オープンビジネスモデル

本日はオープンビジネスモデルに関して記載します。

【オープンビジネスモデルとは】

オープンビジネスモデルとは、自社のみならず社外とのコラボレーションによって新しい価値を作り出し、これまで以上の利益を得るビジネスモデルのことを言います。近年、技術や製品のライフスタイルが短くなり、研究開発のスピードがより求められるようになっています。そこで自社の技術をオープンにして製品開発などをすることで、自社のみでやるよりずっと早く、斬新な技術開発を促すオープンビジネスモデルに注目が集まりました。

このオープンビジネスモデルを大きく分けると社内のアイデアや資産を社外のパートナーにオープンする「インサイドアウト」と外部のアイデアを社内に取り込む「アウトサイドイン」という二つの種類があります。

【ゴアテックスのインサイドアウト】

ゴアテックス(GORE-TEX)はアメリカのゴア社が開発した防風・防水性と透湿性を両立させた(水蒸気は通すけれど雨は通さない)画期的な繊維素材です。部品メーカーや素材メーカーはエンドユーザーにブランドの価値を見出してもらうことが難しい業種なのですが、ゴア社はゴアテックスの良さを伝えることが、良い素材を求めているエンドユーザーに対して大きなメリットとなると考えました。また、付加価値の高い製品づくりを目指す製品メーカーにとってもゴアテックスの良さを知ってもらうことは大きなメリットがあると考えました。そこでゴア社はインサイドアウトのビジネスモデルを活用します。同社は限定した生地メーカーやアパレルメーカーに対してのみ製品を提供するとともに、彼らと高い防水性や透湿性の製品を作り上げるために協働しました。この結果、ゴアテックス素材の「防水性・透湿性」はより磨きがかかっていくこととなりました。

【プリングルズのアウトサイドイン】

P&Gのポテトチップスにプリングルズという人気商品があります(P&Gが食品事業撤退により、2012年以降はケロッグが商標権を所有)。アメリカにはプリングルズ1枚ずつにスポーツや音楽などに関するクイズや豆知識などを印刷した「プリングルズ・プリンツ」という商品があります。この商品はパーティーで盛り上がるという新しい価値を消費者に届けることで大ヒット商品になったそうです。この商品はP&Gの社内の研究開発から生まれたのではなく、外部研究者とのやり取りから生まれたそうです(P&Gに当初ポテトチップスに絵や文章を印刷する技術がありませんでしたが、イタリアの大学教授が経営する小さなパン屋が食用のインクの技術を持っていることを知り製品改良を行いました)。まさしくアウトサイドインの手法を使って開発された商品ということが言えます。

自社と他社の情報の垣根をどう取り払って、どう自社の成長につなげていくか。情報を囲い込むのではなく、情報をどのように使っていくのかが企業の成長につながる時代になってきたのかもしれません。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)

鴻海(こうかい)精密工業の“アンバンドリング”

本日は鴻海(こうかい)精密工業の“アンバンドリング”に関して記載します。

【成長する企業 鴻海精密工業】

フォックスコンの名前でも知られる鴻海精密工業は、台湾に本社を構え主な生産拠点を中国とする企業です。1974年の創業当時は小規模な企業でしたが、2011年にはグループの年間9兆7126億円の売上高に達し、その額は日立製作所や日産自動車の連結売上高を超える規模です。アップルのiPhone、ソニーのゲーム機やパソコン、モトローラ社の携帯電話など世界各地の大企業から高度な製品の生産を請け負っていて、各種パーツのOEM供給・筐体の組み立てを行っている老舗企業として世界規模の市場では名高い企業となっています(OEM:発注元企業のブランドで販売される製品を製造すること)。この鴻海精密工業の成長の理由には“アンバンドリング”というビジネスモデルにありました。

【アンバンドリングとは】

アンバンドリングとはビジネスの特色ごとにバリューチェーンを分け、特定の業務だけに特化するビジネスモデルを言います。ビジネスの特色は「顧客ビジネス」「インフラビジネス」「製品ビジネス」の3つに分けます。

