価格プロモーション(値引き、特売)を行う際の課題

本日は価格プロモーション(値引き、特売)を行う際の課題に関して記載します。

 店舗内で直接的に顧客に購買を働きかけるマーケティング活動を、インストア・プロモーションと言いますが、その手法の一つに価格プロモーションというものがあります。価格プロモーションは、一定期間、定番価格から価格を下げること消費者に割安感を与えることを言い、つまりは“値引き販売”“特売”のことを言います。時間を限って商品の価格を下げて「今買えばお得」「今買わないと損」という消費者の購買意識を高めるのです。そのようなことから、価格プロモーションは売上を拡大する手法として、強い短期即効性を持っています。しかしながら、この方法を採ることには注意しなければいけないポイントがあります。

ポイント1 内的参照価格の低下

 値引きによって低価格の値段が消費者に記憶されてしまい、元の定番値段に戻ったときに消費者がその価格で商品を購入すると損したという感覚が強くなり、定番価格での購買が阻害されてしまいます。そのため、延々と同じレベルの価格プロモーションを実施しなければいけなくなる危険性があります。

ポイント2 ブランド・イメージの低下

 消費者は、過度な値引きが実施される商品に対して、「品質が悪い」「人気がない」というイメージを持つようになります。

ポイント3 需要の先食い・先延ばし効果

 消費者による需要の前倒し、買いだめが起こり、特売時への販売の集中が起こる可能性があります。そのため、長期的に見て平均売価を引き下げる可能性があります。また逆のパターンとして、値引きを待って消費者が購買しないということもあります。

ポイント4 需要の共食い効果

 同じカテゴリー内でAというブランドから値引きを行っているBというブランドへ買われる商品がスイッチしただけという、ブランド間での顧客の取り合いが起こっただけという結果につながることがある。

ポイント5 営業利益からの観点

 値引きにより営業利益の低下が考えられます。

 店内での販売促進活動(インストア・プロモーション)は値引き販売以外にも様々ありますが、どうしても値引き販売に偏る傾向があります。値引き販売を行う際には上記のようなデメリットが発生することを踏まえておくことが必要そうです。

 (参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

ブランド・イメージの低下

ブランド・イメージの低下に関して記載します。

 消費者は、過度な値引きが実施される商品に対して「品質が悪い」「人気がない」というイメージを持つようになるそうです。そのことに関して、ムーア、オルシャヴァスキー(1989)が次のような実験を行っています。

 実験内容は、学生を対象に「馴染みのある既存ブランド」と「馴染みのない新規ブランド」の男性用ワイシャツに関して、値引き額を5%、30%、75%としたときに、それぞれ購入したいと考える比率を計測したものです。実験の結果、馴染みのないブランドの選択確率が5%の時0.42、30%の時0.61、75%の時0.32となりました。大幅な値引きをすると馴染みのないブランドは購入したいという反応が減ってしまうという結果です。

 馴染みのあるブランドでは、値引きは購買意欲を高める結果となっていますが、馴染みのないブランドの場合は「品質が悪いから安い」「人気がないから安い」という判断をされてしまったということです。

 例え馴染みのあるブランド商品だったとしても、値引きの回数を重ねると、消費者に通常価格が高いと感じさせてしまいます。値引き販売を行う際、この点は認識しておいた方がよさそうです。

 (参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

フェイシング

本日はフェイシングに関して記載します。

スーパーやコンビニに行った際に陳列棚にずらりと並ぶ商品の数々を見ます。それらの商品はパッケージを正面から見た面がお客様から見えるように陳列されています。どのような商品でも「商品の顔」としての面=フェイスがあり、このフェイスをどこに、いくつ並べるかを決めることをフェイシングといいます。また、パッケージを正面から見た面をメイン・フェイスといいますが、このメイン・フェイスをお客様から見えるように陳列することが基本です。

