ヤフーショッピングの採ったビジネスモデル「敵の収益源の破壊」

本日はヤフーショッピングの採ったビジネスモデル「敵の収益源の破壊」に関して記載します。

【「ヤフーショッピング」の出店にかかる費用の無料化】

2013年10月、仮想モール「ヤフーショッピング」は、出店の初期費用2万1000円と月額利用料2万5000円を無料化し、更には売上に対して1.7~6.0%課していた手数料もただにしました。これは同社のライバルで日本における主要なネットポータルである楽天やアマゾンがネットショッピングを主たる収入源としていることを踏まえた戦略です。これによって楽天は出店や取り扱いを有料のまま据え置けば競争力を削がれ、無料にすれば収益源を失うという難しい選択を迫られました。上記のようなヤフーショッピングが採ったビジネスモデルを「敵の収益源の破壊」と言います。

【自社の不利な市場を焦土化する「敵の収益源の破壊」】

「敵の収益源の破壊」とは以下のようなビジネスモデルのことを言います。まず、競合が主な収益源とする市場で、無料、もしくは極めて低い利益の販売を行い、市場の収益性を意図的に破壊します。それによって競合の収益源は破壊され、力が削がれていきます。その一方で、自社が主力とする市場で競合に勝っていきます。このビジネスモデルは他社との収益構造の違いを利用した価格戦略で優位に立つという戦略ではなく、競合の力を削ぐことにより相対的な優位性を獲得することを目指したビジネスモデルです。

ヤフーショッピング、アマゾン、楽天の2012年7~9月→2013年7~9月の対前年同期比成長率を見てみると、楽天やアマゾンが二桁成長を続ける中で、ヤフーショッピングはマイナス成長となっていました。ヤフーショッピングは楽天やアマゾンの優位性が増している中でサービスの無料化を実施したわけです。「敵の収益源の破壊」のビジネスモデルを取る企業は、無料化ないし低価格した市場からの利益はなくなってしまいますが、もともと収益の上がっていない市場であることと、自社の収益源は異なったところにあるため、致命的なダメージを受けることはありません。ヤフーショッピングとしては勝負がつきつつある市場で敵の収益源を破壊しようとしたのです。ちなみに、ヤフーは出店料と手数料の無料化によって出店数が増加し、自社サイトに対する広告出稿量が大幅に増加すると見込んでいます。

「敵の収益源の破壊」を実行すると、競合との信頼関係も破壊され、競合とシェアを分け合いながら共存するという状況ではなくなります。また、顧客が無料に慣れてしまい、業界において将来にわたって課金できなくなり、当該市場が永久に焦土化する可能性があります。

例えば、マイクロソフトは競合のネットスケープとの戦いに勝てないとみると、それまで優良だった高機能ブラウザを無料にして、ネットスケープの収益源を破壊。同社を市場から駆逐しました。そしてその結果、ネットユーザーがブラウザは無料という常識を持ってしまいました。

競合と勝負するために様々なビジネスモデルが使用されています。「敵の収益源の破壊」のようなビジネスモデルは行う側はもちろん、行われる可能性のある側も知っておいた方が良いビジネスモデルだと思われます。

(参考文献 ビジネスモデルの教科書)

BTO

本日はBTO(=Build To Order ビー・ティー・オー)に関して記載します。

【デル BTOによる成功】

BTOとは製造業のビジネスモデルで、注文を受けてから顧客の要望に合わせて組み立てる受注生産の仕組みです。そして、BTOは昔からあるような受注生産ではなく、ITや生産技術などを駆使して、低コストの大量生産をしながら、個々の要望にも柔軟に対応していくという特徴を持っています。

BTOを行っている企業の代表例として「デル」が挙げられます。かつてパソコンは大量生産品を買うのが当たり前でした。その中でデルの創業者のマイケル・デルは、「処理速度を速くしたい」「ハードディスクを補強したい」など、個々にパソコンに対する顧客ニーズがあることに着目し、1985年に顧客の要望に合わせて機能や付属品の有無などを選べるパソコンを販売しました。また、1996年にネット上で必要な機能を選ぶだけで、思い通りのパソコンが買えるサイトを開設しました。

