ノードストロームのタイヤ伝説

本日はノードストロームの「タイヤ伝説」に絡んで記載します。

【タイヤ伝説】

ノードストロームは全米最大の高級デパートかつ有数の大型チェーンデパートです。タイヤ伝説とは、1970年代にアラスカ州のフェアバンクスのノードストロームで起きた出来事となります。フェアバンクスのノードストロームはタイヤ販売店の居抜き物件でした。ノードストロームが移転してきたばかりのころ、ある顧客が「ここでタイヤを買った者だが」と言って来店したと言います。そして返品をしたいと言ってきたのです。しかしながらノードストロームではタイヤを販売したことなど一度もなかったのです。普通に考えれば返品はお断りをするところでしょうが、この店にいた販売員は、その顧客への返品を受け付けたのです。

そのような出来事は他にもあり、例えば、ある店員は顧客が求めるサイズの在庫品がなかったので、通りの向こうの競合店まで走って行って買ってきたり、顧客が洗濯表示通りに洗濯しなかったために、縮めてしまったシャツを引き取ったり、ということを行っています。日本ではあまり見られない対応だと思います。

【返品自由のノードストローム】

ノードストロームは、顧客がいつ買ったか、レシートの有無にかかわらず、理由を問うこともなく、事実上あらゆる返品を受け付け、払い戻しに応じるという方針を採っています。その決断を下したのは1929年の大恐慌の影響で経営が苦しい状況に置かれている時でした。創業者の息子たちであるエバレット、エルマー、ロイドがその決断を下したのですが、その理由が、何と、いかにも理屈に合わない理由で返品したがる顧客への対応が嫌だったから、と言います。小売業にとって返品はどうしても発生してしまうものです。それならば、一切顧客と争うことをしないと決め、販売員にも絶対に争わないように申し渡したのです。エルマーは「われわれは販売員に『お客様が満足していない場合、当店に来ていただき、望み通りのサービスを提供するように』と伝えたのだ」と語っています。ノードストロームの新入社員たちは、勤務の初日に「規則その一:あらゆる状況において、よき判断を下すこと。以上。付則なし」というルールを教え込まれると言います。

また、ノードストロームでは従業員に自由裁量が与えられています。

このような方針により、権限を与えられた従業員と、従業員が顧客の立場に立って全力で解決策を探すよう導く企業文化が培われているのです。この風土によりタイヤ伝説が一例として生まれ、そして、大恐慌を乗り越え、今のノードストロームの地位が作られているのです。

【行動経済学の観点からも整合性のあった返品方針】

ノードストロームの返品方針は一見合理的でないように見えます。しかしながら、この返品方針には十分な効果があると、多くの調査研究でも明らかになっているようで、このことを証明した研究を発表した行動経済学者たちはノーベル賞を受賞しているといいます。返品の壁を低くすることで、最も明快にもたらせる効果は、人を買う気にさせることができるということだと言います。人間は間違った行動を最小限にとどめたいと考える生き物です。すなわち、返品ができることで、購入によって失敗したという後悔が少なくなり、購買意識を喚起することができるのです。

【結びとして】

ノードストロームのような返品方針は、長年、企業風土として培ってきたもので、簡単にできるものではないと思います。しかしながら、この方針は間違いなく同社の強みとなっています。顧客サービスをいかに高めるかという点でノードストロームの例は非常に面白い例だと思います。

(参考文献 ありえない決断)

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