H2O・イズミヤの経営統合とのれん

本日はH2Oとイズミヤの経営統合と「逆のれん」による経営改善について記載します。

【H2Oとイズミヤの経営統合】

2014年1月31日にH2Oとイズミヤが経営統合を発表し、6月1日にイズミヤはH2Oの完全子会社となります。両社の2013年度の連結売上を単純加算すると9200億円、営業利益で209億円になります。

H2Oは現状、大阪地区の百貨店売上シェア36%を占めており、経営陣は将来その数値を40%にまで上げたいと考えています。過去の推移を見ると、“2008年に阪急うめだ本店に隣接した阪急メンズ大阪を増設”“同年11月、大阪郊外に西宮阪急を展開”“2012年11月、売場面積を6万1000平米から8万平米へ拡大し、阪急うめだ本店をグランドオープン”と百貨店事業の体制を整えてきた経緯があります。

経営陣が上記に加え注力してきたことに「食料品関連事業の強化」ということが挙げられます。2006年にニプロから食品スーパーを展開するニッショーストアを買収。2011年4月、九州地区が地盤のエブリデイ・ドット・コムの株式を取得して「オレンジライフ」ブランドを獲得。宅配事業の拡張を図る。11年9月には外食事業である家族亭の株式を取得・子会社化といったことを行ってきました。

H2Oには、都市部は百貨店で郊外はスーパーマーケットという発想があり、上記のような買収を行ってきましたが、スーパーマーケットについては小規模なものとなっていました。そこで浮上したのがイズミヤとの経営統合でした。店舗商圏が両者で重なり、都市部でアッパーに対応する百貨店と、郊外で総合生活事業を展開するイズミヤとは補完関係が成立したのです。

【イズミヤ 逆のれんによる経営改善】

イズミヤは、かつて西のイトーヨーカ堂とたとえられたほどの優良GMSでしたが、近年は売上低迷により不採算店舗の閉鎖や事業統合などの改革を行っていました。そして、直近の中期計画ではロジスティック改革やGMSの効率化などに取り組んでいました。この状況をH2Oとの経営統合により改善することができる可能性が出てきます。経営統合を行うことで500億円ほどの『逆のれん』が発生するためです。この500億円を活用して、各種減損、不採算店舗の閉鎖などを行い、財務的負担を低減し、営業キャッシュフローを改善することができます。中長期的には店舗活性化や好立地の既存店舗の建て替え、新店舗への設備投資など積極的な投資に資金を回せる可能性もあるのです。

【のれんとは】

市場の競争が激しくなればなるほど、商品そのもののクオリティだけでなく、その商品自体が持っているブランド力や商品を販売するための顧客基盤などが大切になります。そのために、製造設備のような有形固定資産だけでなく、ブランド力、顧客基盤、ライセンス、コンテンツ権、特許権、ソフトウェアなどの様々な無形資産の重要性が大きくなってきています。

他社から購入したブランドや顧客基盤、技術などの無形の資産は、貸借対照表に無形固定資産やのれんという科目で表示されます。企業買収を行う時、買収時に発生した差額をしっかりと分析することにより、可能な限りソフトウェア、特許、著作権、顧客名簿、独占販売権、コンテンツ権など無形固定資産に分類し、残りの金額をのれんとすることにしています。つまり、のれんというのは目に見えない資産の中で、無形固定資産のようにしっかりと分類できない資産となります。

さて、H2Oとイズミヤの経営統合による『逆のれん』ですが、買収される会社(イズミヤ)の純資産より低い価格で買収した場合の差額で、買収した会社(H2O)の営業外収益となることを言います。

H2Oとイズミヤの経営統合は補完的に両社の経営基盤を強化できるWin-Winの状態だと言えそうです。

(参考文献 販売革新2014 4 ビジネスモデル分析術)

