本日はIBMのベアハッグ作戦に関して記載します。
【ベアハッグ作戦とは】
1990年代初め、IBMの得意とするメインフレーム(企業の基幹業務などに利用される大規模なコンピュータのこと)からパーソナル・コンピュータが主役になる動きの中で、赤字が続き、市場シェアを失いつつありました。その様な中、1993年、IBMのCEOにルイス・V・ガースナーが就任。そして彼は後に「ベアハッグ作戦」と呼ばれる施策の実施を行いました。この作戦はまずガースナーが50名のトップ幹部たちを集めたミーティングを実施し、3カ月かけて一人一人が最低5社の大口顧客を訪問するように求めました。彼は幹部たちに、顧客の話を聞き、顧客に心からの愛着を持っていることを態度で示すように求めました。場合によっては、実際に相手を抱きしめても良いとまで言っていました。そして、彼は幹部たちに顧客の話を聞いて気づいたことを直接報告するように求めたのです。
【ベアハッグ作戦による効果】
1960年代のIBMは顧客サービスがとても優れていたようですが、時代の流れとともに、ガースナーがCEOに就任したころには内紛の起きる政治的で官僚的な組織となり、顧客志向が不足するようになっていたようです。その様な状況だったので、ガースナーが聞き取り調査をした顧客たちはIBMへの不満をひどく募らせていたそうです。
ガースナーは、この顧客から聞き取った話をもとに、メインフレーム・コンピュータの価格を下げ、会社が所有していた高価な美術コレクションを含む生産性の低い資産を売却します。また、当時IBMは組織の分社化の動きがありましたが、メインフレーム、パーソナル・コンピュータ、ディスクドライブ、半導体といったコンピュータの様々な知見が同社に蓄積されているということを踏まえ、分社化を行わない決断を下します。併せて、当時IBMの事業の中であまり重視されていなかったコンサルティング部門に力を入れるようになっていったのです。
ガースナーが実施した「ベアハッグ作戦」によって、“IBMが顧客重視という基本に立ち返る”という目標を達成することが出来ました。また、コンピュータ業界の門外漢であったガースナーが、市場についての生の知識得て、ビジネスの勘所を押さえることが出来るようにもなりました。
IBMは顧客に焦点を絞り込むことによって、今日もなお、革新的な仕組みの導入に成功していると言います。
「ベアハッグ作戦」は失われつつあった顧客視点を取り戻した経営判断だったと言えます。ガースナーはCEOになった際、コンピュータ業界についての詳しい知識は持っていませんでしたが、政治的・官僚的な組織になってしまってきていることを感じ取って、改革すべき勘所を押さえて、改善策を実施したのでしょう。大きな組織が常に顧客視点を持ち続けるにはどうしたら良いのか、IBMの「ベアハッグ作戦」は示唆に富んでいるように感じます。
(参考文献 ありえない決断)