こちらでは、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの歴史について、まとめたものを記載しています。キャバリアの歴史の流れを大きく見ると、「1600年代のイングランド王チャールズ1世・2世に愛される」⇒「1800年代には鼻ぺちゃブームでチャールズ1世・2世の時代に愛された姿の犬種が姿を消す」⇒「1920年代以降に復活を遂げる」という流れになります。
スパニエルが王室や貴族に愛された時代:チューダー朝時代(1485~1603年)
チューダー朝の時代は、絶対王政のもとでイギリスが大国に成長した時代で、代表的な王としてはエリザベス1世(女王 在位1558~1603年)がいた時代となります。日本では室町時代から江戸時代がスタートした年が当てはまります。
この当時、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの祖先となるスパニエルは、小型愛玩犬(トイ・スパニエル)としてイギリス王室や貴族から非常に好まれていました。更にコンフォーター・スパニエルと呼ばれ、宮廷の女性たちが膝や足を温める湯たんぽとして利用したり、ノミを引きつけさせるノミ捕りとしての役割も担っていました。
※「スパニエル」はスペインの猟犬の総称。16世紀頃には鳥猟犬(ちょうりょうけん 鳥の居場所を知らせたり、鳥を驚かせたりする犬)として活躍。小さなサイズの犬たちは愛玩犬として可愛がられた。
チャールズ王のスパニエル=キング・チャールズ・スパニエル:チャールズ1世・2世の時代(1600年代)
今のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの祖先となるスパニエルの火付け役は、スコットランド女王のメアリー・ステュアート(在位1542~1567年)と言われます。メアリー・ステュアートが愛したスパニエルはその息子たちも愛し続けていきます。メアリー・ステュアートの息子のステュアート朝初代のイギリス王ジェームズ1世(在位1603~25年)、ジェームズ1世の息子であるチャールズ1世(在位1625~49年 清教徒革命で敗れた王)、更にその息子であるチャールズ2世(在位1660~85年 王政復古)からも愛されました。
中でもチャールズ2世は、キャバリアの祖先となるスパニエルを大変溺愛していたようです。チャールズ2世は、どこに行くにも常に2、3匹の犬を連れていたと言われています。また、犬が逃げれば新聞に報奨金付きで広告を出し、会議の時は話し合いよりも犬にばかり気を取られ、官僚の日記には「犬と遊んでばかりで公務を果たさない」と酷評されるほどの溺愛っぷりだったそうです。
チャールズ1世・2世に愛されたスパニエル。そのことがキングチャールズの名前の由来となっています。
なお、チャールズ2世の死後は、マールバラ公ジョン・チャーチルがそのスパニエルの支持者となります。マールバラ公ジョン・チャーチルは、キャバリアのカラーの一種である「ブレンハイム」の名前の由来ともなっています(彼が大勝利したスペイン継承戦争のブレンハイムの戦い、その戦勝の恩賞としてアン女王から与えられた領地にあるブレナム宮殿に由来)。
短吻種ブーム:ヴィクトリア王朝時代(1800年代)
ヴィクトリア女王(在位1837~1901年)の時代、イギリスは産業革命による経済発展により帝国として絶頂期を迎えます。そのころキャバリアの祖先となるスパニエルは、当時流行していた短吻種(たんふんしゅ)、いわゆる鼻ぺちゃな犬の流行りを受け、狆(ちん)やパグといったマズルの低い犬種と交配されていきました。その結果、マズルが短く、サイズも小型化した現在の「キング・チャールズ・スパニエル」が誕生します。キング・チャールズ・スパニエルは、当時のヨーロッパで一大ブームを巻き起こしました。
※キング・チャールズ・スパニエルとキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは別の犬種となります。
現在のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルが誕生(1920年以降)
ヴィクトリア王朝時代に過度に改良されたキング・チャールズ・スパニエルから、呼吸器疾患などの病気にかかりやすいという問題が発生しました。またマズルが低くなった影響により、いびきが五月蠅く飼い主が熟睡できないという問題も発生しました。そのような問題が起こったことにより、愛好家たちからマズルやサイズを元に戻し、健康になることが望まれるようになりました。
1920年代、アメリカの富豪ロズウェル・エルドリッジ(Roswell Eldridge)氏がチャールズ2世の肖像画に描かれていたスパニエル犬種を求め、イギリスを訪れます。しかしながら、ヴィクトリア王朝時代のキング・チャールズ・スパニエルのブームにより、当時の姿を保っていた犬種は残っていませんでした。ロズウェル・エルドリッジ氏はそのことに非常に失望し、1926年ドッグショーにて、チャールズ2世の時代の肖像画にあるような長い顔・平らな頭蓋骨を持った犬に25ポンド(当時としては額として大きい)の賞金を出すことを宣言します。それにより、1927年に「アンズ・サン(Anns’ Son)」という犬が賞金を獲得することとなりました。ブリーダーたちが、キング・チャールズ・スパニエルから時折生まれる先祖返りした犬を基に、チャールズ2世時代の肖像画に描かれている犬種に近い姿をした犬を固定化させることで、現在のマズルの長さを持ったキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルが誕生することとなったのです。
愛好家たちの尽力により現在の姿のキャバリアが固定化し、1945年にイギリスで「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」という犬種で登録されるに至りました。追って1996年にアメリカでも犬種として登録されることとなります。