百貨店の取引形態

本日は百貨店に関して取引形態を中心に記載します。

【百貨店を取り巻く環境】

1991年のバブル経済崩壊以降、百貨店業界の市場規模は低迷し、1991年の9.7兆円をピークに、2010年には6.3兆円を割り込むまで縮小しました。市場が縮減する一方、百貨店業界の総店舗面積は1991年の505万平方メートルから2010年に647万平方メートルへと3割程増加。必然的に百貨店間での競合が激化しています。併せて、総合スーパー、ショッピングセンター、専門店ビルなどとの異業態間競争も激化してきていますし、少子化に伴い国内市場も縮小してきています。

【百貨店の業績が低迷した内的要因】

百貨店の業績が低迷した要因として、上記のような外的な要因に加え、内的な要因として、納品業者への過度に依存したことによるマーチャンダイジング、サービス提供能力の低下と低収益・高コスト体質の2つがあると言います。そしてこのことは百貨店の仕入れ形態と密接に関連しているというのです。

【百貨店の仕入れ形態】

百貨店の取引形態は「買取仕入れ」「委託仕入れ」「消化仕入れ」の3つに大別されます。

■買取仕入れ:百貨店が売買契約により取引先から商品を購入する仕入れ方式。原則、百貨店の従業員が商品の仕入れ・管理・販売を行う。

■委託仕入れ:実務上、売れ残り品の返品の約定を付した返品特約買取仕入れのことを委託仕入れと言う場合が多いです。

■消化仕入れ:取引先の従業員が百貨店の店舗内で商品管理・販売業務を行い、顧客への販売が実現した時点で百貨店への仕入れが計上され、販売された商品の所有権が取引先から百貨店に移ると同時に顧客へ移るという取引形態。消化仕入れは売れ残りリスクだけでなく、汚損・減耗・盗難などの販売上のリスクも取引先が負担。

戦後復興期に、委託仕入れやそれに付随して取引先から派遣される派遣店員の利用が拡大。1990年代以降には、取引先主導のブランド商品の取り扱い拡大などにより、消化仕入れが急増しました。消化仕入れは商品仕入れ・販売により生じる百貨店のリスク・コストを取引先が負担するので、百貨店にとっては都合の良い取引形態でした。しかし一方で、取引先がリスク・コストを負担する代わりに、百貨店の仕入れ差益率は買取仕入れに比べて低率になるという問題がありました。

【仕入れ形態の割合の推移】

日本百貨店協会(1998)の調査によると、1955年と97年で買取仕入れが全取引に占める割合は67.5%から34.0%に減少する一方、委託仕入れの割合は20.2%から29.9%に、消化仕入の割合は11.8%から39.6%に、それぞれ増加しています。個別企業を見ると、高島屋は2003年に消化仕入のシェアが全売上高の65%に、三越では2007年に60%に、大丸では2010年に80%に達しています。

【まとめ】

百貨店は消化仕入れを多用することで、仕入れ差益率を低下させてしまいました。また、取引先が運営する売場が増え、百貨店の従業員がマーチャンダイジングやサービスに関する知識を獲得、蓄積して能力を向上する場と機会が減ってしまったのです。また、取引先の派遣店員に運営を頼ることで、自らの経営体質の強化を行う視点が抜け高コスト体質に陥ってしまったということがあるようです。

百貨店は労働集約産業であり、「大規模な店舗の運営」「幅広い品揃え」「高質なサービス提供」という業務を人的資源に依存しています。このため、従業員が新しい経営知識を発見し、それを蓄積し、適切に業務の実行が行えるようなプロセスの構築が必須となります。消化仕入れの売場が多くを占める中で、人的資源の蓄積と活用をいかにして行っていくのかが、百貨店が競争力をつけていくポイントの一つだと感じます。

(参考文献 日本の優秀小売企業の底力)