『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システム

本日は『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システムによる成功に関して記載します。

【『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システム】

『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』はリサイクル古着屋で、「オシャレと笑いで地球を救う、フルギデパートメントストア」をコンセプトとしている企業です。 “笑い”がコンセプトに入っているだけあってか、同社の価格システムはとてもユニークなものとなっています。この価格システムが当社の人気の秘訣となり、当初は青森の小さな古着屋でしたが、8年間で全国60店舗以上を持つ古着・雑貨チェーン店へと成長しています。

この価格システムの具体的な内容は“毎週水曜日になると、商品の値段が、服の価値に関わらず機械的に下がる”というものです。商品には値札の代わりに野菜や果物のイラストが描かれたタグがついていて、商品の値段はそのタグをもとに店内に掲示された「今週の値段表」で確認をしていきます。「今週の値段表」は7,350円~105円の10段階に分かれていて、今週スイカのイラストが5,150円であれば来週は4,200円といったように、毎週水曜日に機械的に1段階ずつ値下がりしていきます。

毎週水曜日に商品の価格が機械的に下がっていくので、うまくいけば、顧客は相場よりもはるかに安い価格で商品を手に入れるチャンスが出てくることになります。その一方で価格が下がるのを待ちすぎると、他の顧客に商品を購入されてしまい、買うことが出来なくなってしまいます。毎週価格が自動的に下がるという分かりやすいシステムにより、顧客はゲーム感覚で駆け引きを楽しむことができるようになっているのです。

また、この価格システムの導入で同社は「目利きを排除」することができました。古道具はその商品を見極めて価格設定を行うことが一般的ですが、目利きを排除すれば従業員にそのスキルが必要なくなります。このことにより、同社はフランチャイズ展開を可能とし、店舗の拡大につながったのです。

【『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システム=ノンフリルな価格システムによる成功】

『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システムは、価格設定を行うに当たり必要最小限の手間で事足りるようなものとなっています。このようなビジネスモデルを「ノンフリル」と言います。ノンフリルは“なくても支障のない余剰サービスを極力省き、コアのサービスだけを、質を下げることなく、低価格で提供する”ビジネスモデルですが、代表例としては航空会社のLCCが挙げられます。『ドンドンダウン オン ウェンズデイ』の価格システムを見てみると、従業員に古着の商品価値を見極める目利きの力が必要なく、古着の販売というコアのサービスに注力することができるシステムとなっています。また、この価格システムは商品の値段を変える際に値札を付け替えるという作業負担もカットできるものとなっています。

同社の開発した価格システムは、顧客が古着を買うことの楽しさを創出し、店舗運営を従来のものより単純化することに成功したのです。コアのサービスに絞り込むことによって新たなサービスを提供したこの価格システムは興味深いものがあります。

(参考文献 図解&事例で学ぶ ビジネスモデルの教科書)

JR東日本 自動販売機のビッグデータ活用

本日はJR東日本、自動販売機のビッグデータ活用に関して記載します。

【JR東日本の駅構内にある『カメラ付きの自動販売機』】

JR東日本の駅構内を歩いていると、大型ディスプレイで商品を映し出している自動販売機をよく見かけるようになりました。この自動販売機のディスプレイの大きさは47インチとかなり大きなものとなっているので、近くを歩くと目を引きます。この自動販売機が初めて登場したのは、2010年8月10日。JR東日本の自動販売機事業などを行うJR東日本ウォータービジネスが品川駅のコンコースとホームに2台設置したことに始まります。今では様々な駅で見られるようになりました。

この自動販売機、上の方を見上げてみるとカメラがあることに気づきます。このカメラを活用して顧客の顔画像を捉え、性別や年齢を推定。その顧客にあった最適な商品をおすすめしたりしています。性別と年齢の両方を正しく判断する確率は75%にもなるそうです。顔画像以外にも時間帯や気温などの要素を考慮に入れて商品をおすすめしているようです。

このようにJR東日本ウォータービジネスが設置している自販機は、今までの自販機と異なり、様々なデータを収集することができるものとなっているのです。

【ビッグデータ 自動販売機のデータ活用】

JR東日本ウォータービジネスは自販機から得られた大量のPOSデータを分析して、商品開発や販売戦略に役立てています。まさしく自販機のビッグデータの活用と言えると思います。

