本日は「レモンを搾りつくすようにデータ分析する」イギリスのテスコに関して記載します。
現在では、世界の小売業の中でウォルマート、カルフールに次いで売上高第3位のテスコですが、以前はイギリスで首位のセインズベリーを追いかける万年2位の企業でした。そして当時、安売りチェーンのイメージが浸透していたテスコは、他チェーンとの価格競争にさらされていました。そのため店舗の合理化を重ねて利益を創り出していたわけですが、一方でローコストオペレーションによる反動で店舗の魅力が後退し、利用者からのイメージが低下してきていました。そこで顧客との関係性を回復する打開策として「クラブカード」と呼ぶ、カード会員サービスを1995年に導入します。これは現在ではよく見かける、購入金額に応じて所定のポイントを付与し、一定ポイントに達すると買物券を還元するサービスプログラムです。しかしながら当時、テスコの試みはイギリスのスーパーでは初で、カード会員は半年間で850万人と急速に伸び、それに伴って売上高も急速に伸びていきます。クラブカードの導入がターニングポイントとなり、テスコはセインズベリーを抜き躍進していきます。この成長のきっかけは、クラブカード会員から得られる情報の有用性に着目し、その分析に力を注いだことにありました。その徹底ぶりは社内で「レモンを搾りつくすようにデータ分析する」と言われるほどのようです。
まず、消費者を大きな一塊で捉えるのではなく、購買者のタイプや特徴を踏まえ、できるだけ個別具体的にアプローチしていきます。1990年代後半、カード会員向けに送付する「クラブカード・マガジン」という情報誌を創刊したのですが、学生や成人、シニアなど年代層に応じて顧客をセグメント化し、対象層ごとに編集内容をアレンジしていました。
また、顧客の嗜好や関心を把握することが重要と考え、テスコが扱う1万点近くの主要商品を対象に「商品DNA」と呼ぶ、属性コードを付与します。商品DNAとは、例えば「健康に良い」「鮮度がある」「調理が簡単」「お買い得」「高級品」「ベジタリアン向け」など、商品の性格を表す構成要素のことを指します。野菜飲料であれば「健康に良い」「ベジタリアン向け」という商品DNAがつけられます。
各種商品の購買傾向から、顧客のタイプを「価格重視派(経済的に豊かではない)」「主流派(平均的顧客)」「保守派(保守的で高齢者)」「利便性追求派(惣菜好きで若いカップル)」などといったセグメント群に分類も行っています。そして、顧客がどのセグメントに属しているのかが判明できる仕組みを整え、それぞれのセグメント別にプロモーションを展開。各店舗でどのようなタイプの顧客が良く利用しているのかも調査し、店舗ごとに顧客タイプの構成比を把握し、それにそった商品アイテムの物量を展開しています。
クラブカードから得られる情報を基にPBの企画・開発も行っています。テスコは顧客のタイプに応じて「Finest(ファイネスト)」「テスコ」「Value(バリュー)」と呼ばれる3つのPBを取り扱っています。「ファイネスト」は高品質・高価格な製品で富裕層を意識したもの。「テスコ」は、一般メーカーが扱うNBに相当するスタンダードクラスの製品でNBよりも安めの価格設定。「バリュー」は低価格品を好む層に対応する廉価な製品です。日本でも最近は高価格PBが出てきていますが、テスコのPBを見てみるとデータ分析を基にしたきめ細かい企画・開発が行われていることがわかります。
カード導入によるデータ分析は様々な店舗で実施されていると思いますが、徹底した活用が顧客との結びつきを強め、企業としての強みになっていくことがテスコの例から伺えます。
(参考文献 ショッパー・マーケティング)