居抜き

本日は“居抜き”に関して記載します。

【スケルトンにしてから開店】

近所のビルで1階をしばらく工事している空き物件がありました。以前そこにどういった業種が入っていたか詳細は分かりませんが、多分、生命保険関係の会社が入っていたかと思います。工事中の中を覗いてみると、中はコンクリートむき出しの、いわゆる「スケルトン」の状態になっていました。最近、徐々に形が出来上がりつつあり、どうやらそこは居酒屋になるようです。

通常の賃貸契約において、借主がある物件から撤退する場合、上記のように内装や設備を全て取り払ってスケルトンの状態にしてから家主に返却することとなります。しかし、スケルトンの状態に戻すためには撤去費用がかさみ、数十万円から数百万円の撤去費用がかかると言います。また、次の借主にとっても、一から内装や設備の工事をする必要がありますし、開店までに時間がかかってしまうというデメリットが生じてしまいます。

【居抜きとは】

上記のようにスケルトンにしてから家主に返却する無駄を省くことを狙って“居抜き”と言われる手法が使われることがあります。居抜きとは、業績不振などで閉店した店舗の内装や設備をそのまま別の企業が借りて開業することを言います。この手法を使うことによって、新たな借主の初期投資が抑制できますし、家主との交渉で毎月の家賃負担が軽くなることもあるようで、経営的に黒字化しやすい店舗を作ることが出来ます。

1990年代末頃から消費不況が顕著となり、閉店と出店のスピードが一段と速くなってきています。それに伴って撤退跡地を狙った居抜き出店が増えています。

【居抜きの成功事例】

中古書籍販売の「ブックオフ」は1990年に創業した時から居抜き出店を基本戦略としてきました。ブックオフが創業した時は大店法改正による規制緩和が行われ、各チェーン店が店舗の大型化を進めようとしていました。そのため、大型店へ移転した後に残された空き物件が豊富に供給されていました。そこに目を付けたのです。飲食店から物販店への居抜きだと店舗の改修が必要となってくることから、ブックオフは物販店の跡地を効率的な出店場所と考え、店舗を拡大。居抜きにより出店コストを押さえつつ、成長していくこととなります。

【成功につながらなかった居抜きの事例】

生鮮コンビニ「ショップ99(現ローソン100)」は小型のコンビニ跡地への出店を基本戦略としていました。コンビニの跡地は生鮮コンビニがそのまま利用できる構造だったからです。しかしながら、コンビニの閉店跡は効率の悪い狭い店舗であったり商圏環境の悪い店舗であったりすることも多いというデメリットがあります。同社は物流インフラの整備に遅れ、不採算店舗が増大。2007年2月にローソンと業務提携することで立て直しを図り、2010年にローソンの完全子会社となっています。このことから居抜き物件であれば成功が約束されているというわけではないことも分かります。

例えば個人で不動産投資を行うにしても、購入時点で勝負が決まってくる部分があります。企業もそのスタイルに合わせて「どのような場所・広さ・条件で出店するのか」というスタートが重要と言えそうです。

(参考文献 立地ウォーズ)

飲食業界の二毛作

本日は飲食業界の二毛作に関して記載します。

【飲食業界の二毛作とは】

最近では居酒屋がランチメニューを出すことも珍しくなくなってきました。例えば、さくら水産では、ごはんおかわり自由で低価格ランチが楽しめたりします。大都市に立地する飲食店においては、どうしても昼と夜に集客の差が大きくなります。高い家賃を払いつつも、収益を上げられる時間帯が限られてしまうのです。そこで、居酒屋のランチメニューではありませんが、一つの立地で時間帯を分けて二業態の店舗を出店する“二毛作”という手法がとられることがあります。

【二毛作の例】

二毛作が行われるようになったのは、1988年の「プロント」が始めだと言います。プロントはUCCとサントリーの共同出資会社で、昼はUCCのノウハウを活かしたイタリアン・カフェ、夜はサントリーのノウハウを活かしたカジュアルバーを営業。夕方5時にメニューが変わります。UCCとサントリー、それぞれの強みを活かして坪単価を最大化できるように工夫していると言えると思います。

