イノベーションのジレンマ“シアーズ”と“ウォルマート”

本日はイノベーションのジレンマ“シアーズ”と“ウォルマート”に関して記載します。

【世界最大の小売業だったシアーズと世界最大の小売業ウォルマート】

シアーズは過去、様々な分野で小売業の技術革新を行い、アメリカ最大(=世界最大)の小売業として君臨していました。同社はもともと通販ビジネスで成長した企業でした。その勢いは、19世紀、アメリカでどの家に行っても、聖書と同社のカタログがあったと言われているほどです。ところが1920年代にアメリカで自動車が普及し始めると、注文した商品が届くのを待つより、自動車で小売店に行って商品を購入することを好む消費者が増えていきました。この環境変化に対しシアーズはGMSと呼ばれるビジネスモデルを構築。大きな駐車場を完備した大型店舗に衣料品から雑貨まで様々な商品を置き、消費者がワンストップショッピングできるようにしました。この際のシアーズの店舗は日本型GMSであるイオンやイトーヨーカ堂とは異なり食料品の取り扱いは行っていませんでしたが、代わりに自動車保険や自動車修理を扱っていました。また同社はPBの取り組みを行ったり、シアーズカードを展開し、シアーズの店でのみ様々な付帯サービスを提供したりと、今では当たり前のようにある小売業の仕組みを生み出していったのです。まさしく当時のシアーズはイノベーションの先端を走る企業だったのです。

しかしながら、このシアーズはEDLP(エブリデイ・ロープライス:いつでも低価格で商品を提供)を掲げるウォルマートに売上世界第一位の小売業の座を奪われることになります。これは技術革新や社会の変化により、シアーズが作り出してきた様々なイノベーションが、同社以外にも簡単に利用できるようになってきたということが、要因として挙げられます。他のクレジットカードのサービスは充実し、商品の幅が広がったことによりシアーズだけではワンストップショッピングが成り立たなくなり、同社の開発するPBも様々な商品が流通することでその価値が相対的に低くなってしまったのです。そして、シアーズが開拓したサービスを踏まえて、より魅力的な価格と品揃えだけに集中したウォルマートのような店がより多くの消費者を引き付けるようになっていったのです。

【イノベーションのジレンマ】

シアーズが後発であるウォルマートに抜き去られたような事例は、イノベーションのジレンマという考え方に当てはまります。イノベーションのジレンマとは、業界トップになった企業が顧客の意見に耳を傾けて、今まで以上に高品質な製品・サービスを提供していくことが、かえってイノベーションを立ち遅らせ、結果として失敗を招くという考え方です。優良企業にとって、規模の大きい既存事業の前に現れる新興の事業や技術は魅力なく見えるとともに、既存事業とのカニバリズム(共食い)を起こす危険があるため、新興市場への参入が遅れる傾向にあるのです。

企業が継続的に成長していくためには、ライフサイクルの成熟期に入ったタイミングで破壊的イノベーション(従来製品の価値を破壊するかもしれない全く新しい価値を生み出すイノベーション)を起こしていくことが必要となってくるわけですが、成熟期に入ったタイミングでそれが起こせるかどうかは、非常に難しい経営判断となるのかもしれません。

(参考文献 「流通大変動 現場から見えてくる日本経済」)

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