イタリアの小売業

本日はイタリアの小売業に関して記載します。

【ベネトンから見るイタリアの小売業】

イタリアは出生率の低下と高齢化により、衣料品やレジャー関連の製品に対する需要が減ってきているといいます。そのような状況に置かれているため、イタリアの有名なアパレルチェーンであるベネトンやステファネルといった企業は国外に拡大展開するようになってきたと言います。

ベネトンは100か国以上で展開しているイタリアで最も有名なチェーンです。そしてその売上は主としてフランチャイズ店におけるものとなっています。フランチャイズというと、フランチャイズを与えられた店はフランチャイザーに対して加盟料を支払い、売上の一定率をフランチャイズ・フィーとして営業している間、支払うというイメージがあります。しかしながら、ベネトンはフランチャイズ・フィーを課さず、会社の利益は製品の売上のみから取っています。

イタリアではフランチャイズ・フィーを取るようなビジネス慣習は一般的に用いられていないそうで、フランチャイザーはフランチャイズ店での製品販売からのみ収入を得ていると言います。ビジネス慣習の違いにより、同じフランチャイズでも収益の上げ方が異なるということは興味深いものがあります。

【食品小売業から見るイタリアの小売業】

イタリア人は収入の多くを食費に費やしており、その割合は大半のヨーロッパ人よりも大きいそうです。イタリア人はそれだけ食に関してこだわりがあるということでしょう。食品は新鮮であるかどうかが重要だと考えており、他のヨーロッパ人よりも頻繁に買い物をする傾向にあるようです。また、高品質の食品に対して高い期待を持っているのと同時に、PB(プライベートブランド)に関しても、購入の際に最も重視されることが「価格に見合った商品かどうか」ということのようです。“食に対するこだわりの文化”の影響があるのかどうか、イタリア人は、スーパーマーケットやハイパーマーケットよりも専門店に対して感じている好感度の方が多少大きいといいます。

そもそもイタリアは小規模の独立した小売業者が多くを占めています。

イタリアの食品小売は生協(Coop)、コナッド、カルフールという3つのスーパーマーケットチェーンが優勢ですが、優勢と言っても、3社の売上合計は総売上の8%しか占めていない状況です。そのような中、中小規模の小売業者たちは“購買力を強化、またはPB商品を共同開発する目的”で共同仕入れグループ(バイイング・グループ)を結成しています。バイイング・グループの力を使い、イタリアの小売業者は自社の購買力をアップさせています。ですので、小売りチェーンはバイイング・グループの拡大のために協力しています。バイイング・グループ自体、「インターメディア」「パム」「ロー」「シサ」「デスパール」「コープ・イタリア」「シグマ」「セレックス」などなど数多くあります。日本においてはCGCグループというコーペラティブチェーンがあり、中小規模のスーパーマーケットが共同でPBを作ったりしていますので、それに近い形なのかもしれません。

イタリアでは、小売店を開店したい人はトレーニングプログラムと資格試験を受けなければならないそうです。小売業は、その地域の文化や慣習、制度の影響を大きく受けるということがよく分かります。

(参考文献 変わる世界の小売業).

フランスの小売業

本日はフランスの小売業に関して記載します。

【小売業の国際化が進んだ国 フランス】

フランスは世界でも小売業の国際化の進んだ国の一つであり、フランスのハイパーマーケット業態は世界中に拡がっています。ハイパーマーケットとは、衣食住全てを扱う郊外立地の倉庫型・集中レジ方式の総合スーパーの一つの形態のことをいいますが、ハイパーマーケット業態を用いた最初の店である「カルフール」は世界で2番目に大きい小売業で、2010年度現在で出店国数33か国に展開しています。同じくハイパーマーケット業態を用いている、世界15位の売上を誇るオーシャンは13か国に出店しています。