一般的に商品のフェイスを増やせば売上も増えていきます。そうは言ってもフェイスの数を増やせば増やしただけ比例的にその商品の売上が増えていくのかというとそうでもなく、フェイス数の増加に伴って売上は逓減していきます。例えば、同じ2フェイス増でも、2フェイスから4フェイスにした時の売上増よりも、4フェイスから6フェイスにした時の売上増の方が売上の伸びは小さくなります。ここが面白いところで商品陳列数を闇雲に増やせば増やしただけ、売上が比例的にあがるというわけではないのです。このことを「フェイス効果逓減の法則」と呼びます。

商品の品切れによる販売機会の損失や、過剰在庫による坪単価の減(スペース生産性の低下)をなくし、どの商品も店頭在庫に対して同じ割合で売れるようにするには、商品ごとのフェイスの配分を行う際に、フェイス数をその商品の販売実績に応じて決定することが基本となります。例えばAブランドとBブランドの売上比が5:1ならば、商品陳列のスペースの割合も5:1を基準とします。しかしながら、店ごとの品揃え方針もあるため、これはあくまで基準となります。

フェイシング効果逓減の法則は商品陳列を行う際のテクニックです。消費者の側として、普段何気なく見ている商品陳列に関しても、上記のような視点で見ると買い物をする際、楽しさが増えると思います。

※なお、フェイス数の増減が売上に及ぼす影響を「フェイス効果」、フェイス数の増減によって売上が変化する比率を「フェイス弾力値」と言います。

(参考文献 インストア・マーチャンダイジング)

小売業の倒産件数と消費税増税

本日は小売業の倒産件数と消費税増税に関連して記載します。

消費税が1997年4月に3%から5%に引き上げられて以来、2014年4月に17年ぶりに8%へと引き上げられます。これに関連して、帝国データバンクでは前回の消費税引き上げ時の小売業の倒産動向、及び2008年度上半期以降の小売業の倒産動向について分析を行っております。

まず、前回の消費税増税後の小売業の倒産動向を年度半期ベースで見てみますと、実施直後の1997年度上半期が1239件、96年度下半期が1250件。消費税増税後の小売業の倒産件数はほぼ横ばいの推移でした。しかしながら、その後の倒産件数は97年度下半期1402件、98年度上半期1454件と増加しました。小売業を業界別に見ると「アパレル」や「家電」業界での倒産件数が目立っていました。

続いて近年の小売業の倒産件数を見てみますと、リーマンショックの影響により08年度下半期に1155件に達したものの、09年12月に中小企業金融円滑化法が施行され、10年度上半期には979件まで縮小しました。11年度下半期には、内需の低迷により飲食店や食品販売が落ち込んだことに加え、東日本大震災の影響により、1048件へと再び増加。その後は減少傾向に転じ、12年度下半期は5半期ぶりに975件と900件台になりました。13年度上半期は1021件と再び増加しています。一方、各年度半期に発生した全倒産に占める小売業の構成比は09年度下半期以降、上昇傾向にあります。13年度上半期は08年度上半期以降最高となる19.2%を記録。09年12月~13年3月に中小企業金融円滑化法が施行されていましたが、その法律が施行される中でも小売業は厳しい経営環境に置かれていたということが言えます(中小企業金融円滑化法:中小企業や住宅ローンの借り手が金融機関に返済負担の軽減を申し入れた際に、できる限り貸し付け条件の変更などを行うよう努めることなどを内容とする時限立法)。また、近年の小売業の倒産件数を業界別推移で見ると、東日本大震災の発生を境に「飲食店」や「スーパー」の増加傾向が目立っています。

スーパーの経営においては厳しい状況が続いており、全国のスーパーの売上高は既存店ベースで、97年以来16年連続で前年を下回り、市場は縮小が続いています。全国のスーパー770社の12年度業績では、69%が減収、19%が赤字だったと言います。食品や日用品の厳しい価格競争が長年続いていて、力尽きる中小スーパーが増えてきているそうです。このような状況の中で懸念されるのが、消費税増税後の消費の冷え込みであり、小売業の倒産件数が増える可能性があります。

