強者連合

本日は提携による強者連合に関して記載します。

【強者連合とは】

強者連合とは、業界順位が上位にある他の企業と提携し“製品の共通化や販売”“技術提供”“コストダウン”などで共同歩調を採ることです。それにより、業界下位の企業との差を広げたり、連合に加わらない上位企業に打撃を与えてそのシェアを奪ったりすることを狙うビジネスモデルです。強者連合は同じ業界内の上位企業間で行われる場合も、周辺産業の上位企業で行われる場合もあります。同じ業界内の強者連合の例として、日本生命保険、アメリカのプルデンシャル生命、イギリスのシュローダーなどの提携で、この提携は世界各地の金融トップ企業との間で強者連合を形成することを基本とする戦略だと言います。周辺産業の強者連合の例として、コンビニ2位のローソンとドラッグストア1位のマツモトキヨシとの提携があります。ユニクロとビックカメラのビックロもその例と言えると思います。また周辺産業の強者連合でコストダウンを目指した提携の例に、カゴメ、ミツカン、日清オイリオが全国で共同配送を行っているというものがあります。

提携よりも強者同士で合併した方が競合に対して優位に立てるのでしょうけれど、合併には意思決定・実行をする際の障害が多くなります。そこで提携という合併よりも緩いスキームの下に、合併同様の効果を部分的、あるいは限定的に達成することを狙うのです。

【強者連合により生み出される価値】

強者連合はもともと業界順位の上位にいる企業が、その優位性を更に補強するために行う戦略となります。そのために規模の経済を発揮していくことによるメリットが出てきます。例えば“共通のポイントプログラム”“製品互換性の確保”“同等製品の地域バーター”“相互技術供与”“物流などの機能共通化”といったコストダウンにつなげていきます。これら施策によって、顧客に強者連合からの購入を促したり、経営資源を蓄積して将来の投資を容易にしたりします。

強者連合によるメリットは規模の経済が働くということ以外に、強者間で連合してしまえば、競合から提携する相手候補を奪い、自社の参加する連合を上回るような提携関係を組むことを防ぐことができる、ということも挙げられます。強者同士が連携してしまうと、弱者としては強者に太刀打ちできなくなってしまうのです。

【強者連合の落とし穴】

強者連合はその意図に関わらず、実際にその効果が限定的であることが多いそうです。強者連合といっても、結局は競合や他業界の企業です。そのため相手が自社の意図通りに行動せず、次第に相互に不信が生まれてしまうことが要因だと言います。

先ほど例として挙げたローソンとマツキヨの業務提携は2009年に行われ、当時は大きな話題になったようです。そして、提携によりコンビニとドラッグストアのノウハウを結集した新業態を開発し、5年で1000店舗体制を目指し、2010年10月に共同店舗(マツキヨの一角にローソン100が入居したもの)を浦安に出店しました。しかしながら、現在ではローソン100は撤退しているようです。

業界の上位にある企業同士の提携は、基本的には競合関係という背景もある微妙な位置関係もあるようです。しかしながら、コストの削減による将来への投資は企業が成長する上で重要なポイントとなります。業界の上位にいる企業はこの強者連合を上手に活用することも、他社に対して優位に立つためのポイントなのだと思われます。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

垂直統合:川上統合によるブラックボックス化

本日は垂直統合:川上統合によるブラックボックス化に関して記載します。

【川上統合の実施によるブラックボックス化とそのメリット】

垂直統合の一種である川上統合(自社の事業領域の仕入れ側へ展開すること)を実施することによって、内製化率を上げて粗利を大きくすることができます。また、自社が使用する部品や製造装置・工具などが競合他社に供給されることを防ぎ(製造工程をブラックボックス化する)、競合による模倣を防止し、自社の競争優位を維持・強化することができます。つまり、社内でのバリューチェーンを長くして、川上側で製造する部品や製造装置を社外に販売しないことによって、競合は部品や製造装置を手に入れることができなくなりますし、それらに関した情報が社外に流出することがなくなります。その結果、競合が自社と同等の製品を製造することができなくなるわけです。