自販機からは大量にデータが得られるわけですが、同社がそのデータ分析から生み出した成果の一つに、2012年にリニューアル販売したペットボトル入り飲料水「フロムアクア」があります。同社は自販機から集めたデータを基に「フロムアクアは移動中に飲まれる場合が多い」という仮説を立てて、片手での飲みやすさを重視した、落ちないキャップを開発しました。リニューアル後、フロムアクアの年間売上は従来比で1.5倍に増えたと言います。確かに、実際に使ってみると、落ちないキャップは便利だと感じます。

その他にもデータ分析を基に自販機内の商品選定を行い、売上の増加を実現しています。例えば、午後の早い時間に自販機の売上が落ち込みやすい点に着目しデータ分析をした結果、500ミリペットボトル飲料は朝に売上のピークがあるのに対し、280ミリペットボトル飲料は全体の売上が下がる午後によく売れるということがわかりました。また午後の販売状況を細かく分析すると、40代女性が280ミリペットボトル飲料を買っていることがわかりました。そこで、40代女性にヒットしそうな商品を積極的に投入したところ、その時間帯の売上増につながったそうです。40代女性の購入者層は全体からみると少なかったため、データ分析を行う前まではその層に販売施策を打ち出すことはしていなかったそうです。しかし、購入者の属性、買った商品のカテゴリ、時間帯などを複合的に分析することで、隠れたニーズが発見され、売上の増加につながったのです。

カメラ付きの自販機によりJR東日本ウォータービジネスは顧客の年齢、性別ごとにどういった商品を購入しているかわかるようになったわけですが、この情報の蓄積は今後の自販機の販売活動にもプラスになっていくことと思われます。話は変わりますがローソンではPontaによる蓄積された情報を分析し、売上ランキングが上位でないけれど継続的に購入されている菓子を店頭に常に置くことによってリピート率を高めています。ビッグデータが言われる中、情報の活用は今後ますます重要になってくると思われます。

ブランド・イノベーション“ヴァージン・グループ”と“メソッド”

本日はブランド・イノベーション“ヴァージン・グループ”と“メソッド”に関して記載します。

【2つのブランド・イノベーションについて】

自社の製品やサービスのほうが競合他社の同種のモノより好ましいと消費者に感じてもらうためには、消費者に自社の製品やサービスについて認知してもらい、印象付けていくことが必要です。そのためには自社が競合他社よりも強いアイデンティティーを持つことが求められます。そのためにブランド・イノベーションを起こしていく必要があるわけですが、そのよくある例として、まず一つ目に、既存のブランドの傘の下で新しい製品やサービスを提供する“ブランドの拡充”があり、二つ目に、大きな理想や特定の価値観をわかりやすく一貫して表現する(“価値観の整合性”)ことで、企業をそれらの信条を象徴する存在として印象付けるという方法があります。上記2つについて“ブランドの拡充”については「ヴァージン・グループ」、“価値観の整合性”については「メソッド」を事例に以下記載していきます。

【ブランドの拡充 ヴァージン・グループ】

ヴァージン・グループはイギリスの多国籍企業です。その始まりはリチャード・ブランソンが1971年にロンドンのオックスフォード・ストリートにヴァージン・レコード1号店を開いたこととなります。1973年、レコード・レーベル、ヴァージン・ミュージックから映画「エクソシスト」のテーマ音楽として使われたマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』をリリースし、1977年にはパンク・ロックバンド、セックス・ピストルズと契約しています。

そして近年、ヴァージン・グループはヴァージンアトランティック航空やヴァージンアクティブといったブランドを持つ、34か国に5万人の従業員を擁する企業にまで成長しました。2011年のグループ総売上高は約210億ドルに達すると言います。最近ではブランソンが設立した、年500人の観光客を一人当たり25万ドルで宇宙へ送る計画を立てているヴァージンギャラクティックが注目を集めたりもしています。このような形でヴァージン・グループは携帯電話、輸送、金融サービス、メディア、フィットネスなど様々な分野への多角化を進めており、現在では、同社は自社のことを大手「国際投資グループ」と称しています。つまり、多角化を進めることによって消費者から自社と競合他社との差別化を図っているということが言えます。