消費税増税後の具体的な対応は各社とも手探り状態で、日本経済新聞の2013年小売業調査では、増税への備えでは「価格競争力のあるPBを増やす」が22.8%と最も多く、次いで「既存店の改装を増やす」(24.4%)が続いていました。小売り各社の間では「増税対応への特効薬を見出すのは難しい」との見方も多いようです。消費税増税後、消費マインドが冷え込み、節約志向に対応した低価格競争が再び過熱する可能性もあります。

前回、消費税増税が行われた97年以降、山一證券の経営破綻やアジア通貨危機があった影響もありますが、小売業の倒産件数は増加しました。経済的な背景が当時とは異なりますので、消費税が増税されたからと言って小売業の倒産件数が増えるわけではありません。しかしながら、消費税増税が消費環境の一つのターニングポイントとなって、小売業の動向を変化させていく可能性は十分ありえると言えるかもしれません。

(参考文献 「週刊ダイヤモンド2013 12/7」「帝国データバンク」)

新潟戦争とCGC

本日は新潟戦争とCGCに関して記載します。

2003年。長岡駅前にはイトーヨーカ堂とダイエー、駅から離れたところにジャスコがあり、原信という長岡市を本拠地とするスーパーもありました。そこにスーパーセンター(非食品中心の総合ディスカウントストアと食品スーパーが融合した店舗のこと)のベイシア(群馬県)とPLANT(福井県)、地元のスーパーのウオロクが一斉に長岡市の半径10キロメートル以内に出店。それをきっかけに、かつてないほどの厳しい値下げ競争が始まりました。その競争の激しさは、“豆腐1丁(300~400g)8~18円”“500mlペットボトル飲料69円”“もやし1パック18円”というものでした。新潟戦争ではスーパーで一番利益を確保していた日配品の価格を叩きあったと言います(日配品:工場で生産されて毎日配送され、数日中には消費されるものをいい、牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの洋日配、豆腐、漬物、納豆などの和日配がある)。

原信に関しては「日本一のサービスの提供」を目指した企業で、そもそも低価格での販売を武器にするというスタイルではありませんでした。例えば1998年からレジでの商品の袋詰めサービスを続けてきていました。この袋詰めに対する熱意は、レジ係が処理スピードを落とさずに、一人で会計と袋詰めを同時にこなせるように、専用のショッピングカートや買物袋、袋詰め台まで開発するほどのものでした。しかしながら、新潟戦争の勃発で値引き合戦が起こったことで、その渦中に巻き込まれ、1998年当時約4%あった経常利益率は1.5%まで落ち込んでしまいました。

この経験を下に原信は自分の城は自分で守るしかないという発想で自社PBの開発に至ります。2013年に原信とフレッセイ(群馬県)が経営統合し、アクシアルリテイリングが設立されました。両社はともに仕入れ機構CGCのグループの一員で、以前から交流がありました。CGCは全国各地の中小規模の独立したスーパーによって構成される、さまざまな事業活動を協業するために組織されたチェーンで、商品開発・調達、物流システム、情報システム、営業支援の4つをグループ活動の柱としています。そして「商品こそすべて」という事業理念を掲げて、創業当時から一貫して商品開発を重視してきました。代表的な加盟社はラルズ、リオン・ドール、スーパーマルモ、三徳、Olimpic、成城石井、オギノ、カネスエ、マルヤス、フレスタ、西鉄ストアなど、全国220社、売上高は総計4兆円にも及び、PB開発でもメーカーとの交渉においてイオンやセブン&アイにも対抗できる規模を持っています。それでもアクシアルリテイリングとしてはCGCのPBだけでは競争力として十分ではなく、自社PBを強化する必要があると考えているようです。上記の新潟戦争での価格競争や、少子高齢化で商環境が厳しくなる中で、際立った特徴を持った会社以外は、売場面積の広さで競争力が決まってしまうという考え方が基になっているようです。