ファスナーの製造で世界の45%のシェアを占めるYKKは、ファスナーだけでなくファスナーの製造装置を内製しています。YKKがファスナーの製造装置を外販しないことによって、YKKのファスナー製造工程がブラックボックス化して、競合は同じ品質のファスナーを製造することができなくなってしまいます。

【川上統合のデメリット】

日本の家電業界は部品も自社で生産する川上統合モデルを長年採ってきました。そして、韓国の家電メーカーが追い上げてきたことを見て、川上統合を強化。キーデバイスを内製して外販しないことでブラックボックス化して差別化を徹底しようとしました。その代表がシャープの「亀山モデル」です。亀山モデルはパネルを内製して工程をブラックボックス化してしまうことによりテレビの差別化を行おうとしました。ところが家電のような極めて細分化された市場で垂直統合を行うと、川上側への投資を十分に回収できずに、かえってコスト高となってしまい、競争力が落ちるという結果を招いてしまいました。シャープの亀山工場は、2011年に亀山第1工場がアップル社のiPhoneやiPad用ディスプレイの専用工場となっているようですし、第2工場も2012年に一時操業を休止するといった厳しい状況に置かれているようです。また、亀山工場の拡大版である境工場への投資で苦境に陥っているようです。

垂直統合戦略の一種である川上統合の実施に当たっては、その統合を行うことによって十分に効果が発揮できるかどうかを検証したうえで実施する必要があります。統合すれば価値を作り出せるというわけではなく、統合によって得られる技術面での囲い込みによる優位性と、統合によってかかるコスト高といったリスクを比較した上で実施に移していくことが必要なようです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

垂直統合

本日は垂直統合:川下への進出に関して記載します。

【垂直統合、川下への進出とは】

まず、垂直統合とは、自社の仕入先、または販売先とのM&Aやアライアンスを行うことで、事業領域の拡張を図ることを言います。そして、この垂直統合には川上統合と川下統合があります。まず、自社事業領域の川上側へ進出していくことを川上統合と言い、これは原材料の調達強化などを狙ったものです。そして、自社事業領域の川下側へ進出していくことを川下統合と言い、販売機能・市場管理の強化などを狙ったものとなります。

川下への進出している例として食品・雑貨を扱う住友商事が挙げられます。調剤機能を持った地域密着型の「トモズ」というドラッグストアがあるのですが、同店舗は住友商事の100%子会社である住商ドラッグストアーズの店舗ブランドの一つとなります。また、住友商事はスーパーマーケットチェーンのサミットも所有しており、川下への進出を果たしています。

このように川下へ進出する川下統合は、産業バリューチェーンの川下側を買収統合するものとなり、これにより川下側での売上拡大が図れ、粗利を深くすることができるビジネスモデルとなります。

【川下へ進出することのメリット・デメリット】

まず、垂直統合を行うことによるメリット・デメリットは以下のようになります。まず、メリットとしては、上流・下流の関係にある事業間の交渉コストや営業コスト、購買コストを下げることができるとともに、サプライチェーンを適正化することによって物流費を削減することができます。その一方でデメリットとして、最良の取引相手を選択する機会がなくなる、もしくは減少してしまいます。また、水平統合と違い、扱う製品の量を増やせるわけではないため、生産面などで規模の経済が利きにくいということが挙げられます。そのため、水平統合と異なり、一般的に、単純に垂直統合を行うだけでは価値が出せないと言います。

その中にあって、川下へ進出していく際に、競合他社からも仕入れている川下企業を買収することは、川上側の競合相手を駆逐し、自社で川下企業の需要を独占することにつながり、川上側の売上増という結果につながります。このことは企業の買収価格の一部を川上側の売上増加の粗利で賄え、実質的に買収価格を小さくすることにつながります。

産業バリューチェーンの上流と下流では、企業文化が異なっていることが多く、これが川下進出の障害となる可能性があります。一方が他方を支配するような買収を行ってしまうと、退職などによる組織効率の低下を招いてしまう可能性が出てきてしまいます。

