高額消費増の裏側にある消費志向の変化

本日はアベノミクスによる高額消費増の裏側にある消費志向の変化に関して記載します。

アベノミクスの影響による資産効果により2012年末から百貨店業界では、絵画や宝飾品、高級時計など高級品の売上の回復が始まり、2013年上期には全国の百貨店の売上高が2.3%増加したといいます。百貨店業界全体の売上高として、全盛期の9兆円台から6兆円台まで減少していたので、このことは明るい話題となります。実際に日本百貨店協会の「美術・宝飾・貴金属」の売上データを見てみると1月~9月の前年同月比が+5%~+23%の割合で増えており、高額品の動きが良いことが分かります。

 土地や株の価値が上がったことを契機に価格の高い贅沢品をぱっと買おうという動きが、一見1980年代末のバブル期の消費に似ているようにも見えます。確かにそのような消費志向も見受けられるところがあるようですが、一方で贅沢な高額品の購入というわけではなく“高額で堅実”というような消費スタイルが出てきているようです。

バブル期には「ワンランク上」や「最上級」をうたったモノやサービスが注目され、消費の現場では高い品物が売れました。その後、バブルが崩壊すると一転し消費者は「低価格志向」へ。2000年ごろからユニクロに見られるような「費用対効果」を重視するような動きとなりました。そしてアベノミクスによる景気回復の動きが見られる今、生活者が高額消費をする際の傾向として、「3コウ」志向という消費傾向が表れているそうです。この3コウ志向とは次のような意味合いとなります。素材や作りがしっかりした「高額品」。デザインや雰囲気が好みに合う「好感」。自分にとってどう役に立つのかが明快な「効果」。これら「高・好・効」という3つのコウを備えたモノになら多少の支出増もOKだという消費傾向です。例えば高くてもお掃除ロボットのような日常の生活に役に立つ商品が支持されるようなことです。

 欧米で10年ほど前から「BOBOS族」と言われる消費を行う層が出てきているそうです。ブルジョア・ボヘミアンの頭文字を結び付けた造語で、経済的に豊かなボヘミアン(自由人)となります。これらの人々は見栄を張るような高額品の購入を避ける一方、いいモノにはお金を使います。例えば燃費の悪い大型の車より環境に優しい燃費のいい車を買うといったものです。今出てきている消費スタイルはこのBOBOS族に近いものとなります。

 今の日本の消費傾向として安いモノでいいから買うという人の割合が減ってきていて、自分で納得できるモノを買うという人が増えてきています。長いデフレを経て日本人の消費傾向は確実に変わってきているようです。アベノミクスの資産効果で高額品が売れているというように一括りにせず、その内訳を注視する必要がありそうです。

 (参考文献 日経MJトレンド情報源2014)

非計画的な購入

本日は意外に多い非計画的な買い物という内容で記載します。

 現在、都市部においてはコンビニやスーパー、エキナカの商業施設など、身近な場所に様々な店舗があります。都市に住む人の移動する導線には様々な店舗が並んでいて、移動中にふと思い立ったらすぐに買い物ができるような環境になっています。まるで巨大なショッピングモールの中にいるかのように、都市部にすむ人々が買い物をするには非常に便利な時代になったということが言えます。

そういった環境下において、首都圏に住む人々の買物にはある特徴があります。2009年に実施されたインターネット調査「首都圏買い物調査」で集めた首都圏生活者(18歳~49歳)2750人の1週間の買物(約3万件)の分析結果によると、買物を決めたタイミングが「そのお店を見た時」あるいは「前にいた場所を出た後の移動中」が約4割を占めている状態です。これに対して前日までに計画していた買い物が2割。首都圏生活者の多くの買物が非計画的・衝動的に行われているという特徴があることがわかります。

また別の調査、首都圏で働く男女を対象に平日5日間の会社帰りの寄り道についての調査の結果によると、帰宅の途中の寄り道をしている人が47%の割合を占めており、その寄り道の2/3が帰途の思いつきで来店しているという結果でした。そして、その寄り道の来店がその日どうしても必要だったかというとそうでもないようで、「その日、来店してもしなくても、どちらでも良い来店だった」割合が約4割を占めています。そして驚くべきことに、そのうち3/4の人がお金を使っているというのです。

 現在はモノであふれている時代で、必要不可欠であるというモノはそれほどない時代です。この衝動買い・非計画的な買い物をいかに促せるかが店舗側としては重要な時代のようです。