・顧客ビジネス:顧客のニーズに即した商品やサービスを見つけて顧客に結び付ける。

・製品ビジネス:創造的な新製品やサービスを開発。

・インフラビジネス:物流、製造、取引処理など、毎日の業務を支える設備を管理する業務。

上記3つの仕事はそれぞれ求められるスキルや経済原理が異なりますので、一つの組織として活動していると、組織に矛盾が出たり、妥協が生まれたり、効率が悪くなったりします。そのことから、特色が違うビジネスは別会社にした方が、それぞれが強い企業になれるというわけです。例えば日本の電力会社を発電と送電部門を別会社にするということは、このアンバンドリングの考え方の一種となります。

【鴻海精密工業のアンバンドリング】

鴻海精密工業は自社の事業を上記の「インフラビジネス」に特化し、生産だけに経営資源を集中し、高度な製造ノウハウを蓄積していくことで、成長を遂げていきました。かつてはメーカーが自社で工場を持つのが普通のスタイルでしたが、近年、自社工場を持たず、企画と設計だけを手掛けるファブレスメーカーが増えています(例:任天堂・セガ・ダイドードリンコ等)。そうした企業は請負会社に対して、難解な設計や製造、並びに大量生産を求めてきます。それに対して鴻海精密工業はインフラビジネスに特化することにより、その期待に応えたのです。

企業の成長には強みを伸ばすことが一つの手段ですが、アンバンドリングはまさしくそのような手法であると思います。

さて、鴻海精密工業は3月10日に年内に1万5000人の新規採用を計画していて、新規採用者の配属先はクラウドやeコマースなどの次世代事業領域が含まれるという報道がなされました。同社は携帯端末市場の飽和により、その利幅が縮小していて、従来のビジネスモデルからの脱却を図ろうとしています。同社のこの選択が吉と出るか凶と出るか、注目されます。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)

男性のいないフィットネスクラブ“カーブス”の戦略

本日は男性のいないフィットネスクラブ“カーブス”の戦略に関して記載します。

【フィットネスクラブ カーブス】

カーブスは1992年のアメリカテキサス州の一号店開業から10年程度で世界的な規模となったフィットネスチェーンです。日本では2005年10月から展開をスタートし、わずか8年間で1300店舗を達成しています。また会員数も58万人に上っています。店舗面積が40坪程度で、それほどスペースも取らない形なので、気づかなかったのですが、自宅の近所にもありました。意外と身近なフィットネスチェーンなのでしょう。

また、同社は50代以上の女性をメインターゲットにしていて、30分健康体操教室を行い効率性もアピールしています。

【カーブスの戦略】

カーブスは従来のフィットネスクラブから、ターゲット顧客である中高年女性が不要だと感じていた3つの要素“3つのM”を排除することによって成功しています。3つのMとは以下のようなものとなっています。

■Men:カーブスは女性専用のフィットネスになっています。顧客もスタッフも男性はいません。体型に自身のない女性や必死に運動している姿を男性に見られるのが恥ずかしい女性からの支持を受けることが出来ます。

■Mirror:鏡で自分の体型を見ると不愉快になる女性の気持ちを考え、鏡を設置していません。

■Make up:カーブスのトレーニングは器具を使って30分程度で終わります。激しい運動は行いません。ですので、シャワー室も必要ありませんし、化粧が落ちてしまうということもないようです。ちなみにフィットネスクラブによくあるプールもありません。

これら3つのMを取り除くことにより、運動不足は気になるが従来店には行きたくない中高年女性を取り込むことに成功したのです。中高年女性が無駄だと感じていたことを省き、コアのサービスに絞り込む“ノンフリル(装飾(フリル)がない)”な戦略をとったわけです。月会費も5900円~6900円と手ごろな価格となっています。

カーブスのビジネスモデルは店舗数を拡大するのにも役に立ちました。同社はシャワー室やプールがなく店舗面積も40坪程度と狭い場所を活用できるので、住宅街や商店街など主婦が通いやすい場所に多く出店することが出来たのです。

カーブスはまさしく、無駄を省きコアのサービスに特化することで成長した企業ということです。

(参考文献 図解&事例で学ぶビジネスモデルの教科書)