川下側への統合は競合を排除できるという点で、市場が成熟している場合、有効なビジネスモデルだと言えそうです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

中小企業の新事業展開

本日は中小企業の新事業展開に関して記載します。

【中小企業が新事業展開の検討を始めた時の業績傾向】

中小企業が既存事業と異なる事業分野・業種へと進出を図る“新事業展開”の検討を始める時は、必ずしも業績が良いことを背景に新たな収益源確保のためというわけではなく、業績が悪化している中で現状を打破するために実施するというパターンもあります。過去10年の間に新事業を実施し、10年前と比較して主力事業が変わった“業態転換した企業”と、過去10年の間に新事業展開を実施した場合で事業転換以外の“多角化した企業”それぞれで見てみると、事業転換をした企業では、新規事業展開の検討当時に業績が好転していたと答える企業は35.5%、それに対して、悪化していたと答える企業は30.5%、多角化した事業では、好転していたと答える企業が21.1%、悪化していたと答える企業が20.4%、という数値となっています。新事業展開を検討していた際の企業の業績は好転と悪化がほぼ拮抗している状態です。苦しい状況にある中で新たな成長を図ろうとして新事業展開を行うということもあるということです。

【新たな挑戦をしたことによる成長】

さて、新事業展開を実施した企業と実施・検討したことのない企業の業績見通しを見てみると興味深い数値が出てきます。それは売上見通し、利益見通しともに「増加傾向」の割合が最も高いのが事業展開した企業、そしてそれに続いて多角化した企業となっています。事業転換した企業や多角化した企業の方が、新事業展開を実施・検討したことがない企業よりも業績が良くなると見ています。雇用に関しても同様の結果となっています。

■売上高の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業転換した企業48.8%、多角化した企業35.2%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業20.2%

■経常利益の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業転換した企業42.6%、多角化した企業32.4%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業18.3%

■常用雇用者の3年後の見通しで増加傾向と答えた割合:事業展開した企業40.1%、多角化した企業25.6%、新規事業展開を実施・検討したことがない企業15.1%

また、新事業展開を実施した後の主力事業の後の見通しを見ると、事業転換した企業、多角化した企業ともに、新事業展開を実施・検討したことがない企業と比較して、主力事業の成長が期待できると回答するとともに、国内市場全体に対しても成長が期待できると見込んでいます。

そして、新事業展開を実施した企業は「企業のPR・知名度の向上(良い影響があった64.7%)」「企業の信用力向上(同60.7%)」「企業の将来性・成長性(同60.7%)」と回答しており、新事業展開は短期的な企業収益の改善というよりも、企業の知名度や信用力の向上や信用力の向上を通じて、経営基盤全般に好影響を与えているということが見て取れます。

なお、新事業展開を実施し、成果を上げた企業が、事前に取り組んだことを見ると、「自社の強みの分析・他社研修」や「既存の市場調査結果の収集・分析」の割合が高くなっています。しっかりとした分析を行った上で、新たな挑戦を行うことにより、新たな成長が成し遂げられる可能性が高いということがわかります。

※中小企業庁委託「中小企業の新事業展開に関する調査」(2012年11月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)より

クール・ジャパン

本日はクール・ジャパンに関して記載します。

【クール・ジャパンとその戦略の背景】

クール・ジャパンとは、日本の文化的なソフトの面が国際的に評価されている現象のことを言います。また文化的なソフトの面でのコンテンツ自体や、日本政府が対外文化宣伝・輸出政策で使用している用語でもあります。ここでは日本政府が行っている対外文化宣伝・輸出政策に関して記載していきます。

このクール・ジャパンが行われる背景として経済的な事情があります。日本の名目GDPは2008年から2011年の3年間で55兆円減少しており、今後も少子高齢化により生産年齢人口が減少することが予測されますので、それに伴い潜在成長力も低下していくことが想定されます。また、昨今の海外生産による貿易収支の赤字に見られるように、過去急速に円高が進んだことにより、海外生産シフトが進んでいます。この海外生産へのシフトは国内の雇用に影響します。例えば国内の自動車産業が空洞化した場合、60万人程度の雇用が減少する恐れがあると言います。

