ブランドの買収と再生

本日はブランドの買収と再生に関して記載します。

【ブランド買収・再生を行っている企業例】

同種の複数のブランドを買収して持株会社の傘下に置き、かつ、ブランドを統合せず独立の事業体として維持するようなビジネスモデルを「ブランドの買収・再生」と言いますが、このビジネスモデルを採ることでブランド単体では出せない規模の経済を獲得することができます。このビジネスモデルを採る例として、フランスのLVMH、フランスのKERING(ケリング)、スイスのRICHEMONT(リシュモン)、イギリスのDIAGEO(ディアジオ)が挙げられます。LVMHはベルナール・アルノー氏が率いる巨大なブランドグループで傘下に、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、フェンディなど60以上のファッション、化粧品、酒類などの高級ブランドを買収・所有しています。ケリングはグッチ、ボッテガ・ヴェネタ、プーマを傘下に、リシュモンはカルティエ、IWC、ピアジェ、ヴァンクリーフ&アーペル、ラルフローレンを傘下に、ディアジオはギネスのような酒類ブランドを傘下にしています。

【ブランド買収・再生による価値の創造】

ブランドの買収では多くの場合、破綻したブランドを買収し既存の他のブランドから経営陣を送り込んで再生させます。その際にブランドの持つ設計やデザインといった特徴はそのままブランドに残す一方で、購買や物流、製造といったオペレーションを統合していきます。その過程の中で価値を生み出していきますが、その要因は以下のようなものとなっています。

一つ目に、ブランドを買収する際、ブランド自体を買収するのではなく、ブランドを所有する事業体を買収することになるわけですが、ブランド自体に価値があっても、事業の業績が悪ければブランドの評価もそれに引きずられることが挙げられます。つまり、買収を行う際にブランドの価格が過小評価されているということです。また、現状のブランドの評価が悪かったとしてもブランドの認知度が高ければ、ブランドイメージの内容を入れ替え・改善していくことが可能です。この点もブランドの価格が過小評価されることにつながります。

次に、既にブランド企業を所有しているグループの場合、経営者を他のブランド企業から注入することができることも、買収により価値を作り出せる要因となります。高級ブランドは創業者やその一族が経営に当たっていることが多く、中には経営スキルが低く、野放図な経営を行っている企業があります。しかし既に成功したブランド事業を持っているグループは広告、プライシング、チャネルマネジメント、顧客接点管理などの経営ノウハウを持った人材を育成するフィールドを持っています。それによりブランドを買収し再生する過程で価値を生み出していくことができます。

最後に、ブランドは希少価値を保つために規模を拡大できないのですが、企業全体で購買や物流などの機能を集約しコストダウンを行えることで価値を生み出していくことができるということが挙げられます。また、免税店などのチャネルに対して大きな影響力を持つことができるという点もあるようです。

持株会社を作るということには、各ブランドの希少性を維持するとともに、規模の経済により利益を拡大することができるというメリットがあるようです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

ヤフーショッピングの採ったビジネスモデル「敵の収益源の破壊」

本日はヤフーショッピングの採ったビジネスモデル「敵の収益源の破壊」に関して記載します。

【「ヤフーショッピング」の出店にかかる費用の無料化】

2013年10月、仮想モール「ヤフーショッピング」は、出店の初期費用2万1000円と月額利用料2万5000円を無料化し、更には売上に対して1.7~6.0%課していた手数料もただにしました。これは同社のライバルで日本における主要なネットポータルである楽天やアマゾンがネットショッピングを主たる収入源としていることを踏まえた戦略です。これによって楽天は出店や取り扱いを有料のまま据え置けば競争力を削がれ、無料にすれば収益源を失うという難しい選択を迫られました。上記のようなヤフーショッピングが採ったビジネスモデルを「敵の収益源の破壊」と言います。