大丸札幌

本日は大丸に関して札幌大丸店を軸に記載します。

【大丸の改革】

大丸は1999年から営業改革を開始しました。その改革で“それまで売場ごとに差が生じていた個々の売場の業務プロセスを標準化して、本社が店舗・事業部を横断的に管理”“スケールメリットにより大丸がMD業務への関与を深めることのできる一括仕入れ制度の導入(※)”“ITによる業務のシステム化”を行ってきました。それら改革により生み出したキャッシュフローを活用して中心部に立地する大規模店舗の出店・増床、及び百貨店業界では珍しい郊外のショッピングセンター内などへの小規模店舗の出店を積極的に行ってきました。

【大丸札幌店の高効率・高収益ビジネスモデル】

大丸の営業改革開始時、地域一番店が神戸店のみでした。それに対する対応策として大規模店舗の出店を行ったのですが、2003年3月に売場面積4.5万平方メートルの札幌大丸店を開業しています。札幌は大丸にとって全く基盤のない地域で知名度も低かったので、しがらみなく、上記のような営業改革で蓄積した知識を取り入れ、顧客満足と効率性の双方を追求するストアオペレーションと売場づくりを行いました。

品揃え面では、札幌の既存百貨店との競合を避け、中低価格の商品を充実。札幌初となるブランドや地域のブランドを導入し、新規性と親密性のあるブランド構築を行いました。店舗構造は商品ストックを十分に確保。在庫品の並べ方を標準化して従業員の誰でもピッキングが迅速にできるようにしたり、ストック場の通路幅を90cmとって台車の出入りを可能にして、納品・返品などの業務を容易に行えるようにしたりしました。顧客の待ち時間を減らすために「ストック場から商品出しは60秒以内、接客後の返却は90秒以内」というルールも決めていました。

組織面では、それぞれの従業員が担う役割を明確化し、これに適する要員を算出し配置するとともに、マネジャーの人数も1フロアに1名としました。また、約40人の営業支援チームを設置し、返品処理・包装・倉庫整理・日報処理等の付帯業務を部門横断的に担当するようにして、店頭の販売員がこれらの付帯業務に時間を割くことなく、販売に専念できるような体制を整えました。

これらの効率化を目指した施策により、大丸の同規模の店舗の場合、800名から900名の社員で運営していたところ、札幌店は約500人で、しかもその半数はパートタイマーなどで運営することができるようになりました。この結果、札幌店の売上高人件費率は低まり(3.8%)通常、3~4年かかる営業黒字化を開店初年度で達成するという成果を上げました。

札幌店は、主要ターミナル駅に直結するという好立地と営業面の成果もあり、売上高で増収を続け、開店初年度の2004年2月期の売上高393億円が、2011年2月期の売上高544億円へと成長。札幌で地域一番店にまで成長しました。

【大丸札幌店の横展開】

2008年、東京店移転増床時には札幌店での経験を活かしました。例えば、移転後の東京店の靴売場は面積が旧店と同規模だったのですが、ストック場の面積が拡張されていて、10ヶ所に分散していたものを3ヶ所に集約しました。また、通路幅や棚の商品分類なども札幌店と同様の方式を導入し、在庫探しの時間を従来の4分から2分以内に短縮するような工夫を行いました。売場マネジャーの人数も1フロア1人にしました。

大丸は営業改革の成果を、他店舗にも取り入れ、進化させてきています。主要ターゲットを18~34歳に絞り込んだ「うふふガールズ」も心斎橋店北館での成功を受け、京都店を始めとした各店に展開しています。

この進化の繰り返し、変化できる力が大丸の強さの一つだと思われます。

※百貨店のMD業務では、店舗の販売力が強いほど人気ブランドや売れ筋商品が確保しやすい状態になっています。これは近年、百貨店の取引先に対する交渉力が弱まり、取引先が販売先の百貨店を選択することが可能になったためです(逆選別)。取引先は商品の売れ残りリスクを自らが負担するため、売れ残りを防止するために販売力のある地域一番店に有力ブランドや売れ筋商品を集中させ、販売力のない百貨店には注文数に満たない商品を納品する場合があります。このため、大丸は一括仕入れ制度を採用し、商品力の強化を図ろうとしたのです。また店舗が仕入れに要していた負荷を軽減し、サービス提供業務に専念することも可能としました。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)