また東京・神楽坂にある「神楽坂そば」では、先代の死をきっかけに、昼はそば店、夜は「ル・トランブルー」というワインバーを営業するようになりました。ワインバーは先代の息子が営業し、そば店はその実母が営業するという二毛作をとっています。息子がワイン好きでこの発想に至ったようですが、そば店とワインバーがそれぞれの特徴をしっかり持って営業しているということが言えそうです。ワインバーは成功し、隣町に2号店も出店しています。

その他には、ハイデイ日高の「焼鳥日高」は昼にうどんランチを出していたり、ラーメンの「ひるがお」駒沢本店は、昼は塩ラーメン、夜は「せたが屋」の名前で醤油ラーメンというラーメンの二毛作を行っていたりします。

2008年の日経MJにはたこ焼き店「築地銀だこ」をチェーン展開する「ホットランド」社が三毛作(2~5月はたい焼き屋、6~9月は焼きそば屋、10~1月はたこ焼き屋)を行っているという記事が載ったようです。1年を3期に分けて季節に応じた三業態を営む店舗を郊外の駅前に出店。メニュー変更とともに看板やのれんも変更しているとのことです。

二毛作を行っていく中で失敗事例も多くあるようです。二毛作それぞれ一つずつの特徴・強みをしっかりと打ち出して営業を行わなければならないということでしょう。この点は一毛作でも二毛作でも同じと言えそうです。

(参考文献 立地ウォーズ)

商業施設の証券化による資金調達

本日は商業施設の証券化による資金調達に関して記載します。

最近、不動産投資信託(証券会社でバスケットを組んでいるもの)の売却を行ったのですが、ここ最近の株安に影響されてなのか、これに関しても若干価格が低下傾向で少し残念な思いをしました。さて、この不動産投資信託、これが資金調達の手段として活用され、企業の成長スピードUPに繋げられています。

例えばイオンモールでは、自社が運営するSC17か所の土地・建物の所有を日本リテイルに譲渡しています。そして日本リテイルはJ-リートとして上場し、イオン系SCを中心に20か所以上のSCを保有して証券化し、賃料収入を得て投資家に収益を分配しています。

また、イオンは自らも不動産投資信託を立ち上げて、自社のショッピングセンターを活用した資金調達も2013年始めています。イオンがいったん自社系の投資信託会社にショッピングセンターを売却して現金を調達。改めて借り直して店舗を営業。そして投資信託会社はその賃料を投資家に分配していきます。イオンは埼玉県にあるレイクタウンを含めた20店舗程度を売却し、その結果、2000~3000億円程度の資金を手に入れました。これによって、イオンは国内やアジアに新しいショッピングセンターを開発していく動きをつけました。

商業施設の証券化は2006年ですでに1兆円を超えるといいます。最近ではロードサイド型専門店のような小型物件まで証券化されてきているといいます。流通業界では成長の源となる資金調達の仕組みとして建物の証券化が進んできているのです。

J-リートを初めて知ったときは不動産を比較的少額で購入できるすごいシステムだと思っていました。不動産投資信託自体、1960年代のアメリカで誕生しているそうなのですが、企業の資金調達方法の一つとして活用されている興味深いものだと感じました。

(参考文献 立地ウォーズ)

小売業のM&A

本日は小売業のM&Aに関して記載します。

1月31日にH2Oリテイリングが関西地盤の大手スーパー、イズミヤと経営統合することを発表しました。H2Oは高級スーパー「阪急オアシス」を約70店展開しているので、イズミヤを加えて商品調達力などの競争力を高めようとしています。

小売業が大型店化を進め、企業の成長を成し遂げようとしていく場合、成長に合わせて地理的に市場(店舗)を拡大していくことが必要となります。また、市場を拡大していくに当たり、スピード感を持った出店も求められてくることとなります。小売業の大型店化が進む中で、今回のH2Oとイズミヤの事例のように、M&Aを実施することにより市場の拡大を図る対応が行われています。

例えば、家電量販店業界の事例を記載します。過去、家電量販店業界にはNEBAという組織が結成されていたために競合他社の店舗のある商圏への出店に消極的でした。しかしながら、1990年代末頃からその意識が崩れはじめ、大型店の立地場所の獲得競争や大型店同士の近接立地による競争が激しくなっていくこととなります。企業が成長していくためには出店数を増やしていくことが求められますが、有利な立地には先に競合他社の店舗があるため、新規出店を行うこととなり、激しい競争を招いてしまうこととなったわけです。また、安売りを行うためには、仕入れ価格を低下させることが必要であり、そのためにはメーカーに対して仕入れる商品量を増すことで、競争力をつけていくことが必要でした。

