同業との統合(水平統合)

本日は“同業との統合(水平統合)”に関して記載します。

【同業との統合(水平統合)とは】

“同業との統合”は水平統合とも呼ばれ、自社と同種の事業を営む他社を買収や合併などによって自社に統合することを言います。M&Aの最も基本的なビジネスモデルとなっており、M&Aの大半が“同業との統合”を行うためのものとなっていると言われます。

“同業との統合”を行うことにより、事業の規模とシェアが増大し、自社の業界内での順位を上げることができます。それに伴って、規模の経済が働くことによるコストダウン、顧客認知度のアップ、業界の支配力の向上、優秀な人材の獲得能力の向上させることもできるようになります。そして事業の収益性を向上させることができるのです。

例えばイオンは、かつてダイエーやイトーヨーカ堂に規模で劣っていましたが、ヤオハンやマイカルなど競合の買収を繰り返しました。それにより現在では日本最大級の小売業者となり、2013年8月にはダイエーを連結子会社化するほどに大きな企業となりました。

【事業の収益性は「業界順位」「シェア」「事業規模」に対して正の相関を持つ】

業界順位やシェア、事業規模が拡大すると事業の規模が比例的に拡大すると言います。事業規模やシェアが増大すると収益性が高まる理由は、製品単位当たりの販売費や間接費、研究開発費などのコストが減少するためです。コストの削減は競合他社との価格競争で勝利することにつながりますし、同じ価格で販売したとしても高い収益性を得ることができます。コスト削減によって得た利益によって、研究開発を積極的に行えば製品の競争力が増しますし、合理化へ向けた投資を行えばコスト競争力が更に増すことになります。生産面で見ても大きな生産量を背景とした経験曲線効果によりコスト削減につなげることができます。シェアの拡大は、市場における設備の展開密度が上がることにつながり、配送費を大きく節約できるメリットがあります。効率が上がることにより収益性が上がるというプラスのサイクルが働くということでしょう。

【事業のライフサイクルと“同業との統合”の関係】

“同業との統合”は典型的にみて、事業ライフサイクルの後半に起こってきます。事業ライフサイクルは初め先駆者が市場に参入し独占的に販売を行っていくのですが、成長期に入ると競合の市場参入が始まります。そして、一旦細分化された業界構造となりますが、その後、事業ライフサイクルが後半に向かうに従い、事業者が集約され寡占的市場が出現します。この事業ライフサイクルの後半に関連してですが、成熟した自由競争市場ではニッチな事業者を除く一般的な事業者は3社程度しか生き残ることができないそうです。これはシースとシソーディアという2人の学者によって「3の法則」と名付けられているそうです。ですので、この法則から見ると、事業ライフサイクルの後半に当たっては、業界のトップ3に入れるようにした方が良いということのようです。業界の上位にいれば顧客から一流と認識されるでしょうし、例えば小売業がメーカーに対して強い発言力を持てるようになるといったような優先的な能力を持つことができます。同業同士が合併するシーンをニュースで見ることがありますが、まさしくこのような視点からの合併なのでしょう。

同業との統合においては、統合した企業同士が規模の経済が利くように機能統合をしていくことが重要となります。組織風土の問題など難しい点もあるとは思いますが、機能統合を果たしてこそ、同業との統合の効果が発揮できるということです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

日本の起業の状況

本日は日本の起業の状況に関して記載します。

【諸外国と比較した日本の起業の状況】

起業が行われるということは、産業構造に新陳代謝が行われるということとなり、起業した新たな企業が経済成長を牽引し、雇用を生み出していくということにつながります。また起業により社会に多様性が生み出されることになります。このように経済成長にプラスの要因をもたらす起業ですが、日本においては国際的にみてその活動は低調なものとなっています。各国の起業活動率を見てみると、最もその数値が高い国がアイスランドで10.6%となっています。アイスランドに次いで企業活動率が高いのがオーストラリアで7.8%。世界経済を牽引するアメリカで7.6%。お隣の韓国は6.6%。ドイツで4.2%。そして日本は3.3%、とその数値は低いです。それだけ日本においては起業が行われにくい環境になっていると言えると思われます。

