イタリアの小売業

本日はイタリアの小売業に関して記載します。

【ベネトンから見るイタリアの小売業】

イタリアは出生率の低下と高齢化により、衣料品やレジャー関連の製品に対する需要が減ってきているといいます。そのような状況に置かれているため、イタリアの有名なアパレルチェーンであるベネトンやステファネルといった企業は国外に拡大展開するようになってきたと言います。

ベネトンは100か国以上で展開しているイタリアで最も有名なチェーンです。そしてその売上は主としてフランチャイズ店におけるものとなっています。フランチャイズというと、フランチャイズを与えられた店はフランチャイザーに対して加盟料を支払い、売上の一定率をフランチャイズ・フィーとして営業している間、支払うというイメージがあります。しかしながら、ベネトンはフランチャイズ・フィーを課さず、会社の利益は製品の売上のみから取っています。

イタリアではフランチャイズ・フィーを取るようなビジネス慣習は一般的に用いられていないそうで、フランチャイザーはフランチャイズ店での製品販売からのみ収入を得ていると言います。ビジネス慣習の違いにより、同じフランチャイズでも収益の上げ方が異なるということは興味深いものがあります。

【食品小売業から見るイタリアの小売業】

イタリア人は収入の多くを食費に費やしており、その割合は大半のヨーロッパ人よりも大きいそうです。イタリア人はそれだけ食に関してこだわりがあるということでしょう。食品は新鮮であるかどうかが重要だと考えており、他のヨーロッパ人よりも頻繁に買い物をする傾向にあるようです。また、高品質の食品に対して高い期待を持っているのと同時に、PB(プライベートブランド)に関しても、購入の際に最も重視されることが「価格に見合った商品かどうか」ということのようです。“食に対するこだわりの文化”の影響があるのかどうか、イタリア人は、スーパーマーケットやハイパーマーケットよりも専門店に対して感じている好感度の方が多少大きいといいます。

そもそもイタリアは小規模の独立した小売業者が多くを占めています。

イタリアの食品小売は生協(Coop)、コナッド、カルフールという3つのスーパーマーケットチェーンが優勢ですが、優勢と言っても、3社の売上合計は総売上の8%しか占めていない状況です。そのような中、中小規模の小売業者たちは“購買力を強化、またはPB商品を共同開発する目的”で共同仕入れグループ(バイイング・グループ)を結成しています。バイイング・グループの力を使い、イタリアの小売業者は自社の購買力をアップさせています。ですので、小売りチェーンはバイイング・グループの拡大のために協力しています。バイイング・グループ自体、「インターメディア」「パム」「ロー」「シサ」「デスパール」「コープ・イタリア」「シグマ」「セレックス」などなど数多くあります。日本においてはCGCグループというコーペラティブチェーンがあり、中小規模のスーパーマーケットが共同でPBを作ったりしていますので、それに近い形なのかもしれません。

イタリアでは、小売店を開店したい人はトレーニングプログラムと資格試験を受けなければならないそうです。小売業は、その地域の文化や慣習、制度の影響を大きく受けるということがよく分かります。

(参考文献 変わる世界の小売業).

フランスの小売業

本日はフランスの小売業に関して記載します。

【小売業の国際化が進んだ国 フランス】

フランスは世界でも小売業の国際化の進んだ国の一つであり、フランスのハイパーマーケット業態は世界中に拡がっています。ハイパーマーケットとは、衣食住全てを扱う郊外立地の倉庫型・集中レジ方式の総合スーパーの一つの形態のことをいいますが、ハイパーマーケット業態を用いた最初の店である「カルフール」は世界で2番目に大きい小売業で、2010年度現在で出店国数33か国に展開しています。同じくハイパーマーケット業態を用いている、世界15位の売上を誇るオーシャンは13か国に出店しています。

【フランスの小売業の国際化が進んでいる訳】

フランスの小売業が国際化している要因としては以下のような点が挙げられます。

まず、フランスの75%の人々が都市部に住んでいるのですが、そのような状況の中、市場がすでに飽和していると考えられています。そのため、フランスの小売業者の方針として、自国では新たに店舗を開かず、利益の出ない自国の店舗はスクラップする一方で、店舗を立ち上げるコストが低く、競争の激しくない外国市場へ進出するという方向になっています。

