店舗フロア間の関係

店舗のフロア間の関係に絡めて記載します。

【高くいけばいくほど人がいなくなる】

 百貨店やスーパーなどの何階建てにもなっている店舗に行くと1階のほうはお客様がたくさんいらっしゃるのに、上のフロアへ行けばいくほど、だんだん客数が減ってくるように感じることが多々あります。この上のフロアへ行くにしたがって、入階客数が少なくなるというのはどの店舗でも同様のようで、階数が一つ増えるごとに地平線から離れている方が、0.7倍の入階客数となってしまうというデータがあるということです。このことは欧米では半世紀も前から確かめられており、日本においても例外は少ないと言います。このことを数値で確認して見ますと、1階の客数を100とした場合、2階になると70、3階になると49(3階に来た段階で1階の半数以下になる)、4階になると34、5階になると24、6階になるとなんと16の比率になってしまいます。逆に地下の場合、地下1階は上記の2階と同様の推移となりますが、地下2階は4階ほどの比率に近くなってしまうと言います。

【シャワー効果・噴水効果】

このフロア階数の増減に伴う客数減少状況を食い止めようと、過去から日本の小売店では、催会場のような常設特売売場を設けたり、イベントを繰り返し行ったりしてきました。これに関してはシャワー効果と言われるものが該当すると思います。シャワー効果とは、上の階の施設を充実させ、店舗全体の売上の増加につなげる販売方法で、“屋上に人気の高い商品を配置する”“最上階のレストランを充実させる”“催会場を上階に配置する”と言ったことを行い、上から下への顧客の流れを作り、ついで買いを狙うことを言います。そもそも、何層にもわたる店舗の場合、地平線から最も離れたフロア(上層階)へお客様をまず誘導し、そのあと徐々に低いフロアに誘導することが原則としてあります。まず一旦、お客様を一番上のフロアまで誘導し、そのあと徐々に下のフロアの商品を見ていただくように誘導するのです。何層にわたる店舗の場合はそのことを意識して商品展開を行っていくことが重要になってきます。なお、シャワー効果とは別に噴水効果という言葉もあります。これは食料品売場を中心とする地下の施設を充実させ、店全体の売上の増加につなげる販売方法のことで、集客力の高いテナントの配置や地下催事などでお客様を呼び来い、下から上への顧客の流れを作り、ついで買いを狙うというものです。これなども地平線から離れれば離れるほど入階客数が減ることを前提とした対策と言えると思います。

 複数のフロアがある店舗の場合、エレベーターやエスカレーターが顧客を上層階に誘導しやすい場所にある等のハード面の違いや、何階に何の商品を配置するのかによって買い回りの良し悪しが決定してくるようです。特に都心においては何層にもわたる百貨店やスーパーが普通ですので、そういったところを見比べるのも面白いかもしれません。

 (参考文献 店舗レイアウト)

ワンウェイコントロール

レイアウト理論「ワンウェイ・コントロール」に関して記載します。

ある人が「アメリカのお店に行ったときに店内をぐるーっと回されて・・・」といったようなことを言ったときに、数人から「そうなんだよね」といった反応があったことがありました。そもそも売場をレイアウトする際には感覚で作っていくのではなくしっかりとした理論があるのです。日本のスーパーマーケットで普通に買い物している時にもその理論が活用されていることは実感できるのですが、その売場レイアウト理論のことをワンウェイ・コントロールと言います。ワンウェイ・コントロールとは店側で計画したとおりにお客様を売場内誘導するための経験法則の総称を言います。

アメリカで1960年代から1970年代に出始めたころ、ワンウェイ・コントロールは以下のようなものだったと言います。「店内を入るとすぐにターン・スタイル(一方方向にのみ通れる金属パイプの回転式入口設備)があって、それを通り越すと店の外にはもう出られない。とにかく店内の奥へ奥へと進むのみ。そして途中で戻ろうとしても什器の壁に遮られて戻れない。全通路を通った後、最後にレジがあって、ようやく外に出られる。買い忘れたものがあると、また入口から入って強制的に全通路を歩かされることになる」という状態だったらしく、まるで工場のベルトコンベアで運ばれながら買い物をしているかのような感じです。一時流行しかけたようですが、お客様からの評判も悪かったようで、10年ほどで姿を消したようです。上記は失敗事例ではありますが、その失敗も踏まえての、ワンウェイ・コントロールとはお客様が一方通行での買物を受容しながら、なおかつ心から満足できる状態をつくる、そういったノウハウとなります。