商品のコモディティ化が進み価格競争に陥った際には、物流機能やPBなどで利益を創出しやすい企業にしたり、自社の強み・特徴を出して差別化を図り、他社との競争に打ち勝っていくことが必要となってきます。新潟戦争を経た原信の動きはそのことの必要性を物語っているように感じます。

(参考文献 「週刊ダイヤモンド2013 12/7」「1からのリテール・マネジメント」)

オムニチャネルに関して

本日はオムニチャネルに関して記載します。

オムニチャネルとはリアル店舗やオンラインストアを始めとした、あらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合すること、および、そうした統合販売チャネルの構築によってどのような販売チャネルからも同じように商品を購入できる環境を実現することです。つまり、リアル店舗とネットの境目をなくし、顧客と様々な接点を持つことで、いつでもどこでも同様に買物ができる環境を作るということになります。オムニチャネルでは、実店舗、オンラインモールなどの通販サイト、自社サイト、テレビ通販、カタログ通販、ダイレクトメール、ソーシャルメディアなど、あらゆる顧客接点から、同じような利便性を持って、商品を注文・購入できるという点、および、ウェブ上で注文して店舗で商品を受け取ったり、店舗で在庫がなかった商品を即座にオンラインでの問い合わせで補ったりできるような要素が含まれています。

このオムニチャネルの動きが、ショールーミング(リアル店舗で商品を見て、実際に買い物をするのは価格の低いネットで買う)の動きに対抗するかのように、活発化してきているようです。セブン&アイ・ホールディングスはコンビニから百貨店までグループ全社で取り扱う約300万商品をネットで購入できるように決め、今後100億円を投じて在庫情報を一元化するシステムを構築していきます。イオンでは2013年12月20日以降、店内端末を利用し、店内で取り扱っていない商品を自宅や店頭で受け取ることが出来るサービスを開始。当面は総合スーパー約500店で展開する予定ですが、2016年度までに食品スーパー約1100店とコンビニのミニストップやミニスーパーのまいばすけっとなど約2500店で商品の受け取りを可能にする予定です。ルミネでは2013年9月末、自社ECサイト「アイルミネ」をリニューアルし、スマホサイトを開設して、いつでもどこでも商品を買えるようにしました。また、ショップ販売員によるコーディネート画像も充実させ、一部ショップについては店舗の在庫状況を確認できるようにしました。大丸松坂屋百貨店においては2013年11月中旬、アパレル大手のワールドの23ブランドの商品をいつでも販売できるサービスを開始。自宅や指定した店舗で商品を受け取れ、店舗で試着してから購入することが出来ます。

オムニチャネルにより、リアル店舗をプラットホームにして、様々な販売チャネルのハブとして機能させていき、売上の嵩上げを狙っていく、と言ったところが期待できるということでしょうか。O2Oの動きが活発化する中で、オムニチャネルの動きを含め、今後のリアル店舗にとってネットの活用はより重要な位置づけになってくることが想定できます。

 (参考文献 「週刊ダイヤモンド2013 12/7」  インターネットから「オムニチャネルとは-IT用語辞典バイナリ」)

売場内の顧客誘導

本日は売場内の顧客誘導に関連して記載します。

店舗の売上の構成は“売上高=来店客数×客単価(買上金額)”となります。そのうちの客単価の構成を見ると“客単価=動線長×立寄率×視認率×買上率×買上個数×商品単価”となります。そこから、来店されたお客様にどれだけ多くの商品を買ってもらえるかには、店舗内をどれだけ歩いてもらえるかということがポイントとしてあり、そのためには売場の配置・位置の工夫であったり、店内の見通しを良くしたりということが重要となってきます。また、お客様が店舗内を歩く過程において、個々の売場にどれだけ立寄ってもらえるかということもポイントであり、POPやディスプレイによる情報提供やマグネットポイント(磁石のように顧客を引き付ける売場、商品)の設置や関連陳列(CMD)などの取り組みが必要となってきます。