日本には欧米やアジアで人気な、アニメや漫画、食文化、宅配便、旅館、伝統工芸品など、人気の高い商品・サービスが数多くあります。こうしたクール・ジャパンの人気を活かして「内需掘り起し」「外需取り込み」「産業構造転換」を行い、新たな収入源、中小企業の活路、若者の雇用の確保、地域経済の活性化につなげていこうとしているわけです。

【クール・ジャパンによる成長戦略】

クール・ジャパンを支えているのは、クリエイティブ産業です。

(クリエイティブ産業の例示業種:広告、建築、美術・骨董品、工芸、デザイン、ファッション、映画・ビデオ、TV・ゲーム、音楽、舞台芸術、出版、コンピュータソフトウェア・サービス、テレビ・ラジオ、家具、食器、ジュエリー、文具、食品、観光)

日本のファッションや食、コンテンツは海外で高い人気を誇っていますが、それによって儲かっているかというとそうでもないようです。中国ではVIVIなどの日本発のファッション雑誌が人気ですが、繊維産業の輸出量は485百万ドル(韓国2,183百万ドル、フランス9,166百万ドル、イタリア20,049百万ドル)(出典:繊維ハンドブック2009)と低い数字となっていますし、全米には日本食と称するレストランは約9000店あるけれども日系オーナー店舗は10%以下だと言います。

このような状況において、世界の文化産業全体の市場規模は2020年時点推計値で900兆円以上になることが見込まれていますが、そのうち日本は8~11兆円の獲得を目指していきます。

【クリエイティブ産業の活性化による海外での成功事例】

クリエイティブ産業を活性化することにより先んじて成功している国があります。

イギリスは1997年にトニー・ブレア元首相が「クール・ブリタニア」を掲げ、クリエイティブ産業を成長させています(クリエイティブ産業の粗付加価値額1.8倍 1997年6300億円、2006年1兆1460億円。クリエイティブ産業の輸出額1.7倍 2000年1900億円、2006年3200億円。クリエイティブ産業の事業所数1.4倍 1997年112,900所、2008年157,400所。)

韓国では1997年、キム・デジュン大統領の「文化大統領宣言」以後、官民一体となったCool Korea戦略を採っています。韓流などの動きを思い出すとこの戦略も一定の成果を上げていると言えます。

【クール・ジャパン戦略 アウトバウンドとインバウンドのスパイラル】

クール・ジャパン戦略によって、ファッション、アニメ、食文化、地域産品・匠の技といった担い手である職人、クリエイター、中小企業を世界市場へ結びつけ、新たな輸出商品としていきます(アウトバウンド)。この際、当初からコンテンツ(映画、音楽などのCD/DVDの収入、テレビ番組の放映料、ライブ/興行収入)の輸出で収益を上げるだけでなく、二次利用(キャラクター商品のライセンス料、ファッション、美容、食などの文化派生商品の売上増)やスポンサー企業のプロモーション(CM出演などのプロモーション料、消費財など「Made in Japan」製品の売上増)によっても収益を上げていくことを目論んでいます。また、インフラ整備として、現地で日本のコンテンツが常に視聴され、「Made in Japan」ブランドの人気が維持されるよう、コンテンツの継続的な放送・配信等の場(プラットフォーム)を確保するように取り組みを行っています。これらにより「本物」「本場」を求め観光客やクリエイターが日本へ来訪することとなります(インバウンド:外国人旅行者を自国へ誘致する)。

アウトバウンドによって日本に憧れを持った人々が日本を聖地とし日本でしか体験できないコトを求めて訪れてきます。クール・ジャパンはインバウンド戦略として海外需要を日本国内へ呼び込む効果をもたらします。