【自社の不利な市場を焦土化する「敵の収益源の破壊」】

「敵の収益源の破壊」とは以下のようなビジネスモデルのことを言います。まず、競合が主な収益源とする市場で、無料、もしくは極めて低い利益の販売を行い、市場の収益性を意図的に破壊します。それによって競合の収益源は破壊され、力が削がれていきます。その一方で、自社が主力とする市場で競合に勝っていきます。このビジネスモデルは他社との収益構造の違いを利用した価格戦略で優位に立つという戦略ではなく、競合の力を削ぐことにより相対的な優位性を獲得することを目指したビジネスモデルです。

ヤフーショッピング、アマゾン、楽天の2012年7~9月→2013年7~9月の対前年同期比成長率を見てみると、楽天やアマゾンが二桁成長を続ける中で、ヤフーショッピングはマイナス成長となっていました。ヤフーショッピングは楽天やアマゾンの優位性が増している中でサービスの無料化を実施したわけです。「敵の収益源の破壊」のビジネスモデルを取る企業は、無料化ないし低価格した市場からの利益はなくなってしまいますが、もともと収益の上がっていない市場であることと、自社の収益源は異なったところにあるため、致命的なダメージを受けることはありません。ヤフーショッピングとしては勝負がつきつつある市場で敵の収益源を破壊しようとしたのです。ちなみに、ヤフーは出店料と手数料の無料化によって出店数が増加し、自社サイトに対する広告出稿量が大幅に増加すると見込んでいます。

「敵の収益源の破壊」を実行すると、競合との信頼関係も破壊され、競合とシェアを分け合いながら共存するという状況ではなくなります。また、顧客が無料に慣れてしまい、業界において将来にわたって課金できなくなり、当該市場が永久に焦土化する可能性があります。

例えば、マイクロソフトは競合のネットスケープとの戦いに勝てないとみると、それまで優良だった高機能ブラウザを無料にして、ネットスケープの収益源を破壊。同社を市場から駆逐しました。そしてその結果、ネットユーザーがブラウザは無料という常識を持ってしまいました。

競合と勝負するために様々なビジネスモデルが使用されています。「敵の収益源の破壊」のようなビジネスモデルは行う側はもちろん、行われる可能性のある側も知っておいた方が良いビジネスモデルだと思われます。

(参考文献 ビジネスモデルの教科書)

行動経済学から見る単品通販の無料お試しセット

本日は行動経済学から見る単品通販の無料お試しセットに関して記載します。

【単品通販の戦略】

通信広告を見て消費者が商品を申し込む確率は0.2%~0.02%程度だと言います。そのような中で単品通販を行う業者が重視しているのは、市場シェアを拡大することではなく顧客数を増やすことです。

単品通販とは、ひとつの商品やひとつのカテゴリーに絞りこみ、顧客の欲する情報量を増やし、コミュニケーションを重視した販売方法となります。例としてはやずやの「香酢」「にんにく卵黄」や山田養蜂場の「ローヤルゼリー」「プロポリス」があり、リピート性の高い商材が向いています。

単品通販は利益を得るために『新規顧客を獲得する→新規顧客の獲得コストを下げる→獲得した顧客に継続購入を促す→その顧客の客単価や購入回数をアップさせる』というプロセスを採って行きます。商品の単価にもよりますが、初めの数回の購入では利益が出ないことは織り込み済みです。数回以上、商品を買ってもらって初めて利益が出るビジネススタイルとなっているのです。

これら通販企業が無料のお試しセットを出していることがあります。これは新規顧客獲得と合わせ、2回目以降も自社の販売する商品を購入してもらおうという意図を込めているのですが、消費者にとって『無料』ということが非常に魅力的に映ります。無料であるということは低価格であるという以上に消費者に魅力を与えます。通販企業は『無料』の魅力で大量の見込み客リストを集め、活用しています。