『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システム

本日は『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システムによる成功に関して記載します。

【『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システム】

『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』はリサイクル古着屋で、「オシャレと笑いで地球を救う、フルギデパートメントストア」をコンセプトとしている企業です。 “笑い”がコンセプトに入っているだけあってか、同社の価格システムはとてもユニークなものとなっています。この価格システムが当社の人気の秘訣となり、当初は青森の小さな古着屋でしたが、8年間で全国60店舗以上を持つ古着・雑貨チェーン店へと成長しています。

この価格システムの具体的な内容は“毎週水曜日になると、商品の値段が、服の価値に関わらず機械的に下がる”というものです。商品には値札の代わりに野菜や果物のイラストが描かれたタグがついていて、商品の値段はそのタグをもとに店内に掲示された「今週の値段表」で確認をしていきます。「今週の値段表」は7,350円~105円の10段階に分かれていて、今週スイカのイラストが5,150円であれば来週は4,200円といったように、毎週水曜日に機械的に1段階ずつ値下がりしていきます。

毎週水曜日に商品の価格が機械的に下がっていくので、うまくいけば、顧客は相場よりもはるかに安い価格で商品を手に入れるチャンスが出てくることになります。その一方で価格が下がるのを待ちすぎると、他の顧客に商品を購入されてしまい、買うことが出来なくなってしまいます。毎週価格が自動的に下がるという分かりやすいシステムにより、顧客はゲーム感覚で駆け引きを楽しむことができるようになっているのです。

また、この価格システムの導入で同社は「目利きを排除」することができました。古道具はその商品を見極めて価格設定を行うことが一般的ですが、目利きを排除すれば従業員にそのスキルが必要なくなります。このことにより、同社はフランチャイズ展開を可能とし、店舗の拡大につながったのです。

【『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システム=ノンフリルな価格システムによる成功】

『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システムは、価格設定を行うに当たり必要最小限の手間で事足りるようなものとなっています。このようなビジネスモデルを「ノンフリル」と言います。ノンフリルは“なくても支障のない余剰サービスを極力省き、コアのサービスだけを、質を下げることなく、低価格で提供する”ビジネスモデルですが、代表例としては航空会社のLCCが挙げられます。『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システムを見てみると、従業員に古着の商品価値を見極める目利きの力が必要なく、古着の販売というコアのサービスに注力することができるシステムとなっています。また、この価格システムは商品の値段を変える際に値札を付け替えるという作業負担もカットできるものとなっています。

同社の開発した価格システムは、顧客が古着を買うことの楽しさを創出し、店舗運営を従来のものより単純化することに成功したのです。コアのサービスに絞り込むことによって新たなサービスを提供したこの価格システムは興味深いものがあります。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)

JR東日本 自動販売機のビッグデータ活用

本日はJR東日本、自動販売機のビッグデータ活用に関して記載します。

【JR東日本の駅構内にある『カメラ付きの自動販売機』】

JR東日本の駅構内を歩いていると、大型ディスプレイで商品を映し出している自動販売機をよく見かけるようになりました。この自動販売機のディスプレイの大きさは47インチとかなり大きなものとなっているので、近くを歩くと目を引きます。この自動販売機が初めて登場したのは、2010年8月10日。JR東日本の自動販売機事業などを行うJR東日本ウォータービジネスが品川駅のコンコースとホームに2台設置したことに始まります。今では様々な駅で見られるようになりました。

この自動販売機、上の方を見上げてみるとカメラがあることに気づきます。このカメラを活用して顧客の顔画像を捉え、性別や年齢を推定。その顧客にあった最適な商品をおすすめしたりしています。性別と年齢の両方を正しく判断する確率は75%にもなるそうです。顔画像以外にも時間帯や気温などの要素を考慮に入れて商品をおすすめしているようです。

このようにJR東日本ウォータービジネスが設置している自販機は、今までの自販機と異なり、様々なデータを収集することができるものとなっているのです。

【ビッグデータ 自動販売機のデータ活用】

JR東日本ウォータービジネスは自販機から得られた大量のPOSデータを分析して、商品開発や販売戦略に役立てています。まさしく自販機のビッグデータの活用と言えると思います。