(※起業活動率:18歳から64歳までの人口に占める、企業活動を行っている者(起業準備中の個人及び起業後3年半以内の会社を所有している経営者)の割合データ。)

【日本での起業の現状】

日本においては1980年代後半から開業率が廃業率を下回る状況が続いていると言います。これはバブル崩壊以降に長く続いた不景気の影響だと思われます。しかしながら、このように開業率が廃業率を下回る状況が続いている中で、情報通信業や医療・福祉においては開業率が廃業率を上回っています(2004年~2006年)。この点、ITや高齢化など時代の流れを感じさせるものがあります。

起業と一本で言ってもそれを行う人には男性も女性もいるわけですが、その性別によって起業する分野が違うという特徴があります。男性よりも女性が起業する割合が高いのは、小売業、飲食店・宿泊業、教育・学習支援業、洗濯・理容・美容・浴場業、生活関連サービス業となっています。2007年には女性の起業家が約3割を占めていました。

さて続いて、起業者数を年齢層で見てみると、男性が60歳代、30歳代、女性が30歳代、65歳以上の割合が高くなっています。2007年では60歳以上の起業家は約3割を占めていて、近年の起業家に占める60歳以上の割合が増加してきています(60歳以上の起業家の推移:1979年6.6%→1992年14.2%→2007年26.9%)。少子高齢化が起業家の数にも影響してきているということでしょうか。

【起業の段階における課題】

本業の製品・商品・サービスによる売上がない段階(萌芽期)において、「資金調達」「起業・事業運営に伴う各種手続」「経営に関する知識・ノウハウ」が起業・事業運営上の課題とする起業家の割合が高くなっています。「資金調達」の課題に関しては、萌芽期における資金調達先として、預貯金や副業収入を含む自己資金と回答する企業が9割に上がっています。起業をする際には自身の先立つものが必要となってくるということです。株式会社日本政策金融公庫総合研究所が行っている「新規事業実態調査」から、開業時に準備した自己資金額を見ると、中央値が230万円となっている一方で、2011年度の開業費用の中央値は620万円となっています(なお、開業費用の中央値は年々低下傾向にあります。1991年中央値970万円→2011年度620万円)。自己資金以外での調達を必要とする起業家が多く存在するということです。

続いて成長初期(売上が計上されているが、営業利益が黒字化していない段階)の段階になると、「質の高い人材の確保」「販路開拓・マーケティング」「製品・商品・サービスの高付加価値化」を課題とする起業家の割合が上昇します。資金調達とともに人材の確保が課題となってくるのです。特に「経営者を補佐する人材」が求められてきます。

そして安定・拡大期(売上が計上され、少なくとも一期は営業利益が黒字化した段階)では資金調達を課題とする起業家の割合は低下し「新たな製品・商品・サービスの開発」が上昇してきます。この時期になると起業家は、事業の安定化のために既存の製品・商品・サービスに頼るだけでなく、新たな製品・商品・サービスの開発により、新たな市場を開拓する必要があると考えるようになるのです。

日本の起業に関してニュースなどで報道されることがあります。現状、日本の起業活動率が低いことを踏まえると、まだのびしろがあるでしょうし、今後、起業する人が増えてくるのかもしれません。

中小企業の果たしている役割

本日は中小企業の果たしている役割に関して記載します。

【日本における中小企業に関して】

4月の消費増税に備えた政府の経済対策の柱の一つとして、革新的な商品やサービスを提供する中小企業の設備投資や試作品開発を促す支援策“新・ものづくり補助金”というものがありますが、日本経済において中小企業は中心的な役割を果たしていると言われます。数値面から見ると、中小企業の割合は日本企業の99.7%を占めており、常時雇用者の69.4%が働いています。

どのような企業が中小企業と言われるのかというと、その範囲は中小企業基本法第2条において定義されていて、資本金基準と従業員基準によって判断されます。資本金基準と従業員基準両方を満たしている必要はなく、どちらかの条件に当てはまれば中小企業と判断されます。