 (参考文献 移動者マーケティング)

東京オリンピック

東京オリンピックに絡んで記載します。

オリンピックの東京開催が決まり、東京湾岸地域に水泳やバレーボール、バドミントンの競技施設などの新設、増改築に1300億円投じられる方針で、東京外郭環状道路も20年までには開通するなど、様々な投資が行われる予定となっています。

これらの投資による経済への効果は、東京都の報道発表資料によると、需要増加額は東京都で見て9669億円、全国では12,239億円で、その波及効果までを含めて7年間で3兆円ということです。日本の名目GDPが500兆円弱ですので、そう見ると決して大きなものではないということも分かります。

オリンピック誘致はアベノミクスの第4の矢とも言われているようですが、アメリカのヘッジファンドの中ではアベノミクスで評価されているのは金融緩和だけで、それ以外は評価されていなくて、オリンピックによる株価の効果は半年くらいしか持たないだろうとも言われています。

リニア中央新幹線をオリンピックに間に合わせよう、というような動きもありましたが、結果無理という話も出てしまいました。オリンピックの誘致はプラスの効果をもたらし良いことでもあるのですが、その効果を過剰に期待しすぎることにも気を付けたほうがよさそうです。

コト消費 消費者が商品やサービスに参加する仕組み

コト消費に関連して消費者が商品・サービスに参加する仕組みという点について記載します。

 東京ディズニーランドの地下には会員制の秘密クラブがあるという都市伝説があるそうですが、実際に東京ディズニーランドには一般ゲスト(入園客)が入れない地下通路が存在します。使用目的はキャストの移動やレストランで使用する食材やショップに並んでいる商品を運搬するためのものです。地上で商品や食材の運搬を地上で行わないことにより、ディズニーランドは来場者に徹底的にディズニーランドの世界観に浸ってもらうということを行っているのです。

コト消費が注目される中、ディズニーランドのように、「消費者が商品・サービスそのものに参加できるような仕組みを作り上げた商売」「商品・サービスの中に消費者そのものが組み込まれてしまうような要素のある商売」が成功をおさめる例が多々あります。

例えばアップルのiPhone。iPhone自体、製品として性能が高く、他の商品との差別化が図れてはいますが、それに加えアップルはiPhoneが生み出す体験をユーザーが感じ取れるような仕組みも作り上げています。つまりiPhoneは他のスマートフォンよりも「何ができるのか」「自分の生活がどう変わるのか」ということを強く打ち出しているのです。

CMでFace Timeというビデオ通話で遠隔地にいる孫の七五三の動画を見ておじいちゃんとおばあちゃんがウルウルしているというCMを作ったということはその事例の一つです。

また、アップルストアにおいては、最初、機種別の陳列構成だったものを、完成直前に体験別に変更しています。スティーブ・ジョブズのこだわりがあったようなのですが、「初心者用」「上級者用」とスペック別に販売することが普通とされていた時代に、「映像編集」「音楽編集」と顧客のやりたいこと(体験)を重視して店舗の構成を変えたのです。

 消費者が購入する際、贈り物でもない限り、当たり前ではありますが、その中心はあくまで自分自身です。そして現在、自分自身がその商品やサービスを購入する際には「どう変われるのか」「どういう体験を得られるのか」ということを重要視する傾向が強まってきていると言えます。モノがあふれている時代だからこそ、消費者が商品・サービスをただのモノとしてみるのではなく、体験し・体感し・共感できるようなコトとして捉えられるようになってきていると思われます。

 (参考文献 萌えビジネスに学ぶ「顧客を熱中させる」技術)

コト消費

コト消費に関して記載します。

【コト消費とモノ消費】

モノ消費・コト消費ということが、流通業界で言われます。また、今の時代、すでにモノで満たされていて、物質的なモノに価値を見出しにくくなっていることから、経験に価値を見出す「コト消費」への志向性が強まっているといいます。

モノ消費とは商品・サービスそのもののことを言い、そしてコト消費とは商品・サービスの本質的購入目的のことで、使用(消費)することで得られる期待満足及び結果満足につながることを言います。

コト消費の具体例として、有機野菜の宅配サービスを提供するオイシックスがあります。オイシックスは農業体験ツアーや料理教室などの体験イベントを行っていますが、それらを通じて、消費者が有機野菜の魅力を実感するとともに、有機野菜の品質・安全性を確認することができ、結果として宅配サービス利用のリピート率が高まっているそうです。