また、フランス政府の小売業に対する規制が理由として挙げられます。

1973年以降、フランスではロワイエ法という法律が施行され、すべての小売業者は認可を得る必要があります。この法律は20年に亘って運用されました。この規制は最近規制され、認可が必要な店舗面積の条件が引き下げられてはいます。併せて、フランスでは小売価格設定と小売価格の値引きを制限する法律も存在します。こうした状況がフランス小売業の国際進出を促したのです。

【ハイパーマーケット カルフール】

前述したように、カルフールはハイパーマーケット業態を用いた初めての小売業者です。初めはアメリカ市場に進出したものの成功せず、撤退を余儀なくされていますが、その後、中欧やラテンアメリカなど、近代的な小売業が確立されていない国々に集中して出店し、成功を収めています。

カルフールは多国籍の事業展開が特徴的です。当初は、経営を分権化システムによって、国際的に事業を拡大してきましたが、1994年以降、この戦略を翻し、中央集権型の運営に転換します。これにより、大規模な共通の品揃えができ、カルフールにとってより有利な条件で仕入れを行うことが可能となりました。

【フランスの百貨店】

世界初の百貨店「ボン・マルシェ」がパリに誕生してから、130年間に亘ってフランスは百貨店分野のリーダー的な存在でした。しかしながら、現在では伝統的な百貨店は困難な時代を迎えているといいます。この理由としては、百貨店がハイパーマーケットのように自らの物流システムを効率化してこなかったということが挙げられます。そして、ハードディスカウンター(小売業の業態の一つで超安売り業態のこと)が市場に参入し、同じ商品をより低価格で販売を始めたということが挙げられます。

フランスは百貨店とハイパーマーケットという業態を生み出した国で、現在、その業態は世界各地に拡がっています。近年ではオーシャンが「クロノドライブ」というドライブ・スルーの店舗を展開するなど、新たな小売システムを創り出しています。国家の規制がある中、進化を遂げるフランスの小売業には興味深さを感じます。

(参考文献 変わる世界の小売業)

インドの小売業

本日はインドの小売業に関して記載します。

【世界第8位 インド小売業の概要】

インドの小売市場の規模は世界第8位と非常に大きなものとなっています。とはいうものの日本の小売業のような形のイメージとはだいぶ異なるように感じます。まず、小売業の販売額の95%がパパママ・ストアによって占められています。そして、小売産業における最大のカテゴリーは常設店舗では食品、飲料、タバコを扱う専門の小売業者となります。また、小売業の多くがセルフサービスをとることなく、『フル』サービスを実施しています。インドでは労働賃金が安く、セルフサービスによって労務費を節約する必要がないことや、店主の所得が低く、大型店舗を借りたり、投資したりすることが出来ないことが理由のようです。よって、インドのほとんどの小売店で、接客を行い、店主や店員がカウンターの背後から商品を持ち出して、顧客に見せるというシステムをとっています。

【インド 外国からの直接投資の禁止】

2006年1月にインド政府は自社製品を生産する外国の小売業者に対して、その製品をインド国内で販売してもよいと発表しました。これはナイキのような製造業者は小売店を開設することができるけれども、ウォルマートのような小売店にはそれができないということを意味します。例えばメトロ(独)はインドにウェアハウスクラブを開設していますが、これは最終消費者が一般顧客ではなく企業であるという理由からライセンスを与えられたと言います。このようなことから、インドの小売システムは外部からの影響を受けにくいということが言えます。

【インドの課税】

インドの各州においては、ある州から持ち込まれた商品には2度課税がされることになっています。一度目はその商品が生産された州で、二度目はそれが販売される州です。商品の仕入れを州内のみで行えばいいのですが、そうでなければ税金の負担が増してしまいます。その様なことから、小売業者の全国的なチェーン展開が難しくなっていると言います。

【インド小売業のプライベート・ブランド(PB)の多さ】

インドのほとんどの百貨店やスーパーマーケット・チェーンで、他のブランド品よりマージンや利益率の高い、プライベート・ブランド製品の販売促進に力を入れています。インドのビジネス財閥の一つタタ・グループの一員である「トレント」では、PBの売上が90%。インドで最古で最大の百貨店チェーン「ショッパーズ・ショップ」でPBの売上が約22%。アパレル産業として始まった百貨店「パンタルーン」は百貨店を開店するために、川下の小売部門を統合。PBの売上は80%を占めています。