日本の国内市場がこのままの流れでは縮小されることが想定される中、クール・ジャパンの動きは日本の経済力を保つための重要な施策の一つと言えそうです。一方で、クール・ジャパンを継続的に成功させ続けるためには、日本国内における「モノづくり」や「商品・サービスの提案力」を強化し続けることが重要なように感じます。

中小企業の事業承継

本日は中小企業の事業承継に関して記載します。

【高齢化する経営者】

中小企業の経営者の引退年齢は徐々に高齢化する傾向にあります。30年以上前には小規模事業者の平均引退年齢62.6歳、中規模企業は61.3歳だったのに対し、0~4年前には小規模事業者70.5歳、中規模企業67.7歳という状況になってきています。

また、経営者が高齢である企業ほど、経常利益の状況について減少傾向にあり、経営者の年齢が70歳以上になると、中規模企業が5割、小規模事業者の約7割が減益傾向という結果になっています。そのような状況の中で、経営者の年齢が高い企業ほど事業を縮小・廃業したいと考えているようです。

このことは少子高齢化が進む中で経営者自身の高齢化も進んでいる一方で、経営者が高齢になると事業を縮小・廃業したいと考えていることから、その事業の利益が縮小していっているということが言えると思われます。

【経営者の後継者】

中小企業の経営者の高齢化が進む中で、その経営者の後継者として、過去においては息子や娘といった親族へと引き継がれることが多かったのですが、最近では親族以外の役員や従業員・社外の第三者に引き継がれることが増えてきています。帝国データバンクのデータベースで2008年から2012年までの現経営者の承継形態を規模別にみると、小規模事業者は、親族の事業承継が6割強、中規模企業では4割強となっています。中規模企業では社外の第三者を含めた親族以外による承継が、親族による承継を上回っています。ちなみに、後継者を親族に継がせたいと考えている経営者はその理由を自社株式等や個人保証の問題があるようです。経営者の中には自らの資産を担保に借入を行っている場合があり、その場合、親族以外に承継しづらいということがでてくるようです。

【事業売却】

経営者の引退後にも事業を継続したいと考えているけれども、後継者がいない場合は事業を売却し、事業継承を行うということも考えられます。未上場企業間のM&A件数は2006年に752件から徐々に現業傾向にありましたが、2011年を底に回復の兆しを見せており、後継者がいない企業の約3割がM&Aに「大いに関心がある」「関心がある」という話をしているとのことです。また、総資産額3億円超の起業の3割強、5000万~3億円の起業の約3割が、事業買収への関心が「大いに関心がある」「関心がある」という話をしているとのことです。

この流れから中小企業間のM&Aが今後増えるのかもしれません。

中小企業の経営者の高齢化が進む一方で、その企業を継ぐ後継者の承継形態も過去と変わりつつあります。日本の企業の99.7%を占める中小企業も、時代の変化とともに変わっていくのでしょう。

LBO(レバレッジドバイアウト)

本日はLBO(レバレッジドバイアウト)に関して記載します。

【LBOによる企業の成長】

LBOとは、企業買収にあたっての資金調達方法の一つで、借り入れによって自己資金を大幅に上回る価値を有する企業を買収して、その買収した企業の利益によって借入金を返済し、価値を作り出していく手法のことを言います。LBOは安定した利益を上げている事業を正当な価格と借入金利で買収すれば事業を所有するだけで、確実に価値を作り出していくことができます。

借入金でレバレッジをかけて価値の創造を高めていく手法ですので、不動産投資によるアパート経営に近いにも思われます(不動産投資の場合、初期投資額を低く抑え金融機関からの借入金を増やすことで、キャッシュフローを高めることができる)。

LBOによる価値創造に成功した好例としてJTが挙げられます。1999年JTはRJRナビスコの海外タバコ部門を9700億円で買収しJTIとして子会社化しました。当時、日本企業によるM&Aとしては史上最高の買収額だったようです。この買収によってJTは世界第3位のタバコメーカーに躍進。それまで200億本という規模だった海外の売上は一気に2000億本以上へ急成長しました。それだけでなくJTは「Winston」「CAMEL」といったグローバル・ブランドも獲得することができました。そして、この買収に当たって借り入れた6000億円の借入金をJTIの利益から順調に完済しました。JTはRJRに続いてギャラハーも同じ手法で買収を行っています。