【無料の魅力 行動経済学『プロスペクト理論の確率加重関数』】

無料のお試しセットの「損をする確率がゼロである」ということは消費者から非常に強いメリットとして認識されます。そのことに関して以下のような実証結果があります。

■チョコレートを買う人の心理の実験

15セントの高級なトリュフチョコと、1セントのポピュラーなキスチョコを並べてどちらか一つだけ、買えるものとしました。その結果、73%が高級チョコで、残り27%がキスチョコを選びました。

次にそれぞれ1セントずつ値下げし、高級チョコを14セント、キスチョコを無料で提供したところ、結果は逆転。69%がキスチョコを選び、高級チョコは31%にとどまる結果となりました。

人間の心理において、無料で得られるとなると、それが実際よりも価値のあるものに見えるのです。

上記の例以外にアマゾンの無料配送キャンペーンの事例もあります。アマゾンは一定額以上の注文をすると配送料が無料になるキャンペーンを実施し、ついで買いを誘うことで、世界的に業績がアップしました。しかしながら、フランスにおいてのみ業績アップにならなかったと言います。これは、フランスでは一定額以上の注文で配送料を1フランにしたためだと言います。1フランであっても無料との差は、実際以上に大きく消費者に感じさせるということです。

行動経済学の中のプロスペクト理論に確率加重関数という理論があります。これは人間が判断する際の癖で、確率が小さい時は過大評価され、確率が中くらい以上に大きくなると過小評価される傾向があることを言います。また、確率が0%や100%などの極端な数値の近辺では反応が強くなります。

人間は確実に起きることを重視します。確実に得られるメリットには強い魅力を感じる一方で、非常に高い確率で得られるメリットであっても、それが100%確実に得られるものでなければ、魅力は下がるのです。

無料であるということは思った以上に消費者に魅力的に映るようです。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

西松屋のガラガラ経営

本日は西松屋のガラガラ経営(地域ドミナント)に関して記載します。

【西松屋 ガラガラ経営】

西松屋は2011年8月現在で店舗数782店舗を誇る、乳幼児用品、小児用雑貨専門店です。この西松屋ですが、店舗運営方法に当たり「ガラガラ経営」という経営スタイルをとっています。同社は店舗立地を幹線道路沿いから避け、店内にマネキンやワゴンを置かないで、広い通路を確保し、セルフサービスで店舗運営を行っているのですが、ガラガラ経営の基となる戦略として、地域ドミナントという戦略を採っています。

【地域ドミナント戦略】

地域ドミナントは、ある限られた地域内に集中的に複数の店舗を出店して競合が入ってくる隙間をなくして、地域の顧客や需要を総取りするモデルのことを言います。本来、リアル店舗はある程度距離を置いて出店した方が店舗の商圏を広げることができるのですが、この地域ドミナントという戦略においては、地域をわざと限定して店舗を密に配置します。西松屋の場合、「ドミナントエリア」を設定し、店舗の売上高が予め定めた目標を超えると、その店舗とわざと顧客を共食いするようにもう1店舗出店しています。西松屋の店舗同士で同じ地域の顧客を互いに共食いすることになるわけですが、その一方でこの戦略は地域を独占することにつながり、西松屋以外の競合を排除できることにつながります。

この戦略の上記以外のメリットとしては、次のようなことが挙げられます。まず、同一地域に店舗が密集しているので、配送効率が上がります。つまり、同じトラックで狭いエリアを回るのですので、配送効率は上がるわけです。また、同じ地域の人たちにチラシや看板などの広告をより深く認識してもらうことができる、つまり広告の効率が上がるというメリットもあります。地域の人たちは同じ地域で同じ会社の情報を何度も見るので、地域での自社のプレゼンスは自然と上がっていきます。更には、店舗間で顧客がスイッチすることによる売上変動が地域全体として吸収され、自社に対する需要が安定することにより、会社全体の業績が安定します。また、在庫の圧縮や要員のフレキシブルな活用も行えるようになるわけです。合わせて、店舗ごとの売上効率が落ちることによって、接客に対する待ち時間を減らすことができ、顧客はゆったりと店内でお買い物を楽しむことができるようになるのです。このビジネスモデルは、1店舗ごとの売上をあえて落とすような戦略を採っていますので、通常の1店舗ごとの売上を最大化しようという動きと異なる、一見不思議な戦略ですが、全体的にみるとプラスに働いているわけです。