この問題を解決するためにM&Aの手法が採られてきたのです。M&Aを行えば、無駄な競争なくして商圏を拡大することができ、出店スピードを速めることもできます。

また、M&Aを行うにあたって店舗の重複がないようにすることも必要です。例えば、家電業界2位のエディオングループですが、合併前の各会社の店舗が最も多い地域を見てみると、“デオデオ、広島38店舗”“ミドリ、兵庫29店舗”“エイデン、愛知42店舗”“石丸電気、東京9店舗”“100万ボルト、福井7店舗”というように地域が重ならないように合併が進められてきていることが分かります。小売業がM&Aを行おうと思った場合、相手企業の店舗の立地場所も検討材料の一つとなるわけです。

1月20日には、2011年に出店したばかりのJR大阪三越伊勢丹が売場面積を5万平米から半分程度に縮小するという発表がありました。2014年春にあべのハルカスの近鉄百貨店阿倍野店が開業しますので、関西エリアの小売業の競合環境は激化していくことが必至です。M&Aを含めて今後の動きが注目されます。

(参考文献 立地ウォーズ)

小商圏戦略

本日は小商圏戦略に関して記載します。

【多くの企業が模索する“小商圏戦略”】

小商圏戦略とは、小売業界で1980年ごろから使われ始めている言葉で、狭域の商圏を多数設定したり、既存の広域商圏を分割したりして、そこに小型店を多数立地させていく手法のことを言います。様々な企業が小型店の出店を行っているのですが、一部その取り組みを以下紹介します。

・関西地盤のホームセンター大手、コーナン商事。7~8万点の品揃えのある大型業態「ホームセンターコーナン」に対し、品揃えを約22,000点に絞った小型業態「ホームストック」を展開。売場面積は約1000平方メートル。

・ロフト。2013年4月に東京ドームシティラクーアにアイテムを文房具に絞り込んだ都心向けの超小型店舗「SELF&SHELF LOFT」を出店。多店舗に拡大する予定で、同年9月にJR大塚駅直結のアトレヴィ大塚にも開店している。

・大塚家具。大型ショールームに加え、気軽に立ち寄ってもらえる雰囲気の小型店で消費者との接点を増やす戦略。低価格品で攻勢に出るニトリホールディングスやIKEAに対抗。

【時代背景によって、その位置づけが変わる小商圏戦略】

小商圏戦略はその時代の流れによってその位置づけが変わっています。

戦略的な小型店が注目されたきっかけは、大店法が1978年に改正され、500平方メートル以上のすべての店舗が規制の対象となったことに始まります。各企業は500平方メートル未満の小型店を出店することで規制を免れようとしました。

1980年代。小型店であるコンビニや専門店チェーンが急成長。小型店が「成長モデル」としての意味を持つようになります。コンビニはそれまでの駅前や商業地を離れ、住宅地という場所に成長の拠点を見出し、専門店はロードサイドに成長の拠点を見出していきます。

1990年代。大店法の規制が緩和され、大型店が増大。様々な業界で大型店間競争が激しくなっていきます。それに伴い、小型店は、競合他社の取りこぼした隙間商圏を確保したり、自社の大型店の隙間を補完しセットで市場占有率を上げるドミナント型の役割を担ったりするようになります。

2004年ごろからは社会環境の変化に合わせた小型店へと変化。都心への人口回帰に合わせて、都心で日用品や食品を始めとする多様な需要が新たに増大していきます。また、高齢化に伴い、郊外の大型店へのアクセスが難しくなる消費者が増えてきます。それに合わせて、近年の小型店は大都市部での立地が中心となってきています。例えばイオンのまいばすけっとは、その戦略的な位置づけが「高齢化や都心への人口回帰などをにらんだ地域密着型の戦略的小型店」とされており、売上に関しては既存店で2ケタ増で推移しているといいます。