デルは上記のように顧客のニーズに合わせたパソコンを販売できるようにしたことに合わせて、パソコンをリーズナブルな価格で提供しました。なぜ、低価格でパソコンを販売できるのかというと、その理由の一つとして「直接消費者に販売することで中間マージンを削減した」ということが挙げられます。また、トヨタのカンバン方式を導入し、生産工程を徹底的に効率化し、大量生産と柔軟な生産体制の両方を実現。必要な分だけを発注することで、完成品在庫や仕掛品が減り、余計なコストも抑えています。

最近では、家電量販店を歩いていると、デル以外のパソコンでもBTOを取り入れている企業を見受けます。

【ナイキのBTO NIKEid】

デルのパソコン以外のBTOの成功事例として、ナイキのNIKEidが挙げられます。これはナイキが1999年にアメリカでスタートさせたサービスで、スポーツシューズを自分の好みに合わせてカスタマイズできるものです。靴全体はもちろんのこと、靴側面のラインやソール、紐など、デザインを決める重要な部分の色が自分の好みで変えられます。また、足幅の広さもレギュラーとワイド2種類から選べるようになっています。

一人ひとりのニーズは異なります。パソコンは容量がたっぷりあった方がいい人もいますし、もしかしたらネットさえ使えればいいという人もいるかもしれません。個々のニーズに応えられるBTOのビジネスモデルを採用する企業が今後増えてくるかもしれません。

(参考文献 図解&事例で学ぶビジネスモデルの教科書)

吉野家から見るターゲティングに関して

本日は吉野家から見るターゲティングに関して記載します。

【ターゲティング(顧客の選別)に関して】

企業が自社の商品やサービスを購入してもらえる顧客を選ぶ際には、まずニーズを把握し、次に顧客をニーズで分類(セグメンテーション)し、そして複数に分類したセグメント(顧客集団)から自社がターゲットとする顧客を選びます。

このようにして企業は顧客の選択(ターゲティング)を行うのですが、これを行う際には大きく分けて3つのパターンがあります。その3つのパターンは“無差別型マーケティング”“差別化型マーケティング”“集中型マーケティング”です。

■無差別型マーケティング:単一の商品やサービスで市場全体をターゲットとする方法

■差別化型マーケティング:複数のセグメントをターゲットにし、それぞれに別々の商品やサービスを提供する方法

■集中型マーケティング:1つのセグメントをターゲットとして、そのセグメントに自社の経営資源を集中投下する方法

無差別マーケティングは品不足の時代に多くの企業が用いたやり方だそうです。当時は、セグメンテーションなど考えずに、作った商品を市場に出せば売れたということがあったようです。

差別化型マーケティングと集中型マーケティングに関しては吉野家を軸にして内容を見てみます。

【差別化型マーケティング 吉野家の女性・家族客をターゲットとした戦略】

吉野家はカウンター席が主体なこともあり、利用客の85%が男性です(すき家は約30%が女性客・家族客)。このことから同社は女性客・家族客を増やすため「レンガ風のタイルを貼った外装」「白を基調とした明るさと開放感を演出した内装」「テーブルの併用」といった女性や子供が親しみやすい内外装へ切り替えています。

他にも女性専用メニューの試験的な販売やお子様セットの提供を行っています。更には「よっぴー」というUFOに乗ったキャラを生み出し、子供に親しみを持ってもらえるようにしています。

吉野家のこの戦略は、店舗の内装やメニューを女性客や家族客に合わせて変更する、差別化型マーケティングと言えます。

【集中型マーケティング フォルクス】

吉野家ホールディングス傘下の“どん”は高級路線に向けてステーキ店“フォルクス”の事業を強化しているのですが、このフォルクスは家計に余裕のある団塊世代の囲い込みを目指しています(すかいらーくやロイヤルホールディングスは家族連れをターゲットにしています)。そのためにフォルクスは、「ワンランク上の牛肉」「コース料理」「レンガと木目調の店内」「個室風の席」など、静かに落ち着いて食事をしたいという団塊世代のニーズに応えるようにしています。

フォルクスは団塊世代に経営資源を集中させている戦略を採っていると言えそうです。

なお、集中型マーケティングは、特定のセグメントに特化しますので、狙った顧客にだけ絞った商品開発、販売促進を行うために、各種費用を減らすことができるというメリットもあります。

企業が自社の商品・サービスをどんな人に売るのかを考えるに当たってはターゲットをどうするのかということを十分に考えることが必要そうです。

(参考文献 明解!経営戦略がわかる~消費者視点から読み解く“戦略”のキホン~)