LBOの他の好例として、ソフトバンクもボーダフォンをLBOの手法を使って買収金額1兆7000億円以上で買収したのですが、そのうち1兆2000億円を借入金で調達し、順調に返済。ボーダフォンに続いてスプリントの買収も同じ手法で行っています。

このように、LBOの手法により買収を繰り返すことにより、急激な成長を遂げることが可能となります。

【LBOのデメリット】

LBOには上記のように企業が急成長を遂げることができるというメリット以外に、税制上のメリットもあり、借入金の利子を買収した事業の費用として認識してくれます。

そしてLBOの弱点として、LBOは大きな借り入れを行い、それを子会社の負担としてしまうため、子会社の破綻リスクが上がり、それに応じて金利が高くなるということがあります。LBOでは買収会社を子会社として、子会社が破綻した場合のリスクを切断し、買収者が返済義務を負わないように仕込むことは貸し手が受け入れる限り可能です。しかしながらそうした場合、買い手本体が借り入れする場合や保障する場合に比べて金利が高くなることは覚悟しなければならなくなります。

LBOをする際には買収する企業を見極める必要があります。破綻企業の買収など、企業が安定的に利益を上げていない状況でLBOを行うと、金利が高い上に十分な利益を上げられないため返済に支障をきたし、再度の破綻を招いてしまうからです。

他者の資源を活用することで自社の急成長を遂げることが可能ですが、他社の資源をどこに投資するのかは十分に検討が必要です。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

同業との統合(水平統合)

本日は“同業との統合(水平統合)”に関して記載します。

【同業との統合(水平統合)とは】

“同業との統合”は水平統合とも呼ばれ、自社と同種の事業を営む他社を買収や合併などによって自社に統合することを言います。M&Aの最も基本的なビジネスモデルとなっており、M&Aの大半が“同業との統合”を行うためのものとなっていると言われます。

“同業との統合”を行うことにより、事業の規模とシェアが増大し、自社の業界内での順位を上げることができます。それに伴って、規模の経済が働くことによるコストダウン、顧客認知度のアップ、業界の支配力の向上、優秀な人材の獲得能力の向上させることもできるようになります。そして事業の収益性を向上させることができるのです。

例えばイオンは、かつてダイエーやイトーヨーカ堂に規模で劣っていましたが、ヤオハンやマイカルなど競合の買収を繰り返しました。それにより現在では日本最大級の小売業者となり、2013年8月にはダイエーを連結子会社化するほどに大きな企業となりました。

【事業の収益性は「業界順位」「シェア」「事業規模」に対して正の相関を持つ】

業界順位やシェア、事業規模が拡大すると事業の規模が比例的に拡大すると言います。事業規模やシェアが増大すると収益性が高まる理由は、製品単位当たりの販売費や間接費、研究開発費などのコストが減少するためです。コストの削減は競合他社との価格競争で勝利することにつながりますし、同じ価格で販売したとしても高い収益性を得ることができます。コスト削減によって得た利益によって、研究開発を積極的に行えば製品の競争力が増しますし、合理化へ向けた投資を行えばコスト競争力が更に増すことになります。生産面で見ても大きな生産量を背景とした経験曲線効果によりコスト削減につなげることができます。シェアの拡大は、市場における設備の展開密度が上がることにつながり、配送費を大きく節約できるメリットがあります。効率が上がることにより収益性が上がるというプラスのサイクルが働くということでしょう。