【フランスの小売業の国際化が進んでいる訳】

フランスの小売業が国際化している要因としては以下のような点が挙げられます。

まず、フランスの75%の人々が都市部に住んでいるのですが、そのような状況の中、市場がすでに飽和していると考えられています。そのため、フランスの小売業者の方針として、自国では新たに店舗を開かず、利益の出ない自国の店舗はスクラップする一方で、店舗を立ち上げるコストが低く、競争の激しくない外国市場へ進出するという方向になっています。

また、フランス政府の小売業に対する規制が理由として挙げられます。

1973年以降、フランスではロワイエ法という法律が施行され、すべての小売業者は認可を得る必要があります。この法律は20年に亘って運用されました。この規制は最近規制され、認可が必要な店舗面積の条件が引き下げられてはいます。併せて、フランスでは小売価格設定と小売価格の値引きを制限する法律も存在します。こうした状況がフランス小売業の国際進出を促したのです。

【ハイパーマーケット カルフール】

前述したように、カルフールはハイパーマーケット業態を用いた初めての小売業者です。初めはアメリカ市場に進出したものの成功せず、撤退を余儀なくされていますが、その後、中欧やラテンアメリカなど、近代的な小売業が確立されていない国々に集中して出店し、成功を収めています。

カルフールは多国籍の事業展開が特徴的です。当初は、経営を分権化システムによって、国際的に事業を拡大してきましたが、1994年以降、この戦略を翻し、中央集権型の運営に転換します。これにより、大規模な共通の品揃えができ、カルフールにとってより有利な条件で仕入れを行うことが可能となりました。

【フランスの百貨店】

世界初の百貨店「ボン・マルシェ」がパリに誕生してから、130年間に亘ってフランスは百貨店分野のリーダー的な存在でした。しかしながら、現在では伝統的な百貨店は困難な時代を迎えているといいます。この理由としては、百貨店がハイパーマーケットのように自らの物流システムを効率化してこなかったということが挙げられます。そして、ハードディスカウンター(小売業の業態の一つで超安売り業態のこと)が市場に参入し、同じ商品をより低価格で販売を始めたということが挙げられます。

フランスは百貨店とハイパーマーケットという業態を生み出した国で、現在、その業態は世界各地に拡がっています。近年ではオーシャンが「クロノドライブ」というドライブ・スルーの店舗を展開するなど、新たな小売システムを創り出しています。国家の規制がある中、進化を遂げるフランスの小売業には興味深さを感じます。

(参考文献 変わる世界の小売業)

インドの小売業

本日はインドの小売業に関して記載します。

【世界第8位 インド小売業の概要】

インドの小売市場の規模は世界第8位と非常に大きなものとなっています。とはいうものの日本の小売業のような形のイメージとはだいぶ異なるように感じます。まず、小売業の販売額の95%がパパママ・ストアによって占められています。そして、小売産業における最大のカテゴリーは常設店舗では食品、飲料、タバコを扱う専門の小売業者となります。また、小売業の多くがセルフサービスをとることなく、『フル』サービスを実施しています。インドでは労働賃金が安く、セルフサービスによって労務費を節約する必要がないことや、店主の所得が低く、大型店舗を借りたり、投資したりすることが出来ないことが理由のようです。よって、インドのほとんどの小売店で、接客を行い、店主や店員がカウンターの背後から商品を持ち出して、顧客に見せるというシステムをとっています。

【インド 外国からの直接投資の禁止】

2006年1月にインド政府は自社製品を生産する外国の小売業者に対して、その製品をインド国内で販売してもよいと発表しました。これはナイキのような製造業者は小売店を開設することができるけれども、ウォルマートのような小売店にはそれができないということを意味します。例えばメトロ(独)はインドにウェアハウスクラブを開設していますが、これは最終消費者が一般顧客ではなく企業であるという理由からライセンスを与えられたと言います。このようなことから、インドの小売システムは外部からの影響を受けにくいということが言えます。

【インドの課税】

インドの各州においては、ある州から持ち込まれた商品には2度課税がされることになっています。一度目はその商品が生産された州で、二度目はそれが販売される州です。商品の仕入れを州内のみで行えばいいのですが、そうでなければ税金の負担が増してしまいます。その様なことから、小売業者の全国的なチェーン展開が難しくなっていると言います。