自販機からは大量にデータが得られるわけですが、同社がそのデータ分析から生み出した成果の一つに、2012年にリニューアル販売したペットボトル入り飲料水「フロムアクア」があります。同社は自販機から集めたデータを基に「フロムアクアは移動中に飲まれる場合が多い」という仮説を立てて、片手での飲みやすさを重視した、落ちないキャップを開発しました。リニューアル後、フロムアクアの年間売上は従来比で1.5倍に増えたと言います。確かに、実際に使ってみると、落ちないキャップは便利だと感じます。

その他にもデータ分析を基に自販機内の商品選定を行い、売上の増加を実現しています。例えば、午後の早い時間に自販機の売上が落ち込みやすい点に着目しデータ分析をした結果、500ミリペットボトル飲料は朝に売上のピークがあるのに対し、280ミリペットボトル飲料は全体の売上が下がる午後によく売れるということがわかりました。また午後の販売状況を細かく分析すると、40代女性が280ミリペットボトル飲料を買っていることがわかりました。そこで、40代女性にヒットしそうな商品を積極的に投入したところ、その時間帯の売上増につながったそうです。40代女性の購入者層は全体からみると少なかったため、データ分析を行う前まではその層に販売施策を打ち出すことはしていなかったそうです。しかし、購入者の属性、買った商品のカテゴリ、時間帯などを複合的に分析することで、隠れたニーズが発見され、売上の増加につながったのです。

カメラ付きの自販機によりJR東日本ウォータービジネスは顧客の年齢、性別ごとにどういった商品を購入しているかわかるようになったわけですが、この情報の蓄積は今後の自販機の販売活動にもプラスになっていくことと思われます。話は変わりますがローソンではPontaによる蓄積された情報を分析し、売上ランキングが上位でないけれど継続的に購入されている菓子を店頭に常に置くことによってリピート率を高めています。ビッグデータが言われる中、情報の活用は今後ますます重要になってくると思われます。

ブランド・イノベーション“ヴァージン・グループ”と“メソッド”

本日はブランド・イノベーション“ヴァージン・グループ”と“メソッド”に関して記載します。

【2つのブランド・イノベーションについて】

自社の製品やサービスのほうが競合他社の同種のモノより好ましいと消費者に感じてもらうためには、消費者に自社の製品やサービスについて認知してもらい、印象付けていくことが必要です。そのためには自社が競合他社よりも強いアイデンティティーを持つことが求められます。そのためにブランド・イノベーションを起こしていく必要があるわけですが、そのよくある例として、まず一つ目に、既存のブランドの傘の下で新しい製品やサービスを提供する“ブランドの拡充”があり、二つ目に、大きな理想や特定の価値観をわかりやすく一貫して表現する(“価値観の整合性”)ことで、企業をそれらの信条を象徴する存在として印象付けるという方法があります。上記2つについて“ブランドの拡充”については「ヴァージン・グループ」、“価値観の整合性”については「メソッド」を事例に以下記載していきます。

【ブランドの拡充 ヴァージン・グループ】

ヴァージン・グループはイギリスの多国籍企業です。その始まりはリチャード・ブランソンが1971年にロンドンのオックスフォード・ストリートにヴァージン・レコード1号店を開いたこととなります。1973年、レコード・レーベル、ヴァージン・ミュージックから映画「エクソシスト」のテーマ音楽として使われたマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』をリリースし、1977年にはパンク・ロックバンド、セックス・ピストルズと契約しています。

そして近年、ヴァージン・グループはヴァージンアトランティック航空やヴァージンアクティブといったブランドを持つ、34か国に5万人の従業員を擁する企業にまで成長しました。2011年のグループ総売上高は約210億ドルに達すると言います。最近ではブランソンが設立した、年500人の観光客を一人当たり25万ドルで宇宙へ送る計画を立てているヴァージンギャラクティックが注目を集めたりもしています。このような形でヴァージン・グループは携帯電話、輸送、金融サービス、メディア、フィットネスなど様々な分野への多角化を進めており、現在では、同社は自社のことを大手「国際投資グループ」と称しています。つまり、多角化を進めることによって消費者から自社と競合他社との差別化を図っているということが言えます。