売場レイアウトを構成するに当たり、顧客を売場内誘導するための経験法則として“ワンウェイ・コントロール”というものがあります。これは店舗レイアウトの工夫によりお客様の歩く距離を増やし、個々の売場に立ち寄ってもらえるようにする手段です。これを実施するに当たり、まず、通路上の顧客の大部分をより奥へ、長く誘導するために物理的に工夫することが必要です。例えば通路の在り方として、“お客様がカートを押したり、かごやお客様自身が自分のバッグを持ったままで、お客様同士が通路内ですれ違えるだけの、幅の広さがあること”“什器が凸凹通路に飛び出したりしていないこと(まっすぐな通路)”“曲がり角が少ないこと”“売場内の平均照度よりも通路上の照度の方が、やや明るいこと”“見通しを良くするために障害物をなくすこと”ということを行っていきます。上記のようなことを実施することにより、来店されたお客様がストレスを感じず快適に店内を回遊しやすくなる、なおかつ、広々とした感じ(豊富な品揃えがあると感じる)を持ってもらえる、という効果が期待できます。上記の他にワンウェイ・コントロールを実施するに当たり、売場の商品の関連で、顧客を次の売場へ誘導するような工夫も行っていきます。例えばマグネットポイントの考え方として、売場には“陳列されている商品が魅力を持っており、それだけでお客様を引き付ける”磁石のようなポイントが必要となってくるのですが、磁石となる売場や磁石となる品目を計画的に配置していくことが重要となってきます。例えば顧客を奥へ誘導するために店舗の壁面に沿って出入り口側の壁面以外を取り囲むように“消費量が多く、消費頻度が高い”商品を配置します。食品なら生鮮食品(野菜・魚・肉)、日配品、家電なら大型家電ではなく小型家電、乾電池、寝具なら布団よりも、毛布、シーツや枕カバーやパジャマ、ネグリジェ、といった具合になります。また通路の突き当りにも磁石となる売場を配置し、通路上の顧客を遠方から奥へ向けて、ぐいぐいと引き寄せていくことも重要となります。ここに配置する商品は、“消費量が多く、消費頻度が高いということを前提とした、急激に売れ筋となりつつある商品、またはトレンド商品、華やかさ・季節感あふれる商品”となります。またエンド陳列(ゴンドラ陳列の両端)も重要となり、主通路を歩いているお客様を副通路に誘導する役割を持っています。ここには“一般に周知されていないPBを一挙に知ってもらうために短期間に特価で商品提供する”“季節商品”“必需品・生活用品ではあっても、低購買頻度商品、あるいは通常の価格帯よりも値段の高いい商品を臨時に短期間クローズアップ”“特価品”“NBでメーカーが一気に知名度を上げたい新製品の特価”などを配置します。食品のゴンドラ線のエンド陳列が非食品でも問題ありません。実際に、全然関連しない商品を陳列するほうが、際立って顧客に注目してもらえるようです。

普段、スーパーで買い物をすると上記のような店舗レイアウトが行われています。そういった観点で買物をすると、また別の買物の面白さが出てくるようにも思われます。

(参考文献 店舗レイアウト)

無印良品のスマホアプリを活用したCRM施策

本日は無印良品のスマホアプリを活用したCRM施策に関して記載します。

以前、良品計画は会員カードを導入しポイントが付与することは実質的な割引となると考えていました。そのため会員カードを導入しておらず、良品計画は本格的なCRM施策に踏み切れずにいました。しかしながら、消費増税に伴い消費意欲の減退が想定される中で、CRMの不在が喫緊の課題となってきました。CRMは、会員カードを通じたデータベースなどを用いて各顧客の詳細な属性情報や購買履歴、問い合わせやクレームの内容などを記録・管理し、問い合わせに速やかに対応したり、その顧客に合った商品を紹介したり、という活動のことを指します。消費増税後を見据え、価格優位性がない無印良品にはCRMの取り組みにより顧客との関係性を強固にすることが必要だと考えられるようになってきたのです。