【インド小売業のプライベート・ブランド(PB)の多さ】

インドのほとんどの百貨店やスーパーマーケット・チェーンで、他のブランド品よりマージンや利益率の高い、プライベート・ブランド製品の販売促進に力を入れています。インドのビジネス財閥の一つタタ・グループの一員である「トレント」では、PBの売上が90%。インドで最古で最大の百貨店チェーン「ショッパーズ・ショップ」でPBの売上が約22%。アパレル産業として始まった百貨店「パンタルーン」は百貨店を開店するために、川下の小売部門を統合。PBの売上は80%を占めています。

また、ほとんどのスーパーマーケットでは、米、小麦、砂糖、塩、小麦粉、豆などをパッケージし直して、それをPBとして販売しています。インドで2番目に大きいチェーンであるRPGエンタープライゼスの「フード・ワールド」の売上のPBの占める割合は約22%となっています。

【宗教上の問題】

ヒンズー教において雌牛は神聖なものであるため、インド南部にあるスーパーマーケットでは牛肉は販売していないそうです。余談ではありますが、マクドナルドは、インドにおいては製造業と見なされて、出店のライセンスを取っているのですが、もちろんビーフ100%での販売は行っていません。チキンやフィレオフィッシュ、カレー風味の野菜コロッケといったものがパンに挟まれているようです。マクドナルドのみならず、小売業においても宗教が影響を与えているのです。

インドの小売業は日本のそれと比べてユニークなものであると感じます。また、市場としては大きいのに、小売各社がインドに進出していない理由というのも上記から理解できます。国の制度というものが海外進出を行う際の大きな壁になるということでしょう。

一方、2012年にインドのシン首相が小売業の外資系企業の参入を認める方針を打ち出しています。今後、インドの小売業がどう変わっていくのかも注目です。

(参考文献 変わる世界の小売業)

ボーイング 新たな成長

本日はボーイング、現状維持からの脱却による新たな成長に関して記載します。

【民間航空機 ピストン・エンジンの時代】

ボーイングは今では民間の航空機業界で支配的なメーカーの一つになっていますが、第二次世界大戦の数年後までは主に軍用機を作るメーカーで、ジェット機技術で卓越した存在でしたが、民間の航空機で力を持っているわけではありませんでした。

また、1950年代半ば、民間の航空路を往来していたのは、低空で騒音をまき散らしながらピストン・エンジンでゆっくり進む、乗り心地の悪い機体ばかりではあったものの、民間のジェット機に将来性があるとは考えられていませんでした。

当時は冷戦が拡大しており、アメリカやその同盟国から爆撃機や給油機が必要とされていましたので、ボーイングが敢えて民間の航空機の分野に手を伸ばすという選択をする必要もなかったとも言えます。

【ボーイングの挑戦】

しかしながら、1952年、ボーイングは単一の製品で民間機市場に打って出るという社運を賭けた行動を行います。後に「707」へとつながる新機種開発へ1600万ドルの投資を行うことを決定したのです。707の開発計画を実施するに当たって、明らかな勝算があったわけではなかったと言います。当時はジェット機の需要があったわけではありませんでしたので、買ってくれる顧客がいるに違いないという確信に賭けていただけだったのです。そのため、ボーイングは新聞・雑誌や放送メディアで「フランス語に磨きをかけにいくのに7時間しかかかりません」といった印象的なコピーを打つなどし、ジェット機の安全性・快適性・スピードをアピールして、人々にボーイングの航空機を選んでもらえるような試みも行いました。そして1958年10月26日、旅客を乗せた707はニューヨーク・パリ間の初飛行を無事成功。それにより、現在に至る、民間航空の新たな時代が幕を開けることになったのです。

【現状からの脱却の重要性】

スティーブ・ジョブズがiPodやiPhoneを作りイノベーションを起こしたように、ボーイングも707で当時の航空業界の歴史を変えたのです。軍用機で評価を受けていたボーイングにとって、そのまま現状を維持することもできたのですが、そうはしなかったために新たな成長を遂げることが出来ました。現状の枠組みを超えて革新を起こす勇気が新たな成長につながることが、ボーイングの例からも分かります。