【価値観の整合性 メソッド】

メソッドは2000年に設立された会社で、環境に害を与えない天然成分のホームケア製品を生み出しました。メソッドの商品は、今ではターゲット、ホールフーズ、クローガーをはじめとする世界各地の4万店以上の小売店で販売されています。この会社は持続可能性と環境感度を重視していて、メソッドの洗剤ボトルの大部分が100%再生プラスティックで作られています。また家庭用洗剤は有害化学物質を使っていません。オフィスも環境に配慮した建物となっていますし、動物実験も行わないとい徹底ぶりです。メソッドは環境に優しい企業としての特徴を尖らせて、消費者から自社のブランドをしっかりと認識してもらっているということが言えます。

製品やサービスが代替可能なものが増える中、企業がコーポレートアイデンティティー(IC)を確立し、消費者から自社のことをしっかりと認識してもらうことは、自社の商品・サービスを選んでもらうために重要なポイントだと思われます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ナイキタウンのチャネル・イノベーション

本日はナイキタウンのチャネル・イノベーションに関して記載します。

【チャネル拡大の役割を担う旗艦店“ナイキタウン”】

スニーカーやスポーツウェアなどスポーツ関連商品を扱う世界的企業であるナイキは、ナイキタウンという店舗を運営しています。このナイキタウンは1990年11月にスタートしたのですが、熱狂的な人気を誇っているそうです。ナイキタウンは消費者が一般的な靴屋を超えた店舗だと思ってもらうように作られていて、例えばニューヨークにあるナイキタウンでは店内のあちらこちらに有名選手のサインや写真が飾られ、スポーツのテーマパークのような作りになっているそうです。また、ニューヨークに限らず、たいていの店舗ではルームランナーが置かれていて、来店者がそこでシューズの性能を試すことが出来るようになっていると言います。従業員についても変わった採用方法を採っていて、運動能力を基準にしています。実際、シカゴ店ではバスケットボールの元プロ選手が採用されたこともあるようです。建物自体については、ニューヨーク、ロンドン、シカゴ、北京など世界で最も地価の高い商業地区に作られていて、設計と建設に何百万ドルもかかったそうで、投資額も大きく贅沢な作りになっています。

ナイキタウンは上記のような巨額の投資を行っているため、シューズの販売額では投資額を回収することが難しくなっていて、実際、ナイキタウンのコストは宣伝費が当てられています。このような状況であってもナイキタウンが運営を続けていられる理由は、経営陣がナイキタウンという旗艦店を設けることによって、どんな宣伝キャンペーンにも劣らないくらい自社のブランドイメージの向上に貢献してくれるはずだと判断しているためです。またナイキタウンでは、閉店した後に大手アパレルメーカーのバイヤーを招待して、一流スポーツ選手やデザイナーと懇談してもらうということをしています。このような取り組みを行うことで、他の小売業者にナイキのシューズや用具をより効果的に売り込むにはどうしたら良いかを教えているのです。

ナイキはナイキタウン以外に、消費者がナイキのデザイナーと協力してシューズをカスタマイズできるナイキ・スポーツウエアの小売店を出店しており、チャネルを押し広げる取り組みを進めています。

【ナイキタウンから見る、チャネル・イノベーション】

自社の製品やサービスをどのようにして顧客に届けるかを考えるにあたって、昨今注目を集めるeコマース以外にも、ナイキタウンのような旗艦店を開設し、リアル店舗という従来型のチャネルを活用していくことも重要であると言えます。自社の製品やサービスを顧客に届けるために、一つのチャネルだけでなく複数のチャネルが補完し合うような方法を採っていくこと(チャネル・イノベーション)が重要となってくるということです。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

tabのO2Oサービス

本日はtabのO2Oサービスに関して記載します。

【多くの企業が注目するO2Oサービス“tab”】

ファッション性の強い商業施設から注目されているO2Oサービスに、頓智ドット株式会社が提供するtab”があります。“tab”のサービスは2012年6月末にスタートしたのですが、13年9月時点でのパートナー企業となっているところは「三越伊勢丹」「六本木ヒルズ」「東京ミッドタウン」「高島屋」「三菱地所」「ビームス」「東急ハンズ」等、その数200社に上っています。そして、アプリダウンロード数は30万人強、月間アクティブユーザー数は約17万人となっています。