【今、人々はどんなことにお金を使いたいのか】

 経済産業省が行ったアンケートで、今後の消費についてジャンルを広げて「今後お金をかけたいもの」について質問した結果を見てみると全体では「旅行」(54.5%)、「趣味」(47.4%)、「貯金」(46.9%)、「外食」(34.3%)、「家電品」(32.8%)が上位で、日常生活における必要経費的な支出は抑え、「旅行」「趣味」をはじめとして生活を楽しむためにお金を使いたいという傾向が表れています。詳細を見てみると「家電品」「車」「株など財テク」は男性、「普段の食事」「外食」「普段着」「装飾品・ファッション小物」「美容」「内装・インテリアなど住まい」「旅行」「自分の教養・勉強」「通信」「貯金」は女性が多くあげているようです。また、上位に上がった「旅行」と「趣味」では傾向が異なり、「旅行」が男女とも高年齢層、高世帯収入層のほうが多いのに対して、「趣味」は若年層、低世帯年齢層のほうが多いという傾向がみられているようです。人口規模別でみると、「車」にかけるお金は小規模な都市ほど多くあがっていて「外食」「旅行」「友人との交際」は反対に大規模な都市ほど多い傾向にあるようです。

【コト消費 イオンの取り組み】

2013年2月7日付け日本経済新聞(朝刊)において、イオンモールの岡崎双一社長の発言が掲載されていましたが、その中で「自転車やカメラを売りたければツーリングや写真撮影会を主催する。そんな時代になった」というコメントが出てきます。また、「茨城県つくば市にイオンが3月に開いたショッピングセンターには地元サッカークラブ運営のフットサルコートや、ドッグランを楽しめるカフェを導入し、売上高は計画の3割増しだ」というものもありました。これも単純にモノを提供するのではなくモノに体験を付与して、お客様に提案しているという、コト消費の事例だと思われます。

モノがあふれる時代、他との商品との差別化が難しくなれば、その商品はコモディティ化して価格競争に陥ることになります。そのことは当然、企業の利益を減らしていくこととなります。お客様に共感を与えられるような商品・サービスを提供するということが売上・利益を確保する上で重要になってくるのでしょう。

 (参考文献 「消費者購買動向調査」~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~)

日本人の消費スタイルの変化

日本人の消費スタイルの変化に関して記載します。

 時系列で消費スタイルを見てみると、自分が気に入った付加価値には対価を払うという消費スタイルを取る人の割合が年々増えてきています。それに対して、製品のこだわりはなく、安ければよいという消費スタイルをとる人は年々減ってきています。

 日本が成熟した社会となることによって、自分が購入するモノに対して、こだわりを持つ傾向が強くなってきているということの表れだと思われます。安くても必要のないものは必要ないですし、3種の神器のようにご近所が持っているから自分も持たないといけないというモノも特にありません。自分の価値観にあうモノが求められているということでしょう。

おひとりさま男性 おひとりさま女性

本日は、「おひとりさま男性」「おひとりさま女性」に関して記載します。

【おひとりさま男性】

 現在、男性の非婚化・晩婚化が進んでいるようです。2010年の国税調査によると30~34歳の男性の未婚率は47%とほぼ半数、35~39歳の未婚率は36%とほぼ3人に1人という状況で、未婚率がかなり高いようです。このような状況の中で、今後、独身男性の数が増えていくことはほぼ確実な状況です。このことは肌感覚的にも実感できます。昔とは違い、別に30歳過ぎていて結婚していなくても“普通”な環境になってきています。また、年収と未婚率には相関関係があるようで、年収300万円以下になると未婚率が急激に高くなるそうです。このことを年収300万円の壁とも言うそうです。

また、独身男性の多くが親と同居しているようです。年収300万円未満の独身男性の7割以上が親と同居、年収500万円以上の男性でも半数が親と同居しています。パラサイト・シングルという言葉もあるようですが、親と同居し、生活面の面倒を見てもらい、経済的にも依存する独身男性が相当数にのぼっているようです。

