功しています。3つのMとは以下のようなものとなっています。

■Men:カーブスは女性専用のフィットネスになっています。顧客もスタッフも男性はいません。体型に自身のない女性や必死に運動している姿を男性に見られるのが恥ずかしい女性からの支持を受けることが出来ます。

■Mirror:鏡で自分の体型を見ると不愉快になる女性の気持ちを考え、鏡を設置していません。

■Make up:カーブスのトレーニングは器具を使って30分程度で終わります。激しい運動は行いません。ですので、シャワー室も必要ありませんし、化粧が落ちてしまうということもないようです。ちなみにフィットネスクラブによくあるプールもありません。

これら3つのMを取り除くことにより、運動不足は気になるが従来店には行きたくない中高年女性を取り込むことに成功したのです。中高年女性が無駄だと感じていたことを省き、コアのサービスに絞り込む“ノンフリル(装飾(フリル)がない)”な戦略をとったわけです。月会費も5900円~6900円と手ごろな価格となっています。

カーブスのビジネスモデルは店舗数を拡大するのにも役に立ちました。同社はシャワー室やプールがなく店舗面積も40坪程度と狭い場所を活用できるので、住宅街や商店街など主婦が通いやすい場所に多く出店することが出来たのです。

カーブスはまさしく、無駄を省きコアのサービスに特化することで成長した企業ということです。

(参考文献 図解&事例で学ぶビジネスモデルの教科書)

ブランド・イノベーション“ヴァージン・グループ”と“メソッド”

本日はブランド・イノベーション“ヴァージン・グループ”と“メソッド”に関して記載します。

【2つのブランド・イノベーションについて】

自社の製品やサービスのほうが競合他社の同種のモノより好ましいと消費者に感じてもらうためには、消費者に自社の製品やサービスについて認知してもらい、印象付けていくことが必要です。そのためには自社が競合他社よりも強いアイデンティティーを持つことが求められます。そのためにブランド・イノベーションを起こしていく必要があるわけですが、そのよくある例として、まず一つ目に、既存のブランドの傘の下で新しい製品やサービスを提供する“ブランドの拡充”があり、二つ目に、大きな理想や特定の価値観をわかりやすく一貫して表現する(“価値観の整合性”)ことで、企業をそれらの信条を象徴する存在として印象付けるという方法があります。上記2つについて“ブランドの拡充”については「ヴァージン・グループ」、“価値観の整合性”については「メソッド」を事例に以下記載していきます。

【ブランドの拡充 ヴァージン・グループ】

ヴァージン・グループはイギリスの多国籍企業です。その始まりはリチャード・ブランソンが1971年にロンドンのオックスフォード・ストリートにヴァージン・レコード1号店を開いたこととなります。1973年、レコード・レーベル、ヴァージン・ミュージックから映画「エクソシスト」のテーマ音楽として使われたマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』をリリースし、1977年にはパンク・ロックバンド、セックス・ピストルズと契約しています。

そして近年、ヴァージン・グループはヴァージンアトランティック航空やヴァージンアクティブといったブランドを持つ、34か国に5万人の従業員を擁する企業にまで成長しました。2011年のグループ総売上高は約210億ドルに達すると言います。最近ではブランソンが設立した、年500人の観光客を一人当たり25万ドルで宇宙へ送る計画を立てているヴァージンギャラクティックが注目を集めたりもしています。このような形でヴァージン・グループは携帯電話、輸送、金融サービス、メディア、フィットネスなど様々な分野への多角化を進めており、現在では、同社は自社のことを大手「国際投資グループ」と称しています。つまり、多角化を進めることによって消費者から自社と競合他社との差別化を図っているということが言えます。