【価値観の整合性 メソッド】

メソッドは2000年に設立された会社で、環境に害を与えない天然成分のホームケア製品を生み出しました。メソッドの商品は、今ではターゲット、ホールフーズ、クローガーをはじめとする世界各地の4万店以上の小売店で販売されています。この会社は持続可能性と環境感度を重視していて、メソッドの洗剤ボトルの大部分が100%再生プラスティックで作られています。また家庭用洗剤は有害化学物質を使っていません。オフィスも環境に配慮した建物となっていますし、動物実験も行わないとい徹底ぶりです。メソッドは環境に優しい企業としての特徴を尖らせて、消費者から自社のブランドをしっかりと認識してもらっているということが言えます。

製品やサービスが代替可能なものが増える中、企業がコーポレートアイデンティティー(IC)を確立し、消費者から自社のことをしっかりと認識してもらうことは、自社の商品・サービスを選んでもらうために重要なポイントだと思われます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ナイキタウンのチャネル・イノベーション

本日はナイキタウンのチャネル・イノベーションに関して記載します。

【チャネル拡大の役割を担う旗艦店“ナイキタウン”】

スニーカーやスポーツウェアなどスポーツ関連商品を扱う世界的企業であるナイキは、ナイキタウンという店舗を運営しています。このナイキタウンは1990年11月にスタートしたのですが、熱狂的な人気を誇っているそうです。ナイキタウンは消費者が一般的な靴屋を超えた店舗だと思ってもらうように作られていて、例えばニューヨークにあるナイキタウンでは店内のあちらこちらに有名選手のサインや写真が飾られ、スポーツのテーマパークのような作りになっているそうです。また、ニューヨークに限らず、たいていの店舗ではルームランナーが置かれていて、来店者がそこでシューズの性能を試すことが出来るようになっていると言います。従業員についても変わった採用方法を採っていて、運動能力を基準にしています。実際、シカゴ店ではバスケットボールの元プロ選手が採用されたこともあるようです。建物自体については、ニューヨーク、ロンドン、シカゴ、北京など世界で最も地価の高い商業地区に作られていて、設計と建設に何百万ドルもかかったそうで、投資額も大きく贅沢な作りになっています。

ナイキタウンは上記のような巨額の投資を行っているため、シューズの販売額では投資額を回収することが難しくなっていて、実際、ナイキタウンのコストは宣伝費が当てられています。このような状況であってもナイキタウンが運営を続けていられる理由は、経営陣がナイキタウンという旗艦店を設けることによって、どんな宣伝キャンペーンにも劣らないくらい自社のブランドイメージの向上に貢献してくれるはずだと判断しているためです。またナイキタウンでは、閉店した後に大手アパレルメーカーのバイヤーを招待して、一流スポーツ選手やデザイナーと懇談してもらうということをしています。このような取り組みを行うことで、他の小売業者にナイキのシューズや用具をより効果的に売り込むにはどうしたら良いかを教えているのです。

ナイキはナイキタウン以外に、消費者がナイキのデザイナーと協力してシューズをカスタマイズできるナイキ・スポーツウエアの小売店を出店しており、チャネルを押し広げる取り組みを進めています。

【ナイキタウンから見る、チャネル・イノベーション】

自社の製品やサービスをどのようにして顧客に届けるかを考えるにあたって、昨今注目を集めるeコマース以外にも、ナイキタウンのような旗艦店を開設し、リアル店舗という従来型のチャネルを活用していくことも重要であると言えます。自社の製品やサービスを顧客に届けるために、一つのチャネルだけでなく複数のチャネルが補完し合うような方法を採っていくこと(チャネル・イノベーション)が重要となってくるということです。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

tabのO2Oサービス

本日はtabのO2Oサービスに関して記載します。

【多くの企業が注目するO2Oサービス“tab”】

ファッション性の強い商業施設から注目されているO2Oサービスに、頓智ドット株式会社が提供するtab”があります。“tab”のサービスは2012年6月末にスタートしたのですが、13年9月時点でのパートナー企業となっているところは「三越伊勢丹」「六本木ヒルズ」「東京ミッドタウン」「高島屋」「三菱地所」「ビームス」「東急ハンズ」等、その数200社に上っています。そして、アプリダウンロード数は30万人強、月間アクティブユーザー数は約17万人となっています。