 独身貴族という言葉があるように、年収500万円以上の男性で親と同居していれば、さぞ、個性的でデザイン性にとんだ商品をたくさん持っているのだろうと想像してしまうかもしれませんが、実際はそうではないようです。30~50代で年収500万円以上の独身男性が積極的にお金を使いたい分野の第一位は「趣味・レクリエーション」(59%)、続いて「人とのつきあい・交際」(36%)、「旅行」(33%)というようになっていて、モノにお金を使うのではなく、自分の趣味や、仕事上の資産となる人脈づくりのためのコミュニケーションにお金を費やしています。また、モノを買う際にも、保守的な消費意識を持っています。「有名メーカーの商品を買う」「日本製品を買う」といった安心感を求める志向が強く、「いつも買うと決めているブランドがある」「定期的に購入する商品はいつも同じ店舗で購入することが多い」というように、ブランドや店を決めている傾向があります。そして、買う前にいろいろと情報収集を行い、買い物に失敗しないように心がけているようです。独身男性は有名メーカーや日本メーカーなどの無難なものを選び、あまり新しいものに挑戦しない傾向があるようです。目新しいものを買って買い物で失敗したくないということでしょう。

 年収が高く親と同居している独身男性は個人で自由に使えるお金が多いため価格感度が低いと言います。確かにお金に余裕があれば、スーパーの安売りで1円でも安いものを買おうとか、ネットで最安値の販売先を探して買うとかして、時間を使うことをせず、自分で気に入ったものを買います。今後増えていくこの独身男性の消費動向を押さえておくことは小売業を営む人にとって必要になってくると思われます。

【おひとりさま女性】

おひとりさま男性に続いておひとりさま女性に関して記載します。

男性同様に女性の非婚化・晩婚化も進行してきています。2010年の国勢調査によると、30~34歳女性の未婚率は35%、35~39歳女性の未婚率は23%に達していて、30~49歳の未婚女性の人数は370万人にものぼっています。また、30~49歳の女性の中で、離別や死別により現在配偶者がいない人は136万人にものぼります。未婚・離別・死別で配偶者がいない状態の女性は合わせて500万人以上いることになります。確かにおひとりさま男性同様、おひとりさま女性も多く見受けられるようになった気がします。街コンのような企画が人気を呼んだのは男性・女性ともにおひとりさまが増えたことも原因にあるような気がします。

さて話を戻しまして、未婚化・晩婚化は今後も進むことが想定されていますが、おひとりさま女性の購買力はかなり高いようです。野村総合研究所の実施したアンケート調査からは30代、40代おひとりさま女性のうち、8割以上が働いており、その中で半数以上が正社員として雇用されています。また、おひとりさま女性は1ヶ月に自由に使えるお金が7万円以上ある人が18%、40代おひとりさま女性は19%、50代以上では26%という結果になっているようです。子どもの養育費などに自分の稼ぎを割かれることがないため、おひとりさま女性は経済的な余裕があり、企業側から見ても配偶者のいない女性は無視できないセグメントとなっているようです。

30代、40代のおひとりさま女性は、ファッションや美容の他、趣味や交際費など充実したプライベートを過ごすための支出が多く、ファッションや化粧品を選ぶ際の情報源は「雑誌・フリーペーパー」「クチコミサイト」「企業のホームページ」が多くなっているようです。また、休日の過ごし方としては、音楽鑑賞、映画・演劇・美術鑑賞、DVD鑑賞、外食・グルメ・食べ歩き、ドライブと多彩。旅行についても積極的で、過去1年に1回以上海外旅行に行った割合はおひとりさま以外の女性が21%であるのに対し、30代おひとりさま女性は32%となっていて、さらに3回以上海外に行っている人は10%も存在しています。

 消費価値観に目を向けると、おひとりさま女性は同世代のおひとりさま以外と比べて、とにかく安くて経済的なものを選ぶ人が少なく、自分のライフスタイルにこだわり、周りの人と違う個性的なものを選ぶ人が多いようです。そのようなことから、おひとりさま女性がインフルエンサーとなっていることもあるようです(インフルエンサー:世間に大きな影響力を持つ人や事物を表す。特にインターネットの消費者発信型メディア(CGM)において、他の消費者の購買意思決定に影響を与えるキーパーソンを指す)。このことから企業としては、おひとりさま女性の満足度を高め、良い情報を拡散してもらうことが重要となります。

 少子高齢化が言われる中、それに伴って男性・女性ともに“おひとりさま化”が進んでいます。このことは日本の消費環境に影響を与えているでしょうし、企業側が顧客のターゲットを絞り込み商品を作る際にも影響を与えることが想定されます。

 (参考文献 なぜ、日本人はモノを買わないのか?)