【価値観の整合性 メソッド】

メソッドは2000年に設立された会社で、環境に害を与えない天然成分のホームケア製品を生み出しました。メソッドの商品は、今ではターゲット、ホールフーズ、クローガーをはじめとする世界各地の4万店以上の小売店で販売されています。この会社は持続可能性と環境感度を重視していて、メソッドの洗剤ボトルの大部分が100%再生プラスティックで作られています。また家庭用洗剤は有害化学物質を使っていません。オフィスも環境に配慮した建物となっていますし、動物実験も行わないとい徹底ぶりです。メソッドは環境に優しい企業としての特徴を尖らせて、消費者から自社のブランドをしっかりと認識してもらっているということが言えます。

製品やサービスが代替可能なものが増える中、企業がコーポレートアイデンティティー(IC)を確立し、消費者から自社のことをしっかりと認識してもらうことは、自社の商品・サービスを選んでもらうために重要なポイントだと思われます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ナイキタウンのチャネル・イノベーション

本日はナイキタウンのチャネル・イノベーションに関して記載します。

【チャネル拡大の役割を担う旗艦店“ナイキタウン”】

スニーカーやスポーツウェアなどスポーツ関連商品を扱う世界的企業であるナイキは、ナイキタウンという店舗を運営しています。このナイキタウンは1990年11月にスタートしたのですが、熱狂的な人気を誇っているそうです。ナイキタウンは消費者が一般的な靴屋を超えた店舗だと思ってもらうように作られていて、例えばニューヨークにあるナイキタウンでは店内のあちらこちらに有名選手のサインや写真が飾られ、スポーツのテーマパークのような作りになっているそうです。また、ニューヨークに限らず、たいていの店舗ではルームランナーが置かれていて、来店者がそこでシューズの性能を試すことが出来るようになっていると言います。従業員についても変わった採用方法を採っていて、運動能力を基準にしています。実際、シカゴ店ではバスケットボールの元プロ選手が採用されたこともあるようです。建物自体については、ニューヨーク、ロンドン、シカゴ、北京など世界で最も地価の高い商業地区に作られていて、設計と建設に何百万ドルもかかったそうで、投資額も大きく贅沢な作りになっています。

ナイキタウンは上記のような巨額の投資を行っているため、シューズの販売額では投資額を回収することが難しくなっていて、実際、ナイキタウンのコストは宣伝費が当てられています。このような状況であってもナイキタウンが運営を続けていられる理由は、経営陣がナイキタウンという旗艦店を設けることによって、どんな宣伝キャンペーンにも劣らないくらい自社のブランドイメージの向上に貢献してくれるはずだと判断しているためです。またナイキタウンでは、閉店した後に大手アパレルメーカーのバイヤーを招待して、一流スポーツ選手やデザイナーと懇談してもらうということをしています。このような取り組みを行うことで、他の小売業者にナイキのシューズや用具をより効果的に売り込むにはどうしたら良いかを教えているのです。

ナイキはナイキタウン以外に、消費者がナイキのデザイナーと協力してシューズをカスタマイズできるナイキ・スポーツウエアの小売店を出店しており、チャネルを押し広げる取り組みを進めています。

【ナイキタウンから見る、チャネル・イノベーション】

自社の製品やサービスをどのようにして顧客に届けるかを考えるにあたって、昨今注目を集めるeコマース以外にも、ナイキタウンのような旗艦店を開設し、リアル店舗という従来型のチャネルを活用していくことも重要であると言えます。自社の製品やサービスを顧客に届けるために、一つのチャネルだけでなく複数のチャネルが補完し合うような方法を採っていくこと(チャネル・イノベーション)が重要となってくるということです。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

「World of Warcraft」の顧客エンゲージメント・イノベーション

本日は「World of Warcraft」の顧客エンゲージメント・イノベーションに関して記載します。

【World of Warcraft 世界的なヒットにつながるその戦略】

最近、例えばスマホアプリでゲームを見ているとMMORPGという言葉を目にすることがあります。MMORPGとはMassively Multiplayer Online Role-Playing Game:大規模多人数同時参加型RPGのことで、オンラインゲームの一種となります。プレイヤーはPCなどからサーバーに接続し、コマンドを入力して自分のキャラクターを行動させたり、同じサーバーに接続しているプレイヤーとチャットを行ったりします。10~20年くらい前にやっていたRPGと異なりセーブしたところからやり直すということが出来ないので(他のプレイヤーの操作と矛盾が引き起こるため)、個人的には少し違和感ある気もします。