このtabの特徴として『キュレーション』が挙げられます。キュレーションとは、ネット上の情報やコンテンツを収集・編集し、新たな価値を生み出して、それを他者と共有することを意味します。かつて企業や店舗から消費者へ情報は一方通行でした。それに対してネットが普及した現在では情報は双方向となっています。その流れの中で、自分の友人・知人、興味・関心が合う人、参考にしたい人をフォローすることで、その人が収集・編集された情報が自動的に自分の下へ流れてくるようなサービスが生まれています。

“tab”のコンセプトは「“行ってみたい”を集めた、みんなの“My雑誌”」。ユーザーは自分の興味・関心・センスで独自の特集を作っていきます。ユーザーはテーマごとに“行ってみたい”“食べてみたい”“買いに行きたい”といったリアルな場所を集め、自分のtab帳をまとめていきます。そのtab帳は公開されていますので、雑誌を見る感覚で他人のtab帳を見て、行きたい場所を見つけることができるのです。気に入ったユーザーをフォローすることもできます。

【伊勢丹新宿店リニューアル時の“tab”とのコラボレーション】

伊勢丹新宿店が総工費約90億円をかけて大規模な改装を実施し、2013年春にグランドオープンしましたが、この際にプロモーションの一環として“tab”と手を組みました。同キャンペーンは、伊勢丹新宿店とタイムアウト東京がリニューアルした伊勢丹新宿店の楽しみ方やおすすめスポットを各々の視点で集めて“tab”で発信するというものでした。発信した情報は40項目で「世界一“自分”が進化するヘアショップ」「伊勢丹でしか聞けない坂本龍一を聴く」などで、ユーザーは自分の興味ある情報を“tab”に入れていくという仕組みです。

さて、 “tab”の特徴として上記のキュレーション以外に「プッシュ通知」があります。自分が行きたいと思っていた場所でも、しばらくするとそのこと自体忘れているということは多々あります。“tab”ではユーザーがtab帳に入れたスポットの半径500m付近に立ち入ると、ユーザーのスマホに通知されるような仕組みにしています。そのことで「行きたいと思っていたけれど忘れていた」ということを防ぐことができます。

伊勢丹新宿店の同キャンペーンにおいては、ユーザーが伊勢丹新宿店の情報をプッシュ通知された件数は13年5月から1か月間で約1600件あったと言います。

技術の進歩とともにO2Oも進化を遂げています。“tab”と伊勢丹新宿店、タイムアウト東京は「新宿でしかできない101のこと」という新宿の街に焦点を当てたキャンペーンも実施しています。O2Oを活用し街全体の活性化を図る取り組みと言えます。今後、商業施設がO2Oを活用して街全体を活性化していくことが増えてくるのではないかとも思われます。

(参考文献 O2O、ビッグデータでお客を呼び込め! ネットとリアル店舗連携の最前線)

催促相場から見るアベノミクス

本日は催促相場から見るアベノミクスに関して記載します。

【今年の株価の推移から見えてくる日本経済】

2013年、日本の株価は57%上昇し、この上昇の勢いはバブルの時と同じくらいになっていて、先進国の中でもダントツに高いものとなっています。昨年発表された実質成長率は1.6%と株価の上昇から見ると低い水準となっていますが、内需を見ると3%成長していて、日銀短観においても製造業、非製造業、大企業、中企業、小企業、すべての分野で経済は良くなっています。アベノミクスの成果により日本の景気は概ね好調と言えます。

この株価上昇を支える要因は外国人投資家の買い越し額が15兆円に達したということにあります(これまでで一番買い越し額が多かったのは郵政民営化を決めた2005年)。株価上昇により資産効果が出て日本経済は好調に推移している形となりますが、その株価を支えているのは外国人投資家の影響もあるということが言えます。

さて、2013年に株価は57%上昇しましたが、2014年に入ってからは日本の株に大きな動きがありません。2月においては1万5千円~1万4千円くらいで株価が推移しています。この株価の動きに関して、マーケットが政府に催促をしている“催促相場”だという話があると言います。