〈参考〉中小企業基本法の定義

■中小企業の範囲

製造業・建設業・運輸業・その他の業種:資本金3億円以下、または従業者数300人以下

卸売業:資本金1億円以下または従業者数100人以下

小売業(飲食店):資本金5000万円以下または従業者数50人以下

サービス業:資本金5000万円以下または従業者数100人以下

※会社役員、および個人事業者の事業主は従業員に含まれない。

■小規模企業の定義

おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むものについては5人)以下の事業者をいう。

※商業とは、卸売業、小売業(飲食店含む)を指す。

【地方での雇用を創出している中小企業】

中小企業・小規模事業者は地方経済で重要な役割を担っていて、雇用の7割弱を生み出していると言います。小規模事業者、中規模企業の常用雇用者・従業者の占める割合は、人口密度の低い都道府県ほど大きなものとなっています。三大都市圏中心市が所在する都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県)とそれ以外の道県で規模別の常用雇用者数・従業員割合を見てみますと以下のようになっています。

まず、三大都市圏中心市が所在しない道県では、大企業16.2%、中規模企業53.9%、小規模事業者29.9%。そして、三大都市圏中心市が所在する都府県では、大企業46.1%、中規模企業38.5%、小規模事業者15.4%となっています。三大都市圏中心市が所在しない道県で、雇用の約3割を小規模事業者が、5割強を中規模企業が占めていることになり、中小企業が地方の雇用に良い影響を与えていることが伺えます。

【女性が活躍する中小企業】

規模の小さな企業ほど、女性雇用者の割合が多く、かつ、管理的職業従事者の割合も多くなる傾向にあります。従業者規模別の女性雇用者割合を見てみると、300人以上の企業で女性雇用者の割合が36.5%なのに対し、1~4人の企業では46.7%という割合になっています。また、管理的職業従事者の割合を見てみると、従業者が1~4人の企業と300人以上の企業では、その割合に7倍以上の差があります。規模の小さな企業ほど女性が活躍しているということが数値面から想定できます。

中小企業は地方で雇用を創出することに大きな役割を担っていたり、女性の雇用の場も創出していたりしていることがわかります。

ブランドの買収と再生

本日はブランドの買収と再生に関して記載します。

【ブランド買収・再生を行っている企業例】

同種の複数のブランドを買収して持株会社の傘下に置き、かつ、ブランドを統合せず独立の事業体として維持するようなビジネスモデルを「ブランドの買収・再生」と言いますが、このビジネスモデルを採ることでブランド単体では出せない規模の経済を獲得することができます。このビジネスモデルを採る例として、フランスのLVMH、フランスのKERING(ケリング)、スイスのRICHEMONT(リシュモン)、イギリスのDIAGEO(ディアジオ)が挙げられます。LVMHはベルナール・アルノー氏が率いる巨大なブランドグループで傘下に、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、フェンディなど60以上のファッション、化粧品、酒類などの高級ブランドを買収・所有しています。ケリングはグッチ、ボッテガ・ヴェネタ、プーマを傘下に、リシュモンはカルティエ、IWC、ピアジェ、ヴァンクリーフ&アーペル、ラルフローレンを傘下に、ディアジオはギネスのような酒類ブランドを傘下にしています。

【ブランド買収・再生による価値の創造】

ブランドの買収では多くの場合、破綻したブランドを買収し既存の他のブランドから経営陣を送り込んで再生させます。その際にブランドの持つ設計やデザインといった特徴はそのままブランドに残す一方で、購買や物流、製造といったオペレーションを統合していきます。その過程の中で価値を生み出していきますが、その要因は以下のようなものとなっています。

一つ目に、ブランドを買収する際、ブランド自体を買収するのではなく、ブランドを所有する事業体を買収することになるわけですが、ブランド自体に価値があっても、事業の業績が悪ければブランドの評価もそれに引きずられることが挙げられます。つまり、買収を行う際にブランドの価格が過小評価されているということです。また、現状のブランドの評価が悪かったとしてもブランドの認知度が高ければ、ブランドイメージの内容を入れ替え・改善していくことが可能です。この点もブランドの価格が過小評価されることにつながります。

次に、既にブランド企業を所有しているグループの場合、経営者を他のブランド企業から注入することができることも、買収により価値を作り出せる要因となります。高級ブランドは創業者やその一族が経営に当たっていることが多く、中には経営スキルが低く、野放図な経営を行っている企業があります。しかし既に成功したブランド事業を持っているグループは広告、プライシング、チャネルマネジメント、顧客接点管理などの経営ノウハウを持った人材を育成するフィールドを持っています。それによりブランドを買収し再生する過程で価値を生み出していくことができます。