この地域ドミナント戦略のデメリットとして、フランチャイズとの親和性が低いということが挙げられます。フランチャイジー(店のオーナー)としては自分が経営する店舗の売上が、商圏内に同じ会社の店舗が出店することにより、減少することは許せないことです。このようなフランチャイジーからの反感を避けるために、西松屋と同様に地域ドミナント戦略を採る、スターバックスは全て直営店での経営を行っていますし、セブン‐イレブンはフランチャイジーに店舗を密にすることによって競合がいなくなることや、スーパーなどの他の小売業態との競争に優位に立てると説明していると言います。

地域ドミナントはいろいろなリアル店舗で実施されている戦略で、他社との差別化を図ることができるメリットのある戦略と言えます。

(参考文献 ビジネスモデルの教科書)

国際収支

本日は国際収支に関して記載します。

【最近の経常収支に関して】

2013年10月から2014年1月まで4か月連続で経常収支が赤字になりました。そして1月においては単月としては過去最大の1兆5890億円の経常赤字を記録しました。ここ数か月の経常収支の動きを見ると輸入が伸びているという状況があり、これには日本の産業の空洞化が要因として考えられているようです。

経常収支とは国際収支の構成要素の一つとなり、国際収支は一定期間(通常1年)における、ある国の外国との金銭の受取り・支払記録のことを言い、前述の「経常収支」「資本収支」「外貨準備増減」「誤差脱漏」に分けられます。以下、国際収支の内訳を見て行きたいと思います。

【経常収支に関して】

経常収支とは主に財・サービスの取引から構成されます。

■貿易収支:財の輸入額と輸出額の収支(輸出額―輸入額)のことで、「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」からなります。

・貿易収支は東日本大震災以来、赤字が続いています。原油や天然ガスの価格が上昇しているということもありますが、2つの大きな構造変化が起きているということも要因としてあります。まず、一つ目はエレクトロニクス業界に代表される動きが挙げられます。この分野の企業はグローバル市場で競争力を次第に失い、輸出が伸び悩んでいます。その一方で海外メーカーが造る家電製品の輸入が増えています。産業基盤が弱まってきているのです。二つ目には自動車産業に代表される動きが挙げられます。これはグローバル展開の加速であり、海外に生産がシフトしているという状況です。海外生産が進んでいるので、以前のように日本国内からの輸出が伸びなくなっています。2007年から人口減少が始まっていますが、このことにより経営者の中で国内市場は成長しないという認識が広がっているということもあるようです。貿易収支の赤字は輸入額が増えていることだけが原因ではないので、原発が再稼働したとしても、長期的にみて貿易黒字につながるというわけでもないようです。

■サービス収支:運輸、旅行、通信、保険、金融、特許使用料などの収支を言います。

技術特許収入(ロイヤルティ)は伸びているそうですが、そのスピードが加速しているというわけでもないようです。

■所得収支:非居住者への労働賃金や投資収支(外国へ資金を貸し付けた時の利子収支や配当金など)の収支のことです。

東日本大震災以降、貿易収支の赤字を所得収支の黒字で補っています。大きな額ではあるものの、貿易赤字を相殺して余りあるほど、ぐいぐい伸びているというわけではありません。

■経常移転収支:国際機関への拠出金や援助金や賠償金など一方的な給付の収支のことを言います。

【資本収支に関して】

続いて、資本収支に関しても見てみます。資本収支とは主に国際間の金融資産取引から構成され、「投資収支」と「その他資本収支」があります。

■投資収支:外国企業の買収や、外国に作った子会社の経営権の取得などを目的とする直接投資の収支、およびキャピタル・ゲインを得ることを目的に行われる証券投資の収支のことを言います。