JR九州の差別化集中戦略

本日はJR九州の差別化集中戦略に関して記載します。

【JR九州の観光列車】

JR九州の列車に「特急 A列車で行こう」「特急 あそぼーい」「特急 ゆふいんの森」などの観光列車がありますが、好調な結果を出しているようで、2011年度に総本数11600本、利用者数が過去最大の70万人超えるという結果を残しています。人気の秘密には“個性的な内外装”“初めての顧客に提供する1対1の手厚いサービス”“沿線の観光資源をフル活用した企画”ということがあるようです。

例えば「特急 あそぼーい」の内装を見てみると、窓側がいつも子ども席になるように配慮された親子席「白いくろちゃんシート」や木ボールに埋まって遊べる「木のプール」や子どもたちが寝転がれる「和室」などがあり、普通の列車と比べるとかなり特徴あるものとなっています。

また、沿線の観光資源という面から見ると例えば「あそぼーい」については阿蘇、「特急 ゆふいんの森」は湯布院といった観光スポットを通る形となっています。

接客に関しては、客室乗務員が出発を待つ乗客に次々と話しかけ、接客に必要な情報を収集し、それを乗務員間で共有。そしてそれを踏まえて、「一番遠方から来ていただいた顧客にはお礼状を手渡す」「誕生日の人には即席で手作りボードを用意して、記念撮影をして誕生日をお祝いする」ということを行っています。これらのサービスによって感動した顧客が口コミによって情報を拡散しファンを増やす結果につながっているそうです。

JR九州は観光列車という分野に集中し、さらには手厚いサービスを実施することで、他社との差別化を図っているのです。

【3つの基本戦略】

企業は経営戦略を立てるにあたって「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」という3つの基本戦略のいずれかを選んで、市場で有利な地位を確保しようとします。この3つの基本戦略はポーターが提唱した戦略で、価値とコスト、そして対象とする顧客に着目した戦略となります。

■コストリーダーシップ戦略:業界全体を対象として低コストで製品を提供する戦略。

■差別化戦略:業界全体を対象として製品の品質などを差別化して製品を提供する戦略。

■集中戦略:特定の業界を対象として低コストまたは差別化された価値で製品を提供する戦略。(この戦略で低コストの製品を提供することをコスト集中戦略、差別化された価値で製品を提供することを差別化集中戦略)

JR九州の戦略は上記3つの内の「集中戦略」に当たり、さらにはサービスという付加価値を与えていることから、差別化集中戦略をとっていると言えます。

集中戦略をとる場合、集中化した市場が縮小するというリスクがあります。少子高齢化する日本において市場は自然と縮小しますから、ターゲットとする市場とともに自社も縮小してしまわないように創意工夫していくことが必要なのでしょう。

(参考文献 明解!経営戦略がわかる~消費者視点から読み解く“戦略”のキホン~)

ゼビオの多角化戦略

本日はゼビオの多角化戦略に関して記載します。

【スポーツ用品、アパレル小売業“ゼビオ”のドラッグストアへの参入】

福島県に本社を持つスポーツ量販店のゼビオは、スポーツウエアや用品類を扱う大型店スーパースポーツゼビオの店内に、ドラッグストア“ジアシス”を開設しています。ジアシスは2012年から本格展開を始めていて、毎年3~4店舗のペースで拡大しています。その背景には、マラソンなどのスポーツを本格的に挑戦する人が増え、プロテインやサプリメントなどを活用する人が増えるという判断があるようです。

ジアシスでは、体力増強・疲労回復・けがの防止や予防といったアスリートが抱えがちな悩みをカウンセリングし、スポーツ店だからこそできる提案をしていくという考えのもと、一般用医薬品販売の資格を持つ販売員がスポーツ関連の知識も身につけて接客を行っています。販売員は、例えば膝の痛みを抱えるランナーにクッション性の高いランニングシューズを進めたり、関節の痛みを和らげるサプリメントを提案したりしています。また、来店頻度を高めるために、疲労回復効果のある酸素カプセルや身体情報が得られる体組成計を各店に置いて、気軽に利用できるようにしているそうです。

ゼビオはスポーツ量販店の中にドラッグストアを併設することにより、従来のスポーツ量販店では扱いにくかった商品やサービスを提供しているのです。スポーツ量販店とドラッグストアという多角化戦略によって相乗効果が生まれています。