最後に、ブランドは希少価値を保つために規模を拡大できないのですが、企業全体で購買や物流などの機能を集約しコストダウンを行えることで価値を生み出していくことができるということが挙げられます。また、免税店などのチャネルに対して大きな影響力を持つことができるという点もあるようです。

持株会社を作るということには、各ブランドの希少性を維持するとともに、規模の経済により利益を拡大することができるというメリットがあるようです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

ヤフーショッピングの採ったビジネスモデル「敵の収益源の破壊」

本日はヤフーショッピングの採ったビジネスモデル「敵の収益源の破壊」に関して記載します。

【「ヤフーショッピング」の出店にかかる費用の無料化】

2013年10月、仮想モール「ヤフーショッピング」は、出店の初期費用2万1000円と月額利用料2万5000円を無料化し、更には売上に対して1.7~6.0%課していた手数料もただにしました。これは同社のライバルで日本における主要なネットポータルである楽天やアマゾンがネットショッピングを主たる収入源としていることを踏まえた戦略です。これによって楽天は出店や取り扱いを有料のまま据え置けば競争力を削がれ、無料にすれば収益源を失うという難しい選択を迫られました。上記のようなヤフーショッピングが採ったビジネスモデルを「敵の収益源の破壊」と言います。

【自社の不利な市場を焦土化する「敵の収益源の破壊」】

「敵の収益源の破壊」とは以下のようなビジネスモデルのことを言います。まず、競合が主な収益源とする市場で、無料、もしくは極めて低い利益の販売を行い、市場の収益性を意図的に破壊します。それによって競合の収益源は破壊され、力が削がれていきます。その一方で、自社が主力とする市場で競合に勝っていきます。このビジネスモデルは他社との収益構造の違いを利用した価格戦略で優位に立つという戦略ではなく、競合の力を削ぐことにより相対的な優位性を獲得することを目指したビジネスモデルです。

ヤフーショッピング、アマゾン、楽天の2012年7~9月→2013年7~9月の対前年同期比成長率を見てみると、楽天やアマゾンが二桁成長を続ける中で、ヤフーショッピングはマイナス成長となっていました。ヤフーショッピングは楽天やアマゾンの優位性が増している中でサービスの無料化を実施したわけです。「敵の収益源の破壊」のビジネスモデルを取る企業は、無料化ないし低価格した市場からの利益はなくなってしまいますが、もともと収益の上がっていない市場であることと、自社の収益源は異なったところにあるため、致命的なダメージを受けることはありません。ヤフーショッピングとしては勝負がつきつつある市場で敵の収益源を破壊しようとしたのです。ちなみに、ヤフーは出店料と手数料の無料化によって出店数が増加し、自社サイトに対する広告出稿量が大幅に増加すると見込んでいます。

「敵の収益源の破壊」を実行すると、競合との信頼関係も破壊され、競合とシェアを分け合いながら共存するという状況ではなくなります。また、顧客が無料に慣れてしまい、業界において将来にわたって課金できなくなり、当該市場が永久に焦土化する可能性があります。

例えば、マイクロソフトは競合のネットスケープとの戦いに勝てないとみると、それまで優良だった高機能ブラウザを無料にして、ネットスケープの収益源を破壊。同社を市場から駆逐しました。そしてその結果、ネットユーザーがブラウザは無料という常識を持ってしまいました。

競合と勝負するために様々なビジネスモデルが使用されています。「敵の収益源の破壊」のようなビジネスモデルは行う側はもちろん、行われる可能性のある側も知っておいた方が良いビジネスモデルだと思われます。

(参考文献 ビジネスモデルの教科書)

行動経済学から見る単品通販の無料お試しセット

本日は行動経済学から見る単品通販の無料お試しセットに関して記載します。

【単品通販の戦略】

通信広告を見て消費者が商品を申し込む確率は0.2%~0.02%程度だと言います。そのような中で単品通販を行う業者が重視しているのは、市場シェアを拡大することではなく顧客数を増やすことです。