戸越銀座とエシカル消費

「戸越銀座とエシカル消費(社会をよくするための消費)」に関して記載します。

【戸越銀座にて】

半年ほど前、関東有数の長さを誇る戸越銀座に行ってきました。戸越銀座は、五反田駅から東急池上線に乗って2駅(戸越銀座駅)、もしくは浅草線に乗って1駅(戸越駅)と比較的都心からも近い場所にあり、全長1.3kmもある関東有数の長さの商店街です。この戸越銀座は日本での「○○銀座」第一号らしく、1923年の関東大震災の後に、銀座の瓦礫を運び込み低地を埋め立てたことから戸越銀座と命名されたそうです。

 実際に行ってみて、駅の近くはチェーン店が多いかなと思って見ていましたが、少し歩くとミシン屋とかおもちゃ屋とかの昔ながらの小売店がちらほら。まだ夕方というには早いかなという時間から、食料品店が居酒屋をやっているようなお店で、街の人たちと思われる人たちがお酒を飲んでいるという、なんとなくのんびりした感じの商店街でした。

せっかく来たので何か買おうかと思って歩いているときに、米粉パンのお店を発見しました。米粉パンに特化して生き残りを図っているのかとお店をのぞいていると、販売員から三陸・大槌町で人気の米粉の北極メロンパンを進められました。「販売する商品を絞り込むと同時にエシカル消費を押さえるとは」と北極メロンパンを購入。店の外で立ち食いをしていると、食べている間に何人か北極メロンパンを購入して帰っていきました。

【エシカル消費】

さて、このエシカル消費、日本においてはリーマンショックと東日本大震災が大きな加速要因となったようなのです。2008年9月にアメリカのリーマン・ブラザーズが破たんし、それがきっかけで世界同時不況が起こりましたが、この際に経済至上主義の限界を感じた人が多かったようです。また、リーマンショック以上に人々の心に大きな影響を与えたのは東日本大震災です。東日本大震災の被災状況を各種メディアで見て、他人のために何かしたいという「利他」の意識が国民の中に芽生えていったようです。2012年度に野村総合研究所が行った生活者1万人アンケート調査でも「価格が高くても、被災地に寄付されるような商品を購入したいか」という問いに対して、「そう思う」と回答する割合は14%、「どちらかといえばそう思う」と回答する割合は55%となっています。また、すべての性・年代において「価格が高くても、被災地に寄付されるような商品を購入したい」という割合が6割を超えています。震災直後は「がんばろう、東北」と東北でつくられた食べ物や工芸品を買うといった、地域の復興を後押しする、応援消費が盛んでした。震災1年間に、売上の一部が寄付される商品や被災地で生産された商品を購入した人は4割に達していたそうです。東日本大震災は消費者の消費行動に大きな影響を与えた、ある意味、ターニングポイント的な出来事であったということが言えます。

 戸越銀座という同じ商店街の中で、見た目はやっていそうな店とちょっと厳しそうな店、様々ありました。当たり前と言えば当たり前の話なのかもしれませんが「経営努力を積み重ねている店が人気なのだろう」と感じさせる、そんな商店街でした。

 (参考文献 なぜ、日本人はモノを買わないのか?)

フードデザート

フードデザートに関して記載します。

 半年前ほどの話にはなりますが、NHKのNEWS WEBを見ていたら「イトーヨーカ堂買い物弱者支援」という特集を行っていました。内容としては、イトーヨーカ堂が遠くに買い物が出るのが難しい高齢者(買い物弱者)を支援しようと、車で団地をまわって商品を販売する、移動販売を始めたということです。近年、駅前がシャッター通り化する地方都市を中心に、満足に買い物に行けず、日々の食材確保に苦労している高齢者が増えているといいますが、東京都内の団地においても同様のことが起こっているようです。今回特集された場所は多摩ニュータウンでしたが、NHKの爆笑問題の番組では高島平団地を取り上げ、団地の高齢化がかなり進んでいるということをやっていました。高度経済成長時代、都心が拡大していた時に、いろいろと郊外に団地ができましたが、今、その団地で高齢化が急速に進んでいるようなのです。