【成長戦略としての多角化戦略】

企業は多角化戦略をとることによって、複数の事業で経営資源を共有することができます。既存の技術やノウハウなどの経営資源を複数の事業で使用することができるので、それによって相乗効果が生まれて、成長性や収益性を高めることができます。多角化戦略は単一の事業を行っている場合と比較すると成長性(売上と利益の伸び)が高い傾向にあると言います。

また、この戦略は事業を多角化しますので、その分リスクを分散することができるというメリットもあります。

さて、多角化戦略の成功要因として最も重要とされていることに範囲の経済があります。範囲の経済とは、単一事業で事業活動を行うよりも多角化で複数の事業活動を行う方が、コストが低くなることです。技術・ブランド・顧客の信頼・ノウハウ・流通網などの資源を、複数の事業でともに利用することが多角化戦略を成功させる重要なポイントとなるのです。

スーパースポーツゼビオとジアシスは技術や顧客の信頼、ノウハウなど経営資源を共用しながら店舗運営を行っています。このことからゼビオは複数の事業で効率良く経営資源を活用しながら成長を図っている企業と言えそうです。

多角化戦略を行う際には複数の事業間で如何に経営資源を共用できるかということが重要なポイントのようです。

(参考文献 明解!経営戦略がわかる~消費者視点から読み解く“戦略”の基本)

価値システムの変化による脅威

本日は“価値システムの変化による脅威:キングジムの戦略”に関して記載します。

【価値システムとは】

価値システムとは「収益モデルを支える事業のつながり」のことを言います。“収益モデル”は、儲けの仕組みのことで、企業が顧客に「商品・サービス」を提供し、その対価として顧客から代金をいただくという仕組みです。そして“事業のつながり”とは、例えばメーカーであれば「原材料の採掘→部品の製造→製品の製造→製品の流通→最終消費者への製品の販売」というようなことを言い、製品・サービスが顧客の手元に届くまでの一連の流れのようなことを言います。この価値システムが変化する時、既存の企業の脅威となることがあるのです。

【キングジムの戦略】

キングジムは主に家庭用の文具を製造、販売する会社で、主力であるファイルを中心とした文房具やテプラなどの電子文具も多数開発している企業です。このキングジムが2012年7月1日付で広島に本社を持つドリームネッツより電子書籍出版・書店開設サービス「wook(ウック)」運営事業を譲り受けることに合意しました。

電子書籍出版・書店開設サービス「wook」は「誰にでも簡単に電子書店を開設できる」をコンセプトにした電子書籍・出版ソリューション事業です。「wook」を使うことで、誰にでもインターネット上に独自の電子書店を開設でき、さらには簡単な操作で電子書籍の作成や販売も可能になるそうです。「wook」で提供される電子書籍は、パソコンはもちろんのことiPad、iPhone、Android端末からでも専用のビューアアプリを使用して閲覧が可能です。

同社の流通網を活用し事業の拡大を狙っています。このキングジムの「電子書籍・出版」市場参入は従来からある出版社などの収益を目減りさせる可能性がある“脅威”となります。電子書籍の出版が普及していくということは、今までの「出版社→印刷会社→製本会社→出版卸売業者→リアル書店」の流れが途中で省略される可能性があるということです。これにより、著者から顧客の手元まで届く今までの事業のつながりが変化し、それに合わせて従来からある既存の企業が衰退に追い込まれる可能性が出てくるのです。

価値システムは、顧客に提供する新商品や新サービスの出現により変化する可能性があります。例えば“ポケベルに対する携帯電話”“フィルムカメラに対するデジタルカメラ”“ワープロに対するパソコン”が挙げられます。また、新しい儲けの仕組みが出現することによっても、価値システムは変化する可能性があります。これはアマゾン登場(リアル店舗に対するネット店舗の登場)が、従来からある「出版卸売業→リアル書店」という価値システムを変化させたという例が挙げられます。

キングジムでは「wook」によって自費出版のサポートも行っているようです。ネットの普及により“出版をする”ということの垣根が低くなってきているようにも感じさせられます。社会の環境変化はどの時代にもあるのでしょうけれど、その変化は大きな流れとなって確実に僕たちの生活を変化させていくのでしょう。そのことを織り込んだ行動が大切だとも言えると思われます。

(参考文献 明解!経営戦略がわかる~消費者視点から読み解く“戦略”のキホン~)