さて、このMMORPGで世界的にヒットした「World of Warcraft」というゲームがあるのですが、このゲーム2004年11月にリリースし、2006年11月には約750万のアカウント数に達し、2008年11月には世界中に1100万人もの月額課金ユーザーを持つまでに成長しました。日本ではその名をあまり聞かないような気もしますが、中国ではコカ・コーラのキャンペーンにも利用されTVCMにもなった、まさしく世界規模のヒット作です。

このWorld of Warcraftを世に送り出した会社ブリザード・エンターテインメントの創業者たちは最初から、プレイヤーを強力にぐいぐい引き込むことに力を注ぐ重要性を強調していたと言います。このゲームのコンテンツの多くがプレイヤー同士の協働を促すようにデザインされていて、プレイヤーがゲームのステージを段階的に上がっていくために、リアルな人間とバーチャルなグループ(ギルド)を組んでいきます。そして、ギルドによっては自分たちのロゴやプレー戦略を作成することもあるそうです。

ブリザード・エンターテインメントは顧客に対して一方的に発信するコミュニケーションを行うのではなく、顧客と企業が双方向にコミュニケーションを行うこと(顧客エンゲージメント・イノベーション)によって成功したのです。

【顧客エンゲージメント・イノベーション】

顧客エンゲージメント・イノベーションは、顧客のニーズやウォンツを理解し、その理解を踏まえた上で、顧客と会社の間に意味のある繋がりを築いていく戦略となります。どのように消費者とつながり、消費者を喜ばせられるかということが重要となってくるのです。例えば、World of Warcraftとは他の事例として、ファブ・ドットコムというウェブサイトが挙げられます。このサイトでは一流のデザイン専門家が選んだ商品を販売していて、次に流行るクールなアイテムを見つけたいときに行くべきサイトという顧客の信頼感を築いています。この事例も顧客と会社の間に意味のある繋がりを作っている事例だと言えます。

2013年現在、World of Warcraft登録プレイヤー数は770万人にまで減少してきているようです。これは他のオンラインゲームの登場による影響があるようで、人気になれば必ず他社からの模倣が始まり、シェアの奪い合いになっていくという事例のようにも感じます。ただ、一方でWorld of Warcraftが長い期間にわたって世界的なヒット作になっているという事実は、“顧客を引き込む”工夫をして、顧客と会社の間での関係性を構築するということの重要性を感じさせます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

プロセス・イノベーション

本日はプロセス・イノベーションに関して記載します。

【プロセス・イノベーション】

プロセス・イノベーションとは、企業が製品やサービスを生産していく活動や業務に関わるもので、従来通りのやり方から劇的な変革を行い、業界の標準よりも優れた方法を確立し、他に類を見ない高効率やコスト優位を実現していくことです。例えば、トヨタが無駄や過剰を減らして、会社のあらゆる部署での効率向上と製品・プロセスの継続的な改善を推し進めたような手法はこの事例となります。プロセス・イノベーションにはトヨタが実施したようなシステムのあらゆる部分から無駄とコストをそぎ落とす“リーン生産方式”、共通の手順を使うことでコストと複雑さを抑える“プロセスの標準化”、過去の実績データをモデル化して未来を予測する“予測分析”などがあります。