そして2013年5月15日に良品計画はスマートフォン向けアプリ「MUJI passport」をリリースしました。MUJI passportはアプリ化された会員カードで、アプリ提供開始から約3週間でダウンロード数が35万件を超えたと言います。このアプリを立ち上げると画面の下部にバーコードが表示され、そのバーコードを利用者が店舗で買物をするときに提示し、店員に読み取ってもらうことで、購入金額に応じて「MUJIマイル」が貯まります。

また、アプリを使って利用者が様々な情報を紐付けするとマイルが貯まりやすくなるようにしています。例えばMUJI.netメンバーの情報をアプリに登録すれば、通販サイトで購入した時に取得したマイルと合算できますし、MUJI passportにFacebookやTwitterといったソーシャルメディアのアカウントを登録することによってもマイルが貯まります。また、良品計画が発行するクレジットカード「MUJI Card」のカード番号を登録すれば、優良顧客と判断されて、よりお得なクーポンなどがもらえるようにもなっているそうです。良品計画では、このようにオンラインとオフラインの購買行動、クレジットカード会員情報、ソーシャルメディアアカウントをMUJI passportというプラットホーム上ですべてつなぎ合わせ、顧客の利用動向を一貫して把握するようにしていくようです。

この会員カードをアプリしにて、そこをハブとして様々な情報を結び付けてこうとする発想が面白いと思いますし、わざわざ会員カードを持ち歩かなくてもいいので、利用者にとっても便利なものだと思います。良品計画はこの会員カードアプリを活用し、顧客データを分析することでアンバサダーを発見できる可能性もあると考え、同社の根強い顧客による口コミ効果につなげていくことも考えているようです。アプリの提供開始直後、利用者の購買単価が全体平均の2倍になったという結果も出ているようです。良品計画の会員カードのアプリ化は今後のCRMの方向性の一つとしての試金石であるような気もします。

(参考文献 最新マーケティングの教科書)

100円ショップ「セリア」のPOSシステム活用

本日は100円ショップ「セリア」のPOSシステム活用に関して記載します。

2012年度、100円ショップ大手各社はおおむね増収となっていて、各社が都市部の商業施設に出店しました。首位の大創産業(ザ・ダイソー)は2012年12月にはブラジル・サンパウロ市に現地1号店を出店。積極的な海外展開により業績を底上げしています。100円ショップ2位はセリア。セリアは2008年度にキャンドゥを抜いて2位に躍り出た企業です。同社はデザイン重視の商品を集め、女性に人気となっています。特徴は質の高い品揃えとPOSシステムを利用した効率の高い経営です。

POSシステムとは、光学式自動読取方式のレジスタにより、単品別に販売情報を収集・蓄積し、様々な用途に利用するものです。最大の特徴としては“単品レベルでの管理”が可能になる、つまり、商品ごとに「いつ」「いくらで」「いくつ」売れたかというデータがリアルタイムに把握できることです。

セリアは2004年に100円ショップ業界でいち早くリアルタイムPOSシステムを導入し、売れ筋商品と死に筋商品を把握。売れ筋商品を中心とした品揃えを行うことで、商品の回転を速め、在庫コストを減らし、経営効率を高めました。ザ・ダイソーとセリアでアイテム数を比較すると、ザ・ダイソーが約7万点あるのに対し、セリアは1万9000点と、アイテム数は少なくなっていますが、品揃えの質を高めることにより競争力をつけているのです。