ノンフリル実践企業例

本日はノンフリル実践企業例に関して記載します。

【ノンフリルを実践する企業】

ノンフリルとは、余剰サービスを極力省き、コアのサービスだけを質を下げることなく、低価格で提供するビジネスモデルです。このビジネスモデルの代表例として挙げられるものとしてLCC(ローコストキャリア)があります。また他の事例として『QBハウス』『スーパーホテ』『IKEA』の取り組みも挙げることができます。上記、4つの企業に関して以下にそれぞれ取り組み内容を記載していきます。

【LCC】

LCCの元祖は1967年に創業したサウスウエスト航空です。共同創業者のハーバード・ケレハーらが「高額な航空運賃を安くできないか」と、必要性の低いサービスを省きました。その後、アイルランドのライアンエアー、オーストラリアのジェットスター、マレーシアのエア・アジアなど世界各地でLCCが誕生していきます。各社は「座席の幅を従来よりも狭くする」「食事や飲み物の提供・機内サービスの有料化」「手荷物預かりの有料化」「不便な郊外の空港を発着地に選ぶ」といったことを実践しコアのサービス以外でかかっているコストを削減。航空券を安くすることに成功し、低価格指向の顧客の心を掴むことに成功します。

【QBハウス】

QBハウスと言えば、10分1000円のヘアカット専門店。創業者の小西國義氏が「散発の時間をもっと短くしたい」と考えて生み出されました。一般的な理美容室では“カット”“シャンプー”“マッサージ”“ブロー”“セット”が一連のサービスとして行われますが、QBハウスは“カット”のみを行い、それ以外のサービスは切り捨てました。短時間でカットすると質が劣るのではとも考えてしまいますが、一般的な理美容室でもカット時間は10~15分だそうです。また、QBハウスは事前の予約や理美容師の指名もなくし、レジ作業の効率化を図ります。このような取り組みにより顧客から支持を受け、1号店オープンの1996年から20年足らずで、国内に500店舗を構えるほどの成長を遂げることができています。

【スーパーホテル】

スーパーホテルは「ぐっすり眠れる」というコンセプトして成長している企業です。1989年創業以来売上は右肩上がり、店舗数は全国100店舗を超えています。同社は「ノーキー・ノーチェックアウト・システム」を採っています。このシステムは、まず宿泊者はチェックインの際に部屋番号と暗証番号がプリントされた領収書を受け取ります。そして宿泊者はそこに記載されている暗証番号を部屋の扉に設置されているボタンに押すと鍵が開きます。これにより同社はチェックアウト時の顧客対応を省くことができました。また、部屋に電話を置いていないため、問い合わせによるスタッフ対応の手間も省きました。このように、スーパーホテルは宿泊者の安眠に注力し他のサービスを省くことで顧客からの支持を得ています。同社の宿泊代は、平均1泊7000円程度のビジネスホテル業界で、一泊・朝食付き4980円という価格設定に成功しています。

【IKEA】

IKEAで買い物をする際には、“気に入った商品を見つけたら番号をメモし倉庫に行く”→“家具の番号を見ながら倉庫で自分の家具を探す”→“家具を見つけたら、カートに積みレジまで運ぶ”→“会計を終えたら車まで自分で家具を運ぶ”→“家で自ら家具を組み立てる”という流れになります。日本の開梱設置まで行うシステムとは随分違います。この仕組みによりIKEAは「商品を倉庫からレジまで運ぶ要員」「配送費」「組み立てを行う要員」を削減。商品の低価格での販売につなげることに成功しています。(同社は80年代に一度日本に上陸しましたが、上記システムが日本人に受け入れられずに撤退しています。再上陸は2006年になるのですが、その際には有料での宅配サービスや組み立てサービスも組み込んでの上陸となります。)

消費者が必要とするサービスを絞り込み提供する“ノンフリル”というビジネスモデルは、長引いたデフレに慣れた日本の消費者に支持を受けているのではないかと思われます。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)