【ZARAのプロセス・イノベーション】

ZARAはデザインや生産、ロジスティックス、配送を統合した生産システムを使用することにより、注文を受けてから商品の配送にかかるまでの時間を短縮しています。同社はターゲットとする「流行を先取りする顧客」と接点を持ちやすくするために主要ショッピング地区の高級店街に店を配置していて、そこから入ってくる顧客の願望や要望といった情報が、同社の200人のクリエイティブ・チームに伝えられていきます。それにより、クリエイティブ・チームが生産面の課題をすぐさま検討することができ、ファッション・トレンドの変化に素早く対応することが出来るようになっています。またサプライヤーや配送業者は、効率を高めるために世界各地に適切に配置されるように選定され、社内ロジスティック・システムは配送センターで注文を受けてから商品が実際に店舗に届けられるまでの時間をできるだけ短くするように構築されています。

【IKEAのプロセス・イノベーションの事例】

IKEAはフラットパック家具を開発して、国や地域による修正を行うことなく、どこに行っても全く同じハードウエアと取扱説明書で商品を販売しています。このことにより、同社は社内生産プロセスの合理化を図ることができています。

プロセス・イノベーションには企業のコア・コンピテンシー(核となる競争力)を形作ることが多く、理想的に展開すれば競合他社が真似できないものとなると言います。模倣されないということは企業の優位性を高めますので、このプロセス・イノベーションが実施できるということは成長するための一つ手法と言えます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ホールフーズ・マーケットの組織構造イノベーション

本日はホールフーズ・マーケットの組織構造イノベーションに関して記載します。

【ホールフーズ・マーケット】

ホールフーズ・マーケットは1980年に設立されたアメリカにある比較的高級志向な食料品スーパーマーケットで、2012年現在、アメリカ、カナダ、イギリスに310店舗を超える店舗を持ち65,000人強の従業員を擁するまで成長した企業です。同社の発表によると2011年の売上高は100億ドルを超えているといいます。同社は、人材や資産を独自の形で編成することで価値を生み出す“組織構造イノベーション”を実施し成長してきました。

【ホールフーズ・マーケットの組織構造イノベーション】

ホールフーズ・マーケットでは徹底的な経営管理の分権化を行っています。各店舗がチームを構成し自律的に各部門を管理。どの商品を仕入れるか、その商品をどのようにディスプレイするかなどもチームが決定しています。同社は組織の力を発揮するために、チームプレイを重視しているのです。採用についても誰をチームに採用するかはチームで決めており、チームに入るためには現行メンバーの2/3以上の賛成が必要となります。各店舗は損益計算書で独立した事業部門として評価され、店舗内の各チームを明確な成果目標を持っています。

またチーム間・チーム内での情報も密なものとなっています。商品の売上・利益率などの詳細な情報が店舗の垣根を超えて共有され、その情報が共有されているレベルは、一時期、同社の従業員が全員証券取引委員会にインサイダーに分類されていたほどでした。この情報の共有化により、チームが会社全体でうまくいっていることを把握するとともに、チーム間が切磋琢磨することに繋がり、同社の成長を支えるエンジンとなっているのです。

【組織構造イノベーションの他の事例】

ホールフーズ・マーケットのように企業の人材や組織を独自の形で編成し価値を生み出している事例は他にも多々あります。その取り組みとしては報奨制度を構築したり、営業コストや複雑さを縮小するために資産を標準化したり、高度な訓練を継続的に提供するための企業内大学を創設したりといったものがあります。この組織構造イノベーションは競合他社が模倣することが困難となることから、自社の長期的な成長を支えてくれるものとなります。ホールフーズ・マーケット以外では以下のような事例があります。

■W・L・ゴア:フラットな格子型組織モデルを構築。社内のチームは意図的に小さくされていて、活動は命令ではなくコミットメントによって管理される。

■ファビンディア:インドの織物・衣料・家庭用品小売り企業。美術品や工芸品を供給している現地の職人たちが所有、経営している。

■ゼネラル・エレクトリック(GE):GE幹部向けの社内ビジネススクールを立ち上げた。

組織構造イノベーションを実施することにより、企業が独自の進化を遂げることとなります。他社から成功モデルが模倣されにくいということは自社の競争力を高めることに繋がりますので、重要なことと言えます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ターゲットのネットワーク・イノベーション