また、ほとんどのスーパーマーケットでは、米、小麦、砂糖、塩、小麦粉、豆などをパッケージし直して、それをPBとして販売しています。インドで2番目に大きいチェーンであるRPGエンタープライゼスの「フード・ワールド」の売上のPBの占める割合は約22%となっています。

【宗教上の問題】

ヒンズー教において雌牛は神聖なものであるため、インド南部にあるスーパーマーケットでは牛肉は販売していないそうです。余談ではありますが、マクドナルドは、インドにおいては製造業と見なされて、出店のライセンスを取っているのですが、もちろんビーフ100%での販売は行っていません。チキンやフィレオフィッシュ、カレー風味の野菜コロッケといったものがパンに挟まれているようです。マクドナルドのみならず、小売業においても宗教が影響を与えているのです。

インドの小売業は日本のそれと比べてユニークなものであると感じます。また、市場としては大きいのに、小売各社がインドに進出していない理由というのも上記から理解できます。国の制度というものが海外進出を行う際の大きな壁になるということでしょう。

一方、2012年にインドのシン首相が小売業の外資系企業の参入を認める方針を打ち出しています。今後、インドの小売業がどう変わっていくのかも注目です。

(参考文献 変わる世界の小売業)

小売業者が国際化する理由

本日は小売業者が国際化する理由に関して記載します。

【国際化の理由その1】成長の可能性が低い、成熟した国内市場の限界を超えたい時

ライフサイクルの経過の中で成熟期に到達した小売フォーマットは国内市場において右肩上がりに成長を続けることが難しくなります。しかし、外国市場に出ると、その小売フォーマットが新しくて興味深いものと見なされる可能性があります。

例えば、1980年代後半にアメリカで普及のピークにあったウェアハウスクラブ(会員制倉庫型卸売小売のことで例としてはコストコ)は、アメリカを抜け出し、アジアや南アメリカの市場で活気を持って展開されました。また、「トイザらス」はアメリカにおける出店が飽和状態だと判断し、アジアやヨーロッパへの進出をスタートさせました。

小売業者は、国内に留まって新しい小売フォーマットを考え出すよりも、外国市場に打って出たほうがリスクは小さいと考えて、外国へ進出していきます。そのようなことから、国外へ拡張する小売業者は一般的に大規模小売業者となります。

【国際化の理由その2】投資を多角化する必要性

「卵は一つのかごに盛るな」という格言があるようですが、投資を行う際、分散投資をすればリスク回避につながります。国際化をする際、小売フォーマットを多角化するのではなく、あくまで分散投資という観点から多角化をすることがあります。

【国際化の理由その3】規制によって本国での拡張に制限がある場合

多くの国で“小売の拡張の制限”“小売業者による従業員の解雇の制限”“営業時間を規制”といった厳格な規則があります。日本においては「大店法」という法律が過去にあり、大規模小売店を出店しようと思った場合、その地域の中小小売業者にお伺いを立てなければならないという時代がありました。今はアメリカの要求により、この法律はなくなっていますが、このような話は日本だけではありません。例えばベルギーには「パドロック法」、フランスには「ロワイエ法」と呼ばれる同様の法律があります。

【国際化の理由その4】ユニークな小売フォーマットを所有している

ある小売業者がイノベーションを起こし、新たな小売フォーマットを発明したとしても、それが特許や著作権で保護されるわけではないので、競合他社はすぐにそれを模倣することが出来ます。ユニークな小売フォーマットをもつ小売業者がそのフォーマットの価値を最大限活かそうとするならば、他社の模倣に先んじて、外国市場に積極的に拡張することが一番となります。ファストファッションの「ザラ」は迅速な在庫補充システムを開発し、回転率が高く、すぐに買わないと商品が店頭からなくなるという感覚を消費者に与えていますが、この小売フォーマットを持って、積極的に海外に進出しています。

