ドイツの小売業

本日はドイツの小売業に関して記載します。

【ドイツの小売業を取り巻く環境】

ドイツは西欧で最も人口の大きい国で、GDP順位も世界で第4位の国となっています。小売業に関しても、ドイツの主要な小売業者の5社が世界の小売業売上高ランキング(2010年度)の20位以内に入っています。例えば、世界第4位には29か国において様々な事業を展開する“メトロ”、10位にはハード・ディスカウントやスーパーマーケット業態を展開する“アルディ”がランキング入りしています。その一方、今日のドイツは人口に比べて小売店が多すぎるオーバーストアの状態になりつつあり、小売業の生き残りをかけた戦いが熾烈な状況にあります。

【東西ドイツ統一がもたらした小売業への影響】

1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、翌10月に東西ドイツが統一されました。この出来事はドイツの小売業界に大きな影響を与えたと言います。それは東ドイツ国民の購買力がもたらした一時的な売上増、という影響です。統一前の東ドイツ国民は、国営の小売店からしか消費財を買うことが出来ませんでした。併せて贅沢品は資源の浪費と見なされており、購買できる品物は多くありませんでした。そのため、東ドイツ国民は多額のお金を蓄えるようになっていたのです。東西ドイツが統一する直前の1990年の前半、東ドイツ国民は「コンシュマー・ツーリズム」を標榜し、西ドイツまで買物のために旅行をしに出かけるほどで、西ベルリンの小売業の売上は1991年の上半期には24%増を記録したと言います。このように、東ドイツ国民の需要の高まりは一時的に好景気をもたらしました。しかしながら、それは短期的なものでしかなく、1992年、1993年と景気は後退していきました。

【ユーロ・ショック 消費支出の減少】

2002年にドイツの通貨がマルクからユーロへと移行しました。この際、「ユーロ・ショック」と呼ばれる消費支出の減少が起こりました。これは消費者がマルク建てよりもユーロ建てのほうが、製品が高くなっていると感じたために起こりました。実際、いくつかの小売業者はユーロへの移行に伴い、値上げを行ったのです。その一方で、アルディなどのハード・ディスカウント業態は低価格戦略をとります。このことにより、ドイツの食品雑貨の小売分野の構造は低価格構造へとなだれ込み、ドイツの小売業者はヨーロッパの中でも最も低い利益率の下でビジネスを行わなければならなくなりました。

【ドイツ政府による制度・規制】

ドイツはヨーロッパの中でも小売業に対して厳しい制度や規制がある国の一つと言われています。それら制度・規制に関して以下記載します。

■労働組合の影響力

労働組合の代表者が取締役会に加わることを義務付けています。また、大企業の監査役会の半分は労働者と組合代表者が占めることが求められています。これにより企業の経営者は自らの地位を維持しようとすると、過度なまでに労働者に影響されるという結果となっています。

■閉店法による営業時間の縛り

1956年に閉店法が制定され、2003年に緩和されましたが、小売店の営業時間が規制されています。平日は午前6時~午後8時までで、日曜日の営業は認められていません。

■包装法による小売業者への負担

ドイツでは、使い捨ての飲料の缶、ガラス瓶、プラスティックボトルなどの容器に預託金を課すことが要求されています。そして飲料水のサプライチェーンは連携して容器の回収システムを確立する責任を負っています。メトロなどの食品雑貨の小売業者は使い捨て容器の使用を禁止していますし、アルディは回収から最終処分にかかる費用が少ない独自の容器を導入しています。この法律により、一部の企業はドイツ市場への参入を見合わせているといいます。

近年、ドイツ統合やユーロ導入といった“仕組みの大変化”により、ドイツの小売業界は影響を受け、形を変えてきました。このことは、国や社会の制度・仕組みの変化により、消費環境が大きく変わり、小売業もその影響を受けることがあるという事例の一つだと考えます。

(参考文献 変わる世界の小売業)

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