本日はターゲットのネットワーク・イノベーションに関して記載します。

【アメリカのディスカウント百貨店チェーン「ターゲット」】

ターゲットは「ファッション界の最良をディスカウント界の最良と合体させる」ことを意図した「高品質の商品をディスカウント価格で提供する良心的な店」として、地方百貨店のデイトン社の新しいディスカウント小売戦略の一環として1962年に1号店をオープンさせました。そしてターゲットを運営するターゲット・コーポレーションは、今ではアメリカの売上高第5位の小売業となっています。同社は社外の人や組織とつながることにより実績を上げてきたのです。

【ターゲット 他社とのつながりによる価値の創出】

ターゲットはアメリカのポストモダン建築を代表する建築家マイケル・グレイブスと1999年に提携し、グレイブスがデザインし、ターゲットが独占販売するキッチン用品のラインを生み出しました。それ以後、75人以上のプロダクト・デザイナーや10人以上の世界的に有名なファッション・デザイナーと提携し、同社でしか買えない商品を開発していきます。アイザック・ミズラヒ(数多くの賞を受賞している実力派デザイナー)との5年間の協働は1年あたりで3億円の利益を生み出したと言います。

また、同社はイギリスの百貨店リバティオブロンドンを始めとした小売業者と提携したり、短期間しか営業しない期間限定の店舗を出店したりしています。そして、婦人用バッグがメインのブランド、アニヤ・ハインドマーチがデザインしたハンドバッグの販売も行ったのですが、なんとオンラインで2分足らずで売り切れるという結果を残したと言います。

このような戦略を採ることで、同社は消費者の口コミと関心を高め売上の嵩上げを図ってきました。

【ネットワーク・イノベーション 他社との協働による価値の創出】

自社が単独で事業を行うのではなく他社との協働を行うことにより、自社の強みを活かしながら他社の“生産工程”“製品・サービス”“チャネル”“ブランド”といった能力や資産を利用できるようになります。また、自社が新しい製品・サービスや事業を開発する際のリスクを他社と分かち合うことにもなります。まさしくターゲットは協働を行うことにより上記のようなメリットを活用し実績を上げてきたということが言えます。

ネットワーク・イノベーションは他企業でも行われています。例えば東芝とUPSは、東芝製パソコンを配送センターでUPSが修理するように契約を結んだことにより、“東芝が修理時間の短縮”“UPSが新しい利益の獲得”という双方にメリットのある結果を生み出しました。また、ブラジルの化粧品会社ナトゥーラは世界各地の25の大学との高度な人的ネットワークを構築することで、社内の開発能力を超える成果を上げていると言います。

このようにネットワーク・イノベーションを起こすことは、企業が大きなメリットを得る結果につながるのです。

ジョイントベンチャーという言葉を聞きますが、これなども双方の強みが活かせれば単独では不可能であっただろう利益を生み出すことができます。一方で、双方の強みが活かせなかった場合はそれほど大きな利益の創出にはつながらないと思います。ネットワーク・イノベーションは協働する相手とのベクトルを合わせるということが重要にも思われます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

利益モデルのイノベーション

本日は利益モデルのイノベーションに関して記載します。

【「カミソリと替え刃」の利益モデル】

最近のカミソリは昔と比べて、製品として随分改良が加えられているようです。前に使っていたカミソリが古くなったので、新しい物を買いに行きました。前は2枚刃くらいが普通かと思っていたのですが、売場には5枚刃且つ電池でカミソリの刃の部分が振動する商品なども置いてあり、カミソリが製品として進化を遂げているように感じました。