このノウハウとして、物理的な条件として直線誘導主義(通路上のお客様の大部分をより奥へ、長く誘導すること)と心理的条件として商品関連誘導主義(売場商品の関連で、お客様を次の売場に誘導すること)があります。

このワンウェイ・コントロール、アメリカでは大型化に直面していたスーパーマーケットから活用され始め、1970年代に入って、非食料品小売とフード・サービス業界のチェーンストア業界が適用範囲を拡大、汎用化した理論として活用されています。

IKEAに行くとワンウェイ・コントロールを実感できますが、それ以外にも様々な店舗で活用されていると感じます。もともと工業経営の世界での科学的な実験を踏まえた上での効率化・改善・改革の方法論から出てきた理論のようですが、売場レイアウトも感覚ではなく、理論で作り上げていくことが重要だということだと思われます。

 (参考文献 店舗レイアウト)

会員制ホールセールクラブ

会員制ホールセールクラブに関して記載します。

 会員制ホールセールクラブとはディスカウントストアの一種で、会員制の倉庫型店舗のことを言います。法人及び個人の会員から年会費を徴収し、会員のみに破格値で商品を販売する仕組みです。

 現在、アメリカにおいて会員制ホールセールクラブは現在、コストコ、サムズ・クラブ、BJ’sの3社が市場を独占しています。各社の2010年の売上はコストコ762億5500万ドル(そのうち、海外の売上は150億円)、サムズ・クラブは478億600万ドル、BJ’sは106億3300万ドル。アメリカの2010年の小売業全体の売上は4兆3535億8500万ドルですので、会員制ホールセールクラブはアメリカ小売業全体の2.7%となります。アメリカ小売業全体規模でみると会員制ホールセールクラブはニッチであるということが言えます。

一方で、アメリカ会員制ホールセールクラブの売上推移を見てみると、コストコ2002年37,995百万ドル→2011年87,048百万ドル、サムズ・クラブ2002年29,395百万ドル→2011年49,459百万ドル、BJ’s2002年5,729百万ドル→2010年10,633百万ドルと、拡大傾向にあります。

 会員制をとる魅力としては低価格で販売を行うディスカウントストアとの差別化が図れることです。会員は年会費を払わなければなりませんが、そのことにより高価値商品を卸売価格で特別に販売しているというイメージを表すことができます。また、会員制をとることで顧客を選別するという部分もあるようです。コストコ会員の平均年収は一般世帯の1.5倍だそうです。

フランスのカルフールやイギリスのTescoが日本市場に撤退したり、ウォルマートが苦戦したりする中、日本市場に遅れて進出してきたコストコは比較的好調なようです。会員制ホールセールクラブという特殊な販売手法が一定の効果を見せているということだと思われます。

 (参考文献 「コストコ」がなぜ強いのか)

コト消費 消費者が商品やサービスに参加する仕組み

コト消費に関連して消費者が商品・サービスに参加する仕組みという点について記載します。

 東京ディズニーランドの地下には会員制の秘密クラブがあるという都市伝説があるそうですが、実際に東京ディズニーランドには一般ゲスト(入園客)が入れない地下通路が存在します。使用目的はキャストの移動やレストランで使用する食材やショップに並んでいる商品を運搬するためのものです。地上で商品や食材の運搬を地上で行わないことにより、ディズニーランドは来場者に徹底的にディズニーランドの世界観に浸ってもらうということを行っているのです。

コト消費が注目される中、ディズニーランドのように、「消費者が商品・サービスそのものに参加できるような仕組みを作り上げた商売」「商品・サービスの中に消費者そのものが組み込まれてしまうような要素のある商売」が成功をおさめる例が多々あります。

例えばアップルのiPhone。iPhone自体、製品として性能が高く、他の商品との差別化が図れてはいますが、それに加えアップルはiPhoneが生み出す体験をユーザーが感じ取れるような仕組みも作り上げています。つまりiPhoneは他のスマートフォンよりも「何ができるのか」「自分の生活がどう変わるのか」ということを強く打ち出しているのです。

CMでFace Timeというビデオ通話で遠隔地にいる孫の七五三の動画を見ておじいちゃんとおばあちゃんがウルウルしているというCMを作ったということはその事例の一つです。

また、アップルストアにおいては、最初、機種別の陳列構成だったものを、完成直前に体験別に変更しています。スティーブ・ジョブズのこだわりがあったようなのですが、「初心者用」「上級者用」とスペック別に販売することが普通とされていた時代に、「映像編集」「音楽編集」と顧客のやりたいこと(体験)を重視して店舗の構成を変えたのです。