フリーミアム

本日はフリーミアムに関して記載します。

【無料ユーザーが9割以上を占めていても利益が出る“フリーミアム”とは】

フリーミアムという言葉を最近耳にすることがあります。このフリーミアムとは「フリー(無料)」と「プレミアム(割り増し)」を合わせた造語で、無料サービスを提供することでユーザー数を増やし、そのうちの一部のユーザーに高度な機能を持つ付加価値の高い有料サービスを購入してもらい利益を出すビジネスモデルのことを言います。無料のサービスという観点から言うと、昔から「無料サンプル」を配布するという手法もあります。しかしながら、フリーミアムは無料サンプルと“無料”という点では同じですが、双方には大きな違いがあります。それは無料ユーザーと有料ユーザーの比率が異なるということです。無料サンプルの場合、無料で商品を配布するにはコストがかかりますので、多くの商品を無料サンプルとして配布することが出来ません。一方でフリーミアムの場合、IT化によりコンテンツやサービスのコストを下げることが出来ているので、無料ユーザーがどれだけ増えたとしても、少数の有料ユーザーを獲得できれば利益を上げることが出来ます。フリーミアムを実践する企業は、たいてい1割に満たない有料ユーザーからの課金で利益を上げていると言います。

【フリーミアムを実践している企業例】

■エバーノート

エバーノートは無料で活用できるネット上のスクラップブックのようなアプリケーションソフトです。テキスト、写真、音声、動画などを自分のアカウントにアップロードすれば、クラウドによって、どこのパソコンやスマホからでもアクセスして利用・編集・共有ができます。エバーノートのユーザー数は5000万人以上いるそうですが、無料版と有料のプレミアム版のユーザー比率は96対4程度だそうです。クラウドを活用することでランニングコストを低く抑え利益を生み出しています。個人的にはちょっとしたメモをとる時に便利だと思っています。

■ドロップボックス

パソコンのフォルダをクラウド上に保存できます。無料版は容量が限られていますが、有料版にすると大幅に増量されます。iPhoneで撮った写真や動画がiPhoneをパソコンにつなぐと自動的にドロップボックスに保存されるので便利です。

■Avira

ドイツのAvira GmbHが販売するアンチウィルスソフトウェア。無料で利用できますが、起動するたびに有料版の広告が出ます。また一部機能が使えないなどの制限もあります。日本語版は2009年12月1日にリリースされ、1年で日本のユーザー数が250万人を突破しました。

■スカイプ

2003年に創業した無料電話サービス。インターネット回線を利用することで、パソコン(スマホ)の会話を無料にしています。有料サービスにすると固定電話への通話もかけ放題になります。

■Flickr(フリッカー)

画像投稿サイト。写真をウェブ上で整理・分類・展示できます。また、他人と共有してお互いにコメントを書き込むこともできます。有料版は広告表示がなくなります。

IT化が進むことにより、無料で多くの顧客を一気に集め、一部のコアの利用者へ課金をすることで利益を生み出すことが可能になりました。フリーミアムは社会環境の変化にともなって登場した新たなビジネスモデルと言えそうです。

(参考文献 図解&事例で学ぶビジネスモデルの教科書)

オープンビジネスモデル

本日はオープンビジネスモデルに関して記載します。

【オープンビジネスモデルとは】

オープンビジネスモデルとは、自社のみならず社外とのコラボレーションによって新しい価値を作り出し、これまで以上の利益を得るビジネスモデルのことを言います。近年、技術や製品のライフスタイルが短くなり、研究開発のスピードがより求められるようになっています。そこで自社の技術をオープンにして製品開発などをすることで、自社のみでやるよりずっと早く、斬新な技術開発を促すオープンビジネスモデルに注目が集まりました。

このオープンビジネスモデルを大きく分けると社内のアイデアや資産を社外のパートナーにオープンする「インサイドアウト」と外部のアイデアを社内に取り込む「アウトサイドイン」という二つの種類があります。

【ゴアテックスのインサイドアウト】

ゴアテックス(GORE-TEX)はアメリカのゴア社が開発した防風・防水性と透湿性を両立させた(水蒸気は通すけれど雨は通さない)画期的な繊維素材です。部品メーカーや素材メーカーはエンドユーザーにブランドの価値を見出してもらうことが難しい業種なのですが、ゴア社はゴアテックスの良さを伝えることが、良い素材を求めているエンドユーザーに対して大きなメリットとなると考えました。また、付加価値の高い製品づくりを目指す製品メーカーにとってもゴアテックスの良さを知ってもらうことは大きなメリットがあると考えました。そこでゴア社はインサイドアウトのビジネスモデルを活用します。同社は限定した生地メーカーやアパレルメーカーに対してのみ製品を提供するとともに、彼らと高い防水性や透湿性の製品を作り上げるために協働しました。この結果、ゴアテックス素材の「防水性・透湿性」はより磨きがかかっていくこととなりました。