単品通販とは、ひとつの商品やひとつのカテゴリーに絞りこみ、顧客の欲する情報量を増やし、コミュニケーションを重視した販売方法となります。例としてはやずやの「香酢」「にんにく卵黄」や山田養蜂場の「ローヤルゼリー」「プロポリス」があり、リピート性の高い商材が向いています。

単品通販は利益を得るために『新規顧客を獲得する→新規顧客の獲得コストを下げる→獲得した顧客に継続購入を促す→その顧客の客単価や購入回数をアップさせる』というプロセスを採って行きます。商品の単価にもよりますが、初めの数回の購入では利益が出ないことは織り込み済みです。数回以上、商品を買ってもらって初めて利益が出るビジネススタイルとなっているのです。

これら通販企業が無料のお試しセットを出していることがあります。これは新規顧客獲得と合わせ、2回目以降も自社の販売する商品を購入してもらおうという意図を込めているのですが、消費者にとって『無料』ということが非常に魅力的に映ります。無料であるということは低価格であるという以上に消費者に魅力を与えます。通販企業は『無料』の魅力で大量の見込み客リストを集め、活用しています。

【無料の魅力 行動経済学『プロスペクト理論の確率加重関数』】

無料のお試しセットの「損をする確率がゼロである」ということは消費者から非常に強いメリットとして認識されます。そのことに関して以下のような実証結果があります。

■チョコレートを買う人の心理の実験

15セントの高級なトリュフチョコと、1セントのポピュラーなキスチョコを並べてどちらか一つだけ、買えるものとしました。その結果、73%が高級チョコで、残り27%がキスチョコを選びました。

次にそれぞれ1セントずつ値下げし、高級チョコを14セント、キスチョコを無料で提供したところ、結果は逆転。69%がキスチョコを選び、高級チョコは31%にとどまる結果となりました。

人間の心理において、無料で得られるとなると、それが実際よりも価値のあるものに見えるのです。

上記の例以外にアマゾンの無料配送キャンペーンの事例もあります。アマゾンは一定額以上の注文をすると配送料が無料になるキャンペーンを実施し、ついで買いを誘うことで、世界的に業績がアップしました。しかしながら、フランスにおいてのみ業績アップにならなかったと言います。これは、フランスでは一定額以上の注文で配送料を1フランにしたためだと言います。1フランであっても無料との差は、実際以上に大きく消費者に感じさせるということです。

行動経済学の中のプロスペクト理論に確率加重関数という理論があります。これは人間が判断する際の癖で、確率が小さい時は過大評価され、確率が中くらい以上に大きくなると過小評価される傾向があることを言います。また、確率が0%や100%などの極端な数値の近辺では反応が強くなります。

人間は確実に起きることを重視します。確実に得られるメリットには強い魅力を感じる一方で、非常に高い確率で得られるメリットであっても、それが100%確実に得られるものでなければ、魅力は下がるのです。

無料であるということは思った以上に消費者に魅力的に映るようです。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

西松屋のガラガラ経営

本日は西松屋のガラガラ経営(地域ドミナント)に関して記載します。

【西松屋 ガラガラ経営】

西松屋は2011年8月現在で店舗数782店舗を誇る、乳幼児用品、小児用雑貨専門店です。この西松屋ですが、店舗運営方法に当たり「ガラガラ経営」という経営スタイルをとっています。同社は店舗立地を幹線道路沿いから避け、店内にマネキンやワゴンを置かないで、広い通路を確保し、セルフサービスで店舗運営を行っているのですが、ガラガラ経営の基となる戦略として、地域ドミナントという戦略を採っています。

【地域ドミナント戦略】

地域ドミナントは、ある限られた地域内に集中的に複数の店舗を出店して競合が入ってくる隙間をなくして、地域の顧客や需要を総取りするモデルのことを言います。本来、リアル店舗はある程度距離を置いて出店した方が店舗の商圏を広げることができるのですが、この地域ドミナントという戦略においては、地域をわざと限定して店舗を密に配置します。西松屋の場合、「ドミナントエリア」を設定し、店舗の売上高が予め定めた目標を超えると、その店舗とわざと顧客を共食いするようにもう1店舗出店しています。西松屋の店舗同士で同じ地域の顧客を互いに共食いすることになるわけですが、その一方でこの戦略は地域を独占することにつながり、西松屋以外の競合を排除できることにつながります。