 消費者が購入する際、贈り物でもない限り、当たり前ではありますが、その中心はあくまで自分自身です。そして現在、自分自身がその商品やサービスを購入する際には「どう変われるのか」「どういう体験を得られるのか」ということを重要視する傾向が強まってきていると言えます。モノがあふれている時代だからこそ、消費者が商品・サービスをただのモノとしてみるのではなく、体験し・体感し・共感できるようなコトとして捉えられるようになってきていると思われます。

 (参考文献 萌えビジネスに学ぶ「顧客を熱中させる」技術)

コト消費

コト消費に関して記載します。

【コト消費とモノ消費】

モノ消費・コト消費ということが、流通業界で言われます。また、今の時代、すでにモノで満たされていて、物質的なモノに価値を見出しにくくなっていることから、経験に価値を見出す「コト消費」への志向性が強まっているといいます。

モノ消費とは商品・サービスそのもののことを言い、そしてコト消費とは商品・サービスの本質的購入目的のことで、使用(消費)することで得られる期待満足及び結果満足につながることを言います。

コト消費の具体例として、有機野菜の宅配サービスを提供するオイシックスがあります。オイシックスは農業体験ツアーや料理教室などの体験イベントを行っていますが、それらを通じて、消費者が有機野菜の魅力を実感するとともに、有機野菜の品質・安全性を確認することができ、結果として宅配サービス利用のリピート率が高まっているそうです。

【今、人々はどんなことにお金を使いたいのか】

 経済産業省が行ったアンケートで、今後の消費についてジャンルを広げて「今後お金をかけたいもの」について質問した結果を見てみると全体では「旅行」(54.5%)、「趣味」(47.4%)、「貯金」(46.9%)、「外食」(34.3%)、「家電品」(32.8%)が上位で、日常生活における必要経費的な支出は抑え、「旅行」「趣味」をはじめとして生活を楽しむためにお金を使いたいという傾向が表れています。詳細を見てみると「家電品」「車」「株など財テク」は男性、「普段の食事」「外食」「普段着」「装飾品・ファッション小物」「美容」「内装・インテリアなど住まい」「旅行」「自分の教養・勉強」「通信」「貯金」は女性が多くあげているようです。また、上位に上がった「旅行」と「趣味」では傾向が異なり、「旅行」が男女とも高年齢層、高世帯収入層のほうが多いのに対して、「趣味」は若年層、低世帯年齢層のほうが多いという傾向がみられているようです。人口規模別でみると、「車」にかけるお金は小規模な都市ほど多くあがっていて「外食」「旅行」「友人との交際」は反対に大規模な都市ほど多い傾向にあるようです。

【コト消費 イオンの取り組み】

2013年2月7日付け日本経済新聞(朝刊)において、イオンモールの岡崎双一社長の発言が掲載されていましたが、その中で「自転車やカメラを売りたければツーリングや写真撮影会を主催する。そんな時代になった」というコメントが出てきます。また、「茨城県つくば市にイオンが3月に開いたショッピングセンターには地元サッカークラブ運営のフットサルコートや、ドッグランを楽しめるカフェを導入し、売上高は計画の3割増しだ」というものもありました。これも単純にモノを提供するのではなくモノに体験を付与して、お客様に提案しているという、コト消費の事例だと思われます。

モノがあふれる時代、他との商品との差別化が難しくなれば、その商品はコモディティ化して価格競争に陥ることになります。そのことは当然、企業の利益を減らしていくこととなります。お客様に共感を与えられるような商品・サービスを提供するということが売上・利益を確保する上で重要になってくるのでしょう。

 (参考文献 「消費者購買動向調査」~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~)

従業員満足度(ES)

従業員満足度(ES)について記載します。

アメリカにおいてはトップが自分のことしか考えず顧客や従業員を無視した企業は痛烈な批判を浴び衰退していっているといいます。顧客や従業員から見ると“His Company(彼の会社)”に過ぎないからです。そこから“Our Company(私たちの会社)”意識の醸成が主流となりチームプレーが重視されるようになり、今では従業員が“My Company(私の会社)”意識を持てるようにしなければ、本当に優れた顧客サービスは実現できないとまで考えられるようになってきました。