上記のように今日のカミソリは企業間で競い合う中で製品自体進化しているのですが、過去にはこの業界は「カミソリと替え刃」という長年にわたって称賛され続けている有名な利益モデルを生み出しています。この利益モデルはジレットが始めた仕組みで、システムの耐久性のある部分(カミソリの本体)を低価格で販売することで固定された顧客基盤をつくり、それから使い捨ての部分(替え刃)をプレミアム価格で販売して反復的な収益を得る、というものです。「カミソリと替え刃」の利益モデルはプリンターとカートリッジからコーヒーメーカーとカプセルコーヒーまで、他の産業にまで応用されています。

【利益モデルのイノベーションの事例】

「カミソリと替え刃」のように、それまでに気づかれていなかった新たな価値を斬新な方法でお金に換えることによって、利益を生み出している企業があります。

■ネクスト・レストラン

シカゴにあるレストラン「ネクスト」。このレストランでは顧客に前売り券を買ってもらっています。これによりネクストは予約客が来店しないリスクを押さえています。また、顧客がいつ来店するかによって前売り券の価格を決めています。ディナーで込み合う時間帯ではその価格は高く設定し、逆にアイドルタイムではその価格を低くしています。

■シブステッド・メディア・グループ

ノルウェーのオンライン広告会社「FINNno」は、ユーザーが投稿する広告を無料で掲載しています。その一方で希望に応じた掲載については料金をとっています。顧客は料金を支払うことによって、例えばシブステッド・メディア・グループ内の他の新聞に掲載したりすることが出来ます。

■ヒルティ

「ヒルティ」は建設業者向けの電動工具をコア・ビジネスとしている企業ですが、故障による予定外の作業中断や盗難など、工具を所有することによる隠れたコストから建設業者を守るためのプログラムを作りました。毎月一定額の料金を払っていれば、必要に応じて代わりの工具を貸し出したり、アップグレードのオファーをしたり、必要な修理の費用を負担したりします。このプログラムによりヒルティには反復的な収入が入ってくることとなりました。

従来から当たり前のように使われている利益モデルを見直すことにより新たな利益を生み出すことができます。当たり前と思っている集金・課金モデルを見直すことも重要なようです。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

イノベーションのジレンマ“シアーズ”と“ウォルマート”

本日はイノベーションのジレンマ“シアーズ”と“ウォルマート”に関して記載します。

【世界最大の小売業だったシアーズと世界最大の小売業ウォルマート】

シアーズは過去、様々な分野で小売業の技術革新を行い、アメリカ最大(=世界最大)の小売業として君臨していました。同社はもともと通販ビジネスで成長した企業でした。その勢いは、19世紀、アメリカでどの家に行っても、聖書と同社のカタログがあったと言われているほどです。ところが1920年代にアメリカで自動車が普及し始めると、注文した商品が届くのを待つより、自動車で小売店に行って商品を購入することを好む消費者が増えていきました。この環境変化に対しシアーズはGMSと呼ばれるビジネスモデルを構築。大きな駐車場を完備した大型店舗に衣料品から雑貨まで様々な商品を置き、消費者がワンストップショッピングできるようにしました。この際のシアーズの店舗は日本型GMSであるイオンやイトーヨーカ堂とは異なり食料品の取り扱いは行っていませんでしたが、代わりに自動車保険や自動車修理を扱っていました。また同社はPBの取り組みを行ったり、シアーズカードを展開し、シアーズの店でのみ様々な付帯サービスを提供したりと、今では当たり前のようにある小売業の仕組みを生み出していったのです。まさしく当時のシアーズはイノベーションの先端を走る企業だったのです。

しかしながら、このシアーズはEDLP(エブリデイ・ロープライス:いつでも低価格で商品を提供)を掲げるウォルマートに売上世界第一位の小売業の座を奪われることになります。これは技術革新や社会の変化により、シアーズが作り出してきた様々なイノベーションが、同社以外にも簡単に利用できるようになってきたということが、要因として挙げられます。他のクレジットカードのサービスは充実し、商品の幅が広がったことによりシアーズだけではワンストップショッピングが成り立たなくなり、同社の開発するPBも様々な商品が流通することでその価値が相対的に低くなってしまったのです。そして、シアーズが開拓したサービスを踏まえて、より魅力的な価格と品揃えだけに集中したウォルマートのような店がより多くの消費者を引き付けるようになっていったのです。