【事業のライフサイクルと“同業との統合”の関係】

“同業との統合”は典型的にみて、事業ライフサイクルの後半に起こってきます。事業ライフサイクルは初め先駆者が市場に参入し独占的に販売を行っていくのですが、成長期に入ると競合の市場参入が始まります。そして、一旦細分化された業界構造となりますが、その後、事業ライフサイクルが後半に向かうに従い、事業者が集約され寡占的市場が出現します。この事業ライフサイクルの後半に関連してですが、成熟した自由競争市場ではニッチな事業者を除く一般的な事業者は3社程度しか生き残ることができないそうです。これはシースとシソーディアという2人の学者によって「3の法則」と名付けられているそうです。ですので、この法則から見ると、事業ライフサイクルの後半に当たっては、業界のトップ3に入れるようにした方が良いということのようです。業界の上位にいれば顧客から一流と認識されるでしょうし、例えば小売業がメーカーに対して強い発言力を持てるようになるといったような優先的な能力を持つことができます。同業同士が合併するシーンをニュースで見ることがありますが、まさしくこのような視点からの合併なのでしょう。

同業との統合においては、統合した企業同士が規模の経済が利くように機能統合をしていくことが重要となります。組織風土の問題など難しい点もあるとは思いますが、機能統合を果たしてこそ、同業との統合の効果が発揮できるということです。

(参考文献 経営戦略を見る目と考える力を養うビジネスモデルの教科書)

日本の起業の状況

本日は日本の起業の状況に関して記載します。

【諸外国と比較した日本の起業の状況】

起業が行われるということは、産業構造に新陳代謝が行われるということとなり、起業した新たな企業が経済成長を牽引し、雇用を生み出していくということにつながります。また起業により社会に多様性が生み出されることになります。このように経済成長にプラスの要因をもたらす起業ですが、日本においては国際的にみてその活動は低調なものとなっています。各国の起業活動率を見てみると、最もその数値が高い国がアイスランドで10.6%となっています。アイスランドに次いで企業活動率が高いのがオーストラリアで7.8%。世界経済を牽引するアメリカで7.6%。お隣の韓国は6.6%。ドイツで4.2%。そして日本は3.3%、とその数値は低いです。それだけ日本においては起業が行われにくい環境になっていると言えると思われます。

(※起業活動率:18歳から64歳までの人口に占める、企業活動を行っている者(起業準備中の個人及び起業後3年半以内の会社を所有している経営者)の割合データ。)

【日本での起業の現状】

日本においては1980年代後半から開業率が廃業率を下回る状況が続いていると言います。これはバブル崩壊以降に長く続いた不景気の影響だと思われます。しかしながら、このように開業率が廃業率を下回る状況が続いている中で、情報通信業や医療・福祉においては開業率が廃業率を上回っています(2004年~2006年)。この点、ITや高齢化など時代の流れを感じさせるものがあります。

起業と一本で言ってもそれを行う人には男性も女性もいるわけですが、その性別によって起業する分野が違うという特徴があります。男性よりも女性が起業する割合が高いのは、小売業、飲食店・宿泊業、教育・学習支援業、洗濯・理容・美容・浴場業、生活関連サービス業となっています。2007年には女性の起業家が約3割を占めていました。

さて続いて、起業者数を年齢層で見てみると、男性が60歳代、30歳代、女性が30歳代、65歳以上の割合が高くなっています。2007年では60歳以上の起業家は約3割を占めていて、近年の起業家に占める60歳以上の割合が増加してきています(60歳以上の起業家の推移:1979年6.6%→1992年14.2%→2007年26.9%)。少子高齢化が起業家の数にも影響してきているということでしょうか。

【起業の段階における課題】

本業の製品・商品・サービスによる売上がない段階(萌芽期)において、「資金調達」「起業・事業運営に伴う各種手続」「経営に関する知識・ノウハウ」が起業・事業運営上の課題とする起業家の割合が高くなっています。「資金調達」の課題に関しては、萌芽期における資金調達先として、預貯金や副業収入を含む自己資金と回答する企業が9割に上がっています。起業をする際には自身の先立つものが必要となってくるということです。株式会社日本政策金融公庫総合研究所が行っている「新規事業実態調査」から、開業時に準備した自己資金額を見ると、中央値が230万円となっている一方で、2011年度の開業費用の中央値は620万円となっています(なお、開業費用の中央値は年々低下傾向にあります。1991年中央値970万円→2011年度620万円)。自己資金以外での調達を必要とする起業家が多く存在するということです。

