アメリカの小売業

【アメリカ小売業の歴史】

南北戦争(1861~1865年)後、機械が手工業に代わり、大企業が成長していきました。それに伴い、1870~1916年の間に2500万人以上の移民がアメリカに流入し、移民と自然増を合わせて、人口が4000万人から1億人へと倍以上となりました。この人口増により、製品に巨大な市場を与え、労働者に職を与え、アメリカの経済は発展していきます。

また、1800年代末に鉄道システムがアメリカ大陸を貫いたことも重要な出来事でした。鉄道は1850年の約14,500キロメートルから1900年の約32万キロメートルに増加。列車が消費者を都市内へと集める役割を果たします。それにより、発展する都市部に巨大な百貨店が出現。シカゴのマーシャルフィールド、ニューヨークのR・H・メイシー、フィラデルフィアのジョン・ワナメーカーが百貨店の成長をリードしていきます。

なお、最初の大規模店舗である百貨店の発展を可能にしたものは産業革命でした。大量生産による商品は、手工業のような品質のばらつきがなく、製品が規格化され同一のものとなり、定価を設定することが可能になったのです。

さらに20世紀初頭、自動車の大量生産がもう一つの重要な変化をもたらします。個人で使える輸送手段を得たことによって、多くの家族が郊外に住み始めました。それに合わせて、小売業は郊外に位置するショッピングモールを作り始め、この人口の移動を追っていくこととなりました。

【アメリカで生まれたセルフサービス】

セルフサービスというコンセプトは、アメリカのスーパーマーケット業界で発生しました。このセルフサービスは「包装」「ショッピングカート」「自動車」という補足物が有効なものとしていきました。まず包装ですが、対面販売の際には手渡ししてしまえば包装は必要ありませんでしたが、顧客が自分で商品を選ぶため商品を保護する包装が必要になったのです。また、ショッピングカートは顧客が買い物かごより持てる商品量を増やしました。そして自動車は近隣のパパママストアからスーパーマーケットへ顧客を奪っていくことができたのです。セルフサービスの導入時における特徴として、店員に頼ることなく商品を自由に選べるということがありました。この点は比較的先進的な国でセルフサービスがローコスト、安売り戦略の一部とみなされているイメージと異なります。

【アメリカの小売業が他の国の小売業と異なる点】

まずアメリカの小売業が他の国の小売業と異なる特徴として挙げられることに、“政府の規制がほとんどない”ということが挙げられます。国によっては、店の営業時間を規制している国もあれば、大規模小売店舗を開業することが難しい国もあります。また、雇用に関してもヨーロッパでは不要になった従業員を解雇することは難しいのですが、アメリカでは、その点、規制されていません。

また、強力な製造業者による“ナショナル・ブランドの存在”が挙げられます。ディスカウントストアを営んでいる場合、自分の店がディスカウントストアだと消費者から認めてもらうためには、同じ商品で価格を比較してもらわなければなりません。消費者にとっては、よく知らないメーカーのものではなく、ブランドがついた商品だけが比較可能な尺度となります。アメリカには、ほとんどの商品カテゴリーでよく知られているナショナル・ブランドがあるため、消費者に価格を比較してもらうことが可能となります。

3番目に“短いチャネル”ということが挙げられます。アメリカの小売業者は大規模な全国チェーンが多数あることから、総じて製造業者から直接商品を仕入れています。卸売業者の役割は、製造業者から購入する場合にある程度のロット数で購入しなければならないところ、値段は少し高いものの小ロットで商品を購入することができることです。大規模なチェーン展開が小ロットで商品を買う必要性をなくし、チャネル段階数を減らしているということでしょう。

4番目にアメリカの小売業者のバイヤーの役割です。アメリカでは多くの会社で「仕入れの役割」と「販売の役割」が完全に分離されています。バイヤーが販売部門を訪れてもそれは販売するためではなく、情報を得るためです。アメリカのバイヤーは供給者の製品ラインの品目を個々に調べ、個人の消費者と同じように、品目ごとに「イエス」「ノー」で購入の可否を決定しているのです。このようにバイヤーが自立した存在であることは他の国ではなく、アメリカでの特徴となります。

アメリカの小売業というとスタンダード的なイメージがありますが、その在り方には独特なものがあるようです。様々な国において、歴史や文化が絡まって、その国ならではの小売システムが作り上げられているということでしょう。 (参考文献 変わる世界の小売業)

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