このように一言に小商圏戦略と言っても時代の流れとともにその位置づけが変わってきていることが分かります。

【小商圏戦略のデメリット】

小型店化で成長を図ろうとした場合、商圏が分割されて店舗数が増えますので、店舗の立地開発や建設資金面での負担が膨らむことが想定されます。居抜き物件などによる出店する際の経費削減が求められるでしょう。また、商圏が小さい分、その狭い地域の顧客ニーズに的確に対応していかなければなりません。品揃えの小さな誤差が売上や収益に大きく影響してくる可能性があるためです。

小商圏戦略が時代の法律であったり社会環境であったりによってその位置づけが変わってきているということからも、小売業が小売システムを置かれた環境に合わせて変化させる必要がある業態であるということが言えそうです。

(参考文献 立地ウォーズ)

44回目 ダボス会議

本日は44回目のダボス会議の安倍首相の基調演説に絡めて記載します。

【ダボス会議とは】

ダボス会議とは、スイスの実業家で大学教授でもあったクラウス・シュワブ氏が提唱した世界経済フォーラムが、毎年1月にスイスの東部の保養地“ダボス”で開催する年次総会のことです。ダボス会議は約2500名の選ばれた知識人、ジャーナリスト、多国籍企業経営者、国際的な政治指導者などのトップリーダーが一堂に会して討議するため、注目を集めてきました。2014年は44回目の会議となり、1月22日から25日まで開催。安倍首相が日本の首相として初めて基調講演を行うということで注目を集めました。

【基調講演:アベノミクスに関して】

安倍首相は22日の基調講演を行いましたが、その中で「日本は復活した」と宣言し、経済回復について語りました。そして自らが「ドリルの刃」となって既得権益の岩盤を打破し、日本経済の成長を阻む障害を破壊すると言明しました。また、「新しい日本が打ち出す新しいビジョン」と題した講演で「向こう、2年間、いかなる規制権益も私のドリルから無傷ではいられない」と述べ、アベノミクスの第3の矢である規制緩和を早急に実施する方針を明らかにしました。日本においてこのことは大きく報道され、安倍首相がこれから法人税減税や岩盤規制改革を進めていくのではないかという期待が盛り上がっています。

一方、ダボス会議から数日後に安倍首相は通常国会で所信表明演説を行いましたが、法人税減税に関しては復興のための法人税の増税を1年前倒しで廃止すること以外述べていませんし、岩盤規制改革についても国家戦略特区(※)と農業の減反について述べているだけでした(※国家戦略特区:規制緩和に向けて既得権益を持った人たちの反対を打ち破る装置として唯一期待されている)。これはダボス会議の基調講演については官邸で作成していますが、所信表明演説が各省庁の調整の上にできているということによります。各役所は総理がダボス会議で行ったことを受けての動きをつけていないという話もあります。長期的な経済成長を見据えた上で重要な“第3の矢”がうまく動いていないということが伺えます。この流れで行くと更なる金融緩和や追加的な財政出動が行われる可能性があります。

【労働市場に関して】

安倍首相はダボス会議で、硬直した労働市場を活性化し、人口が減少する中で労働力を伸ばすため、政府並びに民間企業のトップに占める女性の割合を30%に高める目標を掲げました。実際、昨年1年ほどの期間を取ると、日本の労働人口は増えているそうです。女性や高齢者が働くようになり、人口が減っている中で、生産が縮小することが懸念されていましたが、そうならないことも政策次第で可能ということです。

【基調講演:地政学的な問題】

世界の経済のリーダーたちは日中関係・日韓関係に大きな関心を持っています。靖国神社に関してクラウス・シュワブ氏から基調講演後に質問があり、安倍首相は「対話のドアはいつも開いている」と述べていますが、それだけこの問題は国際的に関心を寄せているということです。また基調演説後に記者団に対して安倍首相が今の日本と中国を第一次世界大戦のイギリスとドイツの対立になぞらえ話題となったりしています。地政学的なリスクは、2012年に日本企業が中国への進出を懸念したように、経済活動に大きな陰りを落とします。

ダボス会議から2014年の日本の経済を見通す状況が見受けられます。消費増税による景気減退、原発再稼働の問題と安倍政権としては悪影響が今後ある中で、いかに第3の矢を実行し日本経済を強くしていけるかが、今後注目されます。

(参考資料 エコノインサイト等)