このtabの特徴として『キュレーション』が挙げられます。キュレーションとは、ネット上の情報やコンテンツを収集・編集し、新たな価値を生み出して、それを他者と共有することを意味します。かつて企業や店舗から消費者へ情報は一方通行でした。それに対してネットが普及した現在では情報は双方向となっています。その流れの中で、自分の友人・知人、興味・関心が合う人、参考にしたい人をフォローすることで、その人が収集・編集された情報が自動的に自分の下へ流れてくるようなサービスが生まれています。

“tab”のコンセプトは「“行ってみたい”を集めた、みんなの“My雑誌”」。ユーザーは自分の興味・関心・センスで独自の特集を作っていきます。ユーザーはテーマごとに“行ってみたい”“食べてみたい”“買いに行きたい”といったリアルな場所を集め、自分のtab帳をまとめていきます。そのtab帳は公開されていますので、雑誌を見る感覚で他人のtab帳を見て、行きたい場所を見つけることができるのです。気に入ったユーザーをフォローすることもできます。

【伊勢丹新宿店リニューアル時の“tab”とのコラボレーション】

伊勢丹新宿店が総工費約90億円をかけて大規模な改装を実施し、2013年春にグランドオープンしましたが、この際にプロモーションの一環として“tab”と手を組みました。同キャンペーンは、伊勢丹新宿店とタイムアウト東京がリニューアルした伊勢丹新宿店の楽しみ方やおすすめスポットを各々の視点で集めて“tab”で発信するというものでした。発信した情報は40項目で「世界一“自分”が進化するヘアショップ」「伊勢丹でしか聞けない坂本龍一を聴く」などで、ユーザーは自分の興味ある情報を“tab”に入れていくという仕組みです。

さて、 “tab”の特徴として上記のキュレーション以外に「プッシュ通知」があります。自分が行きたいと思っていた場所でも、しばらくするとそのこと自体忘れているということは多々あります。“tab”ではユーザーがtab帳に入れたスポットの半径500m付近に立ち入ると、ユーザーのスマホに通知されるような仕組みにしています。そのことで「行きたいと思っていたけれど忘れていた」ということを防ぐことができます。

伊勢丹新宿店の同キャンペーンにおいては、ユーザーが伊勢丹新宿店の情報をプッシュ通知された件数は13年5月から1か月間で約1600件あったと言います。

技術の進歩とともにO2Oも進化を遂げています。“tab”と伊勢丹新宿店、タイムアウト東京は「新宿でしかできない101のこと」という新宿の街に焦点を当てたキャンペーンも実施しています。O2Oを活用し街全体の活性化を図る取り組みと言えます。今後、商業施設がO2Oを活用して街全体を活性化していくことが増えてくるのではないかとも思われます。

(参考文献 O2O、ビッグデータでお客を呼び込め! ネットとリアル店舗連携の最前線)

催促相場から見るアベノミクス

本日は催促相場から見るアベノミクスに関して記載します。

【今年の株価の推移から見えてくる日本経済】

2013年、日本の株価は57%上昇し、この上昇の勢いはバブルの時と同じくらいになっていて、先進国の中でもダントツに高いものとなっています。昨年発表された実質成長率は1.6%と株価の上昇から見ると低い水準となっていますが、内需を見ると3%成長していて、日銀短観においても製造業、非製造業、大企業、中企業、小企業、すべての分野で経済は良くなっています。アベノミクスの成果により日本の景気は概ね好調と言えます。

この株価上昇を支える要因は外国人投資家の買い越し額が15兆円に達したということにあります(これまでで一番買い越し額が多かったのは郵政民営化を決めた2005年)。株価上昇により資産効果が出て日本経済は好調に推移している形となりますが、その株価を支えているのは外国人投資家の影響もあるということが言えます。

さて、2013年に株価は57%上昇しましたが、2014年に入ってからは日本の株に大きな動きがありません。2月においては1万5千円~1万4千円くらいで株価が推移しています。この株価の動きに関して、マーケットが政府に催促をしている“催促相場”だという話があると言います。