【イノベーションのジレンマ】

シアーズが後発であるウォルマートに抜き去られたような事例は、イノベーションのジレンマという考え方に当てはまります。イノベーションのジレンマとは、業界トップになった企業が顧客の意見に耳を傾けて、今まで以上に高品質な製品・サービスを提供していくことが、かえってイノベーションを立ち遅らせ、結果として失敗を招くという考え方です。優良企業にとって、規模の大きい既存事業の前に現れる新興の事業や技術は魅力なく見えるとともに、既存事業とのカニバリズム(共食い)を起こす危険があるため、新興市場への参入が遅れる傾向にあるのです。

企業が継続的に成長していくためには、ライフサイクルの成熟期に入ったタイミングで破壊的イノベーション(従来製品の価値を破壊するかもしれない全く新しい価値を生み出すイノベーション)を起こしていくことが必要となってくるわけですが、成熟期に入ったタイミングでそれが起こせるかどうかは、非常に難しい経営判断となるのかもしれません。

(参考文献 「流通大変動 現場から見えてくる日本経済」)

チャネルリーダー

本日はチャネルリーダーに関して記載します。

【高い利益の確保に直結するチャネルリーダーのポジション】

流通経路の中で主導的な役割を果たし、商品や情報の流通をコントロールするものを“チャネルリーダー”と言いますが、このチャネルリーダーのポジションを確保できるかできないかは、企業が高い利益を出せるかどうかの重要なポイントとなってきます。

例えば、スティーブ・ジョブズが存命中のアップルは高い利益と株価を上げていましたが、その理由はアップルがチャネルリーダーだったためと言います。同社は製品の価格決定権を握っていましたし、同社と取引するために多くの企業は競い合っていました。同社は販売力のある製品を背景に、通信会社に対して有利な条件で契約を結ぼうと交渉を進めることができました。それと合わせ、世界各地のメーカーが作った部品を徹底的に比較し、より低コストで作られた部品を調達するということが行えたのです。

このようにチャネルリーダーのポジションを確保することは、企業が優位な立場に立つために重要であるということが言えます。

【チャネルリーダーのポジションの変遷の中で】

戦後日本では多くの商品でチャネルリーダーのポジションはメーカーが握っていました。しかし、近年、大量仕入・大量販売を広域に展開する小売業の方へチャネルリーダーはシフトしつつあります。こうした中で、メーカーが採るべき道は2つあると言います。一つはアップルのように同業他社に真似のできないような圧倒的に優れた製品を生産するということです。そしてもう一つが、影響力のある大きな小売業に対抗できるようなチャネル戦略を模索し、チャネルリーダーのポジションを維持するという方法です。

資生堂は二つ目に記載した方法を採ってチャネルリーダーのポジションを維持しようとしています。同社は自らの商品を販売するチャネルをいくつかに分け、それぞれのチャネルで違った商品と販売方法を選択しています。デパートでは資生堂自らが出店して高価格高サービスを維持。大型量販店では広告などを積極的に使ってブランドの認知度を高めて大きな市場を確保しつつ、価格については値引き販売も覚悟した販売戦略を実施。そして、全国に広がる資生堂の系列店には特徴のある独自の商品を投入し、地域の専門店ならではの接客によって顧客を確保します。このような戦略を採ることによって資生堂はチャネルリーダーのポジションを維持しようとしているのです。

日本において、チャネルリーダーは戦前までは卸売業が握っていたそうです。時代の変遷・社会の変化に伴ってチャネルリーダーのポジションに立つ企業は変わっていきます。時流を読み取り成長を続け、そのポジションに立てるようにしていくことが重要だと言えそうです。

(参考文献 「流通大変動 現場から見えてくる日本経済」)