(参考文献 ありえない決断)

キャラクタータイアップ はるやま商事「ジョジョ第2部タイアップ商品」の事例

本日はキャラクタータイアップ、はるやま商事「ジョジョ第2部タイアップ商品」の事例に関して記載します。

【はるやま商事とジョジョ】

はるやま商事は紳士服の専門店で、日経MJが2012年度に調査した「日本の専門店調査」の紳士服業界の順位を見てみると、青山商事(売上高178,503百万円)、AOKI(売上高103,932百万円)に続いて、第3位の売上規模を誇っています(売上高50,766百万円)。

一方、『ジョジョの奇妙な冒険』は荒木飛呂彦氏の描く1987年から『週刊少年ジャンプ(集英社)』で連載が始まった作品で、現在も震災後の杜王町を舞台とする第8部『ジョジョリオン』が連載されていて、ファン層が厚い人気作です。

【はるやま商事とジョジョのコラボがもたらした結果】

はるやま商事はテレビアニメ版ジョジョ第2部とのコラボレーション商品を開発しました。内容としてはワイシャツやネクタイなど計26アイテム。これらの商品を2013年11月29日から同社の持つ全国の「はるやま」「マスカット」「P.S.F.A」各店舗で順次販売を開始しました。

その1週間前の11月22日には、オンラインストアにて先行予約販売を開始。同社の467万人を有するLINE公式アカウントでコラボ商品を告知した直後に一時サーバーがダウンするほどアクセスが集中。先行予約用に準備していた約1500点の初期在庫は2日間で完売しました。また、オンラインストアではコラボ商品の購入特典を用意したところ、まとめ買いの誘発に繋がりました。中には、商品の価格帯が1995円~4980円にもかかわらず、1回で8万円分の商品を購入する人もいたそうです。このコラボ商品販売後、同社ECサイトの売上は販売前の約5倍で推移するという好成績を上げることが出来ました。

【はるやま商事がジョジョとコラボするにあたって取り組んだこと】

ジョジョのスピンオフ作品に『岸辺露伴 グッチへ行く』という、ジョジョとグッチがコラボした作品がありますが、ジョジョ自体ファッション分野への転用に適していることも同社がコラボする一つの理由としたようです。一方で、ジョジョは嗜好性が強い作品なので、中途半端なデザインではファンに対して悪い印象を与えてしまう恐れがあったことから、その商品開発には細心の注意を払ったと言います。

プロモーションにおいてはネット上でのバイラル効果を重視。『ジャンプ』や荒木氏の公式サイトなどで集中的に告知を実施しました。その理由としてはキャラクタータイアップの強みとして、大規模な広告展開をしなくてもファン自らが情報を取りに来て、内容が良ければ拡散してくれるという点にあり、ファンが自発的に集まってくれるオンラインメディアに集中して情報発信を行えば、効率的にECサイトや店舗に誘導できるからです。

【キャラクタータイアップ:共創の時代】

キャラクタータイアップを行うことにより、そのキャラクターのファン層に確実にアプローチを行うことが出来ます。最近では企業が販促施策の中で、ファンをコミュニティ化していく動きも生まれているといいます。一方で、ただキャラクターを使えば良いというわけでもなく、その世界観をどのように受け、どうコラボしていくのかということも重要になってきます。これからの時代、キャラクタータイアップの事例のように、ファンとともに共創していくことが成功要因の一つとなります。そのためにはファンが好きなモノを好きと言えるようになる熱意や情熱を持ち、それを体現していくことが必要になると言えそうです。

(参考文献 販促会議February 2014)