【催促相場とは】

催促相場とは、企業や政府などに対して決定などを促すために株価を始めとした相場の動きによってそれを推し進めさせようとする相場状況のことを言います。例えば東京市場やニューヨーク市場へ公定歩合の引き下げを期待して日経平均株価やダウ平均が上昇して、中央銀行にその決定を促すというパターンです。今回の相場においては、アベノミクスの成長戦略に対する期待もあり、株価が先行して上昇したものの、その成長戦略にきちっとした政策が出てこないことから、投資家たちが様子見をしているといったところでしょうか。投資家が日本の株に対する投資を引き上げる前にしっかりとした政策が実施されることが、マーケットから政府に求められている状況になっているということです。

【注目されるアベノミクスの今後の動き】

2013年11月に、今年の6月をめどに新たな成長戦略を策定していくという話になっています。2020年の東京オリンピック開催を見据えてのインフラ整備や「日本ブランド」の海外発信、農業の振興策やベンチャー企業の育成、成長戦略第1弾で詰め切れなかった規制緩和などを検討していくとなっています。

消費増税により景気が押し下がることも想定される中、いかにこの6月の成長戦略第2弾が効果のあるものが登場するのかが、2014年の日本経済を占う重要なカギとなりそうです。

(参考資料 エコノインサイト)

「World of Warcraft」の顧客エンゲージメント・イノベーション

本日は「World of Warcraft」の顧客エンゲージメント・イノベーションに関して記載します。

【World of Warcraft 世界的なヒットにつながるその戦略】

最近、例えばスマホアプリでゲームを見ているとMMORPGという言葉を目にすることがあります。MMORPGとはMassively Multiplayer Online Role-Playing Game:大規模多人数同時参加型RPGのことで、オンラインゲームの一種となります。プレイヤーはPCなどからサーバーに接続し、コマンドを入力して自分のキャラクターを行動させたり、同じサーバーに接続しているプレイヤーとチャットを行ったりします。10~20年くらい前にやっていたRPGと異なりセーブしたところからやり直すということが出来ないので(他のプレイヤーの操作と矛盾が引き起こるため)、個人的には少し違和感ある気もします。

さて、このMMORPGで世界的にヒットした「World of Warcraft」というゲームがあるのですが、このゲーム2004年11月にリリースし、2006年11月には約750万のアカウント数に達し、2008年11月には世界中に1100万人もの月額課金ユーザーを持つまでに成長しました。日本ではその名をあまり聞かないような気もしますが、中国ではコカ・コーラのキャンペーンにも利用されTVCMにもなった、まさしく世界規模のヒット作です。

このWorld of Warcraftを世に送り出した会社ブリザード・エンターテインメントの創業者たちは最初から、プレイヤーを強力にぐいぐい引き込むことに力を注ぐ重要性を強調していたと言います。このゲームのコンテンツの多くがプレイヤー同士の協働を促すようにデザインされていて、プレイヤーがゲームのステージを段階的に上がっていくために、リアルな人間とバーチャルなグループ(ギルド)を組んでいきます。そして、ギルドによっては自分たちのロゴやプレー戦略を作成することもあるそうです。

ブリザード・エンターテインメントは顧客に対して一方的に発信するコミュニケーションを行うのではなく、顧客と企業が双方向にコミュニケーションを行うこと(顧客エンゲージメント・イノベーション)によって成功したのです。

【顧客エンゲージメント・イノベーション】

顧客エンゲージメント・イノベーションは、顧客のニーズやウォンツを理解し、その理解を踏まえた上で、顧客と会社の間に意味のある繋がりを築いていく戦略となります。どのように消費者とつながり、消費者を喜ばせられるかということが重要となってくるのです。例えば、World of Warcraftとは他の事例として、ファブ・ドットコムというウェブサイトが挙げられます。このサイトでは一流のデザイン専門家が選んだ商品を販売していて、次に流行るクールなアイテムを見つけたいときに行くべきサイトという顧客の信頼感を築いています。この事例も顧客と会社の間に意味のある繋がりを作っている事例だと言えます。

2013年現在、World of Warcraft登録プレイヤー数は770万人にまで減少してきているようです。これは他のオンラインゲームの登場による影響があるようで、人気になれば必ず他社からの模倣が始まり、シェアの奪い合いになっていくという事例のようにも感じます。ただ、一方でWorld of Warcraftが長い期間にわたって世界的なヒット作になっているという事実は、“顧客を引き込む”工夫をして、顧客と会社の間での関係性を構築するということの重要性を感じさせます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