【国際化の理由その5】本国での競争が激しい

競争の激しい市場において、小売業者が成長の可能性が高く競争が激しくない他の市場へ参入することがあります。この例としてアメリカの「Kマート」があります。Kマートはディスカウント小売業においてウォルマートにトップを譲ることとなりました。その中でKマートは、ウォルマートと直接対決をして、アメリカ市場でカニバリゼーション(共食い)をおこすのであれば、対決を避け、国際市場へ拡張していこうということを選択。メキシコに進出します。ただ、この進出は失敗に終わっています。

【国際化の理由その6】本国の景気悪化

景気の後退は、早い段階で小売業者に大きなダメージを与えます。本国市場が経済の低成長期に入っている場合は、国際的な展開を行っていくことが求められます。

【国際化の理由その7】先発者優位

小売業が成功を収める条件として、良好な立地を見出すことが挙げられます。そのため、最初に良好な立地を獲得することが重要となってきます。

現在、日本の多くの小売業が海外に進出しています。全体的な理由としては、少子高齢化に伴う国内市場の縮小やオーバーストア化による日本市場での競争激化といった理由があるためでしょう。また上記に加え、成熟した小売フォーマットやユニークな小売フォーマットが海外へ進出していくということも、海外に進出していく小売業を個別で見る際、一つの指標となると思います。

(参考文献 変わる世界の小売業)

韓国の小売業

【韓国経済に影響力を持つ財閥】

韓国経済においては家族経営で支配される巨大企業集団である財閥が大きな力を持っており、1960年代初期から政府の特別な支援を受けて成長を続けてきました。例えば現代(ヒュンダイ)、三星(サムスン)、LG、SK、韓進、ロッテ、大宇といった財閥があります。また、この財閥の特徴として、参加にいろいろな産業にまたがる子会社を持っています。例えば、自動車で有名な現代であれば、建築・重工業・生命保険で子会社を持っており、小売業では現代百貨店を所有しています。またサムスンはサムスン電子だけでなく、三星生命・三星重工業・三星建設などを傘下に所有していて、小売業においてはイギリスのテスコと合弁でホーム・プラスというディスカウントストアを経営しています。財閥の中でロッテ・グループは特に小売業に強く、ロッテ百貨店、ロッテ・マート(ディスカウントストア)を所有。LGはコンビニのLG25やLGスーパーマーケットを所有しています。韓国経済を理解しようとした際、この財閥の存在が大きなポイントとなってきます。

【製造業の強い韓国における小売業の形態】

韓国は自然資源をほとんど所有しないため、1960年代から輸出部門を支援し製造業の成長を促してきました。一方、小売業に関しては特に国が支援することはせず、1996年に小売市場を完全自由化するまで国際競争からも保護していました。

上記のような流れの中で、韓国の過去からの経緯で、川上である製造業の力が強かったこともあり、委託販売システムや製造業者直営の販売代理店(フランチャイズ)への集中などの特徴を有するようになりました。小売業者ではなく製造業者が、品揃えの決定、販売員の派遣、委託システム下での商品展示、売れ残り商品の処分などの機能を果たしていたのです。韓国の百貨店やディスカウントストアが力をつけた今でも委託販売システムやフランチャイズ店の仕組みは、韓国小売業を理解する上で大きなポイントとなっていると言います。

【上位集中と小規模店舗】

韓国の小売市場は有力企業による集中度が高くなっていて、そのほとんどが財閥グループです。韓国の百貨店業界の上位3社を見ると、ロッテ百貨店、新世界百貨店(元三越→三星)、現代百貨店となっています。またディスカウントストアにおいてもイー・マート(新世界、三星の子会社)、ホーム・プラス(三星とテスコの合弁)、ロッテ・マートと上位3社が財閥系となっています。

その一方で家族経営のパパママ・ストアの割合が非常に高いということも特徴のようです。2000年度の小売店舗数だと、694,000店あり、人口1000人当たり15.1軒の小売店があることになります。日本が13.2、アメリカが6.1、イギリスが1.9、ドイツが1.9という数値になっていますので、小売店が過密していることが伺えます。

韓国の小売業は財閥の影響を大きく受ける一方で、小さな小売店の数も多いということが言えます。製造業の力が強く、委託販売や製造業者直営の販売代理店の仕組みがあることは日本の小売業に近しいところもあるように感じます。

(参考文献 変わる世界の小売業)