【プリングルズのアウトサイドイン】

P&Gのポテトチップスにプリングルズという人気商品があります(P&Gが食品事業撤退により、2012年以降はケロッグが商標権を所有)。アメリカにはプリングルズ1枚ずつにスポーツや音楽などに関するクイズや豆知識などを印刷した「プリングルズ・プリンツ」という商品があります。この商品はパーティーで盛り上がるという新しい価値を消費者に届けることで大ヒット商品になったそうです。この商品はP&Gの社内の研究開発から生まれたのではなく、外部研究者とのやり取りから生まれたそうです(P&Gに当初ポテトチップスに絵や文章を印刷する技術がありませんでしたが、イタリアの大学教授が経営する小さなパン屋が食用のインクの技術を持っていることを知り製品改良を行いました)。まさしくアウトサイドインの手法を使って開発された商品ということが言えます。

自社と他社の情報の垣根をどう取り払って、どう自社の成長につなげていくか。情報を囲い込むのではなく、情報をどのように使っていくのかが企業の成長につながる時代になってきたのかもしれません。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)

鴻海(こうかい)精密工業の“アンバンドリング”

本日は鴻海(こうかい)精密工業の“アンバンドリング”に関して記載します。

【成長する企業 鴻海精密工業】

フォックスコンの名前でも知られる鴻海精密工業は、台湾に本社を構え主な生産拠点を中国とする企業です。1974年の創業当時は小規模な企業でしたが、2011年にはグループの年間9兆7126億円の売上高に達し、その額は日立製作所や日産自動車の連結売上高を超える規模です。アップルのiPhone、ソニーのゲーム機やパソコン、モトローラ社の携帯電話など世界各地の大企業から高度な製品の生産を請け負っていて、各種パーツのOEM供給・筐体の組み立てを行っている老舗企業として世界規模の市場では名高い企業となっています(OEM:発注元企業のブランドで販売される製品を製造すること)。この鴻海精密工業の成長の理由には“アンバンドリング”というビジネスモデルにありました。

【アンバンドリングとは】

アンバンドリングとはビジネスの特色ごとにバリューチェーンを分け、特定の業務だけに特化するビジネスモデルを言います。ビジネスの特色は「顧客ビジネス」「インフラビジネス」「製品ビジネス」の3つに分けます。

・顧客ビジネス:顧客のニーズに即した商品やサービスを見つけて顧客に結び付ける。

・製品ビジネス:創造的な新製品やサービスを開発。

・インフラビジネス:物流、製造、取引処理など、毎日の業務を支える設備を管理する業務。

上記3つの仕事はそれぞれ求められるスキルや経済原理が異なりますので、一つの組織として活動していると、組織に矛盾が出たり、妥協が生まれたり、効率が悪くなったりします。そのことから、特色が違うビジネスは別会社にした方が、それぞれが強い企業になれるというわけです。例えば日本の電力会社を発電と送電部門を別会社にするということは、このアンバンドリングの考え方の一種となります。

【鴻海精密工業のアンバンドリング】

鴻海精密工業は自社の事業を上記の「インフラビジネス」に特化し、生産だけに経営資源を集中し、高度な製造ノウハウを蓄積していくことで、成長を遂げていきました。かつてはメーカーが自社で工場を持つのが普通のスタイルでしたが、近年、自社工場を持たず、企画と設計だけを手掛けるファブレスメーカーが増えています(例:任天堂・セガ・ダイドードリンコ等)。そうした企業は請負会社に対して、難解な設計や製造、並びに大量生産を求めてきます。それに対して鴻海精密工業はインフラビジネスに特化することにより、その期待に応えたのです。

企業の成長には強みを伸ばすことが一つの手段ですが、アンバンドリングはまさしくそのような手法であると思います。

さて、鴻海精密工業は3月10日に年内に1万5000人の新規採用を計画していて、新規採用者の配属先はクラウドやeコマースなどの次世代事業領域が含まれるという報道がなされました。同社は携帯端末市場の飽和により、その利幅が縮小していて、従来のビジネスモデルからの脱却を図ろうとしています。同社のこの選択が吉と出るか凶と出るか、注目されます。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)