プロセス・イノベーション

本日はプロセス・イノベーションに関して記載します。

【プロセス・イノベーション】

プロセス・イノベーションとは、企業が製品やサービスを生産していく活動や業務に関わるもので、従来通りのやり方から劇的な変革を行い、業界の標準よりも優れた方法を確立し、他に類を見ない高効率やコスト優位を実現していくことです。例えば、トヨタが無駄や過剰を減らして、会社のあらゆる部署での効率向上と製品・プロセスの継続的な改善を推し進めたような手法はこの事例となります。プロセス・イノベーションにはトヨタが実施したようなシステムのあらゆる部分から無駄とコストをそぎ落とす“リーン生産方式”、共通の手順を使うことでコストと複雑さを抑える“プロセスの標準化”、過去の実績データをモデル化して未来を予測する“予測分析”などがあります。

【ZARAのプロセス・イノベーション】

ZARAはデザインや生産、ロジスティックス、配送を統合した生産システムを使用することにより、注文を受けてから商品の配送にかかるまでの時間を短縮しています。同社はターゲットとする「流行を先取りする顧客」と接点を持ちやすくするために主要ショッピング地区の高級店街に店を配置していて、そこから入ってくる顧客の願望や要望といった情報が、同社の200人のクリエイティブ・チームに伝えられていきます。それにより、クリエイティブ・チームが生産面の課題をすぐさま検討することができ、ファッション・トレンドの変化に素早く対応することが出来るようになっています。またサプライヤーや配送業者は、効率を高めるために世界各地に適切に配置されるように選定され、社内ロジスティック・システムは配送センターで注文を受けてから商品が実際に店舗に届けられるまでの時間をできるだけ短くするように構築されています。

【IKEAのプロセス・イノベーションの事例】

IKEAはフラットパック家具を開発して、国や地域による修正を行うことなく、どこに行っても全く同じハードウエアと取扱説明書で商品を販売しています。このことにより、同社は社内生産プロセスの合理化を図ることができています。

プロセス・イノベーションには企業のコア・コンピテンシー(核となる競争力)を形作ることが多く、理想的に展開すれば競合他社が真似できないものとなると言います。模倣されないということは企業の優位性を高めますので、このプロセス・イノベーションが実施できるということは成長するための一つ手法と言えます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ホールフーズ・マーケットの組織構造イノベーション

本日はホールフーズ・マーケットの組織構造イノベーションに関して記載します。

【ホールフーズ・マーケット】

ホールフーズ・マーケットは1980年に設立されたアメリカにある比較的高級志向な食料品スーパーマーケットで、2012年現在、アメリカ、カナダ、イギリスに310店舗を超える店舗を持ち65,000人強の従業員を擁するまで成長した企業です。同社の発表によると2011年の売上高は100億ドルを超えているといいます。同社は、人材や資産を独自の形で編成することで価値を生み出す“組織構造イノベーション”を実施し成長してきました。

【ホールフーズ・マーケットの組織構造イノベーション】

ホールフーズ・マーケットでは徹底的な経営管理の分権化を行っています。各店舗がチームを構成し自律的に各部門を管理。どの商品を仕入れるか、その商品をどのようにディスプレイするかなどもチームが決定しています。同社は組織の力を発揮するために、チームプレイを重視しているのです。採用についても誰をチームに採用するかはチームで決めており、チームに入るためには現行メンバーの2/3以上の賛成が必要となります。各店舗は損益計算書で独立した事業部門として評価され、店舗内の各チームを明確な成果目標を持っています。

またチーム間・チーム内での情報も密なものとなっています。商品の売上・利益率などの詳細な情報が店舗の垣根を超えて共有され、その情報が共有されているレベルは、一時期、同社の従業員が全員証券取引委員会にインサイダーに分類されていたほどでした。この情報の共有化により、チームが会社全体でうまくいっていることを把握するとともに、チーム間が切磋琢磨することに繋がり、同社の成長を支えるエンジンとなっているのです。