 経済産業省の審議会「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」は、アンケートで買い物に苦労していると回答した高齢者の割合から、買物弱者が全国に約600万人存在すると報告しています。また、同審議会のアンケート結果によると「日常の買物に不便」と感じている60歳以上の高齢者は2000年が11.6%だったのに対し、2005年は16.6%とその割合が増加しています。2011年8月には、農林水産省農林政策研究所が日本全国の人口分布と食料品の位置関係を実際に算出し、自宅から500m以内に生鮮食料品がなく、かつ自家用車を所有していない65歳以上の高齢者が、全国に約350万人存在すると指摘しています。

 上記のような、生鮮食料品の入手が困難な状況になっている問題を、フードデザート(食の砂漠:Food Deserts)問題と言います。

 日本においてフードデザート問題は拡大してきていますが、その要因としては大都市圏の構造変容が挙げられます。東京大都市圏では2000年以降、都心への人口回帰が進んでいます。それに対し、地方都市においては、人口減少やモータリゼーションの進展、大型ショッピングセンターの郊外出店と中心商店街の空洞化が急速に進んでいます。また、郊外の住宅団地の高齢化が進み、大都市の縮小も起こってきています。これらの大都市圏の変容がひずみを生みだし、フードデザート問題を起こしているようなのです。

こういった状況の中、NEWS WEBで報道されていたような“移動販売”が行われたり、オンデマンドバスや住民・行政・企業で支える生活バスなどが登場してきたりしているようです。

 大都市圏における人口構造の変化やモータリゼーション化や政策に伴う社会環境の変化により、人々の生活が変化し、それに伴い小売業も変化を見せてきています。この流れは今後も続くことが想定されますから、それに伴い様々なものが急速に変化していくと思われます。

 (参考文献 小商圏時代の流通システム)

カスタマイズ志向

カスタマイズ志向に関して記載します。

 近年、「自分のライフスタイルにこだわった商品を買いたい」という意識が全体的に高まってきていると言います。野村総合研究所の取ったアンケートの結果から見ると、自分のライフスタイルにこだわって商品を選ぶという消費者が、例えば20代男性だと2000年に34%だったのが、2012年に47%、60代女性だと2000年に18%だったのが2012年に33%と増えていて、それ以外の世代・性別においても全体的に増加傾向にあります。つまり、自分の持っているもので自分らしさを演出したいという意識を持つ消費者が増えてきているということのようです。例えばガラケーには多くの人が自分好みのストラップをつけていたと思いますし、スマホについては自分の好きなケースをつけていると思います。自分の好みに合わせて自分仕様に商品をカスタマイズするということが普通の時代になってきていると言えます。

ユニクロの商品をユザワヤなどで売っているレースやビーズ刺繍などでカスタマイズする「ユニデコ」も話題となりました。これも自分のライフスタイルに合わせた商品を購入する消費行動だと言えます。更にユニクロではこうした消費者のニーズに応えて「ユニクロカスタマイズ」というサービスの提供も始めています。商品を購入する際にオリジナルのデコレーションオーダーができるというウェブ通販のサービスで、パーカーやTシャツなどの定番アイテムに写真や文字をプリント・刺繍するなど、オリジナルな商品を作ることができます。HPではユニフォーム的な使い方が紹介されていました。

ビッグカメラ新宿東口新店では2012年からオーダーカラー家電サービスを提供しています。これは洗濯機や冷蔵庫などの家電製品の表面にフィルムを貼って、好きな色や柄を選べるようにしたものです。洗濯機や冷蔵庫といった身に着ける物以外でも、自分らしさを表現したいというニーズが出てきているということです。最近では家も中古を買って自分なりにカスタマイズする人もいるようです。これは中古物件を買ってカスタマイズして家賃を上げるという大家さんの戦略とは異なる、消費者が自分らしさを表す行動と言えます。

 消費者がカスタマイズアイテムに対して、自分だけのオリジナルの商品として愛着を高めてくれることで、ブランドへの好感度・ロイヤリティが高まります。また、カスタマイズした商品を、購入した消費者がブログやSNSなどにネタとしてアップしてくれればバイラル効果も期待できます。消費者が自分らしさを自分の持っている商品で表現したいという思いが強くなっているということは、明らかに過去の大量生産・大量消費の時代と異なってきているということが言えます。消費者の購買行動からも時代の変化が感じられる興味深い事例だと思いました。

 (参考文献 なぜ、日本人はモノを買わないのか?)