 顧客サービスの優れた小売業は「顧客の滞在時間が50%以上長くなる」「セールス及びマーケティングコストが20~40%削減される」「純利益が7~17%高くなる」という調査結果がアメリカで報告されているそうです。接客サービスを行うのは従業員であり、良い従業員が良いサービスを行うことで、ロイヤルカスタマーが作られます。顧客満足度(CS)を高めるには従業員満足度(ES)を高めることが必要であり、ロイヤルカスタマーはロイヤリティの高い従業員から作り出されるのです。

ウォルマートの創立者サム・ウォルトン氏は「従業員が競合との差別化のカギだ」という哲学の下、「人は通常仕事場で発揮しているよりも大きな才能を持っているが、それを出しきっていない」「誰でもよい仕事をしたいし、働き甲斐を求めている」という信念を持ち、従業員への権限移譲を進めていました。この権限移譲のメリットとしては、第1に顧客に対して素早い解決を提供できる、第2に従業員は信頼され任されることに対し、やり遂げようという責任感が強まる、第3に権限移譲された従業員は仕事に強い興味と意欲を持つので企業の生産性が上がる、ということが挙げられます。

 従業員満足度(ES)を高めている企業の他の例として、テキサス州にある収納器具など入れ物を中心に品揃えしているチェーン、コンテイナーストアがあります。この企業の店舗へ行くと明るい従業員が笑顔で迎えてくれ、質問には親切に答えてくれると言います。CEOのキップ・ティンデル氏は、接客のレベルを上げるポイントは「社員を愛することだ」と述べています。例えばバレンタインデーの日を「社員を愛する日」とし、本社屋上に大きな“We Love Our Employees”のメッセージを掲げたり、社員を称賛するための顧客用のサイト、Facebook、Twitterなどを用意したりしているようです。

ある機関が行った「従業員が会社に求める事柄」調査では経営者と従業員の考えに大きな齟齬があります。従業員が考える順位では、経営者が考える順位でのトップ「良い給料」は第5位で、第1位は「良い仕事をしたときの評価」となっています。このギャップは上司と部下の温度差を高めることが想定され、企業内での一体感・情報伝達に少なからず影響を与えると思います。従業員もお客様も人であるということを意識するということが求められている時代なのかもしれません。

 (参考文献 実店舗で商品を売るにはどうしたら良いのか)

ゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションについて記載します。

 何か月か前に、電車に乗っているとGungHoのパズドラ(パズル&ドラゴン)をしている人がいました。このゲーム、非常にヒットしているようで、サービス開始から1年4ヶ月余りたった2013年6月29日には累計1600万ダウンロードされています。これはスマホ利用者の3人に1人が遊んだ計算となるようです。ゲームの内容としては、同じ色の球をそろえて消すというもので、球を消した数で攻撃力が決まり、ドラゴンなどを倒していきます。このゲームでは、育てて・集めて・戦うというRPG的な要素も取り入れています。

 上記のようなソーシャルゲームはGREEやDeNAといった企業によって一躍有名になりました。実際GREEやDeNAは企業としても急成長していて、GREEは2006年決算時には売上が107百万円だったのに対し、2010年6月には35,231百万円、DeNAは2009年3月の決算時には37,607百万円だったのに対し、2013年3月には202,330百万円という状況です。

ソーシャルゲームには、ミッションをクリアしなければならなかったり、一定の条件をクリアすると勲章がもらえたり、レベルを上げる楽しさがあったりと様々な楽しみがあります。現在、こういった要素はソーシャルメディア以外にも活用されています。それをゲームフィケーションと言います。ゲーム的な仕組みを使って、プレイヤー(ユーザー)を楽しませる、つまり、ある企業がゲームの仕組みを応用して、顧客の問題解決や契約を獲得する、という手法です。

このゲーミフィケーションの一つとしてミッション制があります。ミッション(課題)を作って、クリアすることでユーザーに達成感を与えます。これは身近な例で言うと「ポイントを集めて、グッズをもらう」というものがあります。例として楽天レシピがあります。楽天レシピは会員が料理を投稿し、それに対し“つくったよレポート”が来ると10ポイント得られるという仕組みです。料理を投稿して、ポイントをどんどん集められるという、楽しさと実益を兼ねたものだと思います。

ゲーミフィケーションとしてもう一つ、バッヂシステムというものもあります。これは物事を達成できたときにバッヂ(勲章)がもらえるという仕組みです。例えば居酒屋の塚田農場。この店、料理もおいしいのですが、来店したお客様にオリジナルの名刺を渡しています。そこには「主任」と書かれていて、来店回数が増えると「係長」「課長」と昇進していきます。小売業の例としては、2011年の始めBlueFlyが、サイト上で動画を見る、ウィッシュリストを書く、レビューを書くなどすると、それに対してバッヂをもらえるということを行いました。より多くのバッヂをもらった人は特別セールや商品へのアクセスが提供されるという仕組みです。