この戦略の上記以外のメリットとしては、次のようなことが挙げられます。まず、同一地域に店舗が密集しているので、配送効率が上がります。つまり、同じトラックで狭いエリアを回るのですので、配送効率は上がるわけです。また、同じ地域の人たちにチラシや看板などの広告をより深く認識してもらうことができる、つまり広告の効率が上がるというメリットもあります。地域の人たちは同じ地域で同じ会社の情報を何度も見るので、地域での自社のプレゼンスは自然と上がっていきます。更には、店舗間で顧客がスイッチすることによる売上変動が地域全体として吸収され、自社に対する需要が安定することにより、会社全体の業績が安定します。また、在庫の圧縮や要員のフレキシブルな活用も行えるようになるわけです。合わせて、店舗ごとの売上効率が落ちることによって、接客に対する待ち時間を減らすことができ、顧客はゆったりと店内でお買い物を楽しむことができるようになるのです。このビジネスモデルは、1店舗ごとの売上をあえて落とすような戦略を採っていますので、通常の1店舗ごとの売上を最大化しようという動きと異なる、一見不思議な戦略ですが、全体的にみるとプラスに働いているわけです。

この地域ドミナント戦略のデメリットとして、フランチャイズとの親和性が低いということが挙げられます。フランチャイジー(店のオーナー)としては自分が経営する店舗の売上が、商圏内に同じ会社の店舗が出店することにより、減少することは許せないことです。このようなフランチャイジーからの反感を避けるために、西松屋と同様に地域ドミナント戦略を採る、スターバックスは全て直営店での経営を行っていますし、セブン‐イレブンはフランチャイジーに店舗を密にすることによって競合がいなくなることや、スーパーなどの他の小売業態との競争に優位に立てると説明していると言います。

地域ドミナントはいろいろなリアル店舗で実施されている戦略で、他社との差別化を図ることができるメリットのある戦略と言えます。

(参考文献 ビジネスモデルの教科書)

国際収支

本日は国際収支に関して記載します。

【最近の経常収支に関して】

2013年10月から2014年1月まで4か月連続で経常収支が赤字になりました。そして1月においては単月としては過去最大の1兆5890億円の経常赤字を記録しました。ここ数か月の経常収支の動きを見ると輸入が伸びているという状況があり、これには日本の産業の空洞化が要因として考えられているようです。

経常収支とは国際収支の構成要素の一つとなり、国際収支は一定期間(通常1年)における、ある国の外国との金銭の受取り・支払記録のことを言い、前述の「経常収支」「資本収支」「外貨準備増減」「誤差脱漏」に分けられます。以下、国際収支の内訳を見て行きたいと思います。

【経常収支に関して】

経常収支とは主に財・サービスの取引から構成されます。

■貿易収支:財の輸入額と輸出額の収支(輸出額―輸入額)のことで、「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」からなります。

・貿易収支は東日本大震災以来、赤字が続いています。原油や天然ガスの価格が上昇しているということもありますが、2つの大きな構造変化が起きているということも要因としてあります。まず、一つ目はエレクトロニクス業界に代表される動きが挙げられます。この分野の企業はグローバル市場で競争力を次第に失い、輸出が伸び悩んでいます。その一方で海外メーカーが造る家電製品の輸入が増えています。産業基盤が弱まってきているのです。二つ目には自動車産業に代表される動きが挙げられます。これはグローバル展開の加速であり、海外に生産がシフトしているという状況です。海外生産が進んでいるので、以前のように日本国内からの輸出が伸びなくなっています。2007年から人口減少が始まっていますが、このことにより経営者の中で国内市場は成長しないという認識が広がっているということもあるようです。貿易収支の赤字は輸入額が増えていることだけが原因ではないので、原発が再稼働したとしても、長期的にみて貿易黒字につながるというわけでもないようです。