キャラクタータイアップ 銀座松屋「エヴァンゲリオン展」

本日はキャラクタータイアップ、銀座松屋「エヴァンゲリオン展」の事例に関して記載します。

【銀座松屋「エヴァンゲリオン展」】

2013年8月7日~26日にかけて銀座松屋で「エヴァンゲリオン展」が開催されました。この催は庵野秀明氏と制作会社が監修していて、最新作「Q」を含む生原画や設定資料が初公開されるなどしました。また、シャワー効果を高めるべく、催と売場が連動し、エヴァ展に来場した顧客を各フロアへ誘導する施策を実施しました。

3階の婦人服売場や5階の紳士服売場にはエヴァの登場人物の等身大フィギュアを展示し、加えてキャラクターをイメージしたコーディネイトの提案も行いました。アスカの私服のコーディネイトを展示するセレクトショップ「リタズダイアリー」の売場の前には男性客が訪れ、シンジやカヲルの私服コーディネイトを展示する紳士服売場の前には女性客が訪れる、といった具合に、普段は行かない売場へ誘導する仕掛けを凝らしました。

他にも、屋上「美しくなるビアガーデン」では作品の中に出てくる赤い海をテーマにしたカクテル「RED OCEAN」を販売したり、食料品フロアではネルフのロゴ入りクッキーの販売を行ったりしました。各フロアの飲食店においても、作品をモチーフにした限定メニューの提供を行いました。

このように、催と売場が連動し、8階催会場から各階への顧客の回遊性を高めたのです。

【店内のエヴァファン有志がチームを組み、知恵を出し合う】

このエヴァ展では、フロアを超えて催と売場が連動しただけでなく、この催で獲得した新規顧客が、その後も継続的に来店してもらえるよう、会期中5000枚の数量限定でエヴァデザインのポイントカードを発行しました。このように、売場や催だけでなくカード担当も加わり、部門の垣根を超えてエヴァ展を盛り立てたのです。

このように様々なセクションが連携できたのには、直接の担当部署であるコンテンツ事業課だけでなく、他部署からエヴァファンを募集したことにあるようです。この時、15人の有志が集まったのですが、彼らは店舗外壁を催期間中『エヴァ初号機』の色にライトアップするというアイデアを出し、実施に移しました。ちょっとしたことのようにも感じられますが、ファンにとっては嬉しい演出だと思います。

【エヴァ展の結果】

エヴァ展の実施により、期間中の入店客数は前年同月比12%増、銀座店全体の売上は9%増と店全体の売上・入店客数にも大きく寄与。催単体で見ても、エヴァ展来場者数は20日間で延べ15万人と同店催史上2~3位という大きな成果を出すことに成功しました。来場者層も10代~70代と幅広い顧客層を集客できたのですが、特に同店の平常時に比べて若年層の集客に成果を上げることが出来ました。

同店ではエヴァ展の前にも高橋留美子氏の展覧会や「赤塚不二夫展」「ベルサイユのばら展」を実施してきました。サブカルコンテンツの催を行う際には、瞬間風速的に流行しているコンテンツよりも、各世代にコアファンを有し、顧客層の拡大が期待できるものを選んでいるといいます。

キャラクターとタイアップするメリットの一つに、そのファン層に狙いを定めてアプローチできるということがあります。既存の顧客層と異なるファンを持つキャラクターと組めば、新規顧客獲得につなげることが出来るのです。銀座松屋がエヴァと組むことによって若年層の新規顧客の獲得につながることができるということです。

また、このエヴァ展においては催会場内に「ローソン松屋銀座店」と題し、過去にローソンが販売したオリジナルエヴァグッズなどを展示していますから、その柔軟な発想力も成功の秘訣だったように思われます。

(参考文献 販促会議February 2014)

IBMのベアハッグ作戦

本日はIBMのベアハッグ作戦に関して記載します。

【ベアハッグ作戦とは】

1990年代初め、IBMの得意とするメインフレーム(企業の基幹業務などに利用される大規模なコンピュータのこと)からパーソナル・コンピュータが主役になる動きの中で、赤字が続き、市場シェアを失いつつありました。その様な中、1993年、IBMのCEOにルイス・V・ガースナーが就任。そして彼は後に「ベアハッグ作戦」と呼ばれる施策の実施を行いました。この作戦はまずガースナーが50名のトップ幹部たちを集めたミーティングを実施し、3カ月かけて一人一人が最低5社の大口顧客を訪問するように求めました。彼は幹部たちに、顧客の話を聞き、顧客に心からの愛着を持っていることを態度で示すように求めました。場合によっては、実際に相手を抱きしめても良いとまで言っていました。そして、彼は幹部たちに顧客の話を聞いて気づいたことを直接報告するように求めたのです。