【外貨準備増減に関して】

外貨準備増減とは、通貨当局が国際収支不均衡是正や為替相場介入のため保有する外貨のことを言います。通常、海外との取引において自国通貨が使われることは少なく、ドルなどの外貨が用いられます。このため、海外からの外貨受取りが外資支払いを超過すると、その分だけ外貨準備は増加します。反対に海外への外貨支払いが外貨受取りを超過すると、その分だけ外貨準備は減少します。

日本国内の経済部門を家計と企業、政府の3つに分けると、家計と企業の貯蓄が政府の借金を支える構図になっています。しかしながら現状、家計の貯蓄率はゼロに近づいていて、政府の借金が増えているので、状況は厳しくなってきていると言います。経常赤字になった場合、国内の資金だけでは政府の借金を賄えなくなり、外国からお金を借りなければならなくなります。外国人投資家は経常赤字の国に対して信用を置きませんので、利子が上乗せされてしまうということも考えられます。いずれにせよ財政赤字を減らしていくことは重要となってきます。

(参考文献 東洋経済3/29)

行動経済学から見るポイントサービス

本日は行動経済学から見るポイントサービスに関して記載します。

【普及するポイントサービス】

現在、様々な企業でポイントサービスを実施しています。最近では異業種を含めた企業横断型のネットワークによる「共通ポイント」を採用する企業が出てきています。例えばカルチュア・コンビニエンス・クラブとヤフーが業務提携により、2013年7月1日より「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!トラベル」「Yahoo!ゲーム」などYahoo! JAPANの16サービスを中心にYahoo!ポイントがTポイントに切り替わりました。これによりYahoo! JAPANというネットの世界のみならず、TUTAYAやファミリーマートなど日本全国57,000を超えるTポイント提携店舗でもポイントが「たまる」「使える」ようになりました。また、2013年6月時点で、カルチュア・コンビニエンス・クラブの会員数4500万人、Yahoo!ポイントの会員数2700万人という多くの会員数がおり、紐つけしていない単純な合計で7200万人もの会員数になります。まさしく、ネットとリアルを横断した巨大ポイントサービスです。

ポイントに関しては、最近では飛行機に搭乗せず、航空会社が提携したクレジットカード、レンタカー、通販などを利用してマイルを貯める「陸マイラー」やマイレージサービスの特典を得るために、短期間に何度も飛行機に乗り続ける「マイル修行」などの言葉もあると言います。それだけポイントサービスが世間一般に普及してきているということが言えます。

このように普及が進むポイントサービスですが、利用者から見て魅力的に見える仕掛けもあるようです。

【ポイントと値引き】

ポイントは貯まればお金として利用できます。しかしここに仕掛けがあるようです。

例えば、10万円でパソコンを買い、その時のポイント還元率が10%だとすると、1万円分のポイントが付きます。この時、多くの購入者の頭には「10%値引きされた」という計算が働きます。しかしながら、実際には10%の値引きではありません。パソコンを購入した後、ポイントを使用して買い物をするとなれば、“パソコン10万円”+“他の買物1万円”=“合計の買い物額11万円”となります。つまり、10万円の10%値引きではなく、11万円の10%値引きとなります。値引き率は9.1%です。人々はお金に関する判断を実質値ではなく名目値をもとに行ってしまう傾向があるのです。これを貨幣錯覚と言います。

【ポイントを使うタイミング】

ポイントは後から使います。上記の例でいえば、最初は10万円でパソコンを買います。その時は△10万円です。しかし、その後ポイントを使って買い物をした場合、1万円の商品はただで購入したような気分になります。初めに買い物をしてポイントを貯めた時と、それを使うときは別々の買物と認識される傾向にあるのです。

顧客の購買履歴を知るなどもできることからポイントサービスは企業にとって有効ですが、直接的な値引きよりも有利な点もあるようです。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