【組織構造イノベーションの他の事例】

ホールフーズ・マーケットのように企業の人材や組織を独自の形で編成し価値を生み出している事例は他にも多々あります。その取り組みとしては報奨制度を構築したり、営業コストや複雑さを縮小するために資産を標準化したり、高度な訓練を継続的に提供するための企業内大学を創設したりといったものがあります。この組織構造イノベーションは競合他社が模倣することが困難となることから、自社の長期的な成長を支えてくれるものとなります。ホールフーズ・マーケット以外では以下のような事例があります。

■W・L・ゴア:フラットな格子型組織モデルを構築。社内のチームは意図的に小さくされていて、活動は命令ではなくコミットメントによって管理される。

■ファビンディア:インドの織物・衣料・家庭用品小売り企業。美術品や工芸品を供給している現地の職人たちが所有、経営している。

■ゼネラル・エレクトリック(GE):GE幹部向けの社内ビジネススクールを立ち上げた。

組織構造イノベーションを実施することにより、企業が独自の進化を遂げることとなります。他社から成功モデルが模倣されにくいということは自社の競争力を高めることに繋がりますので、重要なことと言えます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)

ターゲットのネットワーク・イノベーション

本日はターゲットのネットワーク・イノベーションに関して記載します。

【アメリカのディスカウント百貨店チェーン「ターゲット」】

ターゲットは「ファッション界の最良をディスカウント界の最良と合体させる」ことを意図した「高品質の商品をディスカウント価格で提供する良心的な店」として、地方百貨店のデイトン社の新しいディスカウント小売戦略の一環として1962年に1号店をオープンさせました。そしてターゲットを運営するターゲット・コーポレーションは、今ではアメリカの売上高第5位の小売業となっています。同社は社外の人や組織とつながることにより実績を上げてきたのです。

【ターゲット 他社とのつながりによる価値の創出】

ターゲットはアメリカのポストモダン建築を代表する建築家マイケル・グレイブスと1999年に提携し、グレイブスがデザインし、ターゲットが独占販売するキッチン用品のラインを生み出しました。それ以後、75人以上のプロダクト・デザイナーや10人以上の世界的に有名なファッション・デザイナーと提携し、同社でしか買えない商品を開発していきます。アイザック・ミズラヒ(数多くの賞を受賞している実力派デザイナー)との5年間の協働は1年あたりで3億円の利益を生み出したと言います。

また、同社はイギリスの百貨店リバティオブロンドンを始めとした小売業者と提携したり、短期間しか営業しない期間限定の店舗を出店したりしています。そして、婦人用バッグがメインのブランド、アニヤ・ハインドマーチがデザインしたハンドバッグの販売も行ったのですが、なんとオンラインで2分足らずで売り切れるという結果を残したと言います。

このような戦略を採ることで、同社は消費者の口コミと関心を高め売上の嵩上げを図ってきました。

【ネットワーク・イノベーション 他社との協働による価値の創出】

自社が単独で事業を行うのではなく他社との協働を行うことにより、自社の強みを活かしながら他社の“生産工程”“製品・サービス”“チャネル”“ブランド”といった能力や資産を利用できるようになります。また、自社が新しい製品・サービスや事業を開発する際のリスクを他社と分かち合うことにもなります。まさしくターゲットは協働を行うことにより上記のようなメリットを活用し実績を上げてきたということが言えます。

ネットワーク・イノベーションは他企業でも行われています。例えば東芝とUPSは、東芝製パソコンを配送センターでUPSが修理するように契約を結んだことにより、“東芝が修理時間の短縮”“UPSが新しい利益の獲得”という双方にメリットのある結果を生み出しました。また、ブラジルの化粧品会社ナトゥーラは世界各地の25の大学との高度な人的ネットワークを構築することで、社内の開発能力を超える成果を上げていると言います。

このようにネットワーク・イノベーションを起こすことは、企業が大きなメリットを得る結果につながるのです。

ジョイントベンチャーという言葉を聞きますが、これなども双方の強みが活かせれば単独では不可能であっただろう利益を生み出すことができます。一方で、双方の強みが活かせなかった場合はそれほど大きな利益の創出にはつながらないと思います。ネットワーク・イノベーションは協働する相手とのベクトルを合わせるということが重要にも思われます。

(参考文献 ビジネスモデル・イノベーション ブレークスルーを起こすフレームワーク10)