同社が品揃えの基準としていることに「お客さま支持率」というものがあるそうです。これは、店舗ごとに各商品の販売数を1日の客数で割って算出するもので、この数値を持って商品ごとに全店の平均支持率と比較します。そして、低い支持率の商品の取り扱いをやめ、高い支持率の商品の類似商品を即座に増やすということを行っていきます。POSデータを品揃えや売価設定などに活用する際にPI値を見るというものがありますが、まさしくそう言った考え方を基にして、市場の変化に適切に対応し品揃えを変えているということでしょう。

(PI(Purchase Incidence)値とは、ある一定(1000人あたり)の購買客数の中で当該商品を購買する確率を表す指標。自社内の同カテゴリー商品の比較や、自社と他社・全国的なPI値との比較を行うことで、売れ筋分析、商品陳列を行う際の棚割り、今後の商品戦略の策定などに活用します。PI値には「金額PI」と「数量PI」があります。金額PIは『総販売金額/レジ通過客数(レシート枚数)(1000人単位)』で表せ、数量PIは『総販売点数/レジ通過客数(レシート枚数)(1000人単位)』で表せます。)

セリアがPOSデータの活用をしっかり行ったことでキャンドゥを抜けたように、所有している仕組みを有効活用することが店舗の強みにつながるということが言えそうです。

(参考文献 「週刊ダイヤモンド 2013 12/7」「日経MJトレンド情報源2014」TAC中小企業診断士講座)

ビッグデータを活用した各社の対応

本日はビッグデータを活用した各社の対応に関して記載します。

ビッグデータとは、従来は扱うことが難しかった、大量かつ多量なデータのことを指します。大量のデータを分析することで同時に購入される頻度の高い商品を明らかにしたり、一人ひとりの顧客に向く商品を薦められたり、といったことができます。

ローソンは一人ひとり異なるIDを付与したポイントカードを活用して、購買データを収集し、POSデータだけでは分からない個々人の購買行動を分析していると言います。例えば「プレミアムロールケーキ」という売れ筋スイーツよりも「エッグタルトパイ」の方が、同じ人が複数回購入していて、リピート率が高いということがわかりました。更に来店頻度が高い顧客ほど「エッグタルトパイ」を購入する割合が高いことを突き止めたのです。このことからエッグタルトパイを棚に陳列すると、リピート率の高い顧客の来店促進につながることが期待できる、ということが判明しました。

ビッグデータの活用は急速に広がっていて、企業が連携したり、業界の枠を超えて共同したりする例も出てきています。その例としてローソンが展開する「Ponta」やカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)系の「Tカード」などが挙げられますが、運営会社が加盟店での消費者の履歴を収集し、加盟企業の要望に応じてマーケティング分析をしたり、消費者に商品やサービスの推奨をしたりしています。CCCはTカードの利用履歴などから、缶コーヒーの購買者がカー用品店、ガソリンスタンド、レンタカー、駐車場を利用する頻度が高い傾向を発見。データから見て缶コーヒーの購入と「運転免許の所有」に強い相関関係があることを見出したと言います。

ヤフーはアスクルを買収していますが、両社は2012年10月より直販サイト「ロハコ」をスタートさせています。ロハコは主に30~40代の働く女性を対象にしたサイトで、日用品を中心として注文した日にその商品が届くことを売りにしています。ロハコのビッグデータの活用方法としては、商品ページが閲覧されているのに購入に結び付いていないデータを確認したら価格設定の変更を行ったり、検索にかからない商品が出たらそれをリスト化し仕入れに活かしたりしています。顧客の購買履歴からリアルタイムで仕入れや価格の見直しを行っているのです。カルビーの「フルーツグラノーラ」販売の際、価格と購買状況、さらにはリアル店舗の市場価格を踏まえ、段階的に価格を調整したことにより、爆発的に売れる価格を見出すことに成功したと言います。

膨大な情報がSNS等により発信されていますので、このビッグデータの活用は今後一層進んでいくと思われます。

(参考文献 「週刊ダイヤモンド2013 12/7」「最新マーケティングの教科書」)