H2O・イズミヤの経営統合とのれん

本日はH2Oとイズミヤの経営統合と「逆のれん」による経営改善について記載します。

【H2Oとイズミヤの経営統合】

2014年1月31日にH2Oとイズミヤが経営統合を発表し、6月1日にイズミヤはH2Oの完全子会社となります。両社の2013年度の連結売上を単純加算すると9200億円、営業利益で209億円になります。

H2Oは現状、大阪地区の百貨店売上シェア36%を占めており、経営陣は将来その数値を40%にまで上げたいと考えています。過去の推移を見ると、“2008年に阪急うめだ本店に隣接した阪急メンズ大阪を増設”“同年11月、大阪郊外に西宮阪急を展開”“2012年11月、売場面積を6万1000平米から8万平米へ拡大し、阪急うめだ本店をグランドオープン”と百貨店事業の体制を整えてきた経緯があります。

経営陣が上記に加え注力してきたことに「食料品関連事業の強化」ということが挙げられます。2006年にニプロから食品スーパーを展開するニッショーストアを買収。2011年4月、九州地区が地盤のエブリデイ・ドット・コムの株式を取得して「オレンジライフ」ブランドを獲得。宅配事業の拡張を図る。11年9月には外食事業である家族亭の株式を取得・子会社化といったことを行ってきました。

H2Oには、都市部は百貨店で郊外はスーパーマーケットという発想があり、上記のような買収を行ってきましたが、スーパーマーケットについては小規模なものとなっていました。そこで浮上したのがイズミヤとの経営統合でした。店舗商圏が両者で重なり、都市部でアッパーに対応する百貨店と、郊外で総合生活事業を展開するイズミヤとは補完関係が成立したのです。

【イズミヤ 逆のれんによる経営改善】

イズミヤは、かつて西のイトーヨーカ堂とたとえられたほどの優良GMSでしたが、近年は売上低迷により不採算店舗の閉鎖や事業統合などの改革を行っていました。そして、直近の中期計画ではロジスティック改革やGMSの効率化などに取り組んでいました。この状況をH2Oとの経営統合により改善することができる可能性が出てきます。経営統合を行うことで500億円ほどの『逆のれん』が発生するためです。この500億円を活用して、各種減損、不採算店舗の閉鎖などを行い、財務的負担を低減し、営業キャッシュフローを改善することができます。中長期的には店舗活性化や好立地の既存店舗の建て替え、新店舗への設備投資など積極的な投資に資金を回せる可能性もあるのです。

【のれんとは】

市場の競争が激しくなればなるほど、商品そのもののクオリティだけでなく、その商品自体が持っているブランド力や商品を販売するための顧客基盤などが大切になります。そのために、製造設備のような有形固定資産だけでなく、ブランド力、顧客基盤、ライセンス、コンテンツ権、特許権、ソフトウェアなどの様々な無形資産の重要性が大きくなってきています。

他社から購入したブランドや顧客基盤、技術などの無形の資産は、貸借対照表に無形固定資産やのれんという科目で表示されます。企業買収を行う時、買収時に発生した差額をしっかりと分析することにより、可能な限りソフトウェア、特許、著作権、顧客名簿、独占販売権、コンテンツ権など無形固定資産に分類し、残りの金額をのれんとすることにしています。つまり、のれんというのは目に見えない資産の中で、無形固定資産のようにしっかりと分類できない資産となります。

さて、H2Oとイズミヤの経営統合による『逆のれん』ですが、買収される会社(イズミヤ)の純資産より低い価格で買収した場合の差額で、買収した会社(H2O)の営業外収益となることを言います。

H2Oとイズミヤの経営統合は補完的に両社の経営基盤を強化できるWin-Winの状態だと言えそうです。

(参考文献 販売革新2014 4 ビジネスモデル分析術)

今後のディスカウントストア

本日は今後の激戦が想定されるディスカウントストアに関して記載します。

【消費増税とディスカウントストア】

4月1日から消費税8%の増税が始まりました。更に今後10%へと消費増税が予定されていますが、それに加え円安による生活物資のインフレにより消費者の可処分所得が減少することも想定されています。このように社会環境が変化する中で総合ディスカウントストアが市場規模を拡大していくことが想定されると言います。現在の日本では小売業の主勢力はGMSや百貨店系で総合ディスカウントストアの最大手であるドン・キホーテでも売上高ランキングは15位となっています。