続いて成長初期(売上が計上されているが、営業利益が黒字化していない段階)の段階になると、「質の高い人材の確保」「販路開拓・マーケティング」「製品・商品・サービスの高付加価値化」を課題とする起業家の割合が上昇します。資金調達とともに人材の確保が課題となってくるのです。特に「経営者を補佐する人材」が求められてきます。

そして安定・拡大期(売上が計上され、少なくとも一期は営業利益が黒字化した段階)では資金調達を課題とする起業家の割合は低下し「新たな製品・商品・サービスの開発」が上昇してきます。この時期になると起業家は、事業の安定化のために既存の製品・商品・サービスに頼るだけでなく、新たな製品・商品・サービスの開発により、新たな市場を開拓する必要があると考えるようになるのです。

日本の起業に関してニュースなどで報道されることがあります。現状、日本の起業活動率が低いことを踏まえると、まだのびしろがあるでしょうし、今後、起業する人が増えてくるのかもしれません。

中小企業の果たしている役割

本日は中小企業の果たしている役割に関して記載します。

【日本における中小企業に関して】

4月の消費増税に備えた政府の経済対策の柱の一つとして、革新的な商品やサービスを提供する中小企業の設備投資や試作品開発を促す支援策“新・ものづくり補助金”というものがありますが、日本経済において中小企業は中心的な役割を果たしていると言われます。数値面から見ると、中小企業の割合は日本企業の99.7%を占めており、常時雇用者の69.4%が働いています。

どのような企業が中小企業と言われるのかというと、その範囲は中小企業基本法第2条において定義されていて、資本金基準と従業員基準によって判断されます。資本金基準と従業員基準両方を満たしている必要はなく、どちらかの条件に当てはまれば中小企業と判断されます。

〈参考〉中小企業基本法の定義

■中小企業の範囲

製造業・建設業・運輸業・その他の業種:資本金3億円以下、または従業者数300人以下

卸売業:資本金1億円以下または従業者数100人以下

小売業(飲食店):資本金5000万円以下または従業者数50人以下

サービス業:資本金5000万円以下または従業者数100人以下

※会社役員、および個人事業者の事業主は従業員に含まれない。

■小規模企業の定義

おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むものについては5人)以下の事業者をいう。

※商業とは、卸売業、小売業(飲食店含む)を指す。

【地方での雇用を創出している中小企業】

中小企業・小規模事業者は地方経済で重要な役割を担っていて、雇用の7割弱を生み出していると言います。小規模事業者、中規模企業の常用雇用者・従業者の占める割合は、人口密度の低い都道府県ほど大きなものとなっています。三大都市圏中心市が所在する都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県)とそれ以外の道県で規模別の常用雇用者数・従業員割合を見てみますと以下のようになっています。

まず、三大都市圏中心市が所在しない道県では、大企業16.2%、中規模企業53.9%、小規模事業者29.9%。そして、三大都市圏中心市が所在する都府県では、大企業46.1%、中規模企業38.5%、小規模事業者15.4%となっています。三大都市圏中心市が所在しない道県で、雇用の約3割を小規模事業者が、5割強を中規模企業が占めていることになり、中小企業が地方の雇用に良い影響を与えていることが伺えます。

【女性が活躍する中小企業】

規模の小さな企業ほど、女性雇用者の割合が多く、かつ、管理的職業従事者の割合も多くなる傾向にあります。従業者規模別の女性雇用者割合を見てみると、300人以上の企業で女性雇用者の割合が36.5%なのに対し、1~4人の企業では46.7%という割合になっています。また、管理的職業従事者の割合を見てみると、従業者が1~4人の企業と300人以上の企業では、その割合に7倍以上の差があります。規模の小さな企業ほど女性が活躍しているということが数値面から想定できます。

中小企業は地方で雇用を創出することに大きな役割を担っていたり、女性の雇用の場も創出していたりしていることがわかります。