【催促相場とは】

催促相場とは、企業や政府などに対して決定などを促すために株価を始めとした相場の動きによってそれを推し進めさせようとする相場状況のことを言います。例えば東京市場やニューヨーク市場へ公定歩合の引き下げを期待して日経平均株価やダウ平均が上昇して、中央銀行にその決定を促すというパターンです。今回の相場においては、アベノミクスの成長戦略に対する期待もあり、株価が先行して上昇したものの、その成長戦略にきちっとした政策が出てこないことから、投資家たちが様子見をしているといったところでしょうか。投資家が日本の株に対する投資を引き上げる前にしっかりとした政策が実施されることが、マーケットから政府に求められている状況になっているということです。

【注目されるアベノミクスの今後の動き】

2013年11月に、今年の6月をめどに新たな成長戦略を策定していくという話になっています。2020年の東京オリンピック開催を見据えてのインフラ整備や「日本ブランド」の海外発信、農業の振興策やベンチャー企業の育成、成長戦略第1弾で詰め切れなかった規制緩和などを検討していくとなっています。

消費増税により景気が押し下がることも想定される中、いかにこの6月の成長戦略第2弾が効果のあるものが登場するのかが、2014年の日本経済を占う重要なカギとなりそうです。

(参考資料 エコノインサイト)

「World of Warcraft」の顧客エンゲージメント・イノベーション

本日は「World of Warcraft」の顧客エンゲージメント・イノベーションに関して記載します。

【World of Warcraft 世界的なヒットにつながるその戦略】

最近、例えばスマホアプリでゲームを見ているとMMORPGという言葉を目にすることがあります。MMORPGとはMassively Multiplayer Online Role-Playing Game:大規模多人数同時参加型RPGのことで、オンラインゲームの一種となります。プレイヤーはPCなどからサーバーに接続し、コマンドを入力して自分のキャラクターを行動させたり、同じサーバーに接続しているプレイヤーとチャットを行ったりします。10~20年くらい前にやっていたRPGと異なりセーブしたところからやり直すということが出来ないので(他のプレイヤーの操作と矛盾が引き起こるため)、個人的には少し違和感ある気もします。

さて、このMMORPGで世界的にヒットした「World of Warcraft」というゲームがあるのですが、このゲーム2004年11月にリリースし、2006年11月には約750万のアカウント数に達し、2008年11月には世界中に1100万人もの月額課金ユーザーを持つまでに成長しました。日本ではその名をあまり聞かないような気もしますが、中国ではコカ・コーラのキャンペーンにも利用されTVCMにもなった、まさしく世界規模のヒット作です。

このWorld of Warcraftを世に送り出した会社ブリザード・エンターテインメントの創業者たちは最初から、プレイヤーを強力にぐいぐい引き込むことに力を注ぐ重要性を強調していたと言います。このゲームのコンテンツの多くがプレイヤー同士の協働を促すようにデザインされていて、プレイヤーがゲームのステージを段階的に上がっていくために、リアルな人間とバーチャルなグループ(ギルド)を組んでいきます。そして、ギルドによっては自分たちのロゴやプレー戦略を作成することもあるそうです。

ブリザード・エンターテインメントは顧客に対して一方的に発信するコミュニケーションを行うのではなく、顧客と企業が双方向にコミュニケーションを行うこと(顧客エンゲージメント・イノベーション)によって成功したのです。

【顧客エンゲージメント・イノベーション】

顧客エンゲージメント・イノベーションは、顧客のニーズやウォンツを理解し、その理解を踏まえた上で、顧客と会社の間に意味のある繋がりを築いていく戦略となります。どのように消費者とつながり、消費者を喜ばせられるかということが重要となってくるのです。例えば、World of Warcraftとは他の事例として、ファブ・ドットコムというウェブサイトが挙げられます。このサイトでは一流のデザイン専門家が選んだ商品を販売していて、次に流行るクールなアイテムを見つけたいときに行くべきサイトという顧客の信頼感を築いています。この事例も顧客と会社の間に意味のある繋がりを作っている事例だと言えます。

2013年現在、World of Warcraft登録プレイヤー数は770万人にまで減少してきているようです。これは他のオンラインゲームの登場による影響があるようで、人気になれば必ず他社からの模倣が始まり、シェアの奪い合いになっていくという事例のようにも感じます。ただ、一方でWorld of Warcraftが長い期間にわたって世界的なヒット作になっているという事実は、“顧客を引き込む”工夫をして、顧客と会社の間での関係性を構築するということの重要性を感じさせます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)