【ベアハッグ作戦による効果】

1960年代のIBMは顧客サービスがとても優れていたようですが、時代の流れとともに、ガースナーがCEOに就任したころには内紛の起きる政治的で官僚的な組織となり、顧客志向が不足するようになっていたようです。その様な状況だったので、ガースナーが聞き取り調査をした顧客たちはIBMへの不満をひどく募らせていたそうです。

ガースナーは、この顧客から聞き取った話をもとに、メインフレーム・コンピュータの価格を下げ、会社が所有していた高価な美術コレクションを含む生産性の低い資産を売却します。また、当時IBMは組織の分社化の動きがありましたが、メインフレーム、パーソナル・コンピュータ、ディスクドライブ、半導体といったコンピュータの様々な知見が同社に蓄積されているということを踏まえ、分社化を行わない決断を下します。併せて、当時IBMの事業の中であまり重視されていなかったコンサルティング部門に力を入れるようになっていったのです。

ガースナーが実施した「ベアハッグ作戦」によって、“IBMが顧客重視という基本に立ち返る”という目標を達成することが出来ました。また、コンピュータ業界の門外漢であったガースナーが、市場についての生の知識得て、ビジネスの勘所を押さえることが出来るようにもなりました。

IBMは顧客に焦点を絞り込むことによって、今日もなお、革新的な仕組みの導入に成功していると言います。

「ベアハッグ作戦」は失われつつあった顧客視点を取り戻した経営判断だったと言えます。ガースナーはCEOになった際、コンピュータ業界についての詳しい知識は持っていませんでしたが、政治的・官僚的な組織になってしまってきていることを感じ取って、改革すべき勘所を押さえて、改善策を実施したのでしょう。大きな組織が常に顧客視点を持ち続けるにはどうしたら良いのか、IBMの「ベアハッグ作戦」は示唆に富んでいるように感じます。

(参考文献 ありえない決断)

小売業者が国際化する理由

本日は小売業者が国際化する理由に関して記載します。

【国際化の理由その1】成長の可能性が低い、成熟した国内市場の限界を超えたい時

ライフサイクルの経過の中で成熟期に到達した小売フォーマットは国内市場において右肩上がりに成長を続けることが難しくなります。しかし、外国市場に出ると、その小売フォーマットが新しくて興味深いものと見なされる可能性があります。

例えば、1980年代後半にアメリカで普及のピークにあったウェアハウスクラブ(会員制倉庫型卸売小売のことで例としてはコストコ)は、アメリカを抜け出し、アジアや南アメリカの市場で活気を持って展開されました。また、「トイザらス」はアメリカにおける出店が飽和状態だと判断し、アジアやヨーロッパへの進出をスタートさせました。

小売業者は、国内に留まって新しい小売フォーマットを考え出すよりも、外国市場に打って出たほうがリスクは小さいと考えて、外国へ進出していきます。そのようなことから、国外へ拡張する小売業者は一般的に大規模小売業者となります。

【国際化の理由その2】投資を多角化する必要性

「卵は一つのかごに盛るな」という格言があるようですが、投資を行う際、分散投資をすればリスク回避につながります。国際化をする際、小売フォーマットを多角化するのではなく、あくまで分散投資という観点から多角化をすることがあります。