■サービス収支:運輸、旅行、通信、保険、金融、特許使用料などの収支を言います。

技術特許収入(ロイヤルティ)は伸びているそうですが、そのスピードが加速しているというわけでもないようです。

■所得収支:非居住者への労働賃金や投資収支(外国へ資金を貸し付けた時の利子収支や配当金など)の収支のことです。

東日本大震災以降、貿易収支の赤字を所得収支の黒字で補っています。大きな額ではあるものの、貿易赤字を相殺して余りあるほど、ぐいぐい伸びているというわけではありません。

■経常移転収支:国際機関への拠出金や援助金や賠償金など一方的な給付の収支のことを言います。

【資本収支に関して】

続いて、資本収支に関しても見てみます。資本収支とは主に国際間の金融資産取引から構成され、「投資収支」と「その他資本収支」があります。

■投資収支:外国企業の買収や、外国に作った子会社の経営権の取得などを目的とする直接投資の収支、およびキャピタル・ゲインを得ることを目的に行われる証券投資の収支のことを言います。

【外貨準備増減に関して】

外貨準備増減とは、通貨当局が国際収支不均衡是正や為替相場介入のため保有する外貨のことを言います。通常、海外との取引において自国通貨が使われることは少なく、ドルなどの外貨が用いられます。このため、海外からの外貨受取りが外資支払いを超過すると、その分だけ外貨準備は増加します。反対に海外への外貨支払いが外貨受取りを超過すると、その分だけ外貨準備は減少します。

日本国内の経済部門を家計と企業、政府の3つに分けると、家計と企業の貯蓄が政府の借金を支える構図になっています。しかしながら現状、家計の貯蓄率はゼロに近づいていて、政府の借金が増えているので、状況は厳しくなってきていると言います。経常赤字になった場合、国内の資金だけでは政府の借金を賄えなくなり、外国からお金を借りなければならなくなります。外国人投資家は経常赤字の国に対して信用を置きませんので、利子が上乗せされてしまうということも考えられます。いずれにせよ財政赤字を減らしていくことは重要となってきます。

(参考文献 東洋経済3/29)

行動経済学から見るポイントサービス

本日は行動経済学から見るポイントサービスに関して記載します。

【普及するポイントサービス】

現在、様々な企業でポイントサービスを実施しています。最近では異業種を含めた企業横断型のネットワークによる「共通ポイント」を採用する企業が出てきています。例えばカルチュア・コンビニエンス・クラブとヤフーが業務提携により、2013年7月1日より「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!トラベル」「Yahoo!ゲーム」などYahoo! JAPANの16サービスを中心にYahoo!ポイントがTポイントに切り替わりました。これによりYahoo! JAPANというネットの世界のみならず、TUTAYAやファミリーマートなど日本全国57,000を超えるTポイント提携店舗でもポイントが「たまる」「使える」ようになりました。また、2013年6月時点で、カルチュア・コンビニエンス・クラブの会員数4500万人、Yahoo!ポイントの会員数2700万人という多くの会員数がおり、紐つけしていない単純な合計で7200万人もの会員数になります。まさしく、ネットとリアルを横断した巨大ポイントサービスです。

ポイントに関しては、最近では飛行機に搭乗せず、航空会社が提携したクレジットカード、レンタカー、通販などを利用してマイルを貯める「陸マイラー」やマイレージサービスの特典を得るために、短期間に何度も飛行機に乗り続ける「マイル修行」などの言葉もあると言います。それだけポイントサービスが世間一般に普及してきているということが言えます。

このように普及が進むポイントサービスですが、利用者から見て魅力的に見える仕掛けもあるようです。

【ポイントと値引き】

ポイントは貯まればお金として利用できます。しかしここに仕掛けがあるようです。

例えば、10万円でパソコンを買い、その時のポイント還元率が10%だとすると、1万円分のポイントが付きます。この時、多くの購入者の頭には「10%値引きされた」という計算が働きます。しかしながら、実際には10%の値引きではありません。パソコンを購入した後、ポイントを使用して買い物をするとなれば、“パソコン10万円”+“他の買物1万円”=“合計の買い物額11万円”となります。つまり、10万円の10%値引きではなく、11万円の10%値引きとなります。値引き率は9.1%です。人々はお金に関する判断を実質値ではなく名目値をもとに行ってしまう傾向があるのです。これを貨幣錯覚と言います。