〈参考〉2012年の上場小売業売上トップ15位→1位イオン 2位セブン&アイHD 3位ヤマダ電機 4位三越伊勢丹HD 5位ファーストリテイリング 6位Jフロントリテイリング 7位ユニーグループHD 8位高島屋 9位ダイエー 10位ビッグカメラ 11位アマゾンジャパン 12位エディオン 13位ケーズHD 14位ヨドバシカメラ 15位ドン・キホーテ

日本の小売業の主勢力が上記のようになっているのに対し、欧米ではウォルマートやカルフールといった総合ディスカウントストアが売上の上位を占めています。これは欧米諸国では所得格差があることと、間接税(日本の消費税)率が非常に高いということが理由のようです。このことから日本においても今後ディスカウントストアが力をつけてくるのではないかという見方もあります。

今回の消費増税をチャンスとして捉え、ドン・キホーテはコスト削減などを図ることにより低価格志向の消費者を取り込むような動きを進めています。また、同社のように企業体力に余裕のある企業もディスカウント路線を強化していると言います。

【各エリアのディスカウントストア】

■北海道・東北

・北海道では地場のアークスが「ビッグハウス」を展開。「マックスバリュ北海道」がそれを追っています。

・東北のディスカウント激戦地の宮城県では、酒類のディスカウントを開始した「やまや」が店舗数で抜きんでています。

■関東

・家電の安売り戦争があった北関東では、「ベイシア」が「カワチ薬品」と業態を超えた熾烈な安売り合戦を繰り広げています。

・「オーケー」が首都圏で事業を拡大中。14年度には出店数を10店舗と前年度から倍増させます。

・「ららぽーとTOKYO-BAY」に1200坪の大型店で出店した「ロピア」。18年に1000億円企業を目指して急成長。

■中四国

・大黒天物産がコスモス、トライアルを迎え撃つ。「ザ・ビッグ」も参戦し、競争は激化。

■九州

・九州は安売り競争が激しいエリアです。特に福岡を中心とした北福岡では「トライアル」や「ルミエール」「コスモス薬品」などが激しく戦っています。

消費増税により、消費者心理が変化し、小売業の今後の展開が変化する可能性があると思われます。

(参考文献 販売革新2014 4)

行動経済学「プロスペクト理論」

本日は付録付き雑誌から見る行動経済学「プロスペクト理論」に関して記載します。

【付録付き雑誌のヒット】

現在、書籍や雑誌の売上は厳しい状況に置かれています。2012年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売額は前年比3.6%の1兆7398億円で、1996年に比べて34.5%も減少しています。そのような中で、00年代後半に雑誌に付録を付けた「付録付き雑誌」が大ヒットしました。この手法で最も成功を収めた出版社は「宝島社」で、女性ファッション誌「SWEET」は2010年2月号で発行部数が100万部を突破。同社の売上高は2007年の138億円を底に、2008年160億円、2009年207億円と急激に伸びていくこととなります。

このヒットの要因として規制緩和と不況があいまったということが言えます。

まず規制緩和に関してですが、その一つとして2001年日本雑誌協会による「雑誌作成上の留意事項」の変更があります。これにより雑誌付録の素材や大きさなどに対する基準が大幅に緩和されました。次に2007年に「景品表示法」の変更があります。これにより1000円未満の商品へのベタ付けの景品の上限が100円から200円に引き上げられました。

そして、2008年のリーマンショックによる不況で、消費者の購買意欲は冷え込んでいました。ブランド品は欲しいものの、高い買い物はしたくないという心理が広く浸透していました。