ゲームの要素を取り入れるということは、情報過多の時代において、お客様から自社の商品・サービスに対して共感を持って接してもらうための手段の一つになると思われます。これからますます情報が増え、商品・サービス内容がコモディティ化していくことが想定されますので、ゲーミフィケーションの要素を取り入れていくことも必要になってくるのかもしれません。

 (参考文献 萌えビジネスに学ぶ「顧客を熱中させる」技術)

行動経済学 ハーディング効果

「行動経済学:ハーディング効果」に関して記載します。

【行動経済学の考え方】

従来の伝統的な経済学では人間を経済的な合理性や経済的打算にのみしたがって行動する存在として扱っていましたが、行動経済学においては、基本的に経済主体としての人間は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に非合理的な行動もとるという考え方をします。

【“赤信号、みんなで渡れば怖くない”=ハーディング効果】

この行動経済学の一つの考え方の中に「ハーディング効果」というものがあります。このハーディング効果とは、一般的に人間は物事が適切か否かの判断を行うよりも多くの人々と同じ行動をとることに安心感を得て、他人の行動に追従したり同調したりする意識が強くなる傾向がある、ということを言います。簡単な例だと「赤信号みんなで渡れば怖くない」です。

【アメリカ、ドッキリカメラでの事例】

この件で、アメリカで行われたドッキリカメラの興味深い事例がネットに出ていました。それは騙される側の人が診察してもらうために病院に行くと、待合室の人みんなが裸という状況を作り、その状況に遭遇したら騙される側の人はどうするかという番組だったようです。その結果、診察に来た人の中には騙す側の人のまねをして裸になってしまった人がいるというのです。人は意識して常に考え、行動し続けないと、自分というものをしっかり持てなくなってしまうことがあるようです。

【ハーディング効果がもたらす購買意欲】

さて、このハーディング効果は古くから人々の購買意欲をかき立てる手法として利用されてきました。例えばレストランで行列ができていると、それを見ただけで、そのレストランは美味しいに違いないと判断され、行列が行列をつくるという状況になることが挙げられます。このことを踏まえて、レストランで表に椅子を並べるという作戦があります。そうすることにより「当店は行列ができる店です」という見せ方ができ、集客につながるという作戦です。

またハーディング効果の活用例として、数量限定版のように、あえて販売点数を絞り込むことにより、人だかりを作るというものがあります。あるゲーム会社では新機種を市場に投入する際に供給量を抑えるということがあるようです。ジャニーズ等の限定版のCD・DVDとかもこれに当たるのでしょうか。

 最近だとイトーヨーカドーの鈴木敏文氏が行動経済学の本を出しているなど、小売業を営んでいる人はある程度抑えておくべき内容なのかもしれません。一方で消費者側の立場としてみると行動経済学に基づいて店舗側が売上を拡大するために特定の作戦を行っていると判断できるようになっておくと買い物をする際の面白みが増すような気がします。

 (参考文献 行動経済学の基本がわかる本)

クロスマーチャンダイジング

クロスマーチャンダイジングに関して記載します。

【クロスマーチャンダイジングとは】

クロスマーチャンダイジングとは、カテゴリーにこだわらず関連商品を併せて陳列することにより、売上の拡大を図る販売手法のことを言います。従来では単品で陳列されている商品を、特定の生活のテーマに沿って関連商品を含めた品揃えと演出で販売することです。全ての生活テーマは単品を買うだけで終わるわけではなく、多様な商品のコーディネイトによって対応しなければならないという考え方で、その要請に応じるのがこのクロスマーチャンダイジングとなります。

【クロスマーチャンダイジングの例】

 例としては様々あります。「焼き肉と焼き肉のタレ」「タバスコを調味料コーナーとピザ・パスタコーナーへ陳列」「胃腸の働きを良くして健康的な肌を保つという観点から、胃腸薬を薬売場とともに化粧品売場に陳列」「イチゴの平台にコンデンスミルクを陳列」などなど。また、通路を挟んで「鍋物」に関連する商品をレイアウトすることにより、お客様が献立をイメージしやすくする方法も取られたりします。