【国際化の理由その3】規制によって本国での拡張に制限がある場合

多くの国で“小売の拡張の制限”“小売業者による従業員の解雇の制限”“営業時間を規制”といった厳格な規則があります。日本においては「大店法」という法律が過去にあり、大規模小売店を出店しようと思った場合、その地域の中小小売業者にお伺いを立てなければならないという時代がありました。今はアメリカの要求により、この法律はなくなっていますが、このような話は日本だけではありません。例えばベルギーには「パドロック法」、フランスには「ロワイエ法」と呼ばれる同様の法律があります。

【国際化の理由その4】ユニークな小売フォーマットを所有している

ある小売業者がイノベーションを起こし、新たな小売フォーマットを発明したとしても、それが特許や著作権で保護されるわけではないので、競合他社はすぐにそれを模倣することが出来ます。ユニークな小売フォーマットをもつ小売業者がそのフォーマットの価値を最大限活かそうとするならば、他社の模倣に先んじて、外国市場に積極的に拡張することが一番となります。ファストファッションの「ザラ」は迅速な在庫補充システムを開発し、回転率が高く、すぐに買わないと商品が店頭からなくなるという感覚を消費者に与えていますが、この小売フォーマットを持って、積極的に海外に進出しています。

【国際化の理由その5】本国での競争が激しい

競争の激しい市場において、小売業者が成長の可能性が高く競争が激しくない他の市場へ参入することがあります。この例としてアメリカの「Kマート」があります。Kマートはディスカウント小売業においてウォルマートにトップを譲ることとなりました。その中でKマートは、ウォルマートと直接対決をして、アメリカ市場でカニバリゼーション(共食い)をおこすのであれば、対決を避け、国際市場へ拡張していこうということを選択。メキシコに進出します。ただ、この進出は失敗に終わっています。

【国際化の理由その6】本国の景気悪化

景気の後退は、早い段階で小売業者に大きなダメージを与えます。本国市場が経済の低成長期に入っている場合は、国際的な展開を行っていくことが求められます。

【国際化の理由その7】先発者優位

小売業が成功を収める条件として、良好な立地を見出すことが挙げられます。そのため、最初に良好な立地を獲得することが重要となってきます。

現在、日本の多くの小売業が海外に進出しています。全体的な理由としては、少子高齢化に伴う国内市場の縮小やオーバーストア化による日本市場での競争激化といった理由があるためでしょう。また上記に加え、成熟した小売フォーマットやユニークな小売フォーマットが海外へ進出していくということも、海外に進出していく小売業を個別で見る際、一つの指標となると思います。

(参考文献 変わる世界の小売業)

韓国の小売業

【韓国経済に影響力を持つ財閥】

韓国経済においては家族経営で支配される巨大企業集団である財閥が大きな力を持っており、1960年代初期から政府の特別な支援を受けて成長を続けてきました。例えば現代(ヒュンダイ)、三星(サムスン)、LG、SK、韓進、ロッテ、大宇といった財閥があります。また、この財閥の特徴として、参加にいろいろな産業にまたがる子会社を持っています。例えば、自動車で有名な現代であれば、建築・重工業・生命保険で子会社を持っており、小売業では現代百貨店を所有しています。またサムスンはサムスン電子だけでなく、三星生命・三星重工業・三星建設などを傘下に所有していて、小売業においてはイギリスのテスコと合弁でホーム・プラスというディスカウントストアを経営しています。財閥の中でロッテ・グループは特に小売業に強く、ロッテ百貨店、ロッテ・マート(ディスカウントストア)を所有。LGはコンビニのLG25やLGスーパーマーケットを所有しています。韓国経済を理解しようとした際、この財閥の存在が大きなポイントとなってきます。

【製造業の強い韓国における小売業の形態】

韓国は自然資源をほとんど所有しないため、1960年代から輸出部門を支援し製造業の成長を促してきました。一方、小売業に関しては特に国が支援することはせず、1996年に小売市場を完全自由化するまで国際競争からも保護していました。

上記のような流れの中で、韓国の過去からの経緯で、川上である製造業の力が強かったこともあり、委託販売システムや製造業者直営の販売代理店(フランチャイズ)への集中などの特徴を有するようになりました。小売業者ではなく製造業者が、品揃えの決定、販売員の派遣、委託システム下での商品展示、売れ残り商品の処分などの機能を果たしていたのです。韓国の百貨店やディスカウントストアが力をつけた今でも委託販売システムやフランチャイズ店の仕組みは、韓国小売業を理解する上で大きなポイントとなっていると言います。