【ポイントを使うタイミング】

ポイントは後から使います。上記の例でいえば、最初は10万円でパソコンを買います。その時は△10万円です。しかし、その後ポイントを使って買い物をした場合、1万円の商品はただで購入したような気分になります。初めに買い物をしてポイントを貯めた時と、それを使うときは別々の買物と認識される傾向にあるのです。

顧客の購買履歴を知るなどもできることからポイントサービスは企業にとって有効ですが、直接的な値引きよりも有利な点もあるようです。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

H2O・イズミヤの経営統合とのれん

本日はH2Oとイズミヤの経営統合と「逆のれん」による経営改善について記載します。

【H2Oとイズミヤの経営統合】

2014年1月31日にH2Oとイズミヤが経営統合を発表し、6月1日にイズミヤはH2Oの完全子会社となります。両社の2013年度の連結売上を単純加算すると9200億円、営業利益で209億円になります。

H2Oは現状、大阪地区の百貨店売上シェア36%を占めており、経営陣は将来その数値を40%にまで上げたいと考えています。過去の推移を見ると、“2008年に阪急うめだ本店に隣接した阪急メンズ大阪を増設”“同年11月、大阪郊外に西宮阪急を展開”“2012年11月、売場面積を6万1000平米から8万平米へ拡大し、阪急うめだ本店をグランドオープン”と百貨店事業の体制を整えてきた経緯があります。

経営陣が上記に加え注力してきたことに「食料品関連事業の強化」ということが挙げられます。2006年にニプロから食品スーパーを展開するニッショーストアを買収。2011年4月、九州地区が地盤のエブリデイ・ドット・コムの株式を取得して「オレンジライフ」ブランドを獲得。宅配事業の拡張を図る。11年9月には外食事業である家族亭の株式を取得・子会社化といったことを行ってきました。

H2Oには、都市部は百貨店で郊外はスーパーマーケットという発想があり、上記のような買収を行ってきましたが、スーパーマーケットについては小規模なものとなっていました。そこで浮上したのがイズミヤとの経営統合でした。店舗商圏が両者で重なり、都市部でアッパーに対応する百貨店と、郊外で総合生活事業を展開するイズミヤとは補完関係が成立したのです。

【イズミヤ 逆のれんによる経営改善】

イズミヤは、かつて西のイトーヨーカ堂とたとえられたほどの優良GMSでしたが、近年は売上低迷により不採算店舗の閉鎖や事業統合などの改革を行っていました。そして、直近の中期計画ではロジスティック改革やGMSの効率化などに取り組んでいました。この状況をH2Oとの経営統合により改善することができる可能性が出てきます。経営統合を行うことで500億円ほどの『逆のれん』が発生するためです。この500億円を活用して、各種減損、不採算店舗の閉鎖などを行い、財務的負担を低減し、営業キャッシュフローを改善することができます。中長期的には店舗活性化や好立地の既存店舗の建て替え、新店舗への設備投資など積極的な投資に資金を回せる可能性もあるのです。

【のれんとは】

市場の競争が激しくなればなるほど、商品そのもののクオリティだけでなく、その商品自体が持っているブランド力や商品を販売するための顧客基盤などが大切になります。そのために、製造設備のような有形固定資産だけでなく、ブランド力、顧客基盤、ライセンス、コンテンツ権、特許権、ソフトウェアなどの様々な無形資産の重要性が大きくなってきています。

他社から購入したブランドや顧客基盤、技術などの無形の資産は、貸借対照表に無形固定資産やのれんという科目で表示されます。企業買収を行う時、買収時に発生した差額をしっかりと分析することにより、可能な限りソフトウェア、特許、著作権、顧客名簿、独占販売権、コンテンツ権など無形固定資産に分類し、残りの金額をのれんとすることにしています。つまり、のれんというのは目に見えない資産の中で、無形固定資産のようにしっかりと分類できない資産となります。

さて、H2Oとイズミヤの経営統合による『逆のれん』ですが、買収される会社(イズミヤ)の純資産より低い価格で買収した場合の差額で、買収した会社(H2O)の営業外収益となることを言います。

H2Oとイズミヤの経営統合は補完的に両社の経営基盤を強化できるWin-Winの状態だと言えそうです。

(参考文献 販売革新2014 4 ビジネスモデル分析術)