【クロスマーチャンダイジングの効果】

 実際にこのようなクロスマーチャンダイジングの実践には売上効果も出ているようです。日清オイリオがPOSデータを分析し、ごま油とレトルトのおかゆを一緒に購入しているお客様がいることに着目し、ライフコーポレーションにクロスマーチャンダイジングを提案しました。ライフコーポレーションでは「中華風のおかゆに商機がある」とみて、七草粥にあわせたクロスマーチャンダイジングを実施し、売場の関連商品を販売量が前年比2倍以上に伸びたと言います。

【クロスマーチャンダイジングの壁】

このクロスマーチャンダイジング、お客様から見たら自分が商品をまとめて選べるので便利ですし、小売業側から見れば客単価も上がるでしょうから、いいことづくめでどんどん実践されてもいいのではないかというと、そう一筋縄ではいかない部分があります。まず、小売店においては商品のカテゴリー別に取り扱う商品の担当者が異なります。つまり商品別に縦割りの組織になっているわけです。例えば鍋を軸としてクロスマーチャンダイジングを行おうと思った場合、鍋で使う野菜は生鮮品の担当でポン酢は加工食品の担当、といった感じで担当が異なり、双方がコミュニケーションを取りながら、商品陳列や演出を行っていかなければなりません。もう一つ、クロスマーチャンダイジングが困難になる理由として売場の維持管理に手間がかかるということが挙げられます。商品が在庫切れになった場合、担当外の商品を補充する必要が出てきます。そうなると商品補充に手間と時間がかかるわけで、どうしてもクロスマーチャンダイジングを行っている売場の整備が後回しになってしまうという傾向が出てくるようです。

 店舗の運営を行うにあたって、いろいろな理論がありますが、その実施というのは過去からの慣習や組織上の問題で実施できたりできなかったりといろいろとあります。小売業はこのせめぎ合いの中で自己変革し自店の付加価値を高めていくことが求められているのだと思います。

コンビニが抱える後継者問題

コンビニが抱える後継者問題に関して記載します。

 日本社会の高齢化が進む中で、例えば商店街においては、「経営者の高齢化による後継者難」が、商店街の抱える大きな問題として考える人が、51.3%と非常に大きな割合を占めているということがアンケート結果からわかっています。コンビニにおいては若いアルバイトの方がレジのところにいたり、品出しをしたりしている光景をよく見るので、高齢化に伴う後継者問題という意識をすることはそれほどありませんでした。ところが、このコンビニにおいても後継者問題があるようなのです。

そもそも、コンビニの経営者は非常に激務のようです。早朝5時頃からお客様の来店が始まり、10時ごろまで出勤前のサラリーマン・OLの来店が続きます。お昼需要のお客様の来店ピークがやってきた後、比較的落ち着いた昼下がりが過ぎて、学校帰りの中学・高校生の来店が始まります。夜の時間は会社帰りのサラリーマン・OLの来店が増えてきます。このような一日の流れの中で接客対応だけでも朝の5時頃から23時ごろまで行う必要がありますが、コンビニ経営者にはそれに加えて商品の発注・納品業務もあります。通常は深夜時間に納品・品出し業務を行っていますから、夜遅くまで業務を行う必要があります。通常のコンビニ経営者は夫婦2人で勤務していますので、接客や納品・品出しなどの業務を行うために、夫婦2人で勤務時間をずらして対応を行っているようです。信頼できるアルバイトが見つからない場合は、金銭トラブルを防ぐためにも、夫婦のうちどちらか1名が必ず店内にいるようなシフトになってくるのです。このようにコンビニ経営は非常に激務のようなのです。

コンビニの加盟店が増加した時期は1980年~2000年ですが、このころ脱サラして店舗をオープンしたとしても、そういったコンビニ経営者も今では高齢になっています。コンビニの経営は上記に記載したように非常に体力的に厳しいものがあります。経営者の中には「もう経営しなくてもよいか」と考える人が増え始めます。これによって経営者が大量に退職し、店舗の経営者が足らなくなってくるのです。また、コンビニ経営者の子どもが店舗を引き継ぐということもあるようですが、激務を知っている親が継がせたがらないということもあるようです。

チェーン本部によっては後継者難による空き店舗を「直営店」として運営していくことを考えているところもあるようです。しかしながら、直営店の比率が高まると、チェーン本部の営業利益率はコスト増により、悪化してしまいます。

 日本社会で進む高齢化は普段は意識していないようなところでも着実に進行しているということでしょう。

 (参考資料:『平成21年商店街実態調査報告書』『コンビニのしくみ』)