【上位集中と小規模店舗】

韓国の小売市場は有力企業による集中度が高くなっていて、そのほとんどが財閥グループです。韓国の百貨店業界の上位3社を見ると、ロッテ百貨店、新世界百貨店(元三越→三星)、現代百貨店となっています。またディスカウントストアにおいてもイー・マート(新世界、三星の子会社)、ホーム・プラス(三星とテスコの合弁)、ロッテ・マートと上位3社が財閥系となっています。

その一方で家族経営のパパママ・ストアの割合が非常に高いということも特徴のようです。2000年度の小売店舗数だと、694,000店あり、人口1000人当たり15.1軒の小売店があることになります。日本が13.2、アメリカが6.1、イギリスが1.9、ドイツが1.9という数値になっていますので、小売店が過密していることが伺えます。

韓国の小売業は財閥の影響を大きく受ける一方で、小さな小売店の数も多いということが言えます。製造業の力が強く、委託販売や製造業者直営の販売代理店の仕組みがあることは日本の小売業に近しいところもあるように感じます。

(参考文献 変わる世界の小売業)

ビル・ゲイツのシンク・ウィーク

本日はビル・ゲイツの「シンク・ウィーク(考察週間)」に関して記載します。

【時代の先端を行き成長するための手法 「シンク・ウィーク」とは?】

ビル・ゲイツはマイクロソフトの経営者の時に「シンク・ウィーク(考察週間)」というものを設けていました。シンク・ウィークとは1992年から2008年にかけて、ビル・ゲイツが実施していたもので、彼は大量の企画書を持って、太平洋北西部に休みを取って、1週間引きこもっていました。その際、ただ休んでいるわけではなく、スタッフや家族と離れ、社会との関係性を断つことで、会社の未来にとって重要な問題を深く掘り下げ、会社の今後の戦略を再調整していたのです。

シンク・ウィークのアイデアはビル・ゲイツ一人の発想でした。この時間は娯楽に使うわけではなく全て仕事に使われます。このシンク・ウィークの期間、論文・資料を読み、眠り、食べること以外、何もしなかったようです。食事はキッチン・スタッフが届けてくれるようにして、書斎に冷蔵庫も用意。徹底的に思考に時間を費やす工夫をしていました。

この期間にビル・ゲイツは、ゲーム・映画・コミュニケーションなど様々なエンターテイメントが楽しめるオンラインサービス「エックスボックス・ライブ」構想にゴーサインを出したり、1995年に広告収入ベースの無料コンテンツが勝利することやユーザーがインターネット上でつながりたい人やサービスの名前を見つけられるようになることを予言した有名な内部文書「インターネットの潮流」を書きはじめたりしています。

マイクロソフトにおいても、多くの企業同様、重要な製品はチームワークから生み出されていましたが、会社のコアな部分はビル・ゲイツが握っていました。だからこそ、ビル・ゲイツ本人が、多忙な中、マイクロソフトの未来について沈思黙考し、構想を練る時間を作ることが重要だったのです。そのために、シンク・ウィークが設定されていました。

【シンク・ウィークによる社員のモチベーションアップ】

マイクロソフトのある幹部が「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記事において、シンク・ウィークを「世界でいちばんクールな提案書」と評しています。ビル・ゲイツがシンク・ウィーク期間中に、社員自らが書いた論文に目を通し、その論文の提案内容に目をとどめてくれれば、その社員のキャリアにとって最大の転機にもつながります。つまり、シンク・ウィークの設定が社員の士気を向上する効果も持っていたのです。

徹底的に自らを振り返り将来の方向性を設定するということは非常に重要なのでしょう。休日に、娯楽に興じるのではなく、そういった時間に充てるということは大切なようです。

(参考文献 ありえない決断)