このような背景の中、付録付き雑誌は付録自体に有名ブランドが冠されていることが多く、お買い得感があるので、消費者から支持されるようになったのです。

しかしながら、この人気も長く続かず2011年の時点で付録付き雑誌の売上は減少傾向となります。

【付録付き雑誌をプロスペクト理論から見てみる】

人間は物事の最終的な結果よりも経過における「変化」を重視する傾向にあります。初め1000万円稼いでいて1年後に500万円稼いでいたAさんと、初め100万円稼いでいて1年後に500万円稼いだBさんでは、Bさんの方が満足度は高いです。人は価値を「絶対量」ではなく「変化」で測る傾向があります。付録付き雑誌が登場した時は、買う人の意識は、“付録がない雑誌”から“ブランドの付録がついてくる雑誌”へ変化しました。しかしながら“ブランドの付録がついてくる雑誌”が当たり前の状態になってくると消費者はよりレベルの高い付録付き雑誌を求めるようになっていきます。

得も損も、その値が小さいうちは、小さな変化が大きな価値変化をもたらしますが、得や損の値が大きくなるにつれて、変化への反応は鈍くなっていきます(「感応度逓減」)。気温を例にとれば、同じ5度の変化であっても20度から25度に上がるよりも0度から5度に上がる方が暖かくなったと感じるといったことです。付録付き雑誌にもこれと同じことが起こったわけです。

人は価値を「絶対量」ではなく、「変化」で測る傾向がある、ということは商売を行う上で様々なシーンで関係してくる重要な要素だと思われます。

(参考文献 9割の人間は行動経済学のカモである)

BTO

本日はBTO(=Build To Order ビー・ティー・オー)に関して記載します。

【デル BTOによる成功】

BTOとは製造業のビジネスモデルで、注文を受けてから顧客の要望に合わせて組み立てる受注生産の仕組みです。そして、BTOは昔からあるような受注生産ではなく、ITや生産技術などを駆使して、低コストの大量生産をしながら、個々の要望にも柔軟に対応していくという特徴を持っています。

BTOを行っている企業の代表例として「デル」が挙げられます。かつてパソコンは大量生産品を買うのが当たり前でした。その中でデルの創業者のマイケル・デルは、「処理速度を速くしたい」「ハードディスクを補強したい」など、個々にパソコンに対する顧客ニーズがあることに着目し、1985年に顧客の要望に合わせて機能や付属品の有無などを選べるパソコンを販売しました。また、1996年にネット上で必要な機能を選ぶだけで、思い通りのパソコンが買えるサイトを開設しました。

デルは上記のように顧客のニーズに合わせたパソコンを販売できるようにしたことに合わせて、パソコンをリーズナブルな価格で提供しました。なぜ、低価格でパソコンを販売できるのかというと、その理由の一つとして「直接消費者に販売することで中間マージンを削減した」ということが挙げられます。また、トヨタのカンバン方式を導入し、生産工程を徹底的に効率化し、大量生産と柔軟な生産体制の両方を実現。必要な分だけを発注することで、完成品在庫や仕掛品が減り、余計なコストも抑えています。

最近では、家電量販店を歩いていると、デル以外のパソコンでもBTOを取り入れている企業を見受けます。

【ナイキのBTO NIKEid】

デルのパソコン以外のBTOの成功事例として、ナイキのNIKEidが挙げられます。これはナイキが1999年にアメリカでスタートさせたサービスで、スポーツシューズを自分の好みに合わせてカスタマイズできるものです。靴全体はもちろんのこと、靴側面のラインやソール、紐など、デザインを決める重要な部分の色が自分の好みで変えられます。また、足幅の広さもレギュラーとワイド2種類から選べるようになっています。

一人ひとりのニーズは異なります。パソコンは容量がたっぷりあった方がいい人もいますし、もしかしたらネットさえ使えればいいという人もいるかもしれません。個々のニーズに応えられるBTOのビジネスモデルを採用する企業が今後増えてくるかもしれません。

(参考文献 図解&事例で学